召喚に成功してから、俺はアストルフォたんにカルデアを案内してあげていた。
ここに来て、ここに来てようやく天使を引いた……!こんな可愛くて元気な明るい子がうちの脳筋剣士マッスルランサーヤンデレバーサーカーマッスル(二人目)アーチャーしかいないゴリラパーティに加わった……!その事実がもう嬉しくて嬉しくて……!
もうテンション上がりまくりで案内していた。
「ほら、アストルフォ。ここが食堂だよ」
「わー、思ったより広いねー」
「ああ。基本的に俺のアーチャーのサーヴァント、エミヤが飯作るから」
飯係就任は昨日からだけど。
「へー!エミヤかぁ。どんな英霊なの?」
「アストルフォは知る必要ないよ、俺だけを見ていてくれれば」
「あははっ、何それ。マスターって面白いねー」
「まぁ、後で紹介するから。あ、なんか食っていく?奢るけど」
「ほんとに⁉︎じゃあ、何か軽く食べようかな」
ひょー、アストルフォたんとデートだぜ。俺も腹減って来たとこだし丁度良いわ。
そう思って食券を買い、料理を待ってると後ろから「おい」と声が聞こえた。
「マスター、いつまで召喚に掛かって……あ?誰だそれ?」
クー・フーリンさんだった。というか今、アストルフォたんの事を「それ」と言ったか?
「おい、クー・フーリン。テメェ、うちの期待のルーキーに『それ』ってどういう事だ。英霊の癖に礼儀も知らねえのか」
「ああ?……あー、そういう事かよ……」
最初の「阿阿?」はかなり怖かったが、察してくれたようで何より。
「悪かったな。ランサーのサーヴァント、クー・フーリンだ。あんたは?」
「僕はアストルフォ、ライダーだよ。よろしくね」
「今、アーチャーの部屋でスマブラやってんだが、やるか?」
「スマブラなんてやってねぇよ!人類史が懸かってるって時に何遊んだんだ!」
「………」
叱りつけると、クー・フーリンさんの眉間にシワが寄ったのが見えた。が、それでもクー・フーリンさんはグッと抑えて苦笑いを浮かべた。
「わ、悪かったな。マスター」
「ふーん、なんか殺伐としてるんだね、マスターは。僕はそういうの割と苦手なんだよなー」
「なんてな!スマブラでもなんでも好きにやってて良いよ、クーちゃん!あとでアストルフォ連れて行くから」
「……ああ、サンキューマスター。……でも、その前に良いか?」
クー・フーリンさんは俺と肩を組み、耳元でボソッと呟いた。
「……テメェあとで覚えとけよ」
「……すみませんでした」
「それと、俺は後で肩パン一発で済ませてやるが、沖田にだけは見つからないようにしとけ?良いな?」
「……はい」
クー・フーリンさんはエミヤさんの部屋に引き返し、俺はアストルフォたんと飯を食い始めた。
食事を終えると、またまた案内を再開した。他にもなんかよくわからんメンテ室だのトイレだのダ・ウィンチちゃんの工房だの道場だのと案内をし、一通り案内を終えた。
「じゃ、スマブラやるか」
「……スマブラって何?」
「一言で言えばゲームだよ。操作方法は俺が教えるから。その時にみんなに紹介してやる」
「やったね」
「じゃ、こっち……」
案内しようとした時だ。アナウンスでサーヴァントと俺と藤丸さんは呼び出された。
「……悪い、任務だ」
「へ?あ、う、うん。レイシフトって奴だよね?」
「そう。次の特異点の修正に行くぞ」
セプテムの時にまとめた荷物を取りに行ってから管制室に向かった。
×××
到着した頃には、俺とアストルフォ以外に全員揃っていた。というか、なんで毎回俺は一番遅いんだろうか。みんな準備するの早く無い?
