カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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運の良し悪しは紙一重。

 沖田さんは宮本武蔵に向かって行った。敵の攻撃を片っ端から回避し続けた。

 俺の作戦は、宮本武蔵の攻撃をひたすら避け続けさせる事だ。そうすることで、宮本武蔵は必ずイラつき始める。バーサーク状態だ、それは尚更だ。そして、イラつけば動きが単調になるのは誰だって当たり前のはずだ。その隙を突いてカウンターを叩き込めば良い。

 オマケに、敵の攻撃はほとんどの確率で首を狙って来るのだ。来る場所がわかっていて、尚且つ単調な攻撃なら、どんな剣速にも対応出来るはずだ。

 

「チィッ……!」

 

 攻撃を回避され続け、若干宮本武蔵にイラつきが見えた。もちろん、狙いがバレないように多少こちらも反撃はしている。

 沖田さんの攻撃を宮本武蔵が回避した時だ。宮本武蔵はニヤリと微笑んだ。

 

「………私がイラつくのを待っているでしょ?」

「ーっ!」

 

 背筋がゾッとした。読みが看破された。これはマズイ。

 

「沖田さん、下がって‼︎」

「!」

 

 宮本武蔵の魔力が高まるのを感じ取り、俺が支持する前に沖田さんは下がろうとした。

 それを読んでいたように、魔力がふっと消えるのを感じた。あ、やばい。嵌められた。宮本武蔵からの斬り上げを沖田さんはガードしたが、刀を弾かれた。

 ヒュンヒュンと宙を舞う刀を、宮本武蔵は握ると沖田さんに振り下ろそうとした。

 

「さぁせるかぁあああああ‼︎」

 

 それを見るなり、俺はズボンを脱いで宮本武蔵に向かって走り出した。

 

「っ⁉︎な、なんで脱いでるのよあんた⁉︎」

 

 顔を赤くする宮本武蔵に無我夢中で突撃した。

 その一瞬の隙を突いて、沖田さんは後ろに下がった。

 

「っ⁉︎く、来るな変態ィイイイイ‼︎」

 

 宮本武蔵は俺に向かって振り上げた剣を振り下ろした。よっしゃ、狙い通り。羞恥から力んだ一撃、途中まで沖田さんを狙っていた事による急な標的変更、そして狙いは俺の首、そこまで条件が良ければ俺にも突け入る隙はある。

 振り下ろされた剣を持つ手首に手刀を入れて、腕の神経をほんの一瞬麻痺させ、刀を奪った。

 

「っ!ナメるなよただの人間が‼︎」

 

 直後、宮本武蔵の蹴りが俺の溝を的確に捉えた。ゴフッと血を吐いた。過去のアニメのキャラ良く血を吐いていたが、こんなに苦しいのか。これからはもっと同情しよう。

 吹っ飛ばされた俺を見て、宮本武蔵は眉をひそめた。どうやら、俺の違和感に気付いたらしい。俺の右手の刀が無くなっているからだろうな。

 そして、その俺の右手の刀は沖田さんの手元にある。その沖田さんは、地面を蹴って宮本武蔵の目の前に迫っていた。

 

「一歩音超え……二歩無間……三歩絶刀!『無明三段突き 』!」

「しまっ………‼︎」

 

 直撃し、宮本武蔵の身体に刀が突き刺さった。

 

「っ……!ああああ‼︎」

 

 そのまま勢い良く通り抜けた。宮本武蔵から鮮血が噴水のごとく噴き出した。

 

「! マスター!無事ですか⁉︎」

 

 宮本武蔵が消え、沖田さんは俺の元に走って来た。

 

「い、いだい……泣きそう………」

「………大丈夫そうですね。内臓も骨も無事です、奇跡ですね」

 

 き、奇跡か………。今度からは気を付けよう。

 ………でも、痛い。とっても泣きそう。泣いても良いかな……。

 

「ていうか、何でパンツなんですか」

「………いや少しでも宮本武蔵を動揺させようと思って……」

「………変態」

「やめろ傷つく」

 

 そんな話をしてるときだ。やかましい声が割り込んで来た。

 

「ますたぁ!大丈夫ですか⁉︎」

 

 完全にワイバーンを全滅したのか、清姫が駆け寄って来た。ああ……嫌な奴が来てしまった。

 

「まぁ大変!痛みで声も出せないんですか⁉︎かわいそうに!」

「いや、出せるけど……」

「ここは、わたくしの熱いキスで……‼︎」

「おい待て待て!やめろ!ていうか何パンツに手をかけてんだ⁉︎」

 

 その直後だ。清姫の身体が光り始めた。どうやら、上手く聖杯を取り返したようだ。

 

「ああ!ますたぁ!そんな、こんな絶好のタイミングで!まだ童貞をいただいていませんのに⁉︎」

「お、おおおお前はこの公衆の面前で何をするつもりだったんだよ⁉︎」

「ますたぁ!いつか必ずわたくしを召喚して下さいねー!」

 

