カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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プロローグ2

 アーチャーとの戦闘が開始された。矢を放つアーチャーの攻撃を、マシュは盾を構えて応戦した。上手くアーチャーの射線上に入り、キャスターさんを護りつつガードしていた。

 流石にあの盾は硬い。誰の英霊のものだか知らないが、敵の攻撃をいくら喰らっても壊れないだろう。キャスターさんの援護もあって割りかし戦えている。

 だが、問題は相手が英霊だという事だ。少なからず戦闘経験がある者であり、従って遠距離攻撃が通用しないと分かれば、必ず近距離での戦闘を仕掛けてくるはずだ。

 そうなれば、さっきサーヴァントになったばかりのマシュに勝ち目はないし、キャスターさんも誤射を気にして撃てなくなる。それまでに手を打たないと。

 

「………どうしたものか」

「? なんで?このままキャスターが宝具を発動出来れば勝てるんじゃないの?」

 

 藤丸さんがそんなことを聞いて来た。

 

「そんなはずないだろ。そしたらあのアーチャーは接近してくるに決まってる。それまでに手を打たないとジリ貧なんだよ」

「………なるほど、接近されたら、こちらのキャスターはマシュへの誤爆を気にして打てない。そういう事ね?」

「まぁ、そうです」

「あなた、なかなか考えてるのね。パンツの癖に」

「……………」

 

 一言多い。そう言うなら誰かズボン寄越せよ。

 

「と、とにかく、奴が接近戦を仕掛けて来る前に何か手を打たないと詰みます。どうにかしないと……」

「あんた特攻して来なさいよ」

 

 いやいやいや、どんだけ俺に死んで欲しいんだよあんた。

 

「無理ですよ。遠距離職を相手に特攻したって矢でブチ抜かれるのがオチですから」

 

 せめて向こうが近距離職ならやりようはあるんだが……。

 すると、アーチャーはキャスターさんの炎を回避しながら、後方に大きく距離を取るとフッと息をついた。

 

「………なるほど、その盾はどうやらいくら撃っても壊せないらしい」

 

 ならば、と言わんばかりにアーチャーは弓をしまうと、なんか短い剣を二本召喚した。つーか、今どこから出したの?異次元ポケットなの?

 

「チィッ……そう来たか!嬢ちゃん、10秒耐えな!」

 

 キャスターさんはそう言うと、何やら詠唱を始めた。何をするつもりか知らないが、何か手があるのだろう。

 

「藤丸さん」

「な、何?パン……田中さん」

「おい、お前今パンツって言おうとした?パンツって言いかけたよな?」

 

 この場でタイマン張ってやろうかと思ったがグッと堪えて続けた。

 

「マシュに近接戦闘の経験は今日しかない、防御に徹しさせて。あのデッカい盾だと機動戦は不利だし、下手に反撃していなされたら体勢が崩れて狩られる」

「わ、分かった」

 

 反撃しようと思わなければ、相手の攻撃は少しは見切れるものだ。

 藤丸さんの指示通りにマシュは防御に徹しながら攻撃を凌いだ。直後、フッと二人に影が掛かった。マシュの後ろから飛び越えて、キャスターさんが何かすごい燃えてる杖を振りかぶって襲い掛かった。

 

「っ⁉︎」

「よくやった、あとは任せな嬢ちゃん」

 

 二人の間に杖を振り下ろし、割って入った。ああ、あの人キャスターなのに接近戦も出来たんだ。最初からやれや。

 マシュは俺達の元へ走って来た。そのマシュに、藤丸さんが声を掛けた。

 

「お疲れ様、マシュ。よく耐えたね」

「は、はい……。先輩のご指示のお陰ですっ……」

「ううん、あの指示を考えたのは田中さんだよ」

「えっ………?」

 

 意外なものを見る目でマシュは俺を見た。それに俺は胸を張って答えた。

 

「そうだよ?田中さんだよ?もっと敬っても良いんだよ?」

「…………えっ?」

 

 おい、なんで一瞬パンツ見たんだオイ。このムッツリすけべが。

 すると、所長から「すごい……」という声が漏れた。

 

「でしょ?俺すごいでしょ?」

「パンツでそういうこと言えるあなた、本当すごいわ」

 

 所長の目線の先では、キャスターとアーチャーの戦闘が行われていたのだが………。

 

「………うわっ」

 

 まー強かった。すんげー強かった。はっきり言って、入り込む余地なんてまるでない程に互角以上の戦闘を繰り広げていた。

 二刀流に対し、炎を纏った杖で完全に押してるキャスターさん。ほとんどランサーだなあれ……。というか、元々ランサーなんじゃねぇの?

