カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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第2部プロローグのお陰で、設定を途中で変更し、オリ主を一般公募枠二人目ということにしました。
もう途中まで話を続けてしまってるので、今から設定を変えると色々と矛盾点が出て来るかもしれませんが、目を瞑ってください。


策士、策に溺れる。

 ブーディカの捕らえられている砦に接近した。さて、これからとりあえず戦闘は避けられない。

 俺は俺でネロの影武者としてしっかりと戦わなければならない。ここ数日で筋力はついたから剣は振れるが、まぁそれでもネロ程の剣の腕はない。なるべく戦いは避けるべきだろう。

 

「マスター、サーヴァントの反応が二つあるぜ」

 

 クー・フーリンさんが俺の顔のネロに言った。ちゃんと俺に聞こえる声で言ってるので問題ない。

 だが、妙だ。サーヴァントの反応がある癖に、ここまで戦闘がない。奴ら、罠でも張ってやがるのか?

 

「声のみの魔術師よ、敵性の反応は無いのか?」

「ううっ……目の前で、目の前で余が……」

 

 後ろで顔を赤くしてボヤく可愛いネロを無視して、口調と声を完コピしてロマンに聞いた。ちなみに声音を自由に変えられるのは俺の数少ない特技の一つだ。

 

『ありません、陛下』

 

 作戦のためとはいえ、ロマンもノリノリやな。

 

「そうか。最大限に警戒してもらうぞ」

『わ、分かった。……プフッ』

 

 よし、あいつは後で殺そう。

 そうこうしてるうちに、砦の前に到着してしまった。さて、じゃあ強襲と行こうか。ブーディカは荊軻と佐々木さんが取り返したと信じよう。

 

「後方弓兵部隊、攻撃開始」

「いや待った。そんな物騒な事しなくても、僕達はここにいるよ」

 

 冷静な声が聞こえ、そっちを見た。赤い髪の少年と黒いスーツを着たメガネのイケメンがいた。

 

「イケメンだ、ムカつく。攻撃開始」

「えっ、ちょっ……」

 

 直後、俺達の後ろからワァッと矢の雨が降り注ぐ。だが、それでも目の前の二人は慌てた様子はなかった。

 

「やれやれ、仕方ないなぁ。行くよ、先生」

「ああ、お前の目的は果たさせてやる」

 

 二人はこちらに向かって、真っ直ぐ走って攻撃して来た。馬に乗って俺に向かって突進して来る赤髪の方。

 それを清姫が止めた。

 

「あらあら、いきなり王将が取れるとお思いで?」

「まぁ待ってよ。僕は彼女と話がしたいだけなんだ」

「話がしたくていきなり突っ込んで来ます?」

「仕方ないだろう。僕だってやすやすとやられるつもりはない。砦に戻るより、君達に接近した方が上からの攻撃は安全だろう?」

 

 ……こいつか、軍師は。いや、同じ行動をとったところを見ると、あっちのメガネも頭が良いと見た。

 なら、こちらの器のデカさと余裕を見せてやり、交渉の余地があるかどうか判断するとしよう。

 

「話ってなんの話だ?ブーディカを返すという話か?」

 

 清姫と取っ組み合いをしてる赤髪にネロの声で聞いてみると、赤髪の方は「うん」と平気で答えた。

 

「それもあるけど、こんなんじゃまともに会話もできない。少し、他所の人には引っ込んでてもらおうかな」

 

 そう言って、赤髪は何か合図を出した。直後、砦の両側面から敵兵士が攻撃して来た。挟撃か……!

 

「魔術師、片翼側は立花達に相手をさせよ。後方部隊の沖田を前衛に出し、反対側をバーサーカー二人と共に迎撃の指示を出せ」

 

 それだけ言って赤髪に言った。こいつは策士だ。本来ならこんな所でウダウダ話すくらいならさっさと片付けた方が良いのだが、余裕が無いように見られるのはウマくない。

 優れた策士なら策士ほど、奥の手は隠してるものだ。この挟撃を乗り切っても、他に兵力は隠されてると考えるべきだ。

 

「……へぇ、側面に兵を配置してたのか。やるね、皇帝陛下」

「まずは、名前から聞かせてもらおう」

「名乗らせてくれるのかい?」

 

 聞かないと、いい加減シャンクスみたいな別称つけるのやだからな。もう片方なんて新八だからね。

 

「そうだね……なんと名乗ろうか。僕には名前が複数あるんだ。……よし、こうしよう。僕はアレキサンダー、正確にはアレキサンダー三世という」

「俺はロード・エルメロイ二世。縁あって彼の軍師をしている」

 

