ローマに到着した。何というか、RPGに出て来そうな街が並んでいた。
そんな街を指して、ネロは盛大に語った。
「見るが良い、しかして感動に打ち震えるのだっ!これが余の都、童女でさえ讃える華の帝政である!」
「確かに凄い活気だねー」
藤丸さんが感心したように言うと、さらに満足げに頷いた。
「そうであろう、そうであろう?何しろ、世界最高の都市だからな!はじめに七つの丘がありし……そういう言葉があってな。そこから全て始まったのだ」
「ま、江戸の方がすごいですけどね」
シレッと口を挟んだ沖田さんに、ネロはギラッと目を光らせた。
「何をう⁉︎ローマの方が上に決まっておろう!」
「これくらいの活気でしたら、江戸にもありました。土方さん達に連れていってもらった吉原なんて、何の街だか分からないし私は店の前で待っていただけでしたが、それはもう活気が」
「おいやめろ。それは別の活気だ」
なんで吉原を抜粋したんだよ。一番ダメだろ。
「そこまで言うのなら……そうじゃな。店主、これを一ついただくぞ」
「へいらっしゃ……ああっ!皇帝陛下!どうぞお持ち下さい!陛下とローマに栄光あれ!」
おお、すごいな。ネロ人気じゃん。町民にも好かれてるなんてな。
「そうかしこまらずとも良いぞ。沖田、だったか?これを食べてみよ」
「ふんっ、林檎くらい江戸にだって……」
ぶつくさ言いながら林檎を齧る沖田さん。直後、予想以上に美味かったのか、目を見開いて頬を若干、赤く染めた。
「どうだ!美味いだろう!」
「しゃくしゃくしゃくっ!……ふぅ、まぁまぁですね」
「ほほう?その割には完食しておるではないか?」
「え、江戸にだって美味しいものはありました!全然負けていません!」
「いや卵とか小豆とか生姜が高級食材とされてた江戸より、その辺の店で林檎が食えるローマの方が確実に上だと思うけど」
「ま、マスターは黙ってて下さい!」
「そもそもだな、俺から言えばどちらも大差ない。俺のいた街の方が食べ物は美味かったな」
「な、なんだと⁉︎」
「………マスター、それは大人げないのでは」
「そこまで言うからには何か見せてみろ!食べ物の一つくらい持ってきているのだろうな⁉︎」
「あーいいぜ。少し待ってろ」
言うと、その辺から薪を拾ってジャンヌオルタに声を掛けた。
「おーい、ジャンヌオルタ。ちょっと火をくれない?」
「何?燃やせば良いの?あなたを?」
「いや俺じゃなくて。これ、薪」
燃やしてもらい、それを地面に置くと飯盒炊飯セットを用意した。米を入れる容器の中に水を注いで火にかけた。
「………なんでそんなもの持って来てるんですか?」
「いや、野宿を覚悟してたから」
マシュに質問され、しれっと答えた。もちろん、ボストンバッグ以外にもリュックとか背負っている。
「ていうか、人の能力をお湯沸かすのに使わないでくれる?」
「というか、ジャンヌ・ダルク・オルタだったか?貴様は何故、そんな剥き出しな格好をしている?」
ネロがジャンヌオルタを見て呟き、俺も続いた。
「あ、そういやそうだったな。お前着替えなくて良いの?」
「ひ、人前で着替えられるわけないでしょ⁉︎」
「いや、ビキニアーマーなんだし上から着れば良くね?」
「…………燃やす!」
俺に向かって手を伸ばしたが、その手をクー・フーリンさんが掴んだ。
「いや、流石に今回はお前の頭が悪いだけだろ」
「そうですね、普通は気付きますものね。もしかして、割とびきにあぁまぁというものを気に入ったのではありませんか?」
「そんなわけないでしょ⁉︎」
清姫にも言われ、顔を赤くしてツッコむジャンヌオルタマジで可愛いな。いじり甲斐がある。
「それよりも田中正臣よ」
「正臣で良いよ」
「そうか?なら、正臣よ。何をしているのだ?」
「んー、もう少し待ってて」
頃合いかな?と思ったので、鞄からカップ麺を取り出した。蓋を開け、その中にお湯を注ぎ、3分間待機。
完成したのでフォークとカップ麺をネロに手渡した。
「おら!食ってみろ!これが俺の世界の食べ物だ!」
「ふっ、笑わせてくれよう!お湯を入れただけではないか!そんなものが美味いわけが……!」
言いながらフォークを鷲掴みして麺を啜った。直後、ネロの目が見開かれる。
