神はどこかで見てくれている。
カルデアの仮装訓練室。そこで俺は一人で修行していた。前回のレイシフトで結構ボッコボコにされたので、このままではマズイと思ったからだ。
いくら頭が良くとも、俺だけを集中狙いされたらそれでおしまい。だからこそ、身体を鍛える必要がある。
その為に、仮想空間で現れる敵に囲まれながらも、冷静な判断力で無双していた。
「フハハハハ!遅い、遅過ぎるぞ貴様ら!それで良く私に攻撃を当てようと思ったものだなァッ‼︎」
「速度レベル1だからね」
「その上にパンチ一発で上半身が吹き飛ぶなど、私はまだ百億分の一程度の力しか出していないぞ!」
「防御レベルも1だからね」
「痛ッ!……ほう、私に攻撃を当てたか。しかし、何だその威力は⁉︎蚊に刺されたかと思ったわ!ゼハハハハ!」
「攻撃レベルは0だからね。ていうか痛って言っちゃってるし」
「………」
「あ、ほら勇者様。前から来たよ、ガイコツ」
藤丸さんがとても冷静に俺のテンションを下げにきてた。
「……お前さ、もう少し役になり切ろうとか思わないの?」
「そのセリフ、少し脚色して返すね。もう少し厳しい訓練しようとか思わないの?」
「バッカ野郎!痛いと死んじゃうだろ!」
「あのね!私は田中さんが真面目に訓練したいって言うから、田中さんがそのモチベーションを上げるためにお姫様役がいないと出来ないって言うから協力してあげてるの‼︎こんな茶番に付き合わせるなら帰るよ⁉︎」
「茶番とか言うな!一番重要なとこだろうが!」
「じゃあストレス発散!」
グッ……!こ、こいつ……そんなガミガミ怒らなくても良いだろうが……!
「良いだろ!俺、レイシフトが始まってからずっとカッコ良いとこ無いんだよ!少しくらいカッコつけさせろよ!」
「ならせめて敵のステータスレベル上げなよ!」
「痛いの嫌!」
「小学生以下の根性!訓練なんだから死なないんだからね⁉︎」
小学生以下は言い過ぎだと思うんだけど……。
二人で睨み合ってると、ロマンの声が聞こえてきた。
『立香ちゃんの言う通りだよ。僕もこんなアホな茶番に付き合ってられるほど暇じゃないんだけど……』
「くっ……!どいつもこいつも言いたい放題言いやがって……!」
『とりあえず、問答無用でレベル二つ上げるからね』
「はぁ⁉︎ま、待て待て待てそんなんやったら死んじゃう……!」
直後、近くのガイコツ兵が立ち上がった。武器も何も持っていないものの、やはり強くなってるのだろう。殴られたら絶対に痛い。
慌てて俺は藤丸さんの背中に隠れた。
「やれ!藤丸さん!」
「ちょっ、勇者役の癖に隠れないでくんない⁉︎」
「うるせぇ!俺勇者じゃないし!マスターは戦闘とか専門外だろ!」
「普通の魔術師は戦うから!」
ヤベェ!殺される!
いつのまにか囲まれるほどの数になっていた敵に対して、二人で「お前が行け」「いやお前が逝け」と押し付け合い。
当然、目の前に平気で迫って来た。もはや押し付け合いもせずに二人で抱き合って目を閉じると、ヒュガッと骨を砕く音が頭上から聞こえた。
「何やってるんですか先輩方は……」
「「ま、マシュ〜‼︎」」
二人してマシュに飛び付くと、俺だけ顎を蹴られて藤丸さんは抱き抱えられた。
「助かったよー!もう、田中さんってば全然役に立たなくてさぁ!」
「はい。助けに来ましたよ、先輩」
「て、テメェ……。いくらなんでも顎を蹴ること無ぇだろ……!」
舌噛むとこだったわ……。
腫れ上がった顎を抑えてると、マシュは目を腐らせながら俺に言った。
「うるさいです、エロ臣先輩」
「正臣だから」
「私の先輩と抱き合うなんて八億年早いです」
「一生抱き合うなってか?てか、藤丸さんだってこっち来てたからな」
「それより、早く訓練室出た方が良いですよ」
「何でさ」
「沖田さんが訓練室の管制室で怒ってらしたので」
速攻で訓練室から出た。ヤバい、殺される。色んな口実で殺されるのが目に見えていた。
訓練室から出て逃げようとした所で、足を躓かせて盛大にすっ転んだ。畜生、慌てると転ぶ癖を何とかしたいぜ。
で、大体今回のパターンは読めてる。そろそろだろ?ほら、襟首を掴まれた。無論、沖田さんだ。
「……マスター」
「……沖田さん」
「訓練したいなら、私と道場に行きましょうか」
「……お手柔らかにお願いします」
ボッコボコにのされた。
×××
「もー無理!ホント何なのあいつ⁉︎」
エミヤさんの部屋。そこで俺、エミヤさん、クー・フーリンさん、小次郎さんの四人は集まって俺の愚痴を聞きながらゲームをしていた。あ、ゲームは俺の部屋のもんな。
「酷くない⁉︎こんなタンコブが出来るほど殴るか普通⁉︎」
言いながら、3○Sのボタンをカチカチと連打する。やってるゲームはスマブラだ。
ダ・ヴィンチちゃんに作ってもらった3○Sをいじりながら、クー・フーリンさんがボソッと呟いた。
「スッゲーなぁ、こんなもん俺らの時代にはなかったぜ。なぁ?アサシン」
「うむ、私の時代にも無かった。というか、私の時代はゲームというものが無かったから、色々と新鮮だ」
「そりゃ俺もだっつーの。って、アーチャー!テメェさっきから俺にPKファイア投げて来んじゃねぇよ!」
「フッ、貴様は大技を当てようと必死過ぎだ。天空何回連発すれば気が済むんだ」
「チッ……やっぱその辺は普通の戦闘と一緒かよ」
「秘剣燕返し‼︎」
「テメェ、虫網を振り回すんじゃねぇ‼︎」
「I am the bone of my sword.---So as I pray,『無限の剣製』‼︎」
「てめっ、スターストームは卑怯だろうが‼︎」
「お前ら真面目に聞いてる?」
「「「聞いてない」」」
息ぴったりかよ!いい加減にしろよ本当よう!
