壁を突き抜けて来た沖田さんに慌てて駆け寄った。
「お、沖田さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」
「邪魔!」
「ゴフッ!」
腹を殴られ壁に叩きつけられた。テメェ心配してやったのに何だこの野郎と思って顔を上げると、土方が沖田さんに追撃して来ていた。
それを刀で何とかガードする沖田さん。刀と刀で押し付け合いになるが、沖田さんは倒れている。姿勢が悪い上に重力に逆らわなければならない沖田さんには不利な姿勢だ。
何かしなければ、と思ってホルスターから拳銃を抜いて頭部にぶち込んだ。が、流石サーヴァントというべきか、あっさり躱されてこちらに火縄銃を向けた。
慌てて向けられた銃口の射線から外れようとネロのベッドの下にしゃがむと同時に、片手になって緩んだ隙を突いて沖田さんが足を振り上げ、土方の腹を蹴り飛ばした。
「グッ……‼︎」
「ハッ、ハァッ……!」
「沖田さん、ドア閉めて!」
「へっ?」
言われるがまま沖田さんはドアを閉めた。
俺はその辺にあった机を持って扉の前に立つと、沖田さんに上を指差した。それだけで察したのか、沖田さんは窓から上の階に上がる。
その間、俺はドアに向かって銃を撃ち続けた。当然、扉の向こうの土方は撃ち返して来た。
閉めたドアがボロカスになるまで火縄銃を乱射してきて、俺は机を身代わりにしてその場で寝転がった。一発、左肩を掠めたが、俺は両利きなので問題ないし、むしろ丁度良い。掠めた血を頭に塗りたくった。
すると、こちらの射撃が止んだのに気付いたのか、土方がドアを壊して入って来た。死んだフリをしてる俺に気付いた土方が、念の為か火縄銃をしまって刀を抜き、振り上げた直後、天井を突き破って沖田さんが上から強襲した。
刀を振り下ろしたが、土方は刀でギリギリガードし、火縄銃を上の沖田さんに向けた。その隙をついて銃で土方の頭を撃った。効果は無いが、一瞬気を逸らすには十分だ。
沖田さんが刀を振り抜き、土方の下の床が崩れ、一個下の階に落ちて行った。
それを眺めながらパンパンっと身体を払って立ち上がった。
「……ふぅ、どう?斬った?」
「いえ、その前に床が崩れましたし、何より感触がありませんでした」
「ならこっち来い」
沖田さんの身体を無理に引っ張って部屋から出た。直後、俺達のいた部屋の床が火縄銃の弾丸によって崩れ落ち、誰もいないと分かるとジャンプして俺と沖田さんの前に戻って来た。
「途中で戦術が変わったと思ったら、オメェが沖田のマスターか」
「そうだけど?」
「面白ぇ戦い方をするじゃねぇか。だが、戦術の鬼才と言われた俺も、そう簡単に負けるわけにはいかねぇな」
「あそう」
そんな話をしてると、別の声が割り込んできた。
「何事ですか⁉︎」
騒ぎを聞きつけてか、ようやく兵士達が数人廊下に現れた。俺達と戦闘中の土方を見るなり剣を構えた。
「き、貴様何も……!」
直後、兵士の方を見ることもなく土方は火縄銃を兵士に撃った。
「沖田さん、土方の足止め頼む!」
「分かりました!」
「お前らは表に出て魔神柱……黒いバケモノから町民を守れ!馬に乗れる奴らはネロ達の元に合流し、向こうの任務が終わり次第こちらに連れて来い!」
「り、了解!」
こう言う時、素直に従ってくれるのはありがたい。兵士達は散り散りになり、沖田さんは土方と斬り合いを再開した。
しかし、ここは廊下で一本道だ。俺が介入できる事は何もないどころか、いるだけで足を引っ張る事になりそうだ。
よって、一度別の部屋に身を隠した。
「ロマン、ネロ達の方はどうなってる?」
『ロムルスを倒し、城に戻ってる最中だ』
え、そんなサーヴァントいたのか。いや、この際そこは良い。
「なら、こちらに連れて来て魔神柱の相手をさせて」
『わ、分かった!』
ネロ達が来るまでエミヤさん達の指揮は俺が執るしかないが……。しかし、沖田さんが本調子じゃない。かつての仲間と殴り合ってるんだからそりゃそうかもしれないが……。
とりあえず、一室からエミヤさん達の様子を見た。向こうは敵のレフ自身がアホだからか、然程苦戦してる様子はない。三人とも落ち着いて攻撃を回避し、触手を斬り、目を突き刺し、ダメージを与えている。
「……エミヤさん、聞こえる?」
『何だマスター。こちらは確かに優勢だが、呑気におしゃべりしていられるほどではない』
「ごめんね。や、俺しばらく指揮抜けるから。もうすぐネロ達が応援に来るからそれまで踏ん張れる?」
『愚問だな』
「流石」
そこで通信を切断し、沖田さんの方の様子を見に行った。廊下には既に姿は無い。
念の為、マガジンに消費した分の弾丸を詰めてから廊下に出た。二人の場所を探さなくてはならないが、広い城内の上にサーヴァント同士の戦いだ。移動速度は速い。
辺りを警戒しながら沖田さん達を探す事数分、城の入り口の一番大広間になっていて、天井にはシャンデリアが吊るされている場所で斬り合いをしているのが見えた。やはり、沖田さんの方が押されてるように見える。というか、調子はかなり悪いようだ。
蹴りをまともにくらい、後ろに転がる沖田さんに歩いて近寄りながら土方は聞いた。
「どうした沖田。そんなもんなら、生前のがよっぽどやり甲斐あったぞ」
「っ……!い、言ってくれますね……!」
そう言うと、土方が再び斬り掛かり、沖田さんはその攻撃をいなして切り返した。いつもの倍くらい鈍い切り返しだ。
土方の方は火縄銃は使う事なく刀のみだが、沖田さんをほとんど圧倒していた。
土方の蹴りが沖田さんの脇腹を捉え、地面に転がる沖田さん。元、仲間なのにあれほど容赦無し、か……。もしかしてあいつ、バーサーカーか?
