カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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リヨンに行きなさい。

 翌日、なんか騒がしくて目を覚ますと藤丸さんとジャンヌ様とマシュとマリーとアマデウスが肩で息をしていた。

 

「………なんかあったの?」

「……いえ、襲撃にあっただけです」

「はぁ?」

 

 辺りを見回すと、戦闘の跡みたいなのが残っていた。

 

「マジ?大丈夫だったの?」

「はい、藤丸さんのお陰で何とか……」

 

 藤丸さんを見ると、えへへと頬をかいていた。

 

「マジか。よくやってくれたな」

「ううん。マスターならこれくらい当然だよ」

「ていうか、戦闘が終わるまで起きなかった君と沖田の方がおかしいね」

 

 アマデウスが不満そうな顔で俺を睨みつけて来た。

 

「え、そ、そう?」

「本当ですよ。どれだけ寝が深いんですか」

 

 マシュも俺を睨んでいた。うるせぇなぁ、別にいいだろうが。

 

「で、相手は誰だったん?」

「聖女マルタでした」

 

 ジャンヌ様が答えてくれた。

 

「クラスは?」

「ライダーです」

 

 ふむ、ライダーが消えたか……。それは少し助かったかもしんないな。相手の戦力が一人でも削れたのはラッキーだ。これで、少なくとも相手は五人という計算になるな。

 

「一人で挑んで来たのか?」

「ええ、一人と何匹かワイバーンがいたわ」

 

 マリーがそう答えた。ふむ、完全にナメて来ていたな。相手の驕りを逃す事なく倒せたのは大きい。

 だが、ここから先はおそらくそうもいかないだろう。必ず俺達を上回る人数のサーヴァントを送り込んで来るはずだ。

 誰が来るかを予測しようと顎に手を当ててると、藤丸さんが追加で言った。

 

「それでさ。聖女マルタがこんな事を言ってたよ。『竜の魔女が操る竜にあなた達は絶対勝てない。あの竜種を超えるにはただ一つ、リヨンに行きなさい』って」

「リヨン……?」

「都市の名前じゃない?だよね、ジャンヌ?」

「ええ。その通りです」

 

 ………リヨンに行きなさい、か。

 

「罠だな」

「なんで⁉︎」

「バーカ、敵の言葉に耳を貸すな。仮にマルタが嘘を言ってなかったとしても、奴らはサーヴァントの探知が可能だ。そこに竜の魔女が操るドラゴンをどうにか出来るサーヴァントがいるとしたら、確実に向こうは戦力を整えてくる」

 

 すると、他のメンバーは黙り込んだ。

 

「もちろん、希望的観測もある。マルタがそのリヨンにある何かを敵のボスに伝えていなかったとしたら、という事だ。それなら、俺達が大勢でリヨンに行ったところで、向こうは全開のメンバーでは来ないだろう。相手のサーヴァントを一人倒したばかりだ。向こうだって警戒はするだろうし、俺達の情報も欲しいはずだ」

「それなら……!」

「忘れるな、マリー。希望的観測だ」

「あ、そ、そっか……」

 

 リーダーとして決断するのは俺の役目だよなぁ。正直、行きたくないが目の前のメンバーは超行きたそうにしてるし。どうしたものか。

 すると、ジャンヌ様がおずおぐと口を開いた。

 

「でも、田中さん」

「? 何?」

「聖女マルタは、そんなに悪い人には感じられませんでした。何というか、戦いたくないのに戦っている感じがしました」

「………戦いたくないのに?」

「そもそも、聖女が一方的な蹂躙に参加するのはおかしいと思いませんか?おそらく、奴らの部下は狂化されています」

「は?何それ」

「バーサーク化、と言うべきでしょうか?理性を失い、ただ敵を殺す事のみを考えるようになっていると思われます」

 

 バーサーク……そういえば、奴らはお互いの名前をクラスで呼んでだけど、何故か『バーサーク』とか付けていたな。それに、向こうのセイバーが殺戮の熱に浮かされる、とか言ってたし……。

