カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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開戦の狼煙はド派手に。

 これからの会議、と言えば聞こえは良いが、はっきり言って分からない事だらけだ。

 敵の戦力、目的、エウリュアレを捕らえてどうしたいのか、情報が足り無さすぎる。状況的に仕方なかったとはいえ、ヘクトール一人に良いようにやられたのは情けない。

 ただ、これまでと違うのは、こちらは向こうの欲しがっているカードを手にしている、ということだ。つまり、追う側ではなく追われる側。創部2年目のバスケ部のウィンターカップ準決勝みたいなものだ。

 そうなると、向こうからこちらに攻めて来る、という事になる。

 

「で、えーっと……マサオミだったか? どうすんだ?」

 

 オリオンに聞かれ、顎に手を当てた。

 

「一応、手はある」

「というと?」

「もう気付いてると思うけど、現状はこちらは追う立場ではなく追われる側だ。向こうはエウリュアレを欲してる」

「確かにねぇ。向こうのヘクトールとかいう奴、あからさまに狙ってたし」

 

 船長が頷きながら同意した。

 

「エウリュアレ、狙われる心当たりは?」

「知らないわよそんなの。あ、可愛いから、とか?」

「と、まぁこんな具合にアホの子なのに、だああああたたたた! 傷口を握るな痛い痛い痛いごめんなさい!」

 

 全力で謝りながら、エウリュアレの頭撫でてやった。

 

「ちょっ……な、何よ! 誰の許可を得て撫でてるわけ⁉︎」

「まぁ、本人にないなら仕方ないな」

「話聞きなさいよ! 人間風情が勝手に私の頭を撫でるなんて……!」

「でも、何かあるはずだ。これだけいる鯖の中でエウリュアレがピンポイントに狙われたんだから」

「ちょっ、やめなさいって……ばかぁ……」

 

 よし、制圧完了。顔を真っ赤にして膝の上で俯くエウリュアレを無視して、話を進めた。

 

「ロマン、何か思い当たる節はあるか?」

『無茶言わないでくれよ。相手のサーヴァントの情報も無いのに』

「ヘクトールがトップだとしてもか?」

『ああ。何も思い当たる節はない。本人にないなら尚更だ』

「サーヴァントの性質から見たらどうだ?」

『そう言われても、他のサーヴァントとの違いなんて……』

 

 言われて、ロマンはしばらく黙り込んだ。まぁ、資料を漁ってくれてるんだろう。

 その間、オリオンが声をかけてきた。

 

「それよりも、エウリュアレが狙われてるってのは事実なんだ。そっちの対策の方が必要なんじゃねぇのか?」

「……いや、エウリュアレじゃなきゃいけないってわけじゃないとしたら? もしかしたら、まだこの海域にはぐれ鯖がいて、そいつらで代用が効いてしまうとしたら、こっちは再び追う立場になる」

「細かい可能性を考え出したらきりがないだろ」

「考えなきゃいけないんだよ。人類の命運がかかってんだから」

 

 思わず、少し強い口調になってしまい、オリオンを黙らせてしまった。シンッ、と静かになり、若干、冷たい空気が流れる。

 ……やばい、そんなつもりなかったんだけど。なんだか空気が重くなっちゃったな。

 手早く話を進めよう。

 

「と、とにかく、こっちがこれから取るべき行動は三つ。エウリュアレを狙う理由を突き止める、敵の船の監視、逸れサーヴァントの捜索だ」

「兵を分けるのは危険じゃない?」

 

 藤丸さんが声をかけて来た。

 

「分かってる。だが、全部全員で回るのも賢くない。だから、全部いっぺんに出来るように立ち回る」

「どういう事?」

「籠城戦だ」

 

 ま、言ってもわからないだろうな。一から説明しよう。

 

「島全体に罠を張り巡らせ、敵を待ち構えるってことだ。向こうの計画としては、黒髭と共にエウリュアレを取り返し、こちらな戦力を殲滅した後、不意打ちで黒髭とアンメアリーを仕留め、聖杯とエウリュアレを持って立ち去る予定だったはずだ。そんな危険な任務をリーダーが進んでやるわけがない。また、海の上の戦闘は危険なものだ。ヘクトール以外にも強力な戦力が船に残って護衛してるはず」

 

 トロイア戦争の英雄以上のサーヴァントがいる、なんて考えたくはないけど。

 

「それだけの戦力があれば、わざわざいるかどうかも分からないエウリュアレの代用品を探すくらいなら、居場所が分かってるエウリュアレを捕らえた方が楽だ。それなら、こちらも分かりやすくエウリュアレの居場所を教えてやれば良い」