何にしても、今の所、奴の意識はこちらにはない。沖田さんと土方を切り離すなら今だ。だが、拳銃では気をそらすことしか出来ない。こちらの銃は一切効果が無いし、気を逸らそうにも何度も同じ武器を使っていれば効果は薄れる。
辺りに効果のある武器はないか。そう思って辺りを見回し、上のシャンデリアが目に入った。重さは見た感じ、4t程か?
ホルスターから拳銃を抜き、シャンデリアを繋いでる鎖を一本ずつ撃ち抜く。
バギンッという音がして、斬り合ってる二人とも上を見上げた。
「なに……?」
「えっ……?」
二本目を打ち壊し、ようやく二人は俺の位置に気付いた。
「あれは……」
「まさか……」
だが、もう遅い。三本目を撃ち壊し、シャンデリアは落下した。
直後、二人ともシャンデリアの真下から離脱し、俺はその落下するシャンデリアの上に飛び降りて、途中まで降りた後にさらにシャンデリアから飛び降りて沖田さんの隣に降りて着地をした。右足の親指からボギッて音がした気がしたが気にしない。超痛いけどまだ気にしてるタイミングじゃない。
さらに天井や壁についてる灯りを片っ端から撃ち落とし、沖田さんの襟首を掴んで廊下に逃げた。
「ま、マスター⁉︎なんて無茶するんですか!てか殺す気ですか⁉︎」
「あーうるせーうるせー。ボコボコにされてたバカは黙ってろ」
「なっ……⁉︎マスターには言われたくないです!」
「や、いいから。沖田さん、一度しか言わないからよく聞いて」
拳銃のマガジンを入れ替えながら声を掛けた。
「土方と戦いにくいなら、今から表に出て魔神柱とエミヤさん達と乱戦に持ち込む。正直、魔神柱の広い攻撃範囲の上に土方の戦術が加わったら、面倒な事この上ないが、ここで沖田さんが死んで加われるよりずっとマシだ。それとも、ここで土方を倒すか。どっちにするかさっさと選んで」
「……マスター」
聞くと、悔しそうに俯く沖田さん。直後、外から凄まじい轟音が上がった。城内にいる俺達にまで振動が伝わる程だ。こんな威力のものは宝具含めてうちのメンツに撃てる奴らはいなかったはずだ。こりゃ外もピンチなのか?
