レイシフトされた。周りは一面平原、流石一世紀の世界、自然も空気も最高だ。現代日本の東京ではあり得ない話だが、その分この世界には冷房も暖房もゲームも無いので普通に御免だわ。
「いやー、空気が綺麗ですねー」
沖田さんが心地良さそうに伸びをした。
「本当ですね。なんというか、圧倒されますね……」
「はい。心地良いばかりですね」
マシュ、清姫も頷いた。
ふと上を見ると、やはり光の輪があった。フランスの時と同じだ。まぁ、あまり関係ないみたいだしどうでも良い。
さて、これからどうするか。まぁ、現地の人間と接触するべきか、或いは霊脈を探るか………。考えてると、ジャンヌオルタが好戦的に聞いて来た。
「これからどうするんですか?リーダーさん」
まだ根に持ってんのかよ………。まぁ、安心しな。考えはある。
「とりあえず、お前ら全員着替えろ」
『………はっ?』
全員から間抜けな声が漏れた。清姫を除く女性陣からはゴミを見る目を向けられているが、下心は全くないので平然と返した。
「いやいや、違くて。別に野外プレイとかじゃないから。ただ、お前ら今の服装を自覚しろ」
沖田さん←着物
クー・フーリンさん←上半身裸
清姫←着物
藤丸さん←まとも
マシュ←ヘソ出しタイツ
ジャンヌオルタ←なんかよう分からん服
「どう見てもサーカス団かって感じするんだよ。つまり、目立ち過ぎる。だから、俺がそれぞれ服を揃えた。サイズはとりあえずテキトーに揃えたから、それぞれ合う奴を着るように」
実際、あまり表にサーヴァント感は出さない方が良いだろう。サーヴァントじゃない兵士に警戒されてもアレだし。
と、思ったのだが、
「まっ、待ってください!」
こういう時、文句を言うのは大抵沖田さんの役目だ。
「ここで着替えるのですか⁉︎」
ああ、やっぱそこか。
「誰も見ないから。俺しか」
「それが一番問題なんです‼︎」
「冗談だよ。いや本当に。刀構えないで。着替え終わったら声かけるように」
そう言うと、俺のボストンバッグの中の服をそれぞれに渡し、俺とクー・フーリンさんと清姫、沖田さんと藤丸さんとマシュとジャンヌオルタに別れて着替え始めた。
「って、何でお前もこっち来てんだよ!藤丸さん!藤丸さんは着替える必要ないから清姫を締め上げて縛り上げておいてください」
「ほら、清姫おいで」
「ああ!マスターとの仲を裂く不埒者……!」
「カルデア戻ったら田中さんのパンツあげるから」
「分かりましたわ」
うん、もうそれで良いや。で、着替え終わった。クー・フーリンさんの服装は下半身は同じで、上はTシャツにパーカーと簡単な格好だ。
「……なんか動きづらくねぇか?」
「戦闘になったら上着くらい脱いでも良いから。とりあえず、街の中を歩く時だけでも良いから着てて」
「まぁ、構わんが」
すると、藤丸さんから「着替え終わったよ」と声が聞こえたので振り返った。藤丸さんと清姫以外の全員が顔を赤くして俺を睨んでいた。
やがて、沖田さんが代表するように呟いた。
「………マスター、何ですかこの服は」
「何ですかって……服は服だろ」
「このふざけた服はなんだと聞いているんです‼︎」
沖田さん→メイド服
清姫→チャイナドレス
マシュ→巫女服
ジャンヌオルタ→ビキニアーマー
「…………?」
「何キョトンとしてるんですか⁉︎惚けるのも大概にして下さい!」
「良いじゃん、似合ってるよ」
「っ……!う、嬉しくないんですからね⁉︎」
「ほら、メイドなんだから俺に紅茶でも淹れなさいよ」
「いや淹れません!百歩譲ってメイドだとしてもご主人様は絶対にマスターではありません‼︎」
「マスターなのに?」
「っ……!あ、ああ言えばこう言う………!」
「沖田なんてまだマシじゃない!」
次にキレたのはジャンヌオルタだ。
「何よこのふざけた格好は⁉︎なんでこんな布が少ないのよ⁉︎」
「やはり、ジャンヌ様の体なだけあって巨乳だな……」
「ストレートに何を言ってるのよ!あんたホントはっ倒すわよ⁉︎」