 そして、いよいよキャスターさんの一撃がアーチャーの左手の剣を弾き飛ばした。

 

「グッ……!」

 

 後ろに下がるアーチャー。キャスターさんは飛び掛かって追撃した。

 ズガンッという轟音と共に煙が舞い上がり、衝撃波が隠れてる岩陰まで伝わって来た。

 

「っ……!」

「先輩………!」

 

 マシュが衝撃をガードしてくれた。

 煙が晴れ、二人の様子を見ると、キャスターさんの一撃をアーチャーが剣一本で何とかガードしていた。

 

「勝負あったな………!」

 

 キャスターさんがそう言う中、俺はマシュと藤丸さんの肩を突いた。

 

「? なんですか?」

「一応、念の為に………」

 

 俺が二人の耳元で話してる間に、アーチャーがキャスターさんの杖を防御しながら言った。

 

「………最後に一つ聞いて良いか?」

「なんだ?」

「………なんで、あいつパンツなんだ?」

「…………知らね」

「知らねじゃねぇだろ!俺説明したよな⁉︎」

「落ち着きなさい、しょうがない」

「いやしょうがないって何だよ!」

 

 思わず所長にもタメ口でツッコミを入れてしまった。

 二人の戦いで俺を無闇に傷付けた後、キャスターさんは杖に力を入れた。

 

「じゃあ、これで未練なく逝きやがれ‼︎」

「ああ、お前がな」

「あ?」

 

 直後、弾き飛ばされたはずの剣が戻って来て、キャスターさんに襲い掛かった。

 

「しまっ………!」

 

 キャスターさんが思わずそう声をあげた直後だ。藤丸さんがマシュに叫んだ。

 

「マシュ‼︎」

「はい‼︎」

 

 マシュが飛び出して、襲い掛かってくる剣を盾で弾き飛ばした。

 

「何っ………⁉︎」

「ナイスだ、嬢ちゃん‼︎」

 

 キャスターさんはアーチャーをそのまま殴り飛ばした。体勢を崩したままアーチャーの身体は浮き上がり、キャスターさんは再び杖に炎を纏った。

 

「終わりだ」

 

 その炎を思いっきり何度も殴り付け、アーチャーは地面に叩き付けられた。

 

「グアッ………‼︎」

 

 思いっきり魔法が直撃し、地面に叩きつけられたまま、アーチャーは消えていった。

 ………えっと、倒したって事かな?

 

「………ふぅ、終わったぜ」

 

 あ、終わったんだ。良かった。隠れていた三人は姿を現した。

 所長がキャスターさんに安心したように声をかけた。

 

「お疲れ様。よくやってくれたわ」

「いや、それは嬢ちゃんに言ってやれ」

 

 言いながら、マシュの背中を叩くキャスターさん。

 

「こいつの援護がなかったら、俺はやられてたかもしんねぇからな」

「い、いえっ、私はマスターの指示に従っただけですから」

「い、いやいや、私は田中さんに『念の為備えとけ』って言われたからそうしてただけだから」

「あ?田中が?」

 

 キャスターさんがそれを知るなり、俺は全力のドヤ顔を浮かべてニヤリと微笑んだ。

 

「そうですよ?俺がそれしてなかったら、あなた今頃飛んで来た刃に頭部すっ飛ばされてたかもしれないんですよ?何か言う事あるんじゃないですかねぇ?」

「チッ……助かったよ」

「足りない」

「足りないってなんだオイ!」

 

 しかし、と所長が口を挟んだ。

 

「よくあの奇襲が分かったわね、あなた」

「まぁ、そうですね。備えあれば憂いなしって言うでしょ。もしかしたらって思ったから伝えといたってだけです」

 

