まさかのパンツを履き替えるという、情けないどころかトラウマを生み出したわけだが、それでも任務はやめるわけにはいかない。
まぁ、これまでの修羅場をパンイチで乗り切ってきた俺に、必要となれば服を脱ぐことに抵抗なんてない。いや、少しはあるけどね。脱ぎたがりというわけでもないし。
で、船の護衛は男達に任せて女子達の後を追った。後を追った先には石板が転がっていた。
「なんこれ?」
「ルーン文字だそうです。ただいま、ダ・ヴィンチちゃんが解析中です」
マシュが丁寧に説明してくれた。待ってる間、藤丸さんに袖を引かれた。
「……ねぇ、ちょっと」
「? 何?」
「沖田さん、また機嫌悪くなってるじゃん。謝られたんじゃないの?」
「謝られたけどまた喧嘩したんだよ」
「もう……面倒臭いなぁ、なんでよ」
「俺の代わりに夜の見回り頼んだら急にキレたんだよ」
「……どうせまたなんか怒らせるようなこと言ったんでしょ」
すると、同じく待機中のアストルフォが声をかけてきた。
「そういえばマスター、昨日は僕と一緒に寝ようとした時、沖田にボコられてたけど大丈夫だった?」
「やっぱり田中さんが悪いんじゃん……」
直後、ギロッと沖田さんが俺を睨んできた。で、あっかんべーと言わんばかりに左目の下まぶたを伸ばして舌を出してきた。ガキかよあいつ。
「とにかく、ちゃんと沖田さんに謝って。それは田中さんが悪いから」
「……わーったよ」
また空気重くなるの嫌だしな、と心の中で思いながら頷いておいた。
すると、ダ・ヴィンチちゃんの声が聞こえてきた。
『一度は眠りし血斧王、再びここに蘇る。大雑把な意味合いはこんな所だな。しかし、血斧王?どこかで聞いたような……』
その直後だ。辺りは海賊みたいな連中に囲まれていた。多分、船長の部下ではないんだろうな。
「我らが王、エイリーク王のために!」
「偉大なる王、エイリーク王のために!」
面白いなこの人達。しかし、森の中で囲まれたが位置が悪いな。森の中で囲まれたら、他にどこに敵がいるか分からない。エイリーク王がどんな奴か知らないが、ゲリラ戦に慣れた相手なら条件が悪い。
「清姫、俺の護衛を頼む。奇襲を最警戒しろ。アストルフォ、沖田さんも死角を作らないように敵の相手をしてやれ」
「マシュは後衛で私の事守って。ジャンヌオルタ、森の中だから炎は使わずに相手して。パッションリップ、味方を巻き込まないように邪魔になりそうな木を退かして」
その指示に全員が「了解」と戦闘を開始した。船長も頷いて銃を握り締めて周りの敵を一掃する。
しばらく待ってると、敵を殲滅し終えた。結果、奇襲などはなく、ほとんど力と力のパワーゲームで終わってしまった。
まだエイリーク王がいるはずなので辺りを警戒してると、戦闘を終えた船長が何処かを見ながら呟いた。
「んー、財宝。財宝の匂いしないかなー」
「ドレイク船長、財宝は匂いませんよ」
マシュがその船長に冷静にツッコミを入れた。その呟きを船長は豪快に笑い飛ばした。
「あっはっはっ!そう思うかい?マシュ。だが財宝ってのは匂うもんなんだよ」
「えぇ……?」
「ああ、マシュ。そういうもんだよ」
少し共感できるので口を挟んだ。
「その道のプロってのは割と求めてるものを匂いとか感覚で当てちまうもんなんだよ」
「そ、そういうものですか……?」
「例えばほら、藤丸さんの胸って多分パッドでしょ?」
「田中さん、死にたいの?」
「田中先輩、死にたいのですか?」
「マスター、死にたいんですか?」
「すみませんでした」
謝ると、マシュは顎に手を当てて呟いた。
「……しかし、イマイチピンと来ないのですが……」
「なら、賭けようじゃないか」
船長が男前に微笑んだ。
「私の言った通り、財宝があったら……世界一周に付き合うってのはどうだい?その代わり、あたしが負けたら何か欲しいものをやるよ」
「うーん……そう言われましても……どうしましょう、マスター」
「ああ、うん。いんじゃない?このまま協力してもらうって事で」
「そうですね。特に私達は望むものはありませんし、このまま協力していただければ……」
「……あの巨乳を分けて貰えば良いじゃん」
「沖田さん、菊一文字貸して」
「わー嘘嘘!ごめんなさい!」
ていうか藤丸さん怒ると一番怖い!一番怒らせちゃいけないタイプか!