「マスター、遅いですよ!」
「うるせぇ、若白髪」
「相変わらず二人は仲が良いねぇ」
「ドクター、叩っ斬りますよ」
「ロマン、キン肉バスター掛けんぞコラ」
「ほら、仲良しだ」
よし、あいつは後で半殺しにしよう。
心の中でそう決めると、アストルフォが俺の袖を引いた。
「マスター、あの人は?」
「うんこ大好きうんこ丸」
「小学生ですか、あんたは‼︎沖田総司です‼︎」
「はいはい、いちゃつくのはその辺にして……」
ロマンが寝ぼけたことを抜かした直後、俺と沖田さんのライダーキックが炸裂した。
これ以上は話が通じないと判断したエミヤさんが俺と沖田さんを別々の椅子に縛り付けて、ようやく会議が再開された。
「……えっと、じゃあ改めて。レフ・ライノールを倒し、第二の聖杯を回収した……と言えば聞こえは良いけど、疑問は増える一方だ。あの肉の柱は何なのか、七十二柱の魔神を名乗るアレは何なのか」
「そんなの名乗ってたっけ?」
「エミヤくん達が相手をしてる時にね。フラウロスと名乗っていた」
へー、あの登場を引っ張った割に大した活躍しなかったガンダムフレームみたいな名前だな。まぁ、あの作品はバルバトスとダイン・スレイヴ以外は活躍しないから、仕方ないね。
「思い当たるものは一つしかない。ある古代の王が使役した使い魔だ」
「古代の王?」
藤丸さんが聞くと、どこから現れたのかダ・ヴィンチちゃんが答えた。
「その通り!古代イスラエルの王にして魔術世界・最大にして最高の召喚術士!彼が使役する使い魔こそ、その名も高き七十二柱の魔神だったわけさ」
「フォウ⁉︎」
「ハッ⁉︎あなたはダ・ヴィンチちゃん⁉︎」
「うん。いい。最高。マシュちゃん、その反応さいっっっこう!こっそりカンペを渡した甲斐があった!天才たるものこれぐらいの登場はしないとね」
あそう……。ていうか、さっさと続けてくんないかな。
それからロマンとダ・ヴィンチちゃんは何かグダグダと会話を続けた。その間にあれは縄からの脱出を試みるが、エミヤさんが俺の肩に手を置いた。どうやら、動くな、ということらしい。
で、ようやく二人の会議は終止符を打ったのか、「さ、それよりも」とロマンは言葉を続けた。
「今は当面の課題、三つ目の聖杯入手の話をしよう。唐突だけど、田中くん。それと立香ちゃん。君達はローマの時に船酔いしたっけ?」
「死んだ」
「私もそれなりに」
「そうかぁ……。うん、そうかそうか……」
え、何その深刻そうな顔。
「まぁ、人間は順応する生き物だしね。何とかなるよ、絶対」
「先生、俺欠席します」
「だめだ。君がいなきゃ何も始まらないだろう」
「嫌だ!絶対帰る!」
「エミヤくん、縛っておいてくれてありがとうね」
「お安い御用だ」
畜生!嫌だ!行きたく無い!何とか逃げようとするも、両手両足使えないのでどうしようもない。
「というわけで今回は1573年。場所は、見渡す限りの大海原だ!」
「海、ですか……?」
マシュが聞き返すと、ロマンは頷いた。
「うん。特異点を中心に地形が変化しているらしい。具体的に『ここ』という地域が決まっているわけではなさそうだ」
「その海域にあるのはポツポツと点在している島だけ。至急、原因を解明してほしい」
「原因は聖杯!はい解明!この任務終わり!」
「エミヤくん、彼の口にガムテープを」
「了解だ」
「ちょっ、魔力の無駄遣いはンムッ!」
酷い!いじめだ!訴えるぞ!