 戦闘は敵の息の根を完全に止めるまで気が抜けない。英霊なら格上とも戦えるように、必ず奥の手なり切り札なり隠してると思っただけだ。

 

「大したもんだな、お前」

「おう、大したもんだわ俺」

「うん、本当一言余計な、お前」

 

 悪かったな。

 と、そんな事より聞きたいことがあるんだが。

 

「それよりさ、セイバーとキャスターさん以外死んだんですよね?なんでアーチャーいるんですか?」

「あれは……まぁ、生き霊みたいなもんだ。残ってんのはセイバーだけだから気にすんな」

「………なら良いけど。相手の戦力はセイバーだけって事で良いんですよね」

「ああ」

「よし、作戦を決めよう」

「………作戦?」

 

 マシュが首を傾げた。

 

「そうだ。相手はマシュどころかキャスターさんより格上らしいからな。作戦を考えるべきだ」

「な、なるほど……」

「具体的には?」

 

 所長が真面目な顔で聞いてきた。パンイチに慣れてくれたようで嬉しいぜ。

 だと、そんなことより作戦だな。まぁ、宝具が強力な敵が一人、その時点で作戦なんて決まっている。

 

「シンプルだ。マシュが受けて、キャスターさんが反撃する。もう少し色はつけるが、単純にはこれでいいだろう」

「………そんなんでいけるの?」

「他にできる事はないだろ。アーチャーを倒した時点で、奴はもう俺達がここに来た事は知っているはずだ。それに加えて、キャスターがここに挑みに来たということは、向こうは必ず戦力を整えて来た事も予測出来てるはずだ」

 

 俺の確認に四人は頷いた。

 

「マシュ、その盾はどれくらいの攻撃を防げる?」

「分かりませんが、宝具を展開してキャスターさんの宝具を防ぐ事は出来ました」

「なら、それでセイバーの宝具を防ぐんだ」

「っ⁉︎せ、セイバーの……⁉︎」

 

 聞かれて頷き返すと、キャスターさんに質問した。

 

「セイバーは今までの敵全員を強力過ぎる宝具で倒してたんですよね?」

「ああ」

「その一撃必殺とも呼べる宝具を防いだ事による動揺、続いて宝具を使った事による疲労、その隙が重なった時を見て、キャスターさんに最大火力で押し切ってもらいます」

「………なるほどな。理屈は分かった。だが、どうやって奴に宝具を使わせるんだ?嬢ちゃんはサーヴァントとしてセイバーの野郎より遥かに格下だ。そんな奴に、わざわざ宝具を使うか?」

「ふむ……そうだなぁ、例えば……奴を挑発するとか?」

「挑発?」

「挑発?」

「挑発?」

「挑発?」

「まあ、そんな死ぬかもしれない役割、俺は絶対嫌だが」

「「「「…………」」」」

 

 おい、なんだよ四人で順番に。なんで四人で俺を見るんだよ。

 

「挑発って言ったら……」

「そうね、一人しかいないわ」

「正確的にも性別的にもね」

「天職と言っても過言ではないね」

 

 え、こ、こいつら……冗談だよね?そう言う役目は普通、サーヴァントがやるものだよね………?

 俺の心の中の叫びも届かず、四人は俺にジリジリと近寄った。

 この後、詳しくは言いたくないが、俺は上着もひん剥かれた。

 

 ×××

 

 セイバーの待つ、少し開けた場所。中央には大聖杯と言われるものが置いてあり、禍々しい魔力を纏っていた。

 その前では、エクスカリバーを握る黒きアーサー王が鎮座している。とんでもない魔力放出で、今にもチビりそうだ。

 そんなラスボスオーラ全開な空間の中に、俺は足を踏み入れた。………パンツ一枚で。

 

「ふっふふーん♪ロイヤルゼリーが爆薬〜♪」

 

 自分でも意味のわからないオリジナルの歌を歌いながら、小躍りをしつつ大聖杯に近寄った。

 ………あ、ヤバイ。セイバーすごく見て来てる。

 

「何者だ、名乗りなさい」

「ふっふふーん♪我らが母校は〜5円玉で出来てる〜♪ケ○毛にニキビも出来てる〜♪」

「………名乗りなさいと言っている、ヘンタイ」

 