そのまま無我夢中で麺を啜るネロ、どうやら相当気に入ったようだ。可愛い。その姿にほっこりしてるとジャンヌオルタが俺の肩を突いた。振り返ると、目の前まですごい形相の顔を近付けて俺を睨んでいた。
「待ちなさい、まさかアレをやるために私に炎を出させたの?」
「え?そうだけど?」
「カップ麺のために人に炎出させるとかあり得ないんだけど⁉︎私を誰だと思ってるの⁉︎ジャンヌ・ダルクよ⁉︎」
「良いだろ、減るもんじゃないんだし」
「良くないわよ‼︎」
「おい、肩を振るな」
揺っさ揺っさと揺さぶられてると「ぷはぁっ」と息を吐く音が聞こえた。ネロがスープまで全部飲み干していた。
「……ま、まぁまぁじゃな」
「全部飲み干しておいてよく言うわ」
うぐっ、と奥歯を噛むと悔しげに呟き、俺に聞いた。
「……ま、正臣よ。これを何処で手に入れた?お主はどこの出身だ?」
「未来だ!」
「………何を言っている?と罵る所だが、この様子を見ると本当のようだな……!」
あ、信じちゃうんだ。まぁ、ほんとなんだが。しかしこの子、アホなのかな。可愛い。
「まぁ、俺達がここにいる間はカップ麺たくさんあるから」
「本当か⁉︎」
「ただし、二つ条件がある」
「良いだろう!なんでも聞くぞ!」
「まず一つ、俺達もネロに協力してやる、だからネロも俺に協力してくれ」
「うむ、それならこちらから願い出たいくらいだ」
それに、後ろの沖田さんが「よしっ」と呟くのが聞こえた。うん、それは正直ついでだ。重要なのは二つ目な。
「二つ目、俺の事をお兄ちゃんと呼んでくれ!」
直後、後ろの沖田さんからパカンッと頭を殴られた。
「何すんだよ⁉︎」
「何いきなりバカな事を言い出してるんですか、この変態マスター!」
「うるせええええ‼︎お前に分かるか、妹が欲しいだけの人生だった俺の気持ちが分かるか⁉︎」
「分かるか‼︎」
「ネロはなぁ!それはもう可愛くて元気で純粋無垢で、俺の理想の妹なんだよ!」
「いやネロさんは妹ですら無いですからね⁉︎」
「ああ⁉︎テメェやんのかコラ!今日こそ泣かしてやんぞテメェ‼︎」
「上等ですよ!今日もボッコボコにしてやりますよ!」
お互いに指をコキコキと鳴らしてると、ネロが俺の袖をクイクイッと引いた。
「? 何?」
「お兄ちゃん、それより早く我が城に行くぞ」
「ゴフッ」
「お兄ちゃん⁉︎」
血を吐いて俺はその場に倒れた。可愛すぎんだろ……。
×××
なんやかんやで協力関係を結べた。とりあえず、今は城の中でネロから話を聞いていた。
敵の話とか、色々ととりあえず聞けたし、砦も手に入れたし、兵隊も手に入れたし、前のオルレアンでの苦労が嘘のようだ。色々な備えのために持って来たテントとかが早速お荷物になってしまったが、この際まぁ良いだろう。
「まぁ、現況は分かった。とりあえず、その地球連合軍をフルボッコにすりゃ良いんだな?」
「う、うむ?まぁ、そういうことだ」
「把握した」
そこまで押されているわけでもないのか?サーヴァントを持つ相手によくやる。もしかしたら、こちら側にもサーヴァントがいるのかもしれないな。だとしたら助かるが……。
いや、希望を持つのは危険だ。戦場にいるのなら、常に最悪の場合を想定しないといけない。
「………ま、今は寝るか。もう疲れた」
「なーにが疲れたですか。何もしてない癖に」
「黙れ、沖田さん」
こいつはいつも一言多い。
「いや、そうだぞ。お兄ちゃん!」
「おうふ………」
「休む前に宴だ!」
「え、なんで?」
「何を言う!あらたな戦友を手に入れ歓迎も出来ぬような皇帝ではないわ!戦時故に普段通りとはいかぬが、贅を尽くした宴を供そうではないか!」
そのテンションに、俺は困ったように沖田さんを見た。ウキウキしていた。クー・フーリンさんを見た。ウキウキしていた。清姫を見た。ウキウキしていた。お前らは猿か。
「お主ら、酒はいける口か?東方より取り寄せた、とっておきのものがあるぞ」
「マジで⁉︎飲む!」
俺も猿の仲間入りをした。俄然テンション上がってきたああああ!ゴミを見る目になってる藤丸さん、マシュ、そして少し楽しみにしてるジャンヌオルタを無視して俺は鞄を漁った。