「……でも、悪くないかも。私達が勝ったら、その巨乳の秘訣を教えて下さい」
「あっはっはっ、面白いねあんたらやっぱ!良いだろう、あのクズが一発で惚れるくらいのもんにしてやる」
「! そ、それ沖田さんも!沖田さんも知りたいです!」
「わたくしにも是非!」
「あんたらは既にそれなりにあるでしょうが!」
「良いよ良いよ。そうしようか」
なんてやってる時だ。なんか和やかになったな……?とりあえず、殺気が収まってホッとしてる時だ。ドクターの声が響いた。
『来たぞ!サーヴァントが動いた!どうやら、君達を感知したらしい。猛烈な勢いでやって来るぞ!』
「話し合いが通じる相手だと良いのですが……」
マシュがそう呟いた直後だった。現れたのは上半身裸で斧を持ってるマッスルだった。
「ワガッ!ワガナ!エイリーク!イダイナル、エイリーク!ガゴ、コロス!ジャマヲスルナラコロス!ブチ、コロス!ギギギギィィィー!」
「……通じないですね」
パッションリップが小さくため息をついた。まぁ、相手は単騎だ。指示出すことなんてない。
「相手バーサーカーだから。マシュが正面でタゲ取って、残りは四方八方から袋叩きで。マシュだけでタゲ取り難しかったら他にも一人くらい手伝ってあげて。怪我だけはしないようにね」
それだけ言って戦闘を開始した。まぁ、いくらバーサーカーでもこの人数のサーヴァントに勝てるはずない。
勝負は一瞬でついた。消滅するエイリークにロマンが呟いた。
『あれ?おかしいな、消滅した割にサーヴァントの反応が……』
「どうしました?」
『あれ、消えてしまった。うーん、この時代に来てからどうも調子悪いな。すまない。計測器の調子が悪くてね、後を追うのはちょっと難しい』
「島のサーヴァントの反応は?」
『それはないから安心して』
……なら、この島に用はないな。だが、船長はそうも行かないだろう。
「なら、宝探しだね」
ほら見ろ。
「悪い、俺は先に船に戻るよ」
「なんでさ、あんたは探さないのか?」
「お宝に興味がないわけじゃないけど、船の様子も気になるから。それと、出航する前に寝ないといけないし」
「なるほどね。じゃ、宝探しは女だけでしようか」
それだけ言って、俺は一足先に船に戻った。
×××
一言で言えば、そんなすぐに寝られるはずなかった。船酔いでダウンし、船から海にキラキラと吐瀉物を撒き散らした。
「……うげぇっ……」
ダメだ……。気持ち悪い……。というか吐き過ぎて腹減った……。でも食欲無ぇな……。
そんなデスループに陥ってる俺を見て流石に気の毒と思ったのか、アストルフォたんが声を掛けてくれた。
「……あの、大丈夫?」
「……天使」
「酔い止めがあれば良いんだけど……」
「マスター、やはり私が作った方が……」
「ダメ!エミヤさんは魔力温存!」
「お、おう……」
クッ……!怒鳴ったらまた吐き気が……。確かに何とかしないとかなり厳しい所まで来てる。だから留守番にした方が良いって言ったのに……!
「あ、じゃあ僕の宝具使おうか?『この世ならざる幻馬』に乗れば少しは……」
「それもダメだって……うぇっぷ」
「マスター。せめて、なんでダメだか教えてくれないか?何を考えている?」
エミヤさんが真面目な顔で聞いてきた。いや、正直説明する気力もないんだけど……。
「……次の島に着くまで説明は勘弁して」
「それなら良いが……」
「安心しな、次の目的地は見えてる。あと少しだ」
船長が少し安心するような事を言ってくれた。
それにホッと胸をなで下ろすと「あのぅ……」と控えめな声が聞こえた。顔を上げると、パッションリップが俺を見下ろしていた。
「私で良ければ、その……助けられると思うのですが……」
「……マジ?」
「はい。私の手に乗ってもらえますか……?」
「お、おう……?」
言われて、デッカい黄金の手の平に乗った。
「……あの、手の平だと危ないので、手の甲にお願いしたいのですが……」
「お、おう……」
言われて、手の甲に乗った。
「では、しっかり掴まってて下さいね」
直後、シュボッと手がロケットパンチよろしく飛び出した。
「うおっ⁉︎おおおおおお⁉︎スッゲ……!」
「だ、大丈夫ですかーっ⁉︎」
「スゴイ!まだ余韻は残ってるけど、全然マシそう!お前最高かよ!」
おお!飛んでる、飛んじゃってるよ俺!でも、手の平だとなんで危ないんだろう。
「ごめんなさい、手を左右変えますね」
「了解!」
なんだ、限界があるのか?それとも単純に疲れただけか。なんにしても気分は悪くない。
一度パッションリップの手に装着されると、反対側の手の平に乗った。
「……あの、ですから手の平ではなく……」
「ああ、悪い。でもそれなら甲を上にしてくれると助かる」
「あっ、そ、そうですね……。すみません……」
「いやいや、ありがたいから」
「では、行きます!」
「おう!」
言われて再び射出される手。スッゲェ!超気持ち良い!すると、耳の通信機に声が入った。
『具合はどう?マスター』
「さっきより全然楽ー!」
通信機の先はアストルフォたんの声だった。いや、わざわざ心配してくれて超嬉しい。
ていうか、これって夢だったドダイの上のガンダムMk-2ごっこが出来るのでは⁉︎
手の甲の上に立ち、構えを取った。
「ハハハ!ザマァ無いぜぇ!」
『あのぅ、危ないですよ!落ちたら手で拾わなければならないので……!』
パッションリップの声が聞こえてきた。続いて、それに対してアストルフォが質問した。
『手の平の何がそんなに危ないの?』
ああ、それ気になってた。何がそんなダメなの?
