カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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災害に罠は効かない。

 吹っ飛んだ櫓からギリギリ逃げた俺は、森の中に隠れて身を潜めた。しかし、危なかったな……死ぬとこだった。俺、ヘクトールおじさん苦手。

 とりあえず、草の茂みの中で敵の一味を見学した。

 船が岸に到着し、兵士と思われるサーヴァントが何騎か降りてきて、砂浜に着地した。

 

「メディア、お前はこの船の護衛だ。ヘクトール、エウリュアレの奪還を任せる」

「俺一人でっスか? 奴ら、櫓とか作ってやがりましたし、多分罠とかもありますよ」

「そんなもの、ヘラクレスを陽動に使えばよかろう。奴に半日やそこらで作れるような罠が通用するとは思えん」

 

 ……え、今ヘラクレスって言った? あ、あの化け物がここにいるの……? ヘクトールだけじゃなくて? あとメディアとかも聞こえたんだけど?

 ち、チート揃いだろ……まずい、確かにイアソンの言う通り、こっちの罠なんか機能しない。

 それに、他にもあと二人ほど船の上に残ってやがるな。ヘラクレスがサーヴァントになってどんなスキル持ってんのか知らんけど……罠を利用してヘクトールと分断させればワンチャンあるな。幸い、他のサーヴァントは出てこないみたいだし。

 トランシーバーを持って、見張り全員に声をかけた。

 

「……全員、聞こえるか? 敵のサーヴァントは五騎。内、ヘクトールとヘラクレスの二騎が攻めてくる。二人を分断し、討伐する。エミヤさんとクー・フーリンさんと沖田さんは俺の元に来て、アステリオスは全員を起こして、エウリュアレと共に万が一の時の逃走経路へ」

『ちょっと! 何よそれ、あんたはどうする気……!』

「急いでよ。速くしないと俺が死んじゃう」

『ちょっ、無視してんじゃないわよあんた!』

『アーチャー、了解』

『ランサー、了解』

『スピー』

 

 そこで通信は切れた。よし、あとはここて待ってれば……。

 

「んっ?」

 

 あれ? 今、一人だけ寝息聞こえなかった? すぴーって言ってなかった?

 

「……おい、もう一回言うぞ。沖田、エミヤ、クー・フーリンの三名はただちに俺の元に集え。良いな?」

『アーチャー、了解』

『ランサー、了解』

『クカー』

 

 今、イラっとしたぞこの野郎め……!

 

「おい、クカーって言った奴、テメェ起きろ。今すぐ起きろオイ」

『ふへへ……ますたあのすけべえ』

「すけべえ、じゃねぇよ! すけべだけどテメェの身体に発情するほど見境無くねえからな!」

『沖田さんのおっぱいはGNツインドライヴじゃあありませんよー』

「どんなプレイしてんの⁉︎ え、エミヤさん! 急いで!」

『急ぎはするが……沖田はどうする?』

「知りません! なんなら海に沈めてやろうか! ガハハハッ!」

『なら、俺が沖田を迎えに行ってやろうか?』

 

 クー・フーリンさんも参加した。が、それはダメだ。

 

「ダメだよ、ヘラクレスとヘクトールいるんだよ? エミヤさん一人がこっちにきた所で凌げないでしょ」

『その辺はまともなんだな……でも、いつまでも寝かせるわけにはいかねーだろ』

「今、就寝組の奴らに迎えに行かせるよ。……と、いうわけだ、アステリオス。良いな?」

『分かっタ……!』

 

 そう言った時だ。ヒュガッと、真横に槍が降ってきた。気付かれた、と秒で勘付いた俺は、手に持ってた血糊袋を割って茂みの下から血の水溜りを作った。死んだふり作戦である。

 

「おいおい、流石に偽物と本物の血の見分けがつかないほど、オジさん訛っちゃいないよ」

 

 ……やっぱり、バレてるか……。クソッ、沖田さんにあんな大声でガンガンツッコミを入れなければ……!

 冷や汗をかいてる間に、俺の目の前に二人の影が立った。もちろん、ヘクトールとヘラクレスの二人だ。

 

「サーヴァントのマスターが、こんなとこで何一人で騒いでんだ?」

「あ、あははー……」

 

 何も言えない。内容がマヌケすぎるから。

 

「……や、大体は察してるんだけどな。聞こえてたし。一人、サーヴァントが寝てたんだって?」

「まぁ、はい。そういう事です」

「……お互い、組織には気苦労が絶えねえな。おじさんの上の人もねぇ……」

 

 ……ヘラクレスはー、この外見だとバーサーカーか? にしては大人しいな……。

 何かヘクトールが愚痴ってる間に、俺は倒れたフリをしてる腹の下で手を動かした。

 