外を眺めてると、俺の喉に突きを放った。お陰で「ぐぇっ」とカエルみたいな断末魔が漏れる。
「な、何しやがんだ⁉︎」
「大きなお世話です!沖田さんが撤退なんて、万に一つもあり得ません!」
「……あそう。なら、さっさと片付けるぞ。
「はい!で、どうすれば……?」
「じゃ、まずは窓から逃げて」
「……はっ⁉︎」
「良いから、さっきと同じだ」
そう言うと、沖田さんは理解したようで窓から出て行った。どの道、戦力が皆無な奴はこうして囮になるしかない。
囮としてはやはり脚力が必要なわけだが……これ、多分、足の指折れてるんだよなぁ。だってとても痛いもん。まぁ、あと少しくらいなら走れるか。
カルデアに帰ったら速攻寝るとか考えてると、土方がヌッと姿を現した。
「よう、ここにいたか。沖田はどこだ?」
「逃げたよ。表の戦闘に参加してる」
「そうかい……。あの野郎、新撰組の掟忘れやがって……」
乗るな、沖田さん。あれは奴の揺さぶりだ。奇襲作戦はバレてると見るべきだ。
すると、土方は俺に火縄銃を向けた。
「沖田より、テメェを消した方が早そうだ。悪いが消えてもらうぜ」
言われて、俺も土方に銃口を向けた。その俺の行為に、土方は片眉を挙げた。
「何の真似だ?テメェならそんなもんサーヴァントには効かねぇって気付いてんだろ?」
「ネロ、ごめん!」
「何?」
直後、俺はポケットから思いっきり布を投げ飛ばした。土方は慌ててその布に銃口を向ける。が、ふわりふわりと宙を待っているのはピンク色のパンツだった。
「……はっ?」
マヌケな顔を浮かべる土方。その一瞬の隙を突いて、壁から沖田さんが出てきて、土方に斬りかかった。
「チッ……!」
土方なら奇襲は読めていただろう。だが、今の場面からまさかパンツが出てきたとは夢にも思うまい。もちろん、後で回収する。
とにかく、今の沖田さんの勢いはさっきまでとは違う。火縄銃でガードしたが、見事に火縄銃を破壊し、土方の胸を斜めに斬り裂いた。
切断、とまでにはいかなかったが出血し、後ろに下がる土方。それでも沖田さんの勢いは止まらない。一歩で間合いを詰めると今度は斜めに斬りあげた。
今度は土方は躱しつつ刀でガードし、上にいなすと下から沖田さんに斬り上げた。スパッと音を立てて千切れる着物。
だが、切れたのは着物だけだ。後ろから上半身だけサラシになった沖田さんが土方の腰に刀を振り抜く。
「クッ……!」
鞘でガードする土方。その隙に俺はパンツをポケットにしまった。
鞘と刀で押し合いになる二人。だが、沖田さんは刀の方の力を抜いて土方のガードをいなした。
力が抜けて体勢の崩れる土方の頭を、腰から鞘を抜いて引っ叩き、地面に叩き付けた。
その反動でジャンプし、刀を下に向けて思いっきり振り下ろした。
「沖田ァッ‼︎」
土方も刀を握って沖田さんに斬りかかる。が、その前に俺は沖田さんに遠くから手を伸ばした。
「『瞬間強化』」
「なっ……!」
沖田さんの火力は一時的に莫大な上がるはずだ。刀は土方の胴体を完全に捉えて斬り裂いた。
土方の体から力は抜け、頭を殴られたその場から動かない。体が黄色く光り始めた。
「……ここまで、か……」
「土方さん……」
「そんな顔すんな。やっぱ天才だ、お前は。最後の斬り合いは悪くなかった」
まぁ、まさか上司を斬るハメになるとは思わなかったろうからなぁ。銀魂と違って仲良かったって話も聞いた事あったし、悪い事をさせたかもしれない。
土方は目だけで俺を見た。
「あんた、名前は?」
「坂田、銀時」
「田中正臣です、土方さん」
「そうか……。良いコンビだったぞ」
それだけ言い残して、土方は消え去った。しばらく、その場は静寂が支配した。俺も沖田さんも話さず、聞こえると言えば表からの戦闘音だけだ。
だが、やがて俺と沖田さんから「……い」と声が漏れた。
「「いやいやいや!あり得ないから良いコンビとか!」」
「そもそも沖田さんが最初からやる気あったらこんな事になってなかったからね⁉︎」
「は、はぁ⁉︎ていうか、マスターの方こそ終始邪魔ばっかしてなんなんですか⁉︎魔神……なんとか倒すんじゃなかったんですか⁉︎」
「お前が役に立たねえから手伝ってやったんだろうがバーカ!」
「私一人でも勝てましたー!マスターが参加したそうな顔してたから参加させてあげただけですー!」
「ああ⁉︎テメェもう一生助けねえぞタコ!昨日からなんか知らねーが機嫌悪くしやがって鼻フックデストロイヤーファイナルドリームの刑にしてやろうか!」
「やるってんですか⁉︎上等ですよバカたれ!」
お互いに腕まくりをしたときだ。
「何してんの?」
冷たい声が聞こえてきた。俺と沖田さんが揃って顔を上げると、全員が揃っていた。
「……え?」
「お兄ちゃん、何してるんだ?二人揃って下着姿で」
言われて、俺と沖田さんの服装を見た。俺は下半身はパンツ一枚で、沖田さんは上半身サラシだった。
「………」
「………」
ていうかなんでいんの?魔神柱は?
