そんなこんなで、レイシフトされた。ここがどこだか分からないが、とりあえず平原にいた。
とりあえず、リーダーとして全員の無事を確認しなければならない。
「点呼!」
「1!」
「2!」
「3!」
「フォウ!」
な、なんだ?みんな割とノリいいな。ていうか、最後なんで英語なんだよ。
………いや、待てよ?俺を除いてメンバーは沖田さん、藤丸さん、マシュの三人。なんで四人目がいるの?
俺は慌てて沖田さんの背中に隠れた。
「だっ、誰だ⁉︎お化けか⁉︎」
「違います、フォウさんです」
「………隠れないで下さいよ、情けない……」
な、なんだ、フォウか……。つーか何でお前いんの?いや、まぁ何でも良いか。
とりあえず、場所の把握だ。
「ここどこ?」
「あ、はい。えっと……現在、1431年。百年戦争の真っ最中ですね。ただ、この時期はちょうど戦争の休止期間のはずです」
「ああ、サンキュー」
マシュは役に立つなぁ。しかし、百年戦争か。おっかないなぁ。
すると、藤丸さんが間抜けな声で聞いて来た。
「へ?戦争に休止があるの?」
「はい。百年戦争はその名の通り、百年間継続して戦争を行なっていたわけではありません。この時代の戦争は比較的のんびりしたものでしたから」
「のんびりした戦争なんて……新撰組での戦では考えられませんねー。戦場は一瞬も気が抜けない、斬るか斬られるかだけのものですから」
沖田さんが呑気に呟いた。流石、戦争経験者だ。俺なんかよりも戦争の事については詳しいかもしれない。
「だから、私がマスターを斬ってしまっても、誤りで済むわけですよね」
「おい、何怖い想定してんだやめろ。どんだけリーダーになりたかったんだよ」
「別にリーダーになりたかったわけではありません。マスターをリーダーにしたくなかっただけです」
ぐっ……嫌われたもんだなぁ。まあ、鎖骨突きからの乳揉みだから嫌われても仕方ないが。
「? 先輩、どうかしたのですか?」
「………あれ見て」
空をぼんやり見てる藤丸さんにマシュが声をかけると、そう答えられたので俺と沖田さんもつられて空を見た。
「………えっ」
ちょうど良いタイミングでロマンから連絡が入った。
『よし、回線がつながった。画質は粗いけど、映像も通るようになったぞ!………って、なんでみんな空を見てるんだ?』
「………ドクター、映像を送ります。あれはなんですか?」
マシュがそう聞くと、ドクターも驚いてるのか息を呑む声が聞こえた。
空には、光の輪のようなものが展開されていた。空が割れているように見える。赤髪と白髭でもいんのか?
『………あれは、衛星軌道上に展開した何かしらの魔術式か?何にせよ、とんでもないサイズだ……』
「一応聞くけど、1431年にあんなものがあったっていう記録は?」
『ない。間違いなく、未来消失の理由の一端だろう。アレはこちらで解析するしかないな………。君達は現場の調査に専念してくれていい』
「りょ。まずは霊脈探しか?」
『ああ、頼むよ。田中くん』
さて、とりあえずキャンプの設営だが……いや、こんな所でベースキャンプを作れば浮くだろ。一応、戦争中だしどちらかの兵士に見られたら間違いなく敵扱いされる。戦争中の兵士にとって、味方以外は敵だからな。
ここは街を目指すべきか?町民に成りすませば怪しまれずに生活出来る。服装が少し浮くかもしれないが、外国人って事にすれば何とかなるだろう。
