夜中。さっきまで寝ていたからか、俺は眠ることが出来ずに一人で布団で座っていた。
まぁ、高熱は出てるし腹の傷は塞がりきってないしで、元々眠れるわけがないよね。しかし、今回に限って、俺は戦線に復帰する事はないのかぁ。みんな大丈夫かなぁ。
特に、ネロは今回、伯父をブチ殺したりしたし割とメンタル面が心配なんだが……。
いや、でも家にいることを承諾してしまった以上、俺にできる事は作戦を考える事だけだ。明後日の王宮攻略の完璧な作戦を考えなければ。
布団の中でボードの上に紙を乗せ、ペンを走らせる。ネロのとこの偵察兵にもらった王宮内部の地図を隣に広げて、戦力をどう分散させるかを考えている。
「相変わらず夜中に考えるのが好きですね、マスター」
寝てたはずの沖田さんが起き上がって俺の隣に座っていた。
「え、何?」
「何?じゃないです。無理しないでください。身体に響きます」
「いやいや、今、無理しないと俺が無理する所なくなるだろ。前線に行けないんだから」
「そんな事言ったら、沖田さんも無理する所はないじゃないですか」
沖田さんは万が一の俺、そして城の護衛のために俺の周りに残る事になった。
「そう言われたらそうなんだけどよ……」
「とにかく、明日にしましょうよ。そのために、明日は休みにしたんでしょう?」
まぁ、それもあるんだけどな。それと、ブーディカは捕らえられたばかりでメンタル面が万全とは言えないと思ったからなんだが。サーヴァントは大事な戦力だし。
まぁ、それは黙っていた方が良いよな。
「大丈夫だって……ゲホッゲホッ」
あ、やべっ。咳が……。こんなタイミングで咳をしたら……。
「ほらぁ。もう休んで下さい」
こうなる……。もういいや。仕方ないし、沖田さんが退散するまでは寝たふりしてよう。
仕方なく作業を中断してベッドに寝転がった。その俺の隣に、沖田さんは腰を掛ける。そのまましばらく沈黙が続いた。
「………」
「………」
……気まずい。なんだろ、沖田さん俺になんか話でもあんのかな。
しばらくボンヤリと二人で座ってると、喉に何かが詰まったような感覚で咳き込んだ。
「ゲホッ、ゲホッ……!」
「っ、だ、大丈夫ですかっ?」
「ェホッ……!……あー、喉イガイガする。頭も痛いし……。刺されると、こんな風になっちゃうんだな……」
高熱はすごいし、お腹は痛いし、頭も痛いし、咳も止まらない。
「もう……寝てください。体の調子も悪いんですから」
「……んっ、寝る……」
寝よ寝よ、もうなんか身体中痛いし。さっさと寝て明日に備えよう。
布団の上に寝転がると、沖田さんが揚々と語り出した。
「まったく、マスターはダメダメですね。やっぱり、沖田さんが付いてないと」
「おー……」
なんだよこいつ。俺に寝て欲しいんじゃねーのかよ。
「簡単に敵サーヴァントと相対して、ネロさんという心強い護衛がいるのに簡単に刺されてしまって……」
「おー……」
「沖田さんがちゃんとマスターの面倒を見てあげないとダメみたいですね」
「おー……」
「そ、それにっ、マスターも寂しかったでしょうしね!ほんの短い間でも、相棒である沖田さんに会えなかったのは……」
「ああもうっ、うるっせぇな!寝かせてくれるんじゃねぇのかよ⁉︎」
鬱陶しいので怒鳴り散らすと、沖田さんの表情は思ったより赤かった。恥ずかしさからではない。涙目になってる辺り、多分泣いてるんだろう。
……えっ、なんで泣いてんの?今の言い方そんなにキツかった?今のよりもっとキツい言い方でいつも喧嘩してなかった?
「え、沖田さん?」
「……マスターのバカ」
「いやいや、頭良いでしょ」
「そういうんじゃ無いですッ‼︎」
うおっ、なんか声大きくなった……。と、思ったら沖田さんは立ち上がった部屋の扉の前に立ち、涙目になりながら俺をキッと睨んで言った。
「……心配してたんですから……少しは察して下さいよ……」
そう言い残すと、扉を閉めて出て行ってしまった。
×××
翌日、熱も下がり、作戦会議が終わった。敵の城の攻略はスパルタクスと呂布のバーサーカー二人を先頭にした電撃戦。
言うこと聞かない連中を正面に暴れさせ、敵のサーヴァントを引き摺り出させつつ、アサシンの荊軻と佐々木さんに潜り込ませて戦力を探り、その情報次第で藤丸さんパーティ&ネロ、ブーディカが敵の本丸を叩く。
で、俺のパーティは俺の護衛のために城に残る事になった。昨日の段階では沖田さんだけのはずなのに、清姫まで残ると言い出し、この前喧嘩したばかりで危ないという事で、エミヤさんとクー・フーリンさんも残る事になった。その辺は俺の意思ではないので、正直なんとも言えなかった。
今日いっぱいは休むことになってる為、俺は部屋のベッドで寝転がっていた。
……しかし、沖田さん昨日の夜からずっと怒ってたなぁ……。目が合っても頬を膨らませて目を逸らされてちゃうし。何かやらかしたのかなぁ……。
それに、昨日沖田さんが涙目になっていたのは本当に何なんだろうか。あんなんで泣くようなタマじゃないだろ。
頭の中でグルグルと回ってると、ノックの音がした。
「はい?」
「入るぞ、マスター」
そう言って入ってきたのは、エミヤさんとクー・フーリンさんの二人だった。
「あ、どうも……」
「おう、大丈夫か?」
「一応、熱は下がったから」
「うどんを作って来たぞ」
「え、エミヤさん料理出来んの?」
「まぁ、一応な」
マジか……。ま、ありがたくいただこう。一口もらってみた。
「おお、美味いっスねこれ!」
「そんな特別なことしたわけではない」
「いやいや、特別なことしてないのにこの味はすごいでしょ!何これ、え、何これ?美味くね?」
え、エミヤさんってほんと何してた人なの?ほっぺた落ちるとはこの事かよ!