……いや、もう本当にこれ以上こいつらに愚痴っても仕方ない気もしてたしなぁ……。俺の話をちゃんと聞いてくれんのはエミヤさんだけだし、最近エミヤさんも俺に冷たい視線を送るようになって来たし。
……でもムカつくからこいつらはボコボコにしよう。
「甘い、甘いなぁエミヤァッ‼︎スターストーム如き、熟練者になれば一瞬で見切る事が出来るのだよォオオオオ‼︎」
すいっすいっとスターストームをゲームウォッチが回避し、空中でなんか出しながらそれをスターストームが終わった直後のネスに当ててステージから追い出すと、着地して次の獲物へ。
アイクに落ちてたアイテムのビームソードを投げつけ、ジャンプで避けた隙を突いて、空中横攻撃で大きく吹っ飛ばし、追撃して復帰しようとしたのをメテオで落とした。
最後の一人、村人はハニワを飛ばして来たので、それを上手く見切りながら回避すると、弱Aを喰らわせてから上手くコンボを繋ぎ、最後に上スマッシュでトドメを刺した。
「フハハハハ!貴様らそれでも英霊か!こんな変態呼ばわりされてるパンピーに負けるなど……!」
「……何初心者に本気出してんだオメーは」
「我々だから良いものの、他の奴にやったら本気で嫌われるぞ」
「うむ、英霊だからゲームも上手いというわけてもあるまいしな」
「……じゃあお前らだけでやれば良いじゃん」
なんで揃って正論言うの……。拗ねてみると、クー・フーリンさんは無慈悲に言った。
「もう一戦行くか、マスター抜きで」
……俺ってやっぱ男性陣にも嫌われてるのかなぁ。
ショボンと肩を落としてると、エミヤさんが気の毒に思ったのか話題を変えた。
「……しかし、我々第三者から見れば、沖田とマスターはかなり仲良く見えるぞ」
「え、そ、そう?」
「ああ。ランサーはどう思う?」
「え、あー……確かにな。喧嘩してるくせに楽しそうにしてるしな。喧嘩するほど何とやらって奴か?」
「うむ、まさしくランサーの言うそれだな。沖田はよく、私のマスターの元に愚痴りに来るが、その顔はとても楽しそうにしているぞ」
「そりゃ楽しいだろ。嫌いな奴の悪口言ってんだから」
てかあの野郎、俺の陰口言ってやがんのか。いや、言ってるだろうとは思ってたけどよ。
すると、クー・フーリンさんが「つーか」とこちらに質問してきた。
「そもそも沖田ってありゃ、元々人嫌いとかじゃねぇだろ。俺やアーチャー……あとほら、あのジャンヌオルタとすら普通に話せてるし。むしろマスターはあいつに何したんだ?」
「えっ、あ、あー……」
「そうだぞ、マスター。人付き合いも何事も最初が肝心だ」
エミヤさんにも言われ、俺は困ったように顔をしかめた。
「……まぁ、その、なんだ。タイミングが悪かったんだよ」
「着替えでも覗いたのか?」
「おっぱい揉んだ」
「……はっ?初対面で?」
「うん」
「……」
「……」
「……」
「待て、三人揃って引くな。色々あったんだよこっちにも。冬木市で色々あって疲れてたのに、あの野郎がしつこく部屋まで案内しろってうるさかったからさ」
「それで揉んだのか?」
「クズめ……」
「やって良い事と悪い事があるだろう」
「や、違う。そすんすしたの」
「? なんそれ」
「鎖骨突き」
「ほぼ胸じゃねぇか」
「そしたら沖田さんが抵抗して、狙いが逸れてガッチリ揉んじゃったの」
「やっぱクズじゃん」
……グゥの音も出ません。いや、あの後ちゃんと謝ったし。
この問題は自分達が解決出来ないと思ったのか、エミヤさんもクー・フーリンさんも小次郎さんも何も言わなくなった。
が、やがてクー・フーリンさんが最初に負けたのか、3○Sを机に置いた。
「だー無理!てか、やっぱ四人の方が楽しいなこれ」
「じゃあ俺も入れ」
「マスター、誰か召喚して来いよ」
「……俺は入れてくれないの?」
「もう少し俺らが上手くなったら混ぜてやるよ」