「街に行こう。そこで、地道に聞き込みするぞ」
「了解しました」
マシュが返事をしてくれた。藤丸さんも頷いてくれる。うわ、なんかリーダーって立ち位置良いな。………沖田さんは相変わらず膨れっ面だが。
「とりあえず行こうか」
四人で歩き始めた。しばらく歩いてると、武装した男達が数人いるのが見えた。
「! 止まってください」
マシュに止められ、足を止めた。
「? 何?」
「フランスの斥候部隊のようです」
「斬りますか?」
「いや斬らねえよ!何で喧嘩腰なんだよお前は!」
沖田さんを黙らせて顎に手を当てた。ふむ、軍人か。まぁ、何かしら知ってるだろうし情報を掴むチャンスではあるかもしれない。
「………よし、藤丸さん」
「へ、何?」
「行こう」
「わ、私⁉︎」
「武装してるマシュと沖田さんは連れていけないでしょ、敵だと思われるし」
「そ、そっか、良し」
「そういうわけで、二人は待ってて」
「え、でももし手を出されたら……」
マシュが心配そうに言って来た。まぁ、確かにその不安はあるか。
「じゃあ、沖田さん。刀をマシュに預けて一緒に来てくれない?」
「………仕方ないですね」
「じゃあ、俺はマシュと待ってるから」
「いやマスターは来てくださいよ!」
「いやいや、マシュ一人にはできないだろ」
「じゃあ、私が待ってるから、田中さんと沖田さんで行ってきてよ」
ふむ、それなら良いか。二人でフランス軍の人に声を掛けた。
「あのー、すみません」
「! な、何者だ!」
ヤバい、すごい警戒してるな。1431年というと……日本は室町時代か?鎖国はされていないけど、ヨーロッパまで出たっていう話は聞いた事ないし、もしかしたら初めて見る日系人かもしれないな。
ある意味では怪しい。だからこそ、慎重な言葉選びが必要だ。
「実は、遠くから旅してる者なんですが、この辺りで泊まれる場所はありませんか?」
「旅?こんな所をか?」
「はい」
怪しまれても、自分の答えを揺らぐような反応は見せてはいけない。嘘ついてる事を少しでも勘付かれたら即遮断されるからだ。
「悪い事は言わないからやめておけ。この辺りは戦争中だ」
「? 休止中なのではないんですか?」
沖田さんがキョトンと首を捻った。
「休止中?何処からその情報を聞いたのか知らないが、シャルル王が竜の魔女に焼かれ、休戦条約は無くなった」
「………竜の魔女?」
「ああ」
「ゲ○戦記的な?」
「ゲ……?何の戦記だか知らないが、竜の魔女はアレだよ。ジャンヌ・ダルク」
! ジャンヌ・ダルクか。
「あの、ジャンヌ・ダルクとは誰ですか?」
「………あんた達、ジャンヌ・ダルクを知らないのか?」
あー、沖田さんは知らなくても仕方ないか。まぁ後で説明すれば良いや。
「いや、俺は知ってる。こいつ、脳筋だから何も知らないんですよ」
「むっ、誰が脳筋ですか⁉︎」
「うん、ありがとー。それで、ジャンヌ・ダルクが何したの?」
「何って………」
言いかけた直後、兵士はハッと空を見上げた。トカゲのような顔、でっかい胴体から生えた翼、どんな哺乳類動物よりも太い尻尾、ドラゴンだ。
さらに、地上からは竜牙兵が歩いて来る。
「うおおおお!本物!本物のドラゴン!それに竜牙兵も!」
ゲームで何度も見たモンスター達が!スッゲー!