 二人は俺達の前でそう名乗った。えーっと……誰だろう。まぁ良いや。とにかく、頭が良い人なんだろうな。

 

「それで、余に話とは?」

「君は何故、こうして戦い続ける?」

「はっ?」

「何故、連合帝国に恭順せずに。そうやって、いやこうやって戦い続ける?連なる皇帝の一人として在る事を選べば、無用な争いを生む事などないだろうに」

「無用、だと……?」

 

 後ろのネロから声が聞こえた。おい待て、お前は喋るなと言ったろ。その先は俺が聞こう。

 

「無用、と言ったのか、この戦いを。貴様は?」

「言ったよ、ならどうする?」

 

 ふむ、しれっと返して来たな。ネロならそんな風に言われたら怒るだろう。

 だが、ここで怒っても仕方ない。奴の目的がいまだ見えてこないからだ。戦況はサーヴァントの多いこちらが有利だし、どう考えても負ける要素はない。

 だからこそ、敵は何か一発で逆転出来る隠し玉を持ってるはずだ。

 

「別に、どうもしない。人や軍師によって戦場の価値観は違う」

「……へぇ?意外と冷静なんだ?」

「冷静?そう聞こえたのなら訂正させてもらうぞ。今の質問によって、貴様が触れた余の逆鱗は後で返させてもらう」

 

 今にもネロがキレそうだったので、その怒りを伝えるだけ伝えておいた。

 さて、ここからが本題だ。

 

「余からも貴様に聞くぞ」

「なんだい?」

「貴様こそ、何故この戦場にいる?貴様の狙いはなんだ?」

「狙い?狙い、か……。僕の狙いは君と話す事だよ。ネロ・クラウディウス、君の事を気に入っているんだ」

「余と話をする為に、わざわざブーディカを攫うなんて回りくどい事をし、幾人もの兵士を犠牲にした、そういう事か?」

「うん。そういう事だね。いや、僕だって命は尊いものだと思うよ。でもね、こうするのが一番だと思ったんだ」

 

 ……なるほど、そんな奴か。上手く誤魔化しているか、それともそれが本心なのか……。

 何れにしても、これ以上の問答は無駄そうだ。そろそろ蹴散らすとしよう。そう思って、俺はネロから借り物の剣に手を掛けた。万が一、話し合いとなった時、清姫やクー・フーリンさんに戦闘開始の合図としている。

 その直後だ。アレキサンダーが目付きが変わった。

 

「やはり、君はネロ皇帝じゃないね」

「へっ?」

 

 直後、手に持ってる剣を首に振り抜いて来た。反射的に身体を後ろに逸らすのと、ネロが俺の手から剣を奪うのが同時だった。俺の鼻の頭を掠めた。

 血は出ていない。代わりにペリッと鼻の頭が剥がれた。

 

「……何を言う?我こそが、ローマ帝国皇帝……」

「抜刀の瞬間が素人だった。彼女の剣の腕は今まで見て来たからよく分かる。君は偽物だ」

 

 ……まずいな。このまま顔を晒せば、俺の顔が出て来る。すると、ネロがどこにいるか、それは現在俺の顔をしてる奴という事になる。

 奴らに奥の手があったとして、それを使われたら最悪だ。策士にとって、騙された時ほど屈辱的なものはない。戦争なんて策士同士の馬鹿し合いみたいなもんだ。

 ここはさっさと撤退するべきだろう。そう思った時だ。俺の顔のネロが俺の隣に立ち、剣を奪った。

 

「もう良い、お兄ちゃん」

「へっ?」

「この戦を無用な戦い、と言った奴を許すわけにはいかん!」

 

 言い切りながら自分の顔のマスクを取り払うネロ。いや、このままはマズイでしょ。何とかネロを落ち着かせるように声を掛けた。

 

「い、いやいやネロ、落ち着いて……」

「良いだろう、受けて立つよ。僕もこのままそいつにコケにされたままというのは、どうにも納得出来ないからね」

 

 あ、ヤバイ。この展開は男として非常に情けないことになるのでは……?