「それは分かったけど、具体的にどうするんだい?」

 

 船長に聞かれた。

 

「簡単だろ。幸い、この島には木や魔物がうようよいる。それらを資材にして壁や罠を作り、こちらに有利な地形を作れば良い。地の利を有利にして戦えるんだ」

「なるほどね……」

「……まぁ、多分時間はないけどな。とりあえず、敵の手駒がどれだけのものか分からない以上は備えられるだけ備えておくぞ。罠の配置に関しちゃ英霊同士で話し合ってくれ。罠とか張ったことないから分からん」

 

 そう言って立ち上がった。

 

「終わり?」

「ああ。エウリュアレは絶対に一人にするなよ。必ず鯖と一緒にいさせろ。罠の配置はあとで報告して。足りない道具があればエミヤさんに言うように」

 

 それだけ話してその場を後にした。なんか今日はカリカリしてる。刺されたからかな。

 いや、自分の作戦の甘さを知ったからか。あまりに完璧な作戦すぎて、逆に失敗の可能性を考えてなかった。第三勢力がいるなんて思いもしなかったし。

 

「……はぁ」

 

 どうにも作戦に穴が出るな……。というか、気が抜けてるんだろうな。酒とか飲んでたし。

 まぁ、次から気をつける、で済む話なんだけどね。さて、とりあえず今はのんびりしよう。いつ敵が攻めてくるか分からないとはいえ、決戦前は気を休めないと。

 

「おう、マスター」

 

 そんな中、背中から声を掛けられた。クー・フーリンさんだ。

 

「何?」

「籠城戦だって?」

「そうだよ。嫌だった?」

「んにゃ、一騎打ちのが好みだが、頭がそう言うならそれに従うぜ。ただ、罠だってのは正直、専門外だ。ルーン魔術が使えるなら話は別だがよ」

「そんな高等な罠は作らないと思うよ。向こうだって魔力の感知はできるだろうし。もっと原始的で決定打にならない罠だ。こちらの一撃に繋げられるような」

「ふーん……あ、魔術と言えばよ、マスター」

 

 魔術で俺? なんかあったっけ?

 

「マスターは魔術とか使えねぇのか?」

「使えるよ。この魔術礼装についてる奴なら」

 

 前の特異点では、土方にとどめを刺すのに沖田さんの火力を一時的に増した。

 

「そういうんじゃなくてよ……もっとこう、魔術回路を利用したがっつりした奴」

「魔術回路って何?」

「……なるほどな」

 

 正直、右も左も分からないまま連れて来られたからな……。頭がなければ完全にただの足手まといだった。

 

「なら、開いてみるか」

「はっ?」

「それなりに近距離戦でも活躍してるのは知ってるぜ。必要以上に前には出ないが、必要とあらば命を捨てて前に出るし、前回の特異点じゃ、沖田のことを上手くサポートしてたそうじゃねぇか」

「あ、まぁ、うん」

 

 上手く、かどうかは分からんけどな。

 

「だが、敵からしたらマスターは一番厄介で落としやすい駒だ。こっちのチームの頭脳であり、戦闘力も回避力と動体視力以外皆無なんだから」

 

 それを言われるとその通りだ。エミヤさんや沖田さんに剣を教わってるものの、相手にダメージは与えられないし、増援が来るまでの間の時間稼ぎしかできない。

 その結果、結構死にかけてるからなぁ。さっきだってぶっ刺されたし、前の特異点でもステンノにはあっさり魅了されて人質にとられ、アレキサンダーにもボコられたし。

 

「ま、俺はそんなもんのやり方は知りゃしねぇんだけどよ」

「なんだよ」

「その辺は戻ればドクターやらダ・ヴィンチちゃん辺りが知ってんじゃねぇの?」

「分かった。じゃあ後で聞いてみる」

「おお」

 

 まぁ、魔術なんか正直、あんましっくり来ないけどな。今まで、将棋とゲームを生き甲斐にしてきた身としては、科学と真逆のものを言われてもイマイチ、理解出来ない。

 

「ちなみにさ、魔術ってどんなのあんの?」

「あ?」

「例えば、こう……アバダケダブラとか、そんなんはないの?」

「ねぇよ、まず杖とか使わねーから」

「あ、ハリポタ分かるんだ」

「まぁな、立香……だっけ? あいつが語ってくれたよ。少し興味あるけど……」

「あ、ならエミヤさんに作ってもらおうぜ。DVDとプレ2とテレビ」

「相変わらず英霊の能力を舐めたことに使いやがるな……や、その発想は嫌いじゃねぇけど」

 

 と、まぁ上手い具合に、なんか徐々に雑談に変わっていった。

 そんな中、ふと辺りを見回した。周りのメンバーがせっせと働いてる中、なんで俺だけサボってんだ。

 

「……さて、そろそろ働くか」

「お、もう良いのか?」

 

 は? それどういう……ああ、もしかして、気を利かせてくれたのか?