『その、手で包んでしまうと、そのものを圧縮してしまうんです』
怖い言葉が聞こえ、何とかバランスを保っていた俺から冷たい汗が流れた。
『するとどうなるの?』
『五センチ四方のキューブとなり、二度と元に戻せなくなってしまうんです……。でも、落ちてしまった以上、拾わないわけには……』
「ちょっ、待って待ってスピード落として!船に戻っ……あーっ」
直後、動揺によってバランスを崩した俺は、海の中にドボンとダイビングした。
『あ、落ちました』
『マスター!』
『ちょっ、誰か小舟小舟!』
『そんなもん、うちの船に無いよ!』
『やむを得まい!アストルフォ、宝具を……!』
『あ、オイ!』
そんな議論が聞こえた直後だった。誰かが海に飛び込んだようで「ドボン」という擬音が聞こえたが、もがき過ぎて俺の耳から通信機は外れた。
てか、やべっ……!死ぬ……!いや、泳げないわけじゃないけど、彗星の如く海に突っ込んだから沈殿が止まらなくて……!ガバッ、もうダメッ……!
目をキュッと瞑って全てを覚悟した直後だった。誰かが俺の身体を引き上げ、水面から顔を出した。
「……まったく、何をやってるんですかバカマスター」
「……ェホッ、エホッ!……へっ?」
俺を助けてくれたのは沖田さんだった。
「まったく、そんなアホな事で死にかけないで下さい。マスターに消えられたら私達だって消え……」
「おっ、沖田さあああああああん‼︎」
「えええええっ⁉︎」
不機嫌そうな顔をしながらブツクサ愚痴る沖田さんに全力で泣きついた。
「な、なんでしゅかマスター!いっ、いいいいきなりそんな……!」
「死ぬかと思ったああああああああ‼︎」
「ま、まったく……!ホントにもう……世話が焼けるマスターなんですから……。このまま沖まで行きますよ」
「……うん」
すみません、世話焼かせて。とりあえず、助かった……そう思った直後だった。ロマンから通信が入った。
『田中くん、沖田さん!早くそこから離れるんだ!』
「何?」
『敵だ!どこかの海賊船が船長の船と戦闘中!』
「は?」
そう言った通り、海賊船が一隻、船長の船と撃ち合っていた。
「サーヴァントの反応は?」
『無い』
「なら、エミヤさんは待機。アストルフォの宝具にクー・フーリンさんと清姫を乗せて船の上に突撃させて」
『了解!』
「俺達は一足先に島に入るから」
それだけ指示を出し、沖田さんに泳いでもらった。このままなら船酔いしないし。沖に到着した。
「ふぅ……マジありがと、沖田さん」
「……いえ、サーヴァントとしては当然ですから」
「ただ、その……何?濡れた服で申し訳ないけど……これ羽織っておいた方が良いかも」
上半身の服を脱いで絞ってから沖田さんに手渡した。
「えっ……なぜですか?」
「透けてるから」
「あっ……な、なるほど……」
正直、殴られる覚悟だったんだけど、割と素直に従ってくれて助かった。
しかし、沖田さんが抱えてくれたとはいえ、随分と流されてしまった。まぁ、しばらくは島の探索だな。
「沖田さん、疲れてない?」
「大丈夫です」
「なら、とりあえず島の中を見回ろう。ロマンがいるから合流は容易い。その間に島の探索、いるならサーヴァントの位置を把握し、戦闘になった時、有利になるようにしよう」
「分かりました」
今の所、俺何もしてないしな。少しでも役に立てるようにしないと。
そんなわけで、沖田さんと二人で島の探索に出た。