まぁ、確かに俺に無双されるだけじゃつまらんだろうしなぁ。仕方ない、それまではお預けだな。
「じゃ、誰か召喚して来る」
「誰来るかな。このメンツならライダーかキャスターかセイバー?」
「ふむ、バーサーカーも外せんぞ」
「というか、貴様らゲームのために英霊召喚することに抵抗は無いのか……」
そんな言葉を背に召喚しに行った。
×××
召喚室的な場所には藤丸さんとマシュとジャンヌオルタもいた。
「あ、田中さんも来たんだ」
「田中先輩も召喚するんですか?」
「チッ」
「まぁな。あと最後、舌打ちした奴死ね」
「あんたが死ね」
ほんと、女の子に嫌われるの上手いなぁ俺は。それも長い付き合いの奴ほど。
「どうせ、あんたの事だから巨乳のサーヴァント来いとか考えてんでしょ?」
「あーそれも良いな。いや、スマブラの人数合わせに召喚しようと思って」
「あんた召喚をなんだと思ってるわけ⁉︎」
「人数合わせって……田中さん既に四人サーヴァントいるよね?」
ジャンヌオルタの当然のツッコミの後、冷静に藤丸さんが聞いてきた。
「清姫や沖田さんがスマブラやると思うか?」
「いや、そもそも英霊がスマブラやると思えないんだけど……」
「で、代わりに小次郎さんがエミヤさんの部屋に集まってるんだけど……」
「先輩のサーヴァントに何をしてくれてるんですか!」
「知らねーよ、てか小次郎さんからこっち来たんだよ」
「ていうか、田中さん含めてちょうど四人じゃん」
「俺と一緒にやると強過ぎてつまらないから嫌だって怒られた」
藤丸さんとマシュは悲しそうな顔を浮かべたのだが、ジャンヌオルタはプッと吹き出しやがったので襲い掛かった。
顔面にドロップキックをぶち込むと、尻餅をついたジャンヌオルタはキッと俺を睨んだ。
「いったいわね!何すんのよ⁉︎」
「うるせぇ!笑ったテメェが悪い!」
「もう許さないわ、あんた殺す!」
「上等だ表出ろコラァッ‼︎」
なんて俺たちがやってる間に、藤丸さんは召喚を開始した。サークルが回転し始め、中央から新たな英霊が姿を現わす。
「……愛憎のアルターエゴ、パッションリップです……。あの……傷つけてしまったら、ごめんなさい……」
すごいおっぱいが出てきた……。どれくらいすごいかと言うと、喧嘩中に思わず余所見して顔面を殴られてしまうほど。
「ブフォッ!」
「アハハハハ!喧嘩中に余所見とは良い度胸ね!」
「きゃっ⁉︎な、なんですか⁉︎」
「ジャンヌオルタ」
「ご、ごめんなさい……」
藤丸さんに怒られ、素直に謝るジャンヌオルタ。で、藤丸さんが自己紹介を始めた。
「えっと……パッションリップが名前で良いのかな?私、マスターの藤丸立香。よろしくね」
「は、はい……」
「私はマスターのサーヴァント、マシュ・キリエライトと言います」
「同じく、立香のサーヴァント。アヴェンジャーのジャンヌ・ダルク・オルタよ」
「……」
なんか暗いな、おっぱいの割に。どうやら、何かあるのかもしれない。ま、その辺は俺と違って人に好かれやすい藤丸さんがなんとかするだろう。
さて、俺は俺で召喚することにし……ようとしたら、なんか四人の視線がこっちに向いていた。あ、俺が自己紹介する番?
「ああ、藤丸さんとは別のマスターの田中正臣。俺、女の子に嫌われやすいみたいだから近付かない方が良いよ」
「分かりました……」
あ、分かっちゃうんだ。まぁ良いけど。
召喚を終えた藤丸さんパーティは、パッションリップにカルデアを案内するとかで部屋を出て行った。
さて、今度は俺の番か。なるべくなら優しい、天使みたいな子が良いなぁ……。ジャンヌ様みたいな。ジャンヌ様本人とは言わないから。願いを神に届けながら召喚してみた。
「やっほー!ボクの名前はアストルフォ!クラスはライダー!それからそれから……ええと、よろしく!」
天使が、舞い降りた。