作戦を決めて島を出た。海をしばし偵察し、黒髭の船を発見。酔い止めを飲んだ俺は完全に復活し、船長の部下の海賊達と肩を組んでいた。
「いやー、お前意外といける口だな!」
「そうか⁉︎ いや、あんた達こそ飲めるじゃねぇか! まぁ海賊なんだから当然か?」
「あったりめぇよ! 俺らぁ、ドレイク船長と毎日飲んでたんだぜ。あと樽一つくらいなら余裕よ!」
「俺は二つ余裕だけどな」
「いや俺は実は四つだから」
「よおおおおし! 飲み比べタイマンじゃボケエエエエ‼︎」
「樽を持って来おおおおい!」
「やめんかバカども!」
エミヤさんのゲンコツが俺と海賊の一人に直撃し、後方にぶっ飛ばされた。
「ええい、戦前に呑んだくれる馬鹿者がいるか!」
「そんなん関係ねーよバーロー!」
「そうだバーロー! 楽しい時に飲まねえで何が海賊だバーロー!」
「ワンピースでも読んで出直せバーロー!」
「バーローバーロー喧しい! 貴様ら胸に風穴開けてやろうか!」
「やってみろバーロー!」
「俺の動体視力を知らねーわけじゃねーだろエミヤコルァ! しかもお前と沖田さんに育てられて回避に関してはクー・フーリンさん並みと豪語してんだよ!」
「マジか⁉︎ あの回避お化け⁉︎」
「おお! 回避お化けよ! ハッハー、エミヤァ! お前はとんでもない化け物を育てちまったナァ! ハッハ……!」
直後、俺と海賊の間に矢が飛び、壁に突き刺さった。俺も海賊も固まり、エミヤさんを眺めた。マジで頭にきてるのか、ゴゴゴゴッとジョジョみたいなオーラを醸し出している。
「……次は当てるぞ」
「「……すみませんでした」」
うん、調子に乗り過ぎた。まぁ、まだ全然酔ってないし良いか。
「……私、一歩間違えたらあんな男に召喚されてたのね」
「そうだな、拙者もそう思う」
「わ、私もですぅ……」
藤丸さんのサーヴァントが三人揃って感謝する目で己のマスターを見ていた。ちょっ、それどういう意味なんですかね……。
一方の俺のサーヴァント達は沖田さんは清姫とアストルフォと仲良くガールズトーク、クー・フーリンさんは何処に意気投合する要素があったのか、エウリュアレとアステリオスと何か話していた。
まぁ、つまり俺をいないものとして扱っている。逆に説教してくれてるエミヤさんはむしろ優しいのかもしれない。
「まぁ、大丈夫ですよエミヤさん。俺まだ全然酔ってないんで」
「そういう問題では無い。頼むから普通におとなしくしててくれ」
「はいはい分かりましたよーだ」
「反抗期の子供かお前は!」
「……テメェも反抗期の息子を持つ母ちゃんみたいだぜ、アーチャー」
「お前は黙ってろランサー!」
怒られ、口笛を吹きながらそっぽを向くクー・フーリンさん。
そんな話をしてる時だ。船長が楽しそうに口を挟んで来た。
「正臣、あんたんとこはなんだか楽しそうだねぇ」
「やめてくれ、ドレイク船長。別に楽しく無い」
「そういうあんたも楽しそうに見えるけどね」
「え、マジ? エミヤさん楽しんでたの? ツンデレ?」
「……こうなるから嫌なんだ、こいつは」
「ははっ、でも殺伐としてるよりずっと良いじゃないかい」
「なんと、エミヤさんはツンデレだったのか!」
「……調子に乗るな」
エミヤさんが俺の頭をひっぱたいた時だ、どこから聞きつけたのか清姫が飛んで来て、俺の顔面に飛びついた。
「その通りでございます!」
「ふごっ!」
「わたくしはますたあに召喚されて、とても幸せですのよ」
「あー! き、清姫さん何を……!」
「あ、待ってよ二人とも!」
さらに続々と集まって来るうちのサーヴァント達。そこからはもうやりたい放題。エミヤさんは俺に拳を振るい、清姫は俺に飛びつこうとし、沖田さんは何故か俺に刀を振るい、アストルフォは何故か暴れる。クー・フーリンさんはそれらをなだめようとしてるが、喧嘩っ早さが顔に出ていて、仲介という体の喧嘩目的である。
……はぁ、うちの連中は騒がしいぜ。藤丸さんのパーティは静かなのに仲良しで羨ましい限りだ。