 ………否定できない。パンイチで放り出され、変な歌を歌いながら小躍りしてる俺は最早変態以上の何かだ。それを、セイバーどころか上司一人、後輩二人、英霊一人に見られてる、とても死にたい。

 ………まあ、成功すれば所長がボーナスくれるって言うし、我慢しよう我慢。

 それより、挑発の続きだ。俺はセイバーの前に立つと、両手を上にあげて掌を合わせ、右足をあげて回転し、シュタッとセイバーの前で構えた。

 

「やいっ!アーサー王!」

「………な、なんだ。ヘンタイ」

「貴様、エクスカリバーとかいうアニメとかに出てくる剣の名前にもよく使われる剣を持っているそうだなっ!」

「そうだが?」

「俺の聖剣と勝負しろ!」

「……………は?」

「俺が勝てば、俺の嫁になってもらう!」

 

 直後、ゴミ虫を見る目になるセイバー。

 

「………いきなり何を言い出す、絶対に嫌だ」

「ほう?怖いのか?」

「っ、な、何がだ」

「俺の聖剣が、だ」

「こ、怖いわけがあるか!馬鹿にするな!」

 

 ふっ、面白いほど安い挑発に乗ってくれるぜ。流石、アーサー王だな。

 

「なら受けろ。ただし、お前が勝てば俺は婿になってやる」

「ふざけるな!どちらにしても同じだろうそれは‼︎」

「ふっ、まったく困った娘さんだな」

「黙れ!腹立つ!ていうか何なんだお前は⁉︎」

 

 いいぞ、ドンドンと怒りのボルテージが上がっている。

 

「いいから、勝負を受けるのかを答えろ」

「わ、分かったから!ただし、私が勝ったら貴様には消えてもらう‼︎ただそれだけだ!」

 

 そう言うと、セイバーは剣を構えた。ただ構えるだけでも押し潰されそうな迫力で、今にもちびりそうだったが何とか堪えた。

 すると、セイバーはゴミを見る目のまま俺に聞いて来た。

 

「………おい、何してる」

「何がだ?」

「お前の聖剣を出せ。それで私と戦うのだろう?」

「ほう?出しても良いのか?」

「………どういう意味だ」

「俺の聖剣は、身体の一部だ。それによって、俺の身体から引き剥がすことはできない」

「…………」

「しかも、それは残念なことにとても使いにくい場所にある」

 

 言いながら、俺はパンツに手を掛けた。それを見るなり、ゴミを見る目だったセイバーは顔を赤く染めた。

 

「っ⁉︎な、何故パンツに手を掛ける⁉︎」

「聖剣を出すからだ!」

「どんな聖剣だ‼︎」

「男の聖剣だ‼︎」

「意味が分からん‼︎」

 

 よし、さらに怒りが浸透しているな。女の子を怒らせる一番の方法はセクハラだ。いくらアーサー王とは言え、ここまでされて冷静でいられるか?否だ。だが、まだ宝具を使わせるほどには至っていない。ここからが重要だ。

 俺はニヤリと下衆に微笑んだ。

 

「ちなみに、俺の宝具は性的なことを考える程に、硬く大きくなっていく」

「………ど、どういう意味だ?」

「もうすでに、俺の頭の中で貴様はあられもない姿になっているという事だ‼︎」

「ひぃっ⁉︎」

「ほれほれどうした?もっと抵抗しなくて良いのかー?俺の聖剣があなたの中に入ってしまうぞー?良いのかー?」

「や、やめろおおおお!変な事を想像してそれを口に出すなああああ‼︎」

「なんだ、もしかして満更でもないのか?やめろというのは建前なのか?心なしか先程よりヌルヌルして……」

 

 その直後だ。ドウッとセイバーから大量の魔力が放出された。さっきまでとは比べ物にならない程の魔力だ。

 真っ赤になった顔のまま、俺を全力で睨みつけながら何かを呟き始めた。

 

「『卑王鉄槌』、極光は反転する。光を呑め……‼︎」

 

 あ、詠唱してる。剣からものっそいオーラによる極太ブレードが出て来た。

 その直後だ。待機していたマシュと藤丸さんが走り出した。

 

「⁉︎ サーヴァント⁉︎」

 