「いやー実は俺も酒持ってきてんだよ」
「ほう!未来の酒とは楽しみだ!」
「いやいや、そんな高いのは無いよ?コンビニでも売ってるようなやっすい奴。悪いな、人類が滅んでなきゃもっと高いのあったんだけどよー」
「構わん構わん!さぁ、宴の準備をしろ!」
なんて二人で馬鹿騒ぎする俺とネロを見ながら、藤丸さんとマシュはコソコソと話し始めた。
「ねぇ、あの二人……」
「はい、よくわかりませんが気が合うみたいですね……」
「………私、なんとなく今回のオチが見えた気がする……」
「奇遇ですね、私もです……」
だまらっしゃい。すると、俺とネロの間に沖田さん、クー・フーリンさん、清姫も入ってきた。
「沖田さんも!沖田さんも飲めますよ!」
「良いねぇ、俺も召喚されてからまだ一回も飲んでなくてよ」
「ますたぁを酔わせて既成事実を……うふふふふふふふ」
「だれかー。清姫だけトイレに流してきて」
なんて盛り上がってきてる時だ。一人の兵士が入って来て、ネロに報告した。
「恐れながら皇帝陛下に申し上げます!首都外壁の東門前にて、連合の中規模部隊が襲来!」
その報告を聞いて、ネロは不愉快そうに唇を尖らせた。
「むぅ……!稀に見る愉快な宴になりそうだったものを……!」
仕方ない……とでも言わんばかりに立ち上がろうとしたネロの肩に、俺は手を置いた。
「問題ないよ、俺達が行く」
「………お兄ちゃん?」
「ああ、こういうのは兄ちゃんの役目だ。ネロは、藤丸さん達と一緒に先に宴の準備を進めていてくれるか?」
「し、しかし!お兄ちゃんを置いて宴を進めるなんて……!」
「安心しろ。すぐに終わらせるさ」
そう言って頭を撫でてやると、俺のサーヴァント三人に言った。
「行くぞ、野郎共」
「「「「応ッ‼︎」」」」
ん?なんか一人、声が多かったような……まぁ良いか。
俺はサーヴァントを連れて東門前に向かった。さて、撤退しても容赦しない。ミドリムシ一匹残さず完膚無きまでに叩き潰してやるぜ。
×××
「………マシュ、あのひと達すごい頼りになるね」
「みんなお酒好きなんですね」
「ま、いいや。私達はいつの間にか押し付けられていた宴の支度でもしようか」
「そうですね。準備するの忘れてました、なんて言ったら私達が殺されかねませんし」
「ジャンヌオルタ。君も一緒に………あれ?」
「ジャンヌオルタさんなら一緒に出て行かれましたよ」
「……………」
×××
戻って来た(1時間で殲滅した)。宴が始まった。
「「あっはっはっはっはっ‼︎」」
俺とネロは肩を組んで爆笑していた。
「正臣!いやお兄ちゃん!お主、中々愉快な奴だな!気に入ったぞ!」
「ネロこそ!なんでそんな酒弱いの?まだドルルルァ〜イ一本だよね?」
「何?余はまだ酔っておらぬ。それよりもお主、よく見れば男前ではないか?」
「俺?」
「うむ。実に余の好みじゃ!無闇なイケメンより中の上くらいのイケメンの方が好みなものでな!」
「褒められてんのか微妙だけど喜んどくわ。そんなこと言われたの初めてだし!みんな俺の顔見ると腹立つって言うんだよねー。まったく、酷い話だぜ」
「それは確かに酷いな。まぁ、安心せよ!余が好みならそれで良いではないか!」
「まぁな!こんな可愛い子に好みって言ってもらえてマジで嬉しいわ!」
「か、可愛い⁉︎余がか⁉︎」
「メチャクチャ可愛い!ジャンヌ様と同じくらい!」
「それが誰だか分からぬが褒め言葉として受け取るぞ!」
「俺は可愛い子には褒め言葉しか言わねーから!」
「人を乗せるのが上手い奴め!ほれ、もう一口!」
「おk!」
なんて、まぁやりたい放題である。
そんな俺とネロのやりとりを見ながら、沖田さんとクー・フーリンさんが何か話しているのが見えた。
「………超仲良いですねあの人達」
「そうだな。明日もあるんだし、あんま飲み過ぎなきゃ良いんだが……」
「大丈夫ですよ。ネロさんは酔っていますが、マスターはアレ全然酔ってませんから」
「え?分かんの?」
「新撰組でもよく飲んでましたから。酔ってるかどうかは一目瞭然です」
「え?じゃあうちのマスターは酔ってるフリして皇帝陛下の胸に顔埋めてるってこと?」
「は?」
何を言ってるか知らんが、酒の席なら関係ねぇ!無礼講だ!