「まぁ、でも目の前に人質としちゃ十分過ぎる餌が転がってりゃ、見逃す手はないわな。おい、動くなよ。今からエウリュアレと……」

「あんたこそ動くな」

「あ?」

 

 直後、腹の下からフラッシュ、エミヤさんに作ってもらった閃光玉だ。俺はサングラス掛けてる上に目を閉じていて、すぐにその場から離脱した。

 その直後だった。

 

「Gruaaaaaa‼︎」

 

 咆哮と共に、何も見えてない状態のヘラクレスが手に持ってる斧を地面に叩きつけた。

 その衝撃波で、俺の身体は浮かび上がり、思いっきり吹っ飛ばされて木に叩きつけられた。

 

「ゴフッ……!」

 

 ま、マジかよ……あいつ、想定以上の化け物火力か……!

 閃光なんか何十秒も保つもんじゃない。すぐに復帰した二人のサーヴァントは、俺の方に歩いてきていた。

 

「ったく……悪足掻きだねぇ。って、おじさんの言えた義理じやねえか」

「くっ……!」

「ヘラクレスの旦那、足の一本くらいやってくれ」

 

 チッ……ここまでかよ。俺が消されれば、こっちの戦力の半分が機能しなくなる。いや、藤丸さんやマシュは馬鹿みたいにお人好しだし、なんなら全部機能しなくなる可能性すら……!

 冷や汗をかきながら、通信機を口元にかざしたが、壊れてる。……あれ? これ、本格的に詰んだか?

 そうこうしてるうちに、目の前にヘラクレスがきて、俺に手を伸ばしていた。

 ああ、終わった……そう覚悟を決めた時だ。ヘラクレスに横からすごい勢いで突進した巨体が視界を横切った。

 

「な、なんぞ?」

「ウウ……バカ、発見」

「見つけたわよ、人間!」

 

 うお、あ、アステリオスとエウリュアレ? なんで来てんの? が、聞いてる場合ではない。目の前に捕獲対象がいて放っておく追跡者は居ないからだ。

 アステリオスの上から、手を伸ばしてきてるエウリュアレの手を掴もうとした直後だった。

 ヘクトールがアステリオスに飛び掛かり、槍を繰り出そうとしている。

 その直前に、ヘラクレスがアステリオスに突進をやり返すのと、俺がエウリュアレの手を掴むのが同時だった。

 結果的に、俺とエウリュアレとアステリオスは同時に吹っ飛ばされ、二体から距離を置くことができた。

 

「ウウ……!」

「痛た……だ、大丈夫? アステリオス……」

「平気……」

 

 マズイな、きてくれたのは助かったが、かといって状況が好転したわけではない。

 何より、どう考えてもこの状況を好機に変えるには、打てる手が一つしかなかった。

 

「……アステリオス、ヘクトールかヘラクレス、どちらでもいいから足留めしろ」

「あ、あんたいきなり何言ってんのよ⁉︎ まずはお礼でしょ⁉︎」

「ありがと。頼むぞ」

「テキトー過ぎるでしょ⁉︎」

「……わかっタ」

「アステリオス⁉︎ 何簡単に返事してるのよ!」

 

 助けに来た割に戦況の読めてないエウリュアレがギャーギャー喚くので、俺はエウリュアレの腰を持って担いだ。

 

「きゃっ……⁉︎ あ、あああんたっ……いきなり何を……!」

「エウリュアレ」

 

 アステリオスがそのエウリュアレに静かに声をかけた。その声は、まるで死を覚悟しているように重く、且つ穏やかだった。

 

「……あえて、たのしかった」

「えっ……?」

 

 それだけ言うと、俺はエウリュアレを抱えて走った。野営地に向かい、全員を叩き起こせばまだ負けてない。いや、ヘラクレスとヘクトールさえ始末すればここで勝つ事も不可能じゃ……いや、その二つはかなり難易度高いな。

 

「ち、ちょっと! 正臣、何なのよ本当に⁉︎」

「だから、アステリオスに足止めを任せたんだよ」

「何考えてるわけ⁉︎ それじゃ、アステリオスが……!」

「足の遅い力任せのバーサーカー、足止めにはもってこいだ」

「そうじゃないわよ! それ、囮って事でしょ⁉︎ あんた……見損なったわよ!」

 

 るせーな……。

 

「こうするしかないんだよ。相手は化け物クラスのサーヴァント二騎、それも守りのヘクトールと攻めのヘラクレスだ。地の利があるとはいえ、二人同時に相手には出来ないが、ここでアステリオスが足を止めてくれれば、俺達の相手は一体になる」

「二人が同時にアステリオスを狙ったらどうするのよ⁉︎」

「それはない。エウリュアレを逃すわけにはいかないからな。逃げてる側は、所詮、30キロの女の子を担いだ人間だからな」

「……なんで体重知ってるのよ」

「持った感覚で」

「……」

「いだだだだ! 首絞めるな! 状況を考えろおおおおお!」

 