 サーヴァントが突如現れ、ハッとするセイバー。流石、英霊というべきか、自身の身の危険を察知して変態より謎のサーヴァントに狙いを変えた。

 だが、それこそが俺の計画のうちであることに気付いていない。

 

「『約束された勝利の剣』‼︎」

 

 それに合わせ、マシュが宝具を展開した。

 

「先輩……!」

「うん!」

「宝具、展開します!『ロード・カルデアス』‼︎」

 

 剣と盾がぶつかり合い、さっきとは比べ物にならない衝撃が洞窟全体に響き渡った。

 

「ぬあっ……‼︎」

 

 その衝撃に吹き飛ばされ、俺は洞窟の入り口に吹き飛んだ。

 俺にはマシュ達が防ぎ切る確信があった。何故なら、少しでも威力を鈍らせるために精神への揺さぶり、そして宝具発動直前による狙いの変換で精度を削ったからだ。

 案の定、エクスカリバーは先に消え、煙の中からマシュ達が姿を現した。

 

「っ⁉︎なんだと……⁉︎」

「焼き尽くせ木々の巨人………!」

「っ!」

 

 さらに、マシュ達の後ろから詠唱する声。キャスターさんの宝具の展開だ。

 宝具を撃ち合えた後で、セイバーはすぐには動けなかった。

 

「『 灼き尽くす炎の檻』!」

 

 キャスターさんが宝具を展開し、なんかデッカい藁の巨人のようなのが炎と共に現れた。

 藤丸さんがマシュを抱えて離脱してる間に、巨人はセイバーに襲い掛かった。

 直後、爆発。エクスカリバーとロード・カルデアスの直撃程ではないが、大きな轟音と振動が辺りを襲った。

 

「っ……‼︎しょ、社長!俺の服は?」

「……………」

 

 無言で上半身の服を手渡してくれる所長。俺は着替えながら聞いた。

 

「………あの、所長?」

「……………」

 

 なんか口を聞いてくれなくなった。俺だって少しは頑張ったんだから、さっきの痴態くらい見逃してくれても良いんじゃないんですかね……。

 しばらくして衝撃が止み、俺と所長、藤丸さんとマシュ、キャスターの人はセイバーの方を見た。

 セイバーの身体はほとんど燃え上がっていた。

 

「………ふっ、なるほど。あの変態の小躍りも、作戦の一部だったというわけか………」

 

 燃えたまま、セイバーは独り言のように呟いた。

 

「聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に傾いた挙句、敗北してしまった。結局、運命がどう変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるということか」

「あ?どういう意味だそりゃ。テメェ、何を知っていやがる」

 

 そのセイバーの台詞にキャスターが食いかかった。

 

「いずれあなたも知る、アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー、聖杯を巡る戦争はまだ始まったばかりだという事を」

 

 それだけ言うと、セイバーは消えてしまった。その場所には、何か水晶のようなものが残してあったり

 

「おい待て、それはどういう……‼︎」

 

 言いかけたキャスターも、体が消え始めていた。

 

「おぉお⁉︎やべぇ、ここで強制帰還かよ⁉︎チッ、納得いかねえが仕方ねぇ!お嬢ちゃん、あとは任せたぜ!」

「! キャスターさん!」

「次があるんなら、その時はランサーとして呼んでくれ!」

 

 それだけ言って、キャスターさんも消えてしまった。

 さっきまでの振動が嘘のように静かになる。やがて、マシュがポツリと言った。

 

「………キャスター、セイバー、共に反応消滅しました。私達の勝利、なのでしょうか?」

 

 直後、空から声が聞こえて来た。

 

『ああ、よくやってくれた。所長もさぞ喜んでくれ……あれ?所長は?』

 

 所長は一人、浮かない顔をしていた。

 

「………冠位指定……。あのサーヴァントが、どうしてその呼称を……?」

 

 ………なんだ?何かあったのか?