 清姫は消えた。絶対、召喚するのはやめよう。

 まぁ、とにかくこれで帰れる。俺は倒れたまま大の字になった。そんな俺に、沖田さんが声をかけて来た。

 

「………マスター、良いのですか?」

「何が?」

「最後にジャンヌさんと会わなくて」

「…………良いんだよ」

 

 もうすぐ、ジャンヌ様から俺に関する記憶は消える。なら、俺も今のうちに忘れた方が良いに決まってるだろ。

 

「………どうせ、全部終わりなんだ」

「………マスターがそう言うなら、止めませんけど」

「ああ、そうしろ」

 

 すると、ロマンの声が聞こえて来た。

 

『田中くん!藤丸ちゃんが聖杯の回収を完了させた!時代の修正が始まってるから、すぐにでも帰還してくれ!』

「りょ」

 

 そう言って、帰ろうとした時だ。「田中さん!」と声が聞こえて来た。そっちを見ると、ジャンヌ様がこっちを見ていた。

 

「………ジャンヌ様」

 

 ………なんで来ちゃうんだよ。もうすぐで、帰れるところだったのに。

 ジャンヌ様は俺の前まで走って来た。で、俺の両頬に手を当てた。

 

「長く話す時間はありません、一口で済ませます」

「えっ、ジャンヌさ」

 

 直後、俺の口に何かが押し当てられた。プハッと離れ、ジャンヌ様は顔を赤らめたまま俺に言った。

 

「………助けていただいてありがとうございます、田中正臣さん。私の事、いつか召喚して下さいね?」

 

 直後、ジャンヌ様は消え去った。俺は何も言うことは出来ず、カルデアに戻った。

 

 ×××

 

 眼を覚ますと、カルデアの中だった。早速、ロマンとダ・ヴィンチちゃんが出迎えてくれた。

 

「おかえり、マシュ、藤丸ちゃん、田中くん、沖田さん!………それと、クー・フーリンさんも!お疲れ様!」

「初のグランドオーダーは君達のお陰で無事に完遂された。よくやってくれたね」

 

 そう言われたが、俺の気分は沈んだままだった。もう、あのジャンヌ様には二度と会えない。

 俺の事情を知ってるからか、沖田さんも藤丸さんもマシュもクー・フーリンさんも黙っている。

 

「特に田中くん、初の任務なのに良くやってくれたね。君の的確な指示で誰も犠牲者を出さずに任務を成功させた。素晴らしいよ」

「……………」

「………田中くん?どうしたんだい?」

「ごめん、俺部屋に戻るわ。藤丸さん、話聞いといて」

 

 俺は自室に戻った。

 ベッドの上に寝転がり、顔に腕を置いた。………あんな事されたら、あんな事されたら俺がジャンヌ様の事を忘れられなくなるだろうが………。

 ジャンヌ様は消えるからそれで良いかもしれないけど、こっちは……あークソッ。

 

「………………」

 

 ………ダメだ。もう忘れよう。全部忘れなきゃダメだ。クソッ……忘れろってんだ……‼︎もうジャンヌ様とは出会えないんだから!

 ………寝よう。俺はバカで単純だから、寝れば全部忘れられる。もう寝るぞ。寝ろ!クソッ、なんでレイシフト先に理想の女性がいるんだよ!

 

「マスター」

「ッ⁉︎」

 

 声を掛けられ、俺は慌てて振り返った。沖田さんが部屋に入って来ていた。

 

「すみません、ノックはしたんですが……」

「………そ、そっか。ごめん」

「とりあえず、ズボンを履いてください」

「………ほんとごめん」

 

 ズボンを履いた。

 ていうか、何しに来たんだよ。慰めにでも来てくれたのか?

 

「で、何の用?」

「………その、藤丸さんの提案で、序盤は戦力不足でかなり苦しんだそうで」

「ああ、うん」

 

 確かにな。結構大変だったし、最初は逃げてばかりだったからな。

 

「それで、これから次の任務に備えて召喚しに行くことになりました。藤丸さんとマスターの一回ずつです」

「…………で?」

「もしかしたら、ジャンヌさんが出るかもしれませんよ?」

 

 そう言われ、パァっと明るくなった。確かに、その可能性はある。微粒子レベルの可能性でもゼロではない。

 俺は沖田さんの肩に両手を置いた。

 

「急ぐぞ、沖田さん」

「は、はい……!」

 

 慌てて部屋を飛び出し、召喚しに行った。もちろん、ジャンヌ様は元のジャンヌ様ではない。それでも、ジャンヌ様だ。

 藤丸さん、マシュ、クー・フーリンさん、ロマンと合流するなり開口一番で言った。

 

「よっしゃ、お前ら‼︎召喚すんぞコラァッ‼︎」

「超元気になってる……」

「超単純ですねあの人」

「ま、まぁ、凹まれてるよりはマシだろ」

「じゃ、召喚しようか」

 

 四人揃って酷い言われようだが、俺は気にしなかった。

 早速、召喚を開始した。ジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来いジャンヌ様来い‼︎

 そう必死で祈っていると、光の中から英霊が姿を現した。

 

「サーヴァント、清姫。こう見えてバーサーカーですのよ?どうかよろしくお願いしますね、マスター様」

 

 まさか、一番来て欲しくない人が来るとは………。

 いや、まだ諦めるのは早い。藤丸さんの番がある。俺のサーヴァントでなくても、一緒にカルデアとしていられるならまだ良い!

