「「ああああ!」」
俺と沖田さんは二人声を揃えて逃げる。後ろからはデッカいツノ生えた男が猛然と走って来ている。
「なんで、なんであいつ追ってくるんだ⁉︎」
「そんなのあんたが石ぶつけたからでしょうが!」
「だっていきなりあいつ出て来るんだもん! そもそもテメェ、サーヴァントだろ! サーヴァント近づいて来てるなら気付けや!」
「人の所為ですか⁉︎」
そんな話をしてる時だ。何処からか矢が飛んで来たのに気付き、俺は慌てて沖田さんの方に跳びかかりながら回避した。
「あぶねっ!」
「っ! や、矢ぁ⁉︎」
何処から⁉︎
辺りを見回すと、アステリオスの肩の上にさっきの女の子が弓矢を構えて座っていた。
「逃がしはしないわよ!」
「あ、蜘蛛の巣!」
「え、うそ……きゃあっ⁉︎」
俺の嘘に引っかかり、慌てて姿勢を崩して肩から落ちた。
まぁ、肩車してもらいながら弓なんて撃ってりゃバランス崩すのは当然だわな。あとは女の子が嫌いそうなものを言えば落下するのはすぐだ。
アステリオスの方は数メートル走ってから、女の子がいなくなったことに気づき、引き返した。
「……流石ですね、マスター」
「これで分断出来た。沖田さんはあのデカい男を戦闘不能にして。殺すなよ」
「何故ですか?」
「奴ら、俺以外にも誰かと出会ってるっぽい。俺以外にも腹を立てさせられた男がいたみたいだからな。要するに大事な情報源だ」
「しかし、マスターはサーヴァント相手にどうするつもりですか?」
「話し合うんだよ」
「相手、かなり頭に血が上ってますが」
「何とかする」
それだけ話すと、沖田さんは了承してくれたのか、刀を構えて走り出した。
戦闘についてまだ詳しいとは言えない俺が行くよりも、沖田さんに分断させた方が良いだろう。
幸い、バーサーカーが相手なので分断はあっさり成功した。
俺はのんびりと歩いて女の子の方に歩く。当然、弓を構えられたので、俺はホルスターの拳銃を抜いて女の子の前に放った。
「? なんの真似? 命乞い?」
「戦闘の意志はない、サーヴァント相手にはどの道、敵わないからな」
「なら、あっちのサーヴァントを止めなさいよ」
「そりゃ無理だ。あのでっかいの、バーサーカーだろ? いつ手を出して来るかわからないし、足止めの意味でもああしてる必要がある。何より、あんたが俺を人質にとれば、沖田さんは止まらざるを得ないんじゃないのか?」
「……あなた、何が狙い? このままじゃあんた達、不利なだけよ?」
「どうかな?」
「いや、黙ってなさい。どうせ、あなたはすぐになんでも話すわ」
そう言った直後、俺の頭の中は真っ白になった。いや、正確に言えばピンク色か? とりあえず、今の俺は目の前の可憐な女神様のことしか考えられない。
女神様の前で、片膝をついて手を取った。
「失礼いたしました、女神様」
「あら、そう畏まらなくて良いのよ? 私のことはエウリュアレ様とお呼びなさい」
「畏まりました、エウリュアレ様」
「まずは、あのサーヴァントを止めなさい」
言われた直後、俺は沖田に声をかけた。
「止まれ! 沖田!」
「は? って、ハァァァァ⁉︎ 何魅了されてるんですかマスター!」
「アステリオスも止まりなさい。そいつは私の新たな兵隊にするわ」
「ン……分カッタ……」
「けど、念のため拘束しておいてね?」
言われて、アステリオスは沖田の身体を両手で挟むように拘束した。
「なっ……⁉︎ は、離してください!」
「暴れないで。この男を殺すわよ?」
「ーっ……!」
奥歯を噛みしめる沖田。それを見て愉快そうに微笑むと、改めてエウリュアレ様は俺に質問して来た。
「良い? 私の質問に正直に答えなさい?」
「はい」
「あなたは何者?」
「人理消滅を阻止すべく行動している『カルデア』に所属してるマスター、田中正臣です」
「そう。私達の所には何をしに来たの?」
「この島の調査です。ロケットパンチの上に跨って風になろうとしていたらほんとに風になって海に沈み、漂流して来ました」
「そ、そう……。て事は、あなたとあの女以外にも仲間がいるのね?」
「はい」
「……その仲間は、あの忌まわしい黒い髭を生やした奴の事?」
「忌まわしい黒い髭、とは……?」
俺の仲間にそんな奴はいない。みんなイケメンだし。……チッ、なんかムカついて来た。
「……そう、あいつらの仲間ではないどころか、人類を守ろうとしていると」
「その通りでございます」
「一応聞くけど、私達がこの島にいる事は知っていたの?」
「いえ、知りませんでした」
「私の顔に石をぶつけたのは?」