その場でうどんを貪ってると「マスター」とクー・フーリンさんから声が聞こえた。
「? 何?」
「沖田とまたなんかあったのか?」
「……あー」
話ってのはそれか。俺達はお留守番になったとはいえ、やはり戦場でのコンディションは整えておきたいんだろう。
「それなんだけどさー、なんか昨日沖田さん怒らせちゃったみたいでさー」
「何したんだよ。てか、いい加減喧嘩するなよ」
「いやいや、普段の喧嘩は沖田さんの方が悪いから」
「バカ者、喧嘩なんて始めた時点でどちらも悪い」
エミヤさんに口を挟まれ「そっすね……」と頭を下げた。
「……でも、今回はほんと分からないんですよね。なんで沖田さんがあんな怒ったのか。なんか、いつもと怒り方が違うっつーか……」
「と、言うと?」
聞かれたので、一から説明した。
すると、二人は顔を見合わせた後に俺の顔を見て、盛大なため息を漏らした。
「おい待て。なんだそのため息はオイ」
「……マスター」
「いや、ランサー待て。普段の沖田の態度も悪いし、何とも言えんぞ」
「しかしだな、そこは男が察してやるべきだろ」
「まぁ、そう言われるとそうだが……。しかし、このマスターだぞ?」
「まぁ、そう言われるとそうだが……」
「おい、何二人して同じ事言ってんだ」
そのダメな息子を見る両親みたいな目やめろよ。
おかんの方のエミヤさんが真剣な目で語り始めた。
「……とにかく、マスター。普段の沖田の態度も悪いが、マスターも悪いのは分かるな?」
「……そりゃわかるけど」
本気で心配されてるなんて思わなかったからな。むしろバカだのザマァだの言いたい放題言われるもんだとばかり思ってたし、事実「私がいなきゃダメですね!」みたいな事うだうだと言われたし。
「無論、沖田にも非はあるからな。お互いに謝るべきだ。事情はどうあれ、心配になった沖田に怒鳴ったのはマスターだし、心配するようなセリフを言えなくて照れ隠しをうだうだ言い続けた沖田も悪い」
「にしても、俺はあんな分かりやすい態度取ってる沖田に気付かないってのもどうかと思うけどな」
そんな分かりやすかったか?
「ていうか、普通に早く寝てくださいって言われてたし、そこは察しろよ」
「まぁ、そうですけど……」
まぁ、確かに冷静になればそうかもしんないけど……。
「……はぁ、謝りに行くか」
仕方なく部屋を出た。さて、沖田さんに謝りに行かないと。
と、言っても何処にいるのか分からない。まぁ、あの剣豪バカなら多分、イライラしてる時は中庭辺りで刀でも振ってるんじゃ……。
「マスターのっ!ばかっ!人の気もっ!知らないでっ!いや別にっ!あんなのにっ!どう思われようが知ったこっちゃないけどっ!」
「………」
本当にいちゃったよ……。ていうか、なんで言い訳しながら剣振ってんだ……?
……どうしよう、俺あの中に入って行ったらうっかり斬り刻まれたりしないかな……。後にしようかなこれ……。ほとぼりが冷めてから……。
「チキるな。それでも男か、マスター」
「! え、エミヤさん⁉︎なんでここに……!」
クー・フーリンさんもいるし、ていうか覗き見かあんたら!