 藤丸さんも所長の様子が気になったようで、顔を覗き込んで質問した。

 

「………何か気になる事でも?」

「え……?そ、そうね。よくやったわ、藤丸、マシュ」

「おい、俺の名前は?」

「不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします」

「おい、無視すんな若白髪」

 

 お前、後で余計にボーナスもらってやるかんな。

 そう思ってる中、所長はセイバーのところにあった水晶を取りに行った。

 その直後だ、水晶から何か声が聞こえて来た。

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして私の寛容さの許容外だ」

 

 その声と共に姿を現したのは、レフ教授だった。

 

 ×××

 

 目を覚ますと、カルデアの医務室だった。

 えっと……なんだ?戻って来れたのか?それなら良かった。でも、もう少しだらけていたいから起きるのは後にしよう。

 しかし、まさかあのレフ教授が敵だったなんてなぁ。所長も死んじゃったし、なんかもういろんな事があり過ぎて頭がパンクしそうだ。

 まぁ、とにかくこのまま少し寝てよう。何もしてないけど、働き過ぎた。

 

「おっと、タヌキ寝入りは良くないな」

 

 ………声が聞こえて来たが、聞こえていないことにしよう。

 そのまま寝腐ろうと目を閉じた直後、頬をかじられた、

 

「フォウ!」

「いっ……⁉︎」

 

 慌てて起き上がると、目の前には見覚えのない謎の生物がいる。なんか白い犬みたいなリスみたいな。

 

「やっと起きたかい?君だけだよ、いつまでも寝ていたのは」

 

 この声は、ドクターロマンか。

 

「どうも、ドクロマ」

「毒沼みたいに略すのはやめてくれ。ドクターかロマンか、どちらでも良いから」

 

 えっと、じゃあロマンで良いか。

 

「まったく、君だけが呑気に寝てるもんだから、もうみんなと現状の事を話してしまったよ」

「あーたんま。えっと……ロマン?」

「何?」

「ここはカルデア、で良いんだよな?」

「ああ、合ってる。帰って来れたんだ。よくやってくれたね」

 

 良かった、やっぱ帰って来れてたのか……。

 胸に手を当ててホッと息をついた。後ろにひっくり返り、枕に頭を置いた。

 

「何寝ようとしてるんですか、田中先輩」

「そうだよ、起きなよ」

 

 声が聞こえてそっちを見ると、マシュと藤巻さんがいた。なんだ、二人ともいたのか………。

 

「ああ、二人とも無事だったんだ」

「はい、なんとか」

 

 まぁ、それなら良かった。

 

「てか、さっきの白いモフモフの生き物は何?」

「フォウさんです。あ、今気づいたんですか?」

「冬木市にいた時からいたよ?」

 

 マジか………。全然気付かなかったわ。

 すると、ロマンが感心したように言った。

 

「田中くん、二人から聞いたよ。中々の指揮能力だったね」

「そう?」

「うん。まぁ、セイバーの時は正直引いたけど……でも、本当によくやってくれたね」

 

 そ、そうか……俺、よくやったのか。あと、セイバーの時に引かれたのは反論出来ないからやめろ。

 

「それで、田中くん。これからの話なんだけど………」

 

 ああ、そうだな。これからカルデアがどうするのかは重要だ。

 

「現在、既に人類は滅びている。おそらく、レフの言葉は本当だ。それは過去の人類史の七つの特異点、現在の人類を決定付けた選択点、これらが崩れてしまったからこうなってしまっているんだ。それらの場所にレイシフトし、修復する」

「………なるほど」

 

 てことはあれか?長篠の戦いを生で見れたりするのか?それは少し楽しみだわ。

 

「で、俺は何をすれば?」

「現状、マスターになれるのは藤丸さん、そして田中くん、君だけだ。だが、田中くんにはサーヴァントがいない。だから、召喚してもらいたい」

「サーヴァントを?」

「そうだ」

 

 きたあああああああ!イヤー楽しみだ。ようやく、俺にサーヴァントができるのか。

 可愛い女の子だと良いなぁ、いやでも命かかってるし強けりゃ男でも良い。とにかく、強い奴をくれ。

 

「田中先輩、表情がかなりゲスになってますよ」

 

 マシュに言われ、顔を引き締めた。

 

「さて、召喚しようか」

「い、いきなりキリッとし始めたなぁ……まぁ良いか」

 

 そんなわけで、召喚した。その結果、

 

「新選組一番隊隊長、沖田総司推参!あなたが私のマスターですか?」

 

 あまりにも親近感のある人が出て来た。

 

 


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