「っ、も、申し訳ございません! 決してわざとではなく、あそこのサーヴァントと遊んでいたらたまたま当たってしまった次第でして……!」
「……そう」
その直後、ハッと意識が戻った。どうやら、魅了されていたようだ。
「……あれ、沖田さん? 何してんの?」
「! ま、マスター! 戻ったのですか⁉︎」
「アステリオス、放してあげなさい」
言われて、沖田さんは解放されて俺の方に駆け寄って来た。
「無事ですかマスター⁉︎」
「おお。で、俺今魅了されてた?」
「はい! それはもう……!」
すると、女の子はキュッと目を細めて俺を睨んできた。
「……あなた、わざと魅了されたというの?」
「ああ。とりあえず、お前らに敵がいたのは分かってたし、信頼されるにはそれしかないと思ったから」
「……読めない男ね」
まぁな。簡単に考え読まれてたらリーダーなんて務まらない。
「そんなわけだから、よろしく。えーっと……ステンノじゃないんだっけ」
「エウリュアレよ」
そんな話をしてる時だ。ちょうどうちのメンバーが到着した。
「無事か、マスター!」
エミヤさん、クー・フーリンさん、清姫、アストルフォ、船長が来ていた。多分、他のメンバーは船の護衛だろう。
「大丈夫だよ」
「なんだい、あんたらと逸れちまったから決死の思いで探しに来たってのに、ピンピンしてるじゃないか」
船長がつまらなさそうな顔で言った。
「で、その二人は?」
「新しい仲間。こいつら多分、俺達の敵の情報を知ってる」
「ちょっと、女神に向かってこいつとは何よ」
「うんありがとー。じゃ、とりあえず船に戻るか。女神の方はともかく、あっちのアステリオスっつーバーサーカーの方はかなりやるよ」
「ちょっと、聞きなさいよ!」
「へぇ、まぁ面白い奴が増えるのは大歓迎さ。さ、船に戻るよ」
そんなわけで、一度船に戻った。
×××
船の上。俺は低速飛行してるパッションリップの手の甲の上だけど。
「……なるほど、つまり敵は黒髭というわけか」
エミヤさんが顎に手を当てて呟いた。それにエウリュアレが頷きながら返した。
「そうなのよ。あいつ、聖杯も持ってるわ」
「……なるほど。今回の特異点はそいつか」
「なら、話が早ぇじゃねぇか」
クー・フーリンさんが微笑みながら会話に参加した。
「その船に喧嘩ふっかけて勝てば俺達の勝ちだろ?」
「良いわね。ようは燃やせば良いんでしょう?」
「お、落ち着いて下さい。お二人とも」
賛同したジャンヌオルタとクー・フーリンさんをマシュが止めた。
「黒髭といえばエドワード・ティーチでしょう? あの世界的に有名な海賊ですよ。下手に手出しは出来ません」
「大丈夫だと思うが。その辺は我らがリーダーが考えてくれているだろう」
佐々木小次郎さんが低速飛行中の俺に声を掛けた。んー……まぁ、考えてない事もないけど……。
「そういえば、マスター。何故俺とアストルフォに魔力を使わせなかった?」
思い出したようにエミヤさんが声をかけて来た。
「あ、そうだよ。おかげで僕達、ずっと消化不良だったんだから」
アストルフォきゅんにそう言われちゃ仕方ないな。
作戦を説明しようとした時だ。船員の一人が声を上げた。
「前方に敵船!」
「ちっ、仕方ない。やるよ、お前達!」
船長が声を張り上げ、全員臨戦態勢になる。パッションリップも俺の船に戻した。大丈夫、短く済めば吐く程度で済む。
「……よし、やるか」
吐き気を抑えて船の上に立つと、真っ直ぐ敵船を睨んだ。船の中央では黒いヒゲのおっさんがこっちに船を睨んでいた。
「……エミヤさん、船を作れ」
「何?」
「船だよ。この船みたいな奴。それを5〜6隻。うち3隻はダミーにして火薬を積んで特攻させる。こういう立っていられる場所が狭い戦闘なら、足場を増やして……」
「や、無理」
「は?」
「さすがにこれと同じものは無理だ。というか、宝具を作れるわけがないだろう」
「……えっ、嘘でしょ?」
「え、まさか策ってそれか?」
「……」
……これ、マズイのでは? 顔に大量の汗が浮かんだ。
「お前なんで先に言わなかったんだよ!」
「マスターが確認取らない方が悪いんだろう!」
「ヤバイって!逃げて、超逃げて!」
「だ、ダメです田中先輩! ドレイク船長、バっ……わ、悪口を言われて大砲発射準備をしています!」
ああああ! これだから沸点の低い海賊はああああ!
……あ、だめだ。もう、吐く……!
「……え、エミヤさん。エチケット袋を……」
「すまない、戦闘開始してしまった。アストルフォ、マスターを見ててやれ。私は戦闘に参加して来る」
「わ、分かったよ!」
そのまま俺は船の上でダウンした。