どこかの島に到着したようで、俺は浜辺で大の字に寝転がっていた。戦線離脱は何とか成功したようで、全員無事に船を降りた。
「……ふぅ、なんとか逃げ切ったが……」
「船はとてもじゃないけど動かせないよ」
船長が船を見上げながら顎に手を当てた。まぁ、そうだろうな。流石、黒髭だ。簡単に攻略出来る相手じゃなかった。
まぁ、そもそも今回はエミヤさんが船は作れないっていう事を知らなかった俺が悪かったんだけどな……。
しかし、アステリオスのパワーには驚かされた。船を持ち上げて泳ぐとはマジモンのバケモンかよ。
まぁ、そのお陰で助けられたんだけどな。とりあえず、今はアステリオスは休ませるとして、これからの話をしよう。
「修理は出来んの?」
「ああ。だが、材料が足りない。この島には森があるようだし、いくつか木を切って材木にするしかないか……」
……なるほど。まぁ、海上での戦闘である以上はやはり船は必須だ。まずは船の修理かな。
「……とりあえず、材料集めだな。黒髭の攻略作戦については俺が考えてみるから、修理の方は藤丸さんに任せる」
「あんたが?」
ドレイク船長が俺を見て片眉を上げた。
「ああ。まぁ、ここにきてからロクなことしてないから信用はないだろうけど……とりあえずまかせてくれると嬉しいかな。大丈夫、絶対勝つから」
「船長さん」
怪訝な顔をする船長にエウリュアレが口を挟んだ。
「私もこの男の策は支持するわ。私もしてやられたもの。信用して良いと思うわよ?」
「……まぁ、エウリュアレがそう言うなら仕方ないね」
ふぅ、良かった。
「じゃあは俺のパーティは残って。敵の船の詳しいことを聞きたいし、一応敵の追撃があったときのために船の護衛を頼みたいし」
「了解した」
そう指示を出すと、全員従ってくれた。
船長達と藤丸さんパーティは島の探索に向かい、俺達は残って作戦会議。頭数が多いとこうして分けられるから助かるわ。
さて、まずは相手の船の情報を得なければならないわけだが……。
「エミヤさん、黒髭ん所はどんな感じだった?」
「奴らのメンバーはエドワード・ティーチの他にエイリーク、アン・ボニー、メアリー・リード、ヘクトールの四名だったが、エイリークは撃破し、残りは三人だ」
「ふーん……。誰一人分からないんだけど。誰なの?」
「アン・ボニーとメアリー・リードは大海賊時代に、銃の名手と切り込み役として名を馳せた海賊だ」
「……なるほど」
「ヘクトールはトロイア戦争の英雄で、圧倒的な兵差を前にしてあらゆる方法で籠城を続けていた者だ」
「つまり、攻防一体ってわけね、向こうの船は……」
ヘクトールがいる以上、船を沈ませる事は考えない方が良さそうだ。守るのが得意な相手の土俵で戦う必要はない。
『それなんだけど、田中くん。少し良いかな?』
ドクターの声が聞こえた。
「何?」
『敵の船の魔力を見たところ、ドレイク船長の船より大きいんだが、聖杯を持ってる船長の船よりも大きいんだ』
「で?」
『だけど、途中でその魔力が下がった。そちらで何か無かったか? 敵の船の備品を壊したとか……何かそう言うのは……』
ダウンしてた俺に聞かれてもな……。
他のメンバーは知ってるかなと思ってクー・フーリンさんに目を向けた。
「そんなん聞かれてもな……エイリークを倒したっての以外はほとんどボロ負けだったしよ。マスターの言う通り、攻防一体の上に奴らには海賊として戦っていたサーヴァントが複数いて、戦い慣れって面でもボロカスにやられてたから何とも言えねーよ」
……なるほど。こちらの方がサーヴァントの数は上なのに負けたのはそう言うことだったか。
しかし、船のスペック差で負けてるとなるとかなり厳しい戦いになるかもな……。
「あの、ますたあ。よろしいですか?」
「? なんだ清姫。パンツならあげねーぞ」
「い、今はパンツの話じゃないです!」
「今はってなんだよ。いつでも受け付けねーよ」
「そうではなく! わたくしにも意見があるんです!」
「何」
バーサーカーの意見なんてなぁ……と、思いたかったが、そういう奴だからこそ分かることもあるのかもしれないし、一応聞いておく事にした。
「エイリークがやられ、魔力が減ったのですよね?」
「そうだな」
「でしたら、そういうことではないですか? 敵の船は、サーヴァントの数だけ強くなるのでは?」
「……」
……え、そうなの? や、確かにそうかも……え、でもそんな単純な話なのか……?