「というか、正直それは冗談のつもりで渡したんだけど……。まさか着るまで文句が出ないと思わなかったわ」
「えっ」
「あ、それわたくしも思いました」
チャイナ服の清姫が口を挟んだ。
「とりあえず着てみる辺りが可愛いよな」
「ええ。一人だけ下着を外す羽目になっていた事に気付かなかったのでしょうか?」
「………待てよ?て事は、ジャンヌオルタってまさか外で乳首と股間を晒したって事?」
「これではますたぁの事、変態とは呼べませんね」
そう言ってる間に、カアッと顔を真っ赤にして小刻みに震えるジャンヌオルタ。やがて、俺に向かって手を突き出した。
「燃えろ!」
「うおっ⁉︎」
間一髪躱せたが、俺の立っていた場所は一瞬で焼け野原になった。
「燃えろ!燃えろ!燃えろ!」
「うおおい待て待て!本当にまさか着るとは思ってなかったんだってば!」
「知らないわよ!燃えろおおおおおお‼︎」
「おい!藤丸さん、マシュ!こいつ止めろ!」
「………あの、マスター。どうでしょうか」
「わー、巫女服似合ってるよ」
「………ありがとうございます」
「イチャついてねーでこいつを止めろおおおおお‼︎」
「燃えろおおおおおおおおお‼︎」
炎何とか躱し続けていると、何処かから騒がしい音が聞こえた。それに伴い、何とかジャンヌオルタの動きは止まった。
「! なんだ?」
「戦闘音、ですかね?」
ふむ?この時代の人間と接触するチャンスだ。だけどみんな着替えを脱ぎ散らかしたままなんだよなぁ。
「藤丸さん、マシュとジャンヌオルタと沖田さん連れて介入、有利な方に味方して」
「分かりました!」
「俺もすぐ行くから」
素直に返事をして、四人は走って行った。
俺はクー・フーリンさんと清姫と一緒に脱ぎ散らかされた服を畳んでボストンバッグにしまうと、四人の後を追った。
敵の戦力をうちの圧倒的なサーヴァント達がフルボッコにしている。こりゃ、俺が口を出すまでもなく終わりそうだ、そう思った時だ。おそらく味方側と思われる赤いドレスの女性が声を掛けた。
「剣を納めよ、勝負あった!」
は?いきなり何抜かしたんだ?万全を期すためには殲滅するのは当然だろ?と、思ったが、俺はこの戦場に着いたばかりだし、戦況も何も知らないので黙っておくことにした。
ボンヤリしてると、赤い服の人は俺に声をかけて来た。
「貴公達、もしや首都からの援軍か?」
「全然違うけど」
「では何者だ?」
「通りすがりの仮面ライダーだ」
「ふむ、そうか?いや、何者でも良い。評価するぞ。そして感謝する」
「ああ、感謝されてやる」
ああ、せっかくこっちの肩を持ったんだ。恩をいくらでも買って、こいつの兵隊を丸々手に入れてやるさ。
それに、この時代にこんな所で戦争があったという記録はない。明らかに聖杯による何らかの力が働いている。なら、敵の兵隊の力も見極めておきたい。
「しかし、変わった服装をしてるな、お主ら」
「そう?」
「ああ。何処から来たのだ?」
「まぁ、その辺の話は後でするよ」
さりげなく、後があるように言ってみた。
「うむ、そうか?まぁ良い、たっぷりと報奨は与えよう。……あ、いやすまぬ。つい勢いで約束してしまった」
「だから、その辺は後で良いって。それより、敵の援軍が来る前に撤退しよう」
「そうだな。すべては首都ローマへ戻ってからのこと。では、遠慮なく付いてくるが良い!」
ふむ、助かるわ。とりあえず、決まった事を話すために藤丸さんに声を掛けた。
「藤丸さん、ローマに案内してくれるって」
「本当?やったね!」
「ああ。みんな連れて来て」
「分かった」
全員を連れて、女の人と歩き始めた。とりあえず、何者か知らないが下手に出て持ち上げつつ話すか。
「そういや、まだ名乗ってなかったな。俺は田中正臣。後ろの連中は前から清姫、沖田総司、藤丸立花、マシュ・キリエライト、クー・フーリン、ジャンヌ・ダルク・オルタだ」
「うむ、余はネロ・クラウディウス。ローマ帝国皇帝である」
えっ……これがネロ?あ、ヤバイ………。