もみくちゃにされながらそんな考えが顔から出ていたのか、見透かしてようにドレイク船長が言った。
「まぁ、でも人が集まる奴には何かしらあるもんさね。あんた、その子達大切にしなよ」
「……むしろ俺が大切にされたい」
そんな話をしてる時だ。索敵していた船員が声を上げた。
「船長、黒ひげの船を見つけました!」
「! 了解、野郎ども! 喧嘩の時間だよ!」
「「「おおおおおお‼︎」」」
船長の号令に、俺達カルデアも含めて握り拳を挙げた。さて、ここからが喧嘩だぜ。
アン女王だがなんだか知らねえが、こっちが復讐してやる番だ。
×××
作戦は順調に進み、敵の船に乗り込むところまで行った。サーヴァントもアンとメアリーを撃破し、敵の船員を数の暴力で片っ端から片付けてる様子を、ドレイク船長の船の方から眺めていた。
さて、あとは眺めてるだけで決着は着きそうだ。
「ふふ、本当にやるわね、あんた」
エウリュアレが俺の隣で愉快そうに笑った。
「あの黒ひげ海賊団をボコボコにしてるのよ?」
「まぁ、鯖の数では明らかに勝ってたからな。キチンと作戦考えりゃ敗けはねーよ」
「そんな風に言っちゃって。私に褒められてるのに嬉しくないわけ?」
「や、嬉しいとかじゃなくてな……。一応、向こうが新たに鯖召喚した時の作戦10手くらい考えてたんだが、何もいないし全部無駄になったわ」
……相当、前回撃退した時に気持ち良かったんだろうなぁ。
そんな事を考えてる時だ。向こうの船に動きがあった。ヘクトールと黒ひげが部下を盾にしてる間に、海上の浮き輪に飛び移ったのだ。
なるほど、こっちから向こうに渡る道を作ったということは、逆もまた然りだ。先にマスターである俺を消そうという算段か。
だが、その道は所詮浮き輪だ。空気が入ってるだけ。矢で射貫けば道にはならない。
「アーチャー達、あの浮き輪を射貫け。操舵手、徐々に敵船から距離を離せ」
その指示に従うアーチャー達と操舵手。いやー、オリオンとエウリュアレがいて心底良かったわ。
と、安堵した時だ。黒ひげの指示的な奴で敵の船から砲撃が来た。とりあえず、こちらも迎撃させようと思ったが、砲弾は射角から見てどう考えてもこの船を飛び越える。
何をする気だ? と思ったのもつかの間、黒ひげとヘクトールは浮き輪から大きく跳んで砲弾を踏み台にし、一歩でこっちの船まで飛び乗ってきた。
「ーっ! まずい……!」
しまった、船に通ずる道は潰しちまった。
「アストルフォ、戻って来い! マシュ、藤丸さんを護れ! オルタとパッションリップは前衛に出てアーチャー隊はその援護!」
と、指示を出し従うメンバー。俺もももちろん狙われる可能性はあるので退がった。
しかし、ここからが向こうの思う壺だ。黒ひげがニヤリと笑って俺を見た。
「デュフフ、テメェが頭でござるか……⁉︎」
「っ……!」
しまった、自分で自分を狙えと言ったようなもんだ。俺のバカ、どうすんだよここから……!
冷や汗を浮かべた時には遅かった。黒ひげは懐から銃を抜き、俺に向けていた。
しかし、そこで不可解なことが起こった。ヘクトールの槍が、黒ひげを突き刺したのだ。
「なっ……⁉︎」
「⁉︎」
「いやー、あんた中々隙を見せてくれないからおじさん手間取っちゃったよ」
「っ、クッ……! しまった……警戒を……!」
なんだ? 何やってんだ? あいつら仲間じゃなかったのか?
こっちの船に着地し、黒ひげの背中をヘクトールは蹴って倒し、槍を引き抜いた。
「グフっ……不覚でござる……が、この状況で裏切るとかあほでござるか、ヘクトール氏……!」
そう言う通り、こちらの船の鯖達は全員ヘクトールと黒ひげに対して油断無く身構えている。
それでも、余裕な笑みを崩す事なくヘクトールは続けた。
「いや何、おじさんもそれなりに勝算があってやってることでね。それじゃ、船長。あんたの聖杯をいただこうか」
! 聖杯狙いか……!