 とにかく、ここではアステリオスを置いて行かないわけにはいかない。生存確率が減る。

 

「……安心しろよ。簡単にアステリオスはやられないし、やらせもしない」

「……」

「それよりも、通信機貸してくれない? 俺の壊れた」

「はい」

 

 受け取り、エミヤさんとクー・フーリンさんに声を掛けた。

 

「エミヤさん、全員を起こしに行って。スピーカー作って大声で叫べば一発だから」

『了解』

「クー・フーリンさんはこっちに合流。アステリオスが交戦中だけど長くは保たない、急いで」

『任せな‼︎』

「あと、二人は急いで通信を切って」

 

 ブツッ、と通信が切れた直後、沖田さんに向けて大声で叫んだ。

 

「士道不覚悟で切腹だああああああああ‼︎」

『うえっ⁉︎ な、何……⁉︎ 土方さ……⁉︎』

「起きたかバカ、さっさとこっち来い。敵襲だ」

『は、はい……? マスター? り、了解です!』

 

 よし、これでなんとか……と、思ってる時だ。後ろから足音が聞こえた。追ってきてるのは、意外にもヘラクレスだった。

 

「GURAAAAAAA‼︎」

「うおおおおお‼︎ こ、怖ぇええええええ⁉︎」

「ち、ちょっと! 大丈夫なんでしょうね⁉︎ いくらアステリオスを見捨ててもあなたがやられちゃ意味ないのよ⁉︎」

「見捨てたとか言うな! 戦略的囮作戦だ‼︎」

「同じ事じゃない‼︎」

「全然違うわ! 戦略的な囮には必ず意味があるんだよ! 例えば、囮と思わせておきながら誘い込む罠だったり……げほっ、けぼっ! やべっ、喋ってたら……息切れが……!」

「あんたバカなのかすごくバカなのか分からないんだけど⁉︎」

「バカ一点絞りやめろ!」

 

 チッ、このままじゃ追いつかれる。ここは場所的には森林地帯か……ならこれだ。右手の袖に仕込んでるエミヤさん特製のナイフを投げた。ヘラクレスに、ではなくむしろ正面のロープに、である。

 それをぶつ切りにした直後、別の箇所から丸太が飛んで来て、ヘラクレスに向かった。

 もちろん、そんなもので倒せる相手ではない。当たってもどうもならんだろうが、平然と避けた。

 が、避けた先の罠を、ピストルで再びロープを撃ち抜いて作動させた。今回のは投石機である。それも四発分の。

 まぁ、そんなもんもヘラクレスには効かない。当たりもしないだろう。しかし、バーサーカーなだけあって動きは読める。

 避けた先に仕掛けてあるのは、落とし穴だ。

 

「落ちろ……‼︎」

 

 シャアのようにそう言った。ズボッと足元が沈み込み、落下するヘラクレス。あいつを一つの罠にハメるのに、三つも仕掛けを使っちまった。

 ……どうだ、いくら化け物スペックでも足元が消えれば足を止められざるを得ないだろ。

 

「あなた……何手先きまで読んでるの?」

「偶々上手くいっただけだよ。それより、早く逃げるぞ」

「え?」

「あのとんでも化け物を落とし穴で仕留められるか。少しでも距離を離さないと」

 

 と、言ってエウリュアレの手を引いたときだ。何やらすごい地響きが足元を震わせる。

 それと共に、地面が徐々に割れていくのが視界に入った。

 

「な、何よこれ……⁉︎」

「おいおい、まさか……‼︎」

 

 あまりの地響きに、思わず尻餅をついた直後だ。轟音と共に目の前の地面が噴き返った。火山の噴火の如く地面は噴射され、俺もエウリュアレも尻餅をついたまま後ろに衝撃波だけで飛ばされる。

 

「おいおい……冗談だろ」

 

 野郎、地中から移動してきやがった。しかも、走ってる俺達よりも早く。

 全く冗談きついんだが。こんなもん、戦略もクソもあったもんじゃないだろ。枢木スザクかっつの。

 こうなりゃ、もうエウリュアレだけ逃すしかない。俺が死んでも勝ちの目はゼロになるわけじゃないが、エウリュアレが取られたらその時点でアウトだ。

 

「エウリュアレ、先に逃げろ。もう二人でジリジリ引ける状況じゃない」

「その必要はないみたいよ?」

「は?」

 

 その直後だった。矢と槍が同時にヘラクレスの後ろから飛んできた。それに気付いたヘラクレスが、大きく跳んで俺とエウリュアレから離れる。

 

「これは……!」

「待たせたな、マスター」

「悪い、遅くなった」

 

 クー・フーリンさんとエミヤさんが、ようやく駆けつけてくれた。

 

 


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