「良いから前の相手を見ろ。今のうちに謝っておけ。明日、我々は前線には立たないが、それでも被害が全く及ばないとは言い切れない。万全を期す」
「まぁ、ぶっちゃけギスギスした奴らといると気まずいだけなんだけどな」
「お前らこの野郎本当に!」
そんな話をしてると、エミヤさんが木刀を作って差し出してきた。
「これは……?」
「もし、斬られそうになったらそれで身を守れ」
「相手は真剣なんですが⁉︎」
「何のために短い間であったが鍛えてやったと思ってる。何なら斬り合って来れば良い。案外、沖田はその方が喜ぶかもしれん」
「端的な死刑宣告!」
「いやいや、案外アーチャーの言う通りかもよ?」
……確かに俺の事をボコボコにしてる時は嬉々としてやがるしなあいつ……。
エミヤさんから木刀を受け取り、建物内を移動して沖田さんの後ろに回り込んだ。武器を持って沖田さんの後ろに回るのは危険だ。あの人の危機察知能力は尋常じゃない。
だが、正面から行くのは完全に正々堂々とした勝負になり、俺に勝ち目なんてない。
つまり、俺が無事で済むようにするには、後ろから奇襲を仕掛けるふりをして、反撃を回避するしかない。
そーっと…そーっと後ろから近付き、沖田さんの真後ろに来た。で、木刀を振り上げ、いつでもガードに回せる速さで振り下ろした。
……のだが。
「あっ」
「いっ⁉︎」
当たってしまった。あ、どうしよう。こんなの想定外なんだけど。え、てかなんで避けないの?普段のあなたなら振り下ろす前に刀振り回して来てますよね?
エミヤさんとクー・フーリンさんの方を見ると、既に姿はなくなっていた。お前らほんと後で覚えてろよ。
木刀で後ろから殴られた沖田さんは、ギギギっと俺の方を振り向いた。
「……マスター」
「……は、はいっ」
「何のマネですかこれは……?」
「これはー……」
どうしよう。誤魔化すか?いや、どう転んでもボコボコにされるのは目に見えてる。どうせなら正直に伝えよう。
「そのぉ……怒らせてしまったのでぇ……以前元気がない時は剣を振るのが一番だと仰られていたのでぇ……それに沖田さんなら避けられるかなぁって思ってぇ……それでぇ……」
「……なんで後ろからなんですか」
「あんなブツブツ言いながら剣振るってる人に話しかける勇気なくてぇ……」
「………」
言うと、沖田さんは小さくため息をついた、
「結局、何の用なんですか?」
「あーその……謝りたくて、要は……。昨日に関しちゃ、沖田さんの心配してる気持ちに気づかなかった俺が悪かったよ」
「………」
素直に謝ると、沖田さんは少し意外なものを見る目で俺を見た後、またまた小さくため息をついた。
「……別に、沖田さんも悪かったですし良いです」
「……そ、そう?」
「はい。頭への一撃も、沖田さんの油断が原因であるのも否めませんし」
「いや、それは……」
「そうです。わざと避けられる速さと強さで木刀を振りましたね?喰らった感じで分かりますから、それも許してあげます」
スゲェな、流石は剣の達人。
「……悪いな」
「い、いえ……チキンなマスターにしては謝るなんてとても勇気を出したと思いますし」
……耐えろ、俺。間接的には貶されてても基本的には褒められてる。
それに、とりあえず仲直り出来たんだし、ここは我慢すべきところだよな。いつのまにか戻ってきたエミヤさんとクー・フーリンさんもウンウンと頷いてる。お前らほんと覚えてろよ。
とにかく、一件落着かな?そんな風に油断をした時だった。
「お兄ちゃーーーーーんッ‼︎」
何処からかネロが飛んで来た。ひしっと俺の身体に飛びかかってきて、反射的に俺も抱きかかえた。
「おおう、これはこれはラブリーマイエンジェル、我がシスター&プリンセス、ネロちゃまではないか!」
「お兄ちゃん、明日……ついに明日だな!決戦の日は!」
「ああ、そうだな」
「余は、余は緊張のあまり震えている!お兄ちゃんの指揮がないと思うとなおさらだ!」
「お、そ、そうか?すごいわくわくしてるように見えるが」
「そこで、だ!今夜、お兄ちゃんと一緒の部屋にいさせてもらいたい!」
「喜んで!」
マジでか!それどういう意味なんですか⁉︎あんなことやこんなこともしちゃって良いんですか⁉︎
「うむ!では、今夜、余が部屋に行く!」
「今夜と言わず今からでどうでしょうか⁉︎」
「なんと!お兄ちゃんが良いのなら、それで構わんぞ!」
「よし、では早速行き」
ネロの肩に手を回して、早速歩き始めた直後だった。沖田さんが俺の肩に手を置いた。
「待って下さい」
「む、なんだ?沖田」
「マスターはまだ私との戦闘訓練が終わっていません」
「えっ?」
「そのつもりで背後から襲い掛かってきたのでしょう?」
え、その話は終わったんじゃ……。あなたの方から許すって……。
「ふむ、そうだったのか?それは失礼した」
先程のテンションからは考えられないほどあっさり退きましたね皇帝様!
「ではな、お兄ちゃん!」
「えっ、ちょ、待っ」
ネロはあっさりと引き退がり、残されたのは俺と激おこの沖田さんだけ。てかなんで怒ってんの?いつの間にか、またまたエミヤさんとクー・フーリンさんはいなくなっている。行ったり来たり忙しい人だな。
冷や汗をかいてる俺に、沖田さんは不機嫌そうに言った。
「では、訓練といきましょうか、マスター」
このあと、めちゃくちゃボコられた。