いや、逆にそう考えるしかないかもしれないが……。
『あり得る話だよ、田中くん。目立った戦果が他にないなら、むしろそう考えるべきかもしれない』
「……」
……なるほど。つまり船の戦力を減らすには敵を減らしたい、でも敵のメンツ的に海上戦で攻めるのは難しい上に船のスペックが劣っていると。
「……ま、マスター。大丈夫なの? 勝てるのこれ?」
アストルフォが恐る恐る聞いて来た。いやいや、逆だよ逆。
「出来たよ、作戦」
「! 本当⁉︎」
「エミヤさん、エミヤさんの能力はこれ作れる?」
俺はポケットからダ・ヴィンチちゃんからもらった特製の浮き輪を見せた。
「ああ、そのくらいなら作れる」
「よし。あとは総力戦だ。全員働いてもらうからな」
「作戦は?」
「船長達が戻ってきてから伝える。まずは、船の修理からだ」
今度は負けない。とりあえず、作戦の説明の前に作って欲しいものがある。
「エミヤさん、酔い止めとお薬飲みたいね下さい」
「……酔い止めだけで良いだろう、子供じゃあるまいし」
「……」
苦いの苦手なのに。
×××
船長達が戻って来た。なんか新しい仲間も引き連れて来たが、アーチャーらしく、今回の作戦的に遠距離戦の人数が多いのは助かる。
とりあえず、作戦会議の前に船の修理だ。竜の皮で補修しなければならないが、俺はそういうの向かないので森の中で木にもたれかかった。
エミヤさんにもらった酔い止めをポケットに入れて、ただボンヤリと眺めてると、沖田さんが声をかけてきた。
「マスター」
「? 何?」
「珍しいですね、決戦前にマスターが緊張するなんて」
「はぁ?」
何言ってんだこの子。
「普段なら時代の女の子捕まえてイチャイチャしてるじゃないですか」
「人をチャラ男みたいに言うんじゃねーよ」
「違うんですか?」
「違うから。え、お前には俺がどんな風に見えてんの?」
何その過ぎる解釈。俺だって傷つくことあるんだからね?
「そういえば、今回はどうなんですか? 仲良くなりそうな女の子はいないんですか?」
「だから人をチャラ男みたいに言うな。大体、船長は怖いしエウリュアレはアステリオスがいるし、俺が口を挟めそうなとこなんて無いだろ」
「それもそうですね……」
そんな話をしながら、俺の隣に腰を下ろす沖田さん。
「……じ、じゃあ……その、マスター……」
「? 何?」
「……こ、今回くらいは……沖田さんが、イチャイチャして差し上げましょう、か……?」
「……はっ?」
何言ってんのいきなり? え、どうしたの? 熱でもあんの?
ちょっ、なんで頬を赤らめちゃってんの? 可愛いからやめてくんない? ていうか……その顔色を伺うような上目遣いは顔だけは可愛いお前がやるのは反則で……!
ドギマギしてると、沖田さんが急にニヤリと意地悪に微笑んで、俺の額をぺしっと叩いた。
「な、なーんてねっ、冗談ですっ」
「……は?」
「少しは緊張ほぐれました?」
「……破?」
……こいつ、まさか……からかったのか? 俺の事を?
「何顔を赤くしちゃってるんですかマスター。いつになく可愛いですね? まぁ、緊張がほぐれたなら良かったです」
「……」
……沖田さんの癖に、キレたぞおい。
「俺が緊張してたのは酔い止めの事なんだけどな」
「……はい?」
「一言でも明日の作戦について緊張してるなんて言ったかよ。勘違いして恥ずかしい気遣いしてんじゃねーよバーカ」
「っ、な、なんですと⁉︎」
カァッと顔を赤くした沖田さんに追撃するように言った。
「バカのくせに人をからかおうとするから恥ずかしい思いすんだよバカ」
「っ、ば、バカバカ言い過ぎです! マスターだってバカな癖に!」
「ああ⁉︎ お前にバカとか言われたくねーんだよバーカ!」
「っ、や、やるんですか⁉︎ また泣かしますよ⁉︎」
「ッッッ等だよかかって来やがれクソセイバーがあああああああ‼︎」
お互いに殴りかかった所で、何処かから飛んできた二対の双剣が俺と沖田さんの服を貫通し、木に固定された。
「喧嘩するな、馬鹿者ども」
「「だってこいつが!」」
「ゲンコツが欲しいのか?」
「「……すみません」」
あれ? 俺マスターじゃなかったか……?