 まぁ、確かに少し落ち込んでたが……しかし、そんな目に見えて分かるほどなんかな。

 

「マスター」

「? 何?」

「なんかあったら言えよ。変態でバカでどうしようもない奴だが、俺達ぁ、別にマスターのこと嫌いじゃねぇから」

「……」

 

 ……す、すごい……。何という、兄貴オーラだ。クー・フーリンさんって、実はこんなに良い人だったのか……。

 カルデアのサーヴァント唯一のランサーがこれほど兄貴肌とは、これは戦闘面だけでなくとも頼り甲斐がある。

 ……ランサーの兄貴、か……。

 

「今後とも、よろしくお願いします! 槍ニキ!」

「槍についたニキビみたいに言うな」

 

 デコピンされた。

 

 ×××

 

 夜になっても襲撃は来なかったので、またいつものように半分は寝て、半分は起きて就寝。

 もちろん、女性が多い藤丸さんパーティに寝てててもらい、俺のパーティ+エウリュアレ、アステリオスは起きて待機していた。

 

「お前は寝てても良かったんだぞ、エウたん」

「あんた次その呼び方したらケツに矢、ブッ刺すから」

 

 それだけ言って、ふいっとそっぽを向くアステリオスの上のエウリュアレ。なんかいつもよりカリカリしてんな。まぁ、狙われてるんだし当然か。

 籠城用の設備は完成し、とりあえず東西南北に物見櫓を立てて、起きてるメンバーでエミヤさんの作った双眼鏡を持って別れて監視している。

 俺の担当は東。エウリュアレ、俺、アステリオスで監視している。本当はエウリュアレは櫓の足元でしゃがんでて欲しいんだけど、なんか言うこと聞いてくれなかった。

 

「ウウ……エウリュアレ、ねむい?」

「平気よ、アステリオス」

「俺は眠い」

「……バカには、聞いてない……」

「ねぇ、アステリオス。俺のことバカって呼ぶの誰に習ったの?」

「みんな」

「みんなって、どこからどこまで?」

「? え、えっと……みんな」

「そ、そう……みんな、ね……」

 

 ……全員、将棋でもチェスでも良いから完封してやろうか。

 そんな小さな下克上を考えてると、ふと灯が海の方に見えた。

 

「エウリュアレ、伏せろ」

「何よ。人間の癖に……」

「敵だ。お前の姿見られたら、速攻狙われるぞ」

 

 短く説明すると、エウリュアレは渋々従った。双眼鏡から海の灯りを覗き込むと、船が徐々に近づいてくるのが見えた。船員達が何か話してるのを、唇の動きで内容を把握した。

 

 金髪『ったく……この俺が夜襲なんて真似を……』

 ヘクトール『まぁ、そう言いなさんな。奴らの頭のことだ、昼間に行けば必ず何か備えてやがるから』

 女の子『ふふ、イアソン様がご参加なさる戦闘でしたら、どんなものでも聖戦になりますのでご安心下さい』

 金髪『ふ、ふははっ。そうだね、僕が出向くものなら全てが聖戦だ』

 

 ……ヘクトールに、イアソンねぇ……。他にも何人かいるようだが、敵であることが分かれば十分だ。

 

「……アステリオス、エウリュアレを連れて全員起こしに行け。それから下っ端の兵隊を引き連れて他の櫓の連中も連れて来い」

「……まさおみ、は?」

「俺はここで敵の視察を続ける」

「はぁ⁉︎ あんた一人でここに……!」

「分かっ、タ……」

「ちょっ、アステリオス⁉︎ 放しなさ……!」

 

 ギャーギャーやかましい女を持って、アステリオスは櫓から降りた。

 さて、奴らの様子は……と、思って船上を見ると、敵の人数まではっきりと見えた。

 その直後だった。

 

 ヘクトール『じゃ、とりあえずあそこで覗いてる奴から蹴散らしますかね』

 

 ……え?

 と、思った直後、ヘクトールから槍が射出され、俺のいた櫓は粉々に砕け散った。

 

 


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