「何騒いでるんですかバカマスター!敵です!マシュさんや藤丸さんと合流しないと!」
「マスターと暴言を足すな!その道のプロに聞こえるだろ!」
いや、ちょうど良い機会だ。相手が何者か知らないが、こいつらに恩を売っておけば、上手くいけば兵力を丸々手に入れられる。
見た所、ドラゴンは全部で6匹、竜牙兵は……20を過ぎた辺りから数えるのをやめた。
「沖田さんはマシュと藤丸さん連れて来て」
「はぁ⁉︎マスターは⁉︎」
「俺は少しここに残る」
「何バカ言ってるんですか‼︎アホな事を言ってないで……!」
「いいから早くしろ」
それだけ言うと「まったくもう……!」と愚痴りながら沖田さんは走り出した。その背中を見ながら、俺はさっきの兵士に声を掛けた。
「おい、あんたらの兵士はどれくらいいる?」
「な、何だよ急に」
「いいから答えろ」
「そ、それなりに20人以上はいるが……!」
「なら、弓兵達を掻き集めて退がらせ、後方で攻撃の準備。竜牙兵は無視してドラゴンの翼を射貫け。他の兵士達は二人一組になって片方は剣を持ち、もう片方には盾を持たせろ。剣を持つ方は竜牙兵の相手、盾を持つ方はドラゴンからの攻撃に注意し、回避を最優先で考えろ」
「ま、待て待て!弓って……そんな簡単にドラゴンが落ちるか⁉︎」
「だから、弓兵全員で一匹のドラゴン翼を片方ずつ狙って集中攻撃し、確実に射落とすんだ」
「だ、だが……‼︎」
直後、ドラゴンが爪を剥き出しにして急降下して来た。俺と軍人さんは慌ててヘッドスライディングで回避した。
ドラゴンが通り過ぎ、旋回してまた俺達に狙いを定める。
「おい、どうすんだ!」
「わ、分かった!」
慌てて従う兵士達。すると、沖田さんがマシュと藤丸さんを連れて戻って来た。
「マスター!連れて来ました!」
「よしっ。藤丸さん、マシュと一緒に後衛の兵士達の攻撃が始まるまで、前衛の兵士達のカバー。沖田さんも一緒に」
「は、はい!」
三人とも割と素直に従い、戦闘を開始した。兵士達も俺の言った通り、二人一組で行動し始めた。
さて、仕上げと行こうか。俺は中央で全員に叫んだ。
「全員、後ろの弓兵からの一斉射撃が始まるまでドラゴンからの攻撃は確実に回避しろ!竜牙兵への攻撃は二の次に考えよ!まずは身の安全の確保だ!絶対に、全員生きて、勝利を勝ち取るのだああああああ‼︎」
『う、うおおおおおおおおおお‼︎』
兵士達の野太い声が平原に響き渡る。
………ああ、指揮官の立ち位置って楽しい……!みんなの怒号の返事が気持ち良い………‼︎
『………ど、道化の才能があるなぁ』
余計なことを言うロマンを普通に無視した。あいつは後で殴り飛ばそう。
とにかく、これでここの兵士達は俺のものだ。兵力丸々手に入れば、この時代の事が少しは分かるってもんだ。
そんなことを考えてると、俺に向かって一体の竜牙兵が襲いかかって来た。フッ、甘く見られたものだな。俺だってカルデアのメンバーだ。多少の武術は心得ている。
竜牙兵からの剣撃を回避し、手首に手刀を打った。こうすれば手首の力が抜けるはず………と、思ったら剣を落とさない。あっ、そっか。これ神経を刺激して一瞬、手の力を抜けさせる技だから骨だけの人には効かないんだ………。
竜牙兵は「何しやがんだ?テメェオイ?」みたいな感じで俺に顔を向けた。
「ああああ!おっ、おきっ、沖田さああああああん‼︎」
「何やってんですかアホマスター!」
慌てて逃げ出すと、沖田さんが俺の方に向かおうとするが、ドラゴンが襲いかかって来てそっちを対処している。
ああああ!こんな事なら下手に立ち向かわなきゃ良かった!全力で後悔してると、落ちてる竜牙兵の残骸に躓いて盛大にすっ転んだ。
ふと後ろを見ると、竜牙兵が「手間ァ掛けさせやがって……」みたいな雰囲気で俺を見下ろしている。
「待って!調子こいてすいませんでした!後でラーメン、ラーメン奢るからやめっ……!」
だが、無慈悲にも振り下ろされて来る刃。俺はキュッと目を瞑った。
その直後、ガギッと鈍い音が響いた。俺の身体に異常はない。薄っすらと目を開けると、金髪の女の人が旗を振り回して竜牙兵を砕いていた。
「………大丈夫ですか?」
「っ、あ、あんたは………?」
金髪でおっぱいの大きい美少女。え、何この人。可愛い。
「さぁ、立てますか?」
「あ、はい。立てますよ」
手を差し伸べられ、ありがたく手を取って立ち上がった。柔らかい手だなぁ……これが、女性の手か……。
その直後、弓兵隊からの矢が発射された。数分後、作戦通り、ドラゴンと竜牙兵を殲滅出来た。