 

「先生、悪いけどサーヴァントは頼むよ。僕はあそこの可愛い皇帝さんの仮面を被った奴を殺す」

「えっ、なんで俺っ……」

「見て来たから分かる。皇帝ネロは影武者を使うようなことはしない。僕らの目的を巧みに聞き返そうとした辺り、軍師は君だろう?」

 

 流石、頭が良いだけあって指揮官がバレるのも早い。そうなると、俺が前線にいるのはマズイことになった。殺されちゃうよ。

 若干怯えてると、ネロが俺の前に立った。

 

「ね、ネロ……?」

「余のお兄ちゃんに手出しはさせん」

「お兄ちゃん?へぇ、曲者だとは思ってたけど、まさかネロ皇帝に兄君がいたとは」

「え?そ、そう?俺、曲者に見える?」

 

 英霊に褒められるとかちょっと嬉しい。

 まぁ、でも喜んでる場合じゃないのは分かり切った事だ。とりあえず指示だけ出すことにした。

 本来なら人数で買ってるんだし、役割は決めずに混戦させた方が良いんだろうけど、ネロは相手のアレキサンダーをぶっ殺す気満々だ。

 

「清姫、クー・フーリンさん。二人はあっちのメガネを頼む」

「かしこまりました、マスター」

「任せな!」

 

 二人はメガネの前に立ち、俺はネロの後ろに立った。

 

「ネロ、これで良いか?」

「うむ、感謝するぞ。奴は余が叩きのめす。そして、主も余が守る」

「それは良いけど、俺の目の前で戦えよ」

「な、何⁉︎狙われてるのはお兄ちゃんの方なんだぞ⁉︎」

「危ないと思ったら他に救援を寄越すためだ。お前に死なれたら困るからな。この条件を飲まないと、クー・フーリンさんと清姫に令呪使ってでも混戦にさせる」

「っ……。わ、わかった……!」

 

 話が終わり、ネロはアレキサンダーを睨んだ。清姫とクー・フーリンさんがメガネと戦闘を始まっている。こちらもそろそろ始まるだろう。

 睨まれた側のアレキサンダーは、友達と出掛けてるときに、友達が別の友達と出会い、話し込んで待ってると友達の友達が立ち去り、ようやく声をかけた時のように声をかけた。長い上にわかりにくいなこの例え。

 

「もう、良いのかな?」

「ああ。悪いな、待たせて」

「ううん。……さて」

 

 そこで言葉を切り、好戦的な笑みを浮かべてネロを睨んだ。

 

「皇帝ネロ。守って見せろ、自分の兄君を」

「貴様に言われなくとも!」

 

 アレキサンダーが俺に向かって斬り込みに来ると共に、ネロも剣を構えて突撃した。

 念の為、俺はバックステップで回避しようとしたが、アレキサンダーの一太刀をネロが弾き、下から斬り上げた。

 アレキサンダーもその攻撃を寄り身で回避してネロの顔面に突きを放つ。今度はネロが回避して剣で反撃、というのを繰り返していた。

 ラチが明かない、と判断したのか、アレキサンダーはその場から一時後ろに退がったが、ネロは逃さなかった。さらに踏み込んで突きを放ち、さらにアレキサンダーは後ろに大きく飛び退いた。

 

「うーん……やるね、流石は皇帝だ。剣の腕比べじゃ僕じゃ敵わないかな」

「全く本気を出さないでいて良く言う。手を抜くとは余も甘く見られたものだな」

「別に手を抜いてるわけではないよ。ただ、ライダークラスとしては剣だけじゃ分が悪いって事さ」

 

 ライダー?マズいな。何が乗り物だから分からないが、出されると敵の戦力が上がる。

 

「ネロ、乗り物を呼ばせるな!トドメを刺せ!」

「わ、分かった⁉︎」

 

 乗り物について聞かれる前に従ってくれた。超速でアレキサンダーに距離を詰めたが、アレキサンダーはそれを読んでいたようにニヤリと口元を歪ませ、ネロの攻撃を回避してこっちに走って来た。

 

「しまっ……!ま、正臣!」

「いずれ彼方に至るため『始まりの蹂躙制覇』」

 

 直後、アレキサンダーの真下に黒い馬が出現し、俺に向かって突進してきた。

 ヤバいな、いくら剣術を学んできたとはいえ、勝ち目がなさすぎる。だが、相手は馬だ。逃げたって追いつかれて背後から刺されるのがオチだ。

 なら、俺がするべきは馬の突進をギリギリで回避する事だ。それなら、勢い余った馬は俺の後ろをしばらく走り続けるはずだし、その隙にネロと合流できる。

 ここ最近で沖田さんとエミヤさんにフルボッコにされた俺の動体視力はさらに上がっている。それによって、狙い通り馬の突進をギリギリで避けることができた。

 横に受け身を取り、馬のケツを見た。狙い通り、かなり走り去っている。今のうちにネロと合流しようと振り返った時だ。

 

「やぁ」

 

 目の前に、アレキサンダーが剣を振り上げて立っていた。

 

「ーッ!」

 

 こいつ、いつの間に馬から降りて……!ヤバい、逃げないと……!

 そう判断した時には遅かった。ドスッと腹に剣が突き刺さった。

 

 


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