「オリオン、奴に聖杯をとらせるな! と、アルテミスに命令出して!」
「だそうだ!」
「了解、ダーリン!」
この縦社会的命令の出し方に意味とかあんのか……? でも、アルテミスがオリオンの言うことじゃなきゃ聞いてくれないし……。
アルテミスが弓を引いたが、既に聖杯はヘクトールの手元だ。矢を避けて船首に飛び移った。
「てめっ、人の船に何勝手に乗ってんだ!」
船長が叫んで銃をぶっ放したが、それをも回避しながら空中で船長の船の人物達を見回した。
「さて、それともう一つ……!」
「! マシュ、藤丸さんを守れ!」
「おおっと、悪くない読みだがこっちの狙いはおたくのマスターでは無いんだな」
なんだと……? と思ってヘクトールを見ると、視線はエウリュアレに向いていた。
俺の反射神経と動体視力は相変わらず変態じみている。ヘクトールが船の床を蹴ると共に誰よりも早くエウリュアレの前に立ち塞がった。
「退きな、坊主。怪我するよ」
「もう18歳で酒を飲める歳だっつーの」
「それはアウトだろ……」
軽口を叩きながら、ホルスターから拳銃を抜いてヘクトールに発砲したが、サーヴァントの速さは人間を遥かに超えている。あっさりと躱されると共に腹を槍で貫かれた。
「ブッ……!」
「ど、奴隷⁉︎」
「ヘンタイ!」
エウリュアレとオルタが呼び方とは逆に心配そうな声を上げたが、それにツッコミを入れられる余裕はなかった。
泣くほど痛いが、それを堪えて身体を後ろに回転させ、右肘でエウリュアレを推し飛ばした。
その意図にいち早く気づいた藤丸さんが自分のサーヴァントに命令を飛ばした。
「マシュ、エウリュアレを守って! オルタとリップは田中さんを助けて!」
その指示通り動き出す音がしたが、それをヘクトールがさせるわけがない。
「おっと、そうさせるわけにはいかないんだよな」
言いながら俺から槍を引き抜こうとしたが、俺はその槍を掴んで両腕に力を入れた。サーヴァント相手に力比べなんて勝てるはずがないが、一瞬でも時間が稼げるのなら今は見出せる。
「させるかよ……!」
「おいおい、無理しなさんな。死んじまうぞ、カルデアのマスターさんよ」
「い、痛い……泣きそう……」
「いや泣き言言われてもな……」
「抜いてぇ……そんな、奥で……グリグリ、しないでぇ……」
「気持ち悪い声出すな! お前ホントは余裕あるだろ!」
やっぱり、敵の気をひくにはボケが一番だな。ツッコミを入れられた直後、ドスッとヘクトールの肩に何かが突き刺さり、血が噴き出した。
「グッ……!」
「そいつを消し炭にするのは私よ、あんた如きが手を出さないでくれる?」
「ちっ……そういうことか……!」
オルタの旗が突き刺さり、俺から槍を無理矢理引き剥がして大きく飛び退くヘクトール。
さらにそのヘクトールに金色の巨大な手とヒポグリフが襲いかかった。流石にそれは読まれていたのか、ヘクトールは回避し続けた。
「あーあ、こりゃあ聖杯持ちながらじゃ、あの嬢ちゃんを手に入れるのは無理そうだな」
そう言う通り、こちらの船にはサーヴァントが揃ってるし、黒ひげの船も片付いてサーヴァント達は臨戦態勢だ。
「仕方ない、とりあえず聖杯だけで我慢するとしますか」
「逃げ切れると思ってるのかい? 僕らのマスターに手を出しておいて」
「よせ、アストルフォ。今はマスターを安全な所で治療するのが先だ」
「っ……!」
エミヤさんが向こうの船からアストルフォを止めた。「じゃ、お言葉に甘えて」とヘクトールは言うと、黒髭の船に隠していたのか、小舟に乗り換えて逃げ出した。
「マスター、大丈夫かい⁉︎」
まず駆け寄ってきてくれたのはアストルフォだった。続いて、エウリュアレ、マシュ、藤丸さんと周りに寄ってきて腰を下ろした。
「あ、あんた……! なんで……!」
「先輩、手当を……!」
「え、えっと……応急手当って人間にも使えるのかな……!」
そんな慌てた声を最後に、俺の意識は落ちた。