「それと、万が一の時のために私が開発したゴム製の浮き輪を渡しておくから。万が一の時はこれで窮地を凌ぐといい」
ダ・ヴィンチちゃんがそう言って藤丸さんに浮き輪を渡した。
まぁ、その、なんだ。俺だけ縛られたままレイシフトが開始された。
×××
気が付けば、レイシフトされていた。見渡す限り海しかない。だが、場所は無人島ではなかった。どっかの船の真っ只中だ。というか、海賊船の真ん中。
メンバーを見渡す限り俺、沖田さん、アストルフォ、クー・フーリンさん、清姫、エミヤさん、藤丸さん、マシュ、ジャンヌオルタ、小次郎さん、パッションリップ、フォウさんと全員揃っている。
そして、周りは海賊に取り囲まれていた。まぁ、その、なんだ。アシが手に入ったって事でロマンに関しちゃ不問にしよう。それに、口の中からなんか酸っぱい香りが……やべっ、もう酔ってきた……。
「え、エミヤざん……」
「どうしたマスター……マスター⁉︎」
「吐きそう……エチケット袋出して……」
「グッ……!やむを得ないか!」
「や、俺の鞄から……」
「あ、ああ、そういうことか」
その直後だ。周りの海賊達が「ヒャッハー!」と騒ぎ始めた。何、デュエリストの軽空母なの?
「女だ、女がいるぜ!」
「身包み全部剥いでやれ!」
「ていうかこいつら服装にまとまりがねぇな!」
「サーカスでもやんのか?」
段々、感想が常識的になって来たな……。常識的になって来たのに貶されてる気がするのはなんでだろう。
「くっ、どうするマスター!」
「は、吐く……!」
「いやそうではなくだな……!」
だってもう口から出そうだもん……!あ、ダメだ。もらったエチケット袋に全部吐き出した。
その様子をうちのサーヴァント全員がドン引きしてる目で見てる間に、藤丸さんが全員に指示を出した。
「全員、戦闘準備!パッションリップとマシュは私と田中さんの護衛、他の人達はなるべく船員を殺さず怪我もさせないように戦闘不能にして!」
「ほう、それは難しい注文だな、マスターよ?」
「この船を操縦できる人がいなくなったら困るからね。誰が舵を握る人だから分からない以上、そうするしか無いよ」
「なるほど、心得た!」
小次郎さんにそう言われても冷静に返す藤丸さん。全員がその指示に納得したようで、あっさりと船を制圧してしまった。
すみませんでした、と素直に謝る海賊達を無視して、藤丸さんのサーヴァント達が一斉に藤丸さんに集まった。
「すごい、すごいです先輩!まるで田中先輩みたいでした!」
「そうですね、マスター!戦闘後のことも考えて任務を遂行するなんて!」
「まぁ、褒めてあげても良いわよ?別に」
マシュ、パッションリップ、ジャンヌオルタが褒め、小次郎さんもウンウンと頷いた。良いなぁ、向こうのパーティは仲良さそうで。
「流石ですね!立香さん!」
「洞窟の時から思ってたけどよ、あんたの指揮もうちのマスターに負けてねぇよ」
「僕の所のマスターは吐いてただけだからね」
「ああ、成長したようだな」
あ、あれ?うちのサーヴァントまで褒め出したよ?ていうか、それってもう俺いらない子なんじゃ……。
だが、藤丸さんはパンパンと手を叩いた。
「ほら、みんな。何のために怪我なしで制圧したと思ってるの。周りの海賊達にどういうつもりなのかとか、時代背景を尋問するよ」
その言葉に「はーい」と従い始めるサーヴァント達。誰も俺の心配なんてしてくれなかった。その事が寂しくなるが、気持ち悪さでそれどころでは無い。
そんな時だった。誰かに背中をさすられた。
「……大丈夫ですか?ますたぁ」
「……清姫……」
「わたくしはますたぁの味方ですから」
「き、清姫……!」
「ですから、存分に吐いて下さって結構ですよ?」
「清姫ぇ……!」
涙目になったが、こいつ背中にタッパー隠してる。俺のゲロを保存する気だと理解したので、とりあえず逃げることにした。