「しかし、余に対してそのようなフランクな口調で声を掛けて来たのは貴様が初めてだぞ」
「申し訳ありません、皇帝陛下。土下座するので殺さないで下さい」
「突然⁉︎」
速攻で土下座した。
「い、いや良い。余としてもあの様な口調も悪くないと思っていた所だ」
「………良いんですか?」
「うむ。先程の口調に戻せ」
「いやー助かるよ。正直、敬語って苦手なんだよねー。ていうか、皇帝陛下って女の子だったんだな。うちの奇人変人の集まる女の子と違ってまともそうだから嬉しいわー」
「う、うむ。少しは分を弁えてくれると良いのだが………」
すると、空から声が聞こえて来た。
『田中くん!サーヴァントの反応がある!』
「? ど、何処から声が?」
「ああ、気にしないでくれ。ロマン、何処から?」
『後方だ』
「了解。………えっとネロ、で良いのかな?」
「うむ、構わんぞ」
「兵を下がらせてくれ。ここは俺達がやる」
「いや、そうはいかん。助けられてばかりでは………」
「良いから下がっててくれよ。………これから来る敵は、少し普通じゃないぞ」
言うと、サーヴァントの方向を見た。兵隊を数人連れてこっちに向かって来ている。そのサーヴァントの方に歩きながら、全員に声をかけた。
「藤丸さん、マシュとジャンヌオルタを連れて戦闘準備、二人への指示は任せるからサーヴァントの周りの取り巻きを始末させて。沖田さん、クー・フーリンさん、清姫。一斉にサーヴァントを叩く。………根こそぎ叩き潰せ」
『了解』
俺の指示に全員が従い、行動に移した。ああああ!今のフレーズ超カッケエエエエエエ‼︎さて、ボッコボコにしてやるぜ。……その前に。
「みんな、今のフレーズもっかいやりたいんだけど良いかな?」
「敵が来ました!」
無視ですか、沖田さん。まぁ良いですよーだ。
敵がようやくこちらの間合いに入って来た。………なんか目が黒いけど。何アレ、穢土転生?
「我が……愛しき、妹の……子よ……!」
うわ、バーサーカーだなアレ……。何言ってるか分からんし、さっさと消すか。そう思った直後、後ろからネロが俺の横に走って来た。
「!伯父上……!」
「は?伯父?」
ていうか、今更だけどこのネロってサーヴァントなのかな?時代的には人間の可能性もあるんだけど………。ていうか人間だとは思うけど………。
いや、今は良いか。さっさとあの伯父とやらをブッ殺すか。
「ネロ、下がって」
「いや、奴は余の伯父上なのだ」
「だからこそだろ。血縁関係の敵に動揺しない奴なんていねぇよ」
「ッ………!」
奥歯を噛んで悔しそうに俯くネロを無視して、指令を出した。
「正面は清姫が引き受けろ。クー・フーリンさんと沖田さんは左右に展開し、隙が出来次第で確実に首を獲りに行け」
その命令通りに三人は襲い掛かった。まぁ、3対1だ。奴がうちのサーヴァントに勝てるはずもない。
案の定、フルボッコした。ズタボロになったバーサーカーは、それでもネロを見ていた。
「あ、あ……。我が愛しき……妹の子………」
直後、バーサーカーは消えた。死んだという意味ではない、本当にその場から消えた。
すると、他の軍も撤退して行く。今のが隊長だったって事か?
「てか、ロマン、なんで消えたの?透過とかされてたらヤバイんだけど」
『いや、霊体化したようだ』
マジか、そんな事もできんのか。知らなかった。
しかし、バーサーカーが退散なんて頭を持ってるとは思えない、清姫みたいなタイプは別だけど。と、なると、マスターがいるということか?何にしても、バーサーカーに指揮を執らせるのは無能の一言に尽きる。今回も割と楽勝かもな。
ふとネロを見ると、少し辛そうな顔をしていた。伯父を目の前でボコボコにされたんだから、仕方ないと言えば仕方ないのか……。
「あー、ネロ。大丈夫か?」
「っ、な、何がだ?」
「いや、その……なんだ?伯父だったっけ?ボコボコししちゃったから」
「う、うむ。問題ない。さぁ、それより今度こそローマへ戻るとしよう」
との事で、ネロに連れられて首都に向かった。