 ………そう考えると、マルタの言っていることは本当かもしれないな。殺戮の熱に浮かされているのに、虚勢を張って他人に代わりに殺させるような事はしないだろうし。

 ………まぁ、リヨンにサーヴァントがいるとしても危険なんだがな。でも、みんなしてそんな「行きたいオーラ」を出さないでくれないかな。

 

「………よし、多数決を取る。行きたい人!」

 

 全員が手を挙げた。満場一致とはこの事かよ。

 

「じゃあ、行かないって事で良いな」

「なんでそうなるんですか!行きましょうよ!」

 

 ジャンヌ様が声を荒げた。

 

「うるせええええ!行きたくない!罠だったら怖い!」

「子供なの⁉︎田中さんは子供なの⁉︎」

「大体、多数決で決まったじゃないですか!」

「そうだ、往生際が悪いぞ!」

 

 マリー、マシュ、アマデウスと口々に文句を言ってくる。

 

「知るかバーカ!大体、多数決を取るって言っただけでそれで決定するなんて言ってないもんね!」

「「「うぐっ………!」」」

 

 はっ、バカどもが。この俺に口論屁理屈口喧嘩で勝とうなど八億年早いわ。

 すると、藤丸さんがジャンヌ様の耳元で何かボソボソと話していた。話し終えると、ジャンヌ様が少し恥ずかしそうに顔を赤くして俺の元へ来ると、ギュッと俺の胸に抱き着いて上目遣いで言った。

 

「………お願い、お兄ちゃん」

「良し、行こうか」

 

 満場一致で決定した。

 まぁ、行くにしても作戦は大事だ。とりあえず、みんなにはもう少し休んでてもらおう。

 そんなわけで、とりあえずサーヴァント達や藤丸さんにはそれぞれ自分のしたい事をしてもらう事にした。もっかい寝たりお話ししたりして始めてる中、俺はふと地面を見た。沖田さんはまだ寝ていた。

 

「……………」

 

 なんだろう、あいつ。ここに何しに来たんだろう。

 作戦を考えた結果、とりあえず召喚する事にした。こちらのサーヴァントの戦闘スタイルはバレていないものの、切り札となるサーヴァントは必要だ。

 何とは言わないけど、六芒星の形の虹色の石とマシュの盾を使って召喚した。

 

「よう!サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上した。ま、気楽にやろうや、マスター」

 

 あれ?この人、何処かで見たような……。

 

「キャスターさん⁉︎」

 

 マシュが声を漏らすと、ランサーの人は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「おいおい、ランサーだって言ってんだろ。嬢ちゃん」

 

 ああ、冬木市でお世話になったキャスターさんか。そういや、ランサーで召喚してくれなんて言われてたなぁ。

 まぁ、当たり前だが向こうに記憶はないっぽいし、とりあえずはじめましてって言っとくか。

 

「お初にお目にかかる。我輩、貴様のマスターである田中正臣でござる。控えあろう!」

「お?おう?」

「田中さん、変な挨拶はやめてください。ランサーの方が困惑していらっしゃるではありませんか」

 

 マリーはそう注意すると、続いて自己紹介をした。その後に続いて他のサーヴァント達も自己紹介した。

 その様子を見て、ランサーさんはポツリと呟いた。

 

「………サーヴァント多くね?」

「あー、これ聖杯戦争じゃないんよ。マシュ、説明を」

「自分でしなさい」

「…………今の現状はですね……」

 

 説明を始めた。

 ポカーンとするランサーさんは、やがて「えっと……」と声を漏らした。

 

「つまり、世界の命運を握る連中に召喚されたってことか?」

「まぁ、そうなりますね。だから、なるべくなら真名も教えてくれると嬉しいんですが」

「お、おう。そうか。悪いな。クー・フーリンだ」

 

 よし、切り札も出来た。

 

「じゃあ、作戦を説明する。とりあえず、あそこで寝てる馬鹿誰か起こせ」

 

 ジャンヌ様が沖田さんを起こした。

 