 

「じ、じゃあ私も召喚するけど……そんなに睨まないでよ、田中さん」

「睨んでない」

「………うう、プレッシャーがすごい」

 

 そう言いながらも、藤丸さんも召喚した。

 再び、光の中から英霊が現れた。

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。……どうしました、その顔は?さ、契約書です」

「……………」

 

 ジャンヌ様が出て来た。黒い方の。

 全員が同情するような目線を俺に向けた。俺はただ、その場で立ち尽くした。

 ………いや、待て落ち着け。見た目はあれだけど、何かの間違いでアレは俺の知ってるジャンヌ様である可能性はある。そうだ、そもそも黒ジャンヌ様だって元は一人のジャンヌ様だったんだし、あのジャンヌ様が聖人ジャンヌ様である可能性だってある。諦めるな、俺!

 俺はジャンヌ様の前で膝をついて手を差し出した。

 

「ジャンヌ様、私はあなたに仕えていた……」

「は?誰よあんた。ていうか、あんた見てるとすごい殴りたくなるんだけど」

 

 俺は涙を流して部屋に閉じこもった。

 

 ×××

 

「………ご、ごめんね。田中さん」

 

 布団の中で包まってる俺に、藤丸さんが割と本気で反省してるように声をかけて来た。

 

「少しでも希望を持たせるつもりだったんだけど、死体蹴りするような結果になってしまって」

「…………いや、いいよ。別に藤丸さんの所為じゃないし、そもそもジャンヌ様を手に入れたところで、あのジャンヌ様じゃないんだから」

「………あの、藤丸さん。ますたぁには何があったのですか?」

 

 清姫に聞かれて、藤丸さんは説明した。

 

「……だから、今はそっとしておいてあげ」

「つまり、今ますたぁを支えてあげれば、ますたぁはわたくしの物になるという事ですね⁉︎」

 

 こいつはいきなり何を言い出すんだ。

 

「ちょっ、清姫ぇ⁉︎」

「さぁ、ますたぁ!わたくしの胸に飛びついて来て下さいませ!わたくしは、それを全て受け止めさせていただきますわ!」

「藤丸さん、そいつどっか邪魔にならないところに捨てて来て」

 

 まぁ、さっきも清姫なんか一目惚れしたとか抜かしてたからな。今の俺にはそんな言葉は届かないが。

 すると、同じ部屋にいる沖田さんが俺に声をかけて来た。

 

「マスター、しっかりして下さい」

「………沖田さん」

「確かに、相思相愛であった女性と永遠に会えなくなるのは辛いかもしれません。けど、マスターに凹まれると明日からの任務に影響が出ます」

「……………」

 

 そんな風に言われてもな………。

 すると、沖田さんはため息をついて俺を包んでる布団を剥いで俺の手を引いた。

 

「………来て下さい」

「へっ?」

「早く」

 

 沖田さんは強引に俺を連行した。

 無理矢理、引き摺って俺を連れて来た場所は和室だった。沖田さんの部屋の和室。なんでこんな場所あんの?

 そんな事思ってると、和室を通り過ぎで道場みたいな場所に到着した。

 

「………え、何ここ?」

「マスター。あくまで私の推察ですが、マスターには戦闘のセンスは十二分にあります」

「いきなり何?」

「私と宮本武蔵の斬り合いの剣速を目で追えるのは相当な動体視力です」

「え?そ、そう?」

「ですので、これからマスターには剣術をしっかりと覚えていただきます」

「待て。なんでそーなるの」

「とにかく、私と打ち合いましょう!大丈夫、竹刀はあります!」

「待って待って、なんでそうなるんだよだから⁉︎」

「行きますよー!」

「ちょっ、待っ………‼︎」

 

 一方的にボコられること数分後、俺は道場に倒れていた。

 なんで任務が終わって疲れて帰って来てんのにこんな事しなきゃなんねーんだよ………‼︎

 

「………よし、今日はここまでです」

「………テメェ、俺に……ぇほっえほっ……恨みでもあんのか……」

 

 文句を言うと、思いのほか沖田さんはショックを受けたのか、沖田さんは俯いて呟いた。

 

「………すみません。沖田さんなら、落ち込んだ時は剣を振れば少しは気が晴れるので………」

「…………」

 

 ………お前がそうでも他の人ならそうかは分からんだろ、と思ったが、俺を元気付けようとしてくれたのは素直に嬉しかった。

 

「………サンキュ」

 

 なんか照れ臭くて、頬をポリポリと掻きながらお礼を言うと、沖田さんもなんか照れ臭かったらしく、小声で「はい……」と呟いて俯いた。

 

 


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