「うおおおお!ネロおおおおお!」
「きゃっ⁉︎し、仕方のない奴だな、お兄ちゃんは……!ほれ、ハグをしてやろう」
「うひょおおおおお!柔らけええええええ‼︎」
「ふふふ、甘えん坊な奴め」
柔らかいいいいいい‼︎おっぱい最高だあああああ‼︎
「……やっぱり酔ってると思います」
「そう信じようか」
ふぅ……そろそろやめておこう。殺されたくないし。
そのまま、宴は夜中まで続いた。
×××
夜中。俺の部屋は沖田さんと一緒。なんか酔っ払った沖田さんが俺の腰にまとわりついて来たので、仕方なく部屋に持って帰った。
とりあえず、同じ部屋で寝るわけにもいかないし、沖田さんが寝たのを確認すると、俺は上着を羽織って双眼鏡とライトと拳銃とその他諸々を持って部屋を出た。
ベランダみたいな所に出て、手摺に座って表をぼんやり監視した。いつ敵が攻めて来ても良いように。
しかし、流石一世紀だ。夜は暗くて何も見えねえ。夜勤の門番が火を照らしてる所しか見えない。こりゃ、夜に攻めて来る敵はいなさそうだな。
「相変わらず、人の見えない所で働くのが好きですね、マスター」
「………あー」
背後から沖田さんの声が聞こえた。バレたか………。
「なんでいんの?」
「頭痛で眠れなくて……」
「飲みすぎだろ」
「マスターには言われたくないです……。というか、あれだけ飲んで酔わないとかどんだけ強いんですか」
「いや、少し酔ってるよ」
「うー……とにかく、宴開いた責任とって下さい」
「いや、開いたのはネロだしお前もノリノリだったろうが」
「………いいから責任取ってください」
言いながら沖田さんは俺の隣に腰を掛けた。
「いや、いても良いけど何も見えんよ?」
「本当ですねー。真っ暗で、これはこれで神秘的な感じしますね」
「いや、ブラックホールにしか見えねーんだけど」
「もう、すぐそういうこと言う………」
不満そうに唇を尖らせる沖田さん。ホント、この人仕草や顔だけは可愛いな。
「双眼鏡も一応持ってきたんだけどな。どんなに遠くが見えても意味ねーんだよ」
「双眼鏡も持って来たんですか?」
「あーまぁな。一応、必要そうなものは全部持って来たんだよ」
「他には?」
「今あるのはこれと……あと懐中電灯と拳銃だけ」
「け、拳銃………?」
「ああ。護身用に」
「………せっかく沖田さんが剣を教えてあげるって言ったのに」
「まだモノになってねぇんだから仕方ないだろ」
「それは、そうですけど………」
どんだけ俺を侍にしたいんだよ……。てか、そんなにショボくれなくても良いだろ。
「………まぁ、その、なんだ。帰ったら、またよろしく頼むよ」
「! は、はいっ!」
「っ………」
あ、ヤバイ。一瞬、トキめく所だった……。沖田さんにトキめいたのが沖田さんにバレたら超いじられるのは目に見えている。
「わぁ………」
隣の沖田さんから声が上がった。空を見上げていて、釣られて俺も上を見ると、星が綺麗だった。
「綺麗、ですね………」
「………………」
綺麗だ、確かに。昔の人達はこんな空を見ることが出来たのか。いや、むしろそれが当たり前なんだ。だが、俺達がこの戦に勝たないと、もうこんな夜空は見る事が出来なくなる。いや、空気の汚れた日本じゃどの道見ることは出来ないだろうけど。
「…………勝たないとなぁ」
「? 何か言いました?」
「いや、何でもない。それより、もう寝ろよ。お前は明日戦うんだから」
「………マスターは」
「俺も寝るよ。このバカみたいに暗い中じゃ、敵も攻めように攻められないだろうからな」
昼に戦ったサーヴァントから、俺達の事はもうバレてるはずだ。それなら、視界の悪い夜中にサーヴァント同士の戦闘を敵のホームで戦うような真似はしないだろう。
「………分かりました」
「部屋にソファーあったよな?俺そっちで良いから」
「……えっ?」
「眠れねーんだろ?でも、少しでも寝てくれないと明日の戦闘に響くからな」
「………わかりました」
二人で部屋に戻った。