 ×××

 

 作戦を開始した。とりあえず、クー・フーリンさんに先行してもらい、俺達は10分後に出発する事にした。絶対に戦闘は避けるように言ってあるし、大丈夫のはずだ。

 

「………本当に上手くいきますか?」

「…………いくはずだ。奴ら、野良のサーヴァントに興味はない。マリーやアマデウスの時だって戦闘を始めてから様子を見に来ていたし、今のリヨンにいるのだってサーヴァントだとしたらいつまでもそこに放置されてるのはおかしい」

 

 クー・フーリンさんには少し申し訳ないけどな。

 さて、俺達も行動開始するか。とりあえず、リヨンの現状を知りたい。まぁ、多分滅ぼされてるとは思うし、今更現状を知ったところで作戦は変えないが。

 マリーがどっかの街で情報を集めに行き、その間、街の外で俺達は待機、ジャンヌ様が入るとそれだけでお祭り騒ぎだからな。

 しばらくして、マリーが戻って来た。話を聞いた感じだと、リヨンはもう既に滅んだらしい。だがその滅ぶ前に大剣を持った守り神がドラゴンや骸骨達を蹴散らしていたらしい。

 それと、シャルルの兵隊達はジャンヌ様の信奉者のジル・ド・レェが纏め上げているそうだ。

 その言葉を聞いて、ジャンヌ様は少し嬉しそうな顔をしたが、今の自分はおそらく受け入れてもらえない。また暗そうな顔をした。

 

「………と、そろそろ時間だ。いきましょう」

 

 そう言うと、全員でリヨンに向かった。

 話の通り、リヨンは滅んでいた。前に行った街……なんだっけ?ナントカって街。そこと同じだ。

 

「ロマン、サーヴァントは近くにいる?」

『……………』

 

 あれ、返事がない。なんだ?通信障害か?仕方ない、自分達の脚で探すしかないか。

 クー・フーリンさんから救援依頼は来ていないし、今も街で戦闘している様子は見えない。敵はまだここに来ていないんだろう。

 

「とりあえず、全員最大でも5メートル以内に距離を保って捜索。良いな?藤丸さんはマシュについて行って」

 

 その確認に全員頷いて探し始めた。しかし、さっきの話を聞いた感じだと、まず間違いなく敵はリヨンにいるサーヴァントについて知っている。なら、なんでそのサーヴァントを仕留めない?そいつはまず間違いなく脅威になるはずだろ。

 

「マスター、本当にここに来る必要があるんですかー?別にドラゴンくらい、沖田さんでも倒せると思うんですけどー」

 

 すると、沖田さんがボソッと愚痴り始めた。

 

「いや、だからとんでもないドラゴンがいるんだろ。ウルトラマンサイズのドラゴンが出て来たらどうすんだよ」

「ウルトラマンってなんですか」

「身長40mの光の巨人」

「そんなの、誰でも倒せないと思うんですけど」

 

 確かに。40mはないな。

 

「いいから探せ」

「面倒臭いですよー。大体、こんな所に人がいるとは思えませんし」

 

 ………こいつ、我儘だな……。いや、多分俺がマスターだからか?何それ腹立つ。あまり言いたかないが、ここはビシッと言ってやるべきだろう。

 

「お前さ、今の所全然役に立ってないよな」

「っ⁉︎」

「だってお前が一番戦ったのって俺だろ?このままだと本当に役立たずなんだけど。あと寝てただけだし」

「そ、そんな事ないです!最初にドラゴン退治したじゃないですか!」

「あれは正直お前一人くらいいなくても何ともなったと思うし。俺の指揮のお陰で」

「殺されそうになってた癖に!」

「なってませーん!アレはちゃんと避けようと思えば避けられましたー!」

「なってました!情けなく涙目になってた癖に!」

「なっななななってないから!お前フザけんなよ⁉︎昨日ボコボコにしてやったの忘れたのかコラァ‼︎」

「したのは沖田さんです!寝言は寝て言いなさい!」

「さささされてないから!関節技きめられて『すみませんでした!』なんて言ってないから!」

「鮮明に覚えてるじゃないですか!」

「上等だよテメェ泣くまでボコボコにしてやんぞコラァ‼︎」

 