「それより、船が直った。作戦会議だ」
エミヤさんにそう言われながら双剣を外してもらい、俺と沖田さんは解放されてお互いにメンチを切った。お互いの裏拳がお互いの肩に当たった。
「「っ! コノヤロ……!」」
ガツン! ガツン! と二発のゲンコツが俺と沖田さんの脳天に直撃し、二人揃って頭から煙を上げながら地面に顎を打った。
「いい加減にしろ」
……あの、俺には少しくらい沖田さんよりは手加減してくれても良いんじゃないですかね……。
そう思いながらも、エミヤさんに連れられて作戦会議に出た。会議、と言ってもまずは腹ごしらえから。全員で円になり、飯を食いながら作戦を説明した。
「えーっと、とりあえず作戦は短期決戦でいく。海賊経験のある敵が多い船にケースバイケースで戦うのは不利だ。よって、遠距離の撃ち合いも無し。アーチャーはこちらの方が多いが、肝心の船のスペックに差がある」
その俺のセリフに、船長が舌打ちをした。まぁ、自分の船の方が劣っていると言われれば腹も立つだろうが、事実なんだからここは受け止めて欲しい。
「では、どうするのだ?」
佐々木さんが真面目な顔で聞いてきた。
「決まってる、敵の船に乗り込んで制圧すれば良い」
「それはまた大胆だな……」
「けど、どうやって乗り込むの?」
アルテミスが聞いてきた。
「敵の船の方が早いんでしょ?」
「ああ。だから、敵に序盤は気持ち良く勝たせてやるんだ」
「……ダーリン、今の分かった?」
「あー……そういうことか」
「分かったの⁉︎」
オリオンが頷きながら説明した。
「つまり、序盤は敵の得意な撃ち合いをしてやるって事だろ? 派手な銃撃戦を繰り広げ、それを囮にして別働隊に一気に船は突っ込ませるって事だろ」
「なるほど! さっすがダーリンね!」
「や、でもかなり無理あるんじゃね? 大体、サーヴァント同士ならある程度距離が近付いたらバレちまうだろ。特に、敵には守りの得意なヘクトールとかいうのがいんだろ?」
ああ、分かってる。
「だから、そこからさらに肉付けする。船自身は砲撃をしながら徐々に敵船に突撃する。まるで『策はなく特攻している』ように見せかけるんだ」
そこまで説明してから、明確な役割分担を始めた。
「まずエウリュアレ、お前はサーヴァントではなく敵の雑魚を狙え。魅了が使えるなら、そいつらを使って船上を撹乱させろ」
「ええ」
「それからアルテミスは敵のヘクトールを狙って矢を射貫け。当てる必要はないが、当てるつもりで行け」
「当てなくて良いの?」
「ああ。奴は防衛線が得意らしい、そいつに戦況を見渡しつつ考える暇を与えなければそれで良い」
「りょーかい! 頑張ろうね、ダーリン」
「俺は何もしないけどね……」
そんな会話を聞きながら、アストルフォを見た。
「アストルフォはヒポグリフを使って飛びまわれ。ジャンヌオルタはその後ろに乗って炎で船を燃やせるだけ燃やして来い」
「りょーかい!」
「私達だけ先に船に乗り移れば良いの?」
「いや、まだ乗るな。単機で敵船に乗り込むのは悪くないが、リスクが大き過ぎる。上空から船を燃やしつつ、気を引いてくれれば良い」
その指示に頷いた。
「あ、あの……それで、どうやって敵の船に乗り込む、んでしょうか……?」
パッションリップが控えめに聞いてきた。
「ああ、そこはエミヤさんに頼む。派手な砲撃、鬱陶しいライダー、集中的に狙われるヘクトール、魅了される下っ端で派手に気を逸らし、その足元から突撃する」
そう言うと、エミヤさんを見た。
「エミヤさん、一定の位置に近付いたら浮き輪を大量に作って。それを道にして、船内の小窓からアサシンの佐々木さんを先頭にして沖田さん、クー・フーリンさん、エミヤさん、清姫、アステリオス達で突撃し、一気に船の上を制圧だ。万が一に備え、パッションリップ、マシュ、アーチャー達はこっちの船に残れ。そうなったらアストルフォ達も敵の船上に着地し、好きに暴れて良い」
これなら敵の船に乗り込める。
「他に何か質問は?」
聞くが、他のメンバーから特に意見はない。よし、それならいけるな。
「じゃ、黒髭を落としに行くぞ」
そう言うと、全員が頷いて船に乗り込んだ。