そんな感想が顔に出てたのか、藤丸さんがしれっと答えた。
「魔神柱はエミヤ、クー・フーリン、清姫が撃破。レフ教授の姿に戻ったところに合流したけど、レフ教授が新たなサーヴァントを召喚し、アルテラが出現。私の指揮でアルテラも撃破したよ」
「………」
マジかよ……。俺と沖田さんが土方一人に手こずってる間に……。
唖然とする中、ネロが駆け寄ってきて、俺の腕を引っ張った。
「沖田、離れろ!お兄ちゃんは余のものだ!」
「え、ええどうぞ?そんなん私もいりませんし!」
「言ったな?なら、今日からお兄ちゃん……いや、正臣は余の夫としてローマに迎える!」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
『えっ』
その場にいた全員から「えっ」という声が漏れた。が、その直後にレイシフトが始まろうとしていた。サーヴァント達や俺、藤丸さんの身体が光り始める。
「むっ、な、なんだその光は?」
「悪いな、ネロ。どうやらここまでだ」
「えっ、ま、待てお兄ちゃん!余は、余は離れたくない!」
「安心しろ。この光が終わった頃にはネロの記憶から俺に関する記憶は全て消滅する。何をどうしようがこの時代に俺の記録は一ミクロン足りとも残らず、お持ち帰りテイクアウトは出来ない、良かったな」
「な、何も良くない!記憶から消えるなど、死ぬより酷いではないか!」
「まぁ、気が向いたらこの時代にいつでもレイシフトしに来てやるから。その時は初めましてだけどよろしく」
「っ……」
そう言って頭を撫でると、ネロは心底悔しそうに奥歯を噛んで俯いた。気が付けば、この時代のサーヴァントはみんな消え、残りはカルデアのメンバーだけとなっていた。
「……で、では、正臣。一つだけ、余の願いを聞いてくれるか?」
「何?」
「聞いてくれるかだけ答えろ」
「俺がネロのお願いを断ったことがあるか?」
すると、頬を赤くしたネロは俯いてたのがやがて俺に顔を向け、顔を近づけてきた。
唇と唇が重なり合い、中からは舌が侵入して来る。清姫が顔を真っ赤にして文句を言おうとしたが、沖田さんが切なそうな顔でそれを止めた。
そのまましばらくくっついたあと、プハッと離れた。
「うむ、これで余の体内には、お主の記録が少なくとも残る」
「……そうだな」
「ではな!お兄ちゃん!」
それだけ挨拶した後、俺達はカルデアに戻った。
×××
カルデア。戻るなり、ダ・ヴィンチちゃんとロマンが出迎えてくれた。
「おかえり〜。天才の私が認めよう、今回も一人の犠牲者なしによくやってくれたね」
「や、みんなお疲れ。本当によくやったよ。特に今回は立香ちゃんの活躍が大きいかな。リーダーの田中くんもよくやってくれたよ」
「ありがとう」
「………」
「田中くん?」
「あー……気にしないでドクター。前と同じだから」
「へっ?」
……俺は肩を落として自室に戻った。ネロ……妹にしたかったし結婚したかった……。前のジャンヌ様の時と同じ感覚だった。
トボトボと廊下を歩いてると、同じく沖田さんが肩を落として歩いてるのが見えた。何だ?何かあったのか……?
「マスター、ちょっと良いか?」
後ろからエミヤさんの声が聞こえた。
「な、何ですか?」
「タメ口で構わない。さっきまでタメ口だったろう」
「え?あ、そ、そっか……」
「私は現場で召喚されたからな。部屋を案内してもらおうと思ってな」
「了解」
俺の独断で決めても良いよな。どうせいっぱいあるんだし。
テキトーな部屋を見つけて案内した。
「はい、ここ」
「すまんな。せっかくだ。お茶でも飲んで行け」
「へっ?」
「ついでに少し話そう」
言われるがまま、部屋の中に案内された。てか、どこから持ってきたのかお茶っ葉持ってるし。
元々備え付けられてるコップにお茶を淹れて俺に差し出してくれた。
「で、話って?」
「ハッキリ言う。というより、私もマスターの気持ちは分かる。だからこそ言うが、ネロの事は忘れろ」
「……は?」
「あのネロとマスターが会う事はもう無い。だから、忘れた方がマスターのためだ」
「……そりゃわかるけど……」
と、いうより、前回ジャンヌ様とのことがあったのにまた同じ事を繰り返した俺が悪いというのが冷静なものの見方とさえ思う。
「それよりも、もっと身近な女性に目を向けるべきだ」
「……というと?」
「まぁ、そこから先はマスター自身に考えて欲しい所だな」
「はっ?何それ」
「まぁ、そういうわけだ」
「……」
それって……清姫のことか?まぁ、あのバーサーカーはイマイチ俺のこと本当に好きなのか分からんしな……。あれだけ好き好きオーラ出されると逆に疑うっつーか……。
「まぁ、分かったよ」
「なら良い」
「清姫のことも少しは考える」
「……こいつ、本物か……」
すっごい呆れられた気がする。