 そう言って襲い掛かり、沖田さんも拳を構えた時だ。沖田さんの後ろに何かあるのが見えた。顔を半分包帯で隠してる人間だ。

 そいつが、片手を構えて沖田さんに襲い掛かっていた。

 

「ッ!」

 

 俺は殴り掛かり、ガードしようとした沖田さんの手を掴んで自分の方に引き込み、抱き寄せながら背中を向けた。

 

「は、はぁ⁉︎マス……!」

 

 直後、包帯野郎の攻撃が俺の背中に直撃した。ブシッと血が噴き出し、背中をやられたのに全身に痛みが走る。ヤバイ、泣きそう。死にそう。攻撃を喰らうのってこんな痛いのか。

 

「痛ってええええええ‼︎死ぬうううううう‼︎」

「ま、マスター‼︎」

「ふっ、安心したまえ。次の一撃で痛みはなくなる」

 

 ………は、はい?それって、殺すって事?嫌だよ!死にたくないよ!

 そうは思ってが、既に包帯野郎は手を振り上げている。あ、ヤバイ。これ死んだ。

 そう思った直後、ビュワッと空を切る音と共に旗が繰り出された。それが包帯野郎に直撃し、後ろに殴り飛ばされた。

 

「無事ですか⁉︎田中さん!」

 

 うおお、またあなたですかジャンヌ様。結婚しよう。

 

「クッ……!増援か………!」

「ジャンヌだけではありませんよ」

 

 直後、何処からかガラスが飛んで来て、それらが包帯野郎に突き刺さった。マリーとアマデウス、さらに藤丸さんとマシュも現れ、完全に包帯野郎を囲んだ。

 

「何者ですか?私のお友達に手を出すということは、敵である事には間違いないと思いますが」

「然様。人は私を、オペラ座の怪人と呼ぶ。竜の魔女の命により、この街は私の絶対的支配下に。さぁさぁさぁ、ここは死者達が蘇る地獄の只中に。………君達はどうする?」

 

 そんなの決まってる、と言った感じで藤丸さんが答えた。

 

「ぶっ飛ばす」

 

 おい待て、乗るな。一度、滅ぼした街をこいつらが支配する必要なんてない。罠なのか、それともマルタの考えを読んでいたのか知らないが、ここに来る事を分かっていて、そのために配備されたとしか思えない。だとしたらここにドラゴン対策のサーヴァントがいる説は濃厚だ。

 ここは鹵獲するのが正解だが、もう戦闘が始まりそうな雰囲気なんだよな……。ていうか、なんでみんな怒ってんの?

 仕方ないので、俺は沖田さんの耳元で話した。

 

「沖田さん……」

「……………」

「………沖田さん」

「ふえっ⁉︎な、なんですか⁉︎」

 

 なんで顔赤くしてんだこいつ……と、思ったら俺抱き抱えてたわ。一応女の子だもんね、異性が近くにいると赤くもなるよね。少し離れてから言った。

 

「………今のうちにサーヴァントを探すぞ。戦闘はジャンヌ様、マリー、アマデウスに任せれば良いだろ。マシュと藤丸さんにもサーヴァントを探させて」

 

 3対1だ。これで負けることはないだろう。むしろ、5対1はオーバーだ。それに、急がないと黒ジャンヌ様が来る。

 

「バカ言わないで下さい‼︎」

 

 え、なんか怒られた。

 

「その前にマスターの傷の手当てが先です!」

「え?いやそのつもりだけど」

「はっ?」

「死にたくないし。それから探すって意味で………」

「……そ、そうですか」

 

 早とちりが恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら藤丸さんから包帯とかをもらって手当てしてくれた。

 

 




なんか沖田さんが無能みたいになってしまいましたが、ちゃんと後で大暴れさせます。すみません。

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