カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

9 / 50
今回の話から学んだことが一つある。
多機能フォームから1文字開けられるんですね。


卑怯でもなんでも良い、とりあえず勝て。

 傷の手当てが終わり、俺達は新たな仲間を見つけた。戻って来ると、既に包帯野郎は倒されていた。これで任務は終わりだ。さっさと帰ろう。

 

「………はい、撤収ー」

「そうですね、帰りましょう」

 

 そう言って帰還しようとした時だ。ようやくロマンから連絡がきた。

 

『やっと繋がった!みんな、早くそこから逃げるんだ!』

「そのつもりだよ」

『いやいやそういうんじゃなくて!サーヴァントを上回る超極大の生命反応だ‼︎猛烈な速度でそちらにやって来るぞ!』

 

 サーヴァントを上回る……?おそらく、あれだ。竜の魔女が操るドラゴンって奴。

 

『それだけじゃない、サーヴァントも三騎追随!逃げた方が良い!』

 

 サーヴァントも、か。いや、やりようはある。

 

「やるぞ。みんな」

『正気か⁉︎』

「大丈夫、やりようはある」

 

 何とかなるはずだ。俺の策が上手くいけば、だ。とりあえず、そのために全員に声を掛けた。

 

「全員固まれ!おい、あんた」

「………なんだ?」

 

 さっき見つけた奴に声を掛けた。

 

「…………イケメンだな、ムカつく」

「…………はっ?」

「言ってる場合ですか!」

「あ、ああ、そうだな。えっと、名前は?」

「ジークフリートだが」

「ドラゴン狩れるんだろ?俺が合図したらデッカいドラゴン目掛けて宝具をぶっ放してくれ」

「ああ、分かった……」

『来たぞ!』

 

 直後、アホみたいにデカイドラゴンが降りて来た。………あ、あれ?ていうか、ちょっと大き過ぎるな……。大きいって言ってもF91くらいだと思ってたんだけど………。

 その大きいドラゴンの上にいるのは、毎度おなじみ黒ジャンヌ様だった。………不思議と俺をすごく睨んでる気がするのは気の所為だろうか。気の所為だと良いな。

 

「ひっ、久しぶりですね……。近年稀に見るど変態」

 

 相当ムカついてるのか、頬はひくひくとつり上がっていて、眉間にシワが寄っている。表情は怖かったが、それ以上に真っ赤な顔をしているので全然怖くない。

 

「ハッ、またオッパイ揉まれに来たのか?懲りない奴め!それとも揉んで欲しいのか⁉︎淫乱魔獣め!」

「ち、ちっがうわよ‼︎あんた、アレ次にやったら本気で殺すからね!もう逃げないで殺すから!」

「ハッ、それはどうかな?お前はまだ分かっていない」

「………何がよ」

「この前の奴はまだ序章に過ぎないという事を!」

「は、はぁ⁉︎どういう意味よ!」

「第1章!この公衆の面前で、服を剥ぐ!」

「は、はぁ⁉︎」

「第2章!この公衆の面前で、下半身の服も剥ぐ!」

「もう分かったから黙りなさい!何ぼさっとしてるのよアサシン!早くあいつ消しなさい!」

 

 命令すると、白髪で黒い服を着た男が前に出て来た。それを見ると、マリーが「あっ」と声を漏らした。

 

「知り合い?」

「え、ええ。少しね……。会えて嬉しいわ?気だるい職人さん」

 

 そう言うと、男の方も口を開いた。

 

「それは嬉しいな。僕も忘れた事などなかったからね。白雪のごとき白いうなじの君」

「クー・フーリンさん、今」

「『突き穿つ死翔の槍』‼︎」

 

 直後、後方からクー・フーリンさんが槍をブン投げ、それが男に突き刺ささった。

 

「ガッ………⁉︎」

「………はっ?」

「ジーク、今!狙いはデッカいの!」

「え?今?いや、分かった」

「他全員は撤退準備!クー・フーリンさんもだ!」

「蒼天の空に聞け!我が真名はジークフリート!汝をかつて討ち倒した者なり!宝具解放『幻想大剣……天魔失墜』‼︎」

「くっ……!ファフニール、上昇なさい!」

 

 ジークが剣をぶん回し、ファヴニールとかいうドラゴンは空を駆け上がり、その隙に俺達は走り出した。

 俺がまた挑発すれば、向こうのリーダーは動けなくなる。そうすれば向こうは他のサーヴァントを向かわせてくるだろう。その一瞬の隙を逃さず、今まで隠れていたクー・フーリンさんに攻撃させる。奴らは野良のサーヴァント、もっと言えば自分達の敵ではないサーヴァントに興味はないから奇襲はいくらでも出来た。

 で、一人殺された事によって向こうが動揺した隙にこちらの新たな武器を使って逃げさせる、いやベストはそれでファフニールを破壊する事だったけどね?

 とにかく、敵が逃げた隙にこっちも逃げる。しかも、敵戦力を一人削ぐ事もできた。相変わらず俺の策士っぷりが怖いぜ。

 

「マスター、考えてることが顔に出てますよ。すこぶる気持ち悪いです」

「うるせぇ」

 

 沖田さんは何故かさっきから俺に対して顔を赤くして怒っている。何、俺の事嫌いなの?

 とりあえず、俺は最後尾を走って仲間全員の安否を確認した。前から順番に。ジャンヌ様、マリー、マシュ、藤丸さん、アマデウス、沖田さん、俺。

 

「二人足りねぇ⁉︎」

 

 慌てて足を止めて振り返ると、ジークが倒れていた。

 

「何してんのおおおおお⁉︎」

「すまない……。身体の調子が悪くてな……!」

 

 クッ、せっかく手に入れた戦力を捨てられるか。俺は戻ろうとしたが、そのジークの身体をクー・フーリンが抱えた。

 

「大丈夫か?肩貸すぜ」

「! すまない……!」

 

 よっしゃ、ナイスクー・フーリンさん!再び走り始めた。

 街を出て草原を走る。さて、向こうもファフニールを狩られるわけにはいかない。向こうはジークが動けないことを知らないはずだ。俺達を追うなら黒ジャンヌ様以外だろう。

 厄介なファフニールさえいなくなれば、ジークは使えなくともこちらの戦力に分がある。

 ただ、もう少し離れた場所じゃないと、オルレアンから近過ぎる。そう思って走ってると、背中にズキっと痛みが走った。

 

「ッ………!」

「⁉︎ マスター⁉︎」

 

 後ろを走っていたクー・フーリンさんが俺に追い付いて膝をついた。

 

「どうした⁉︎って、なんだその傷⁉︎」

「あー……油断したとこを敵にやられて………。でも、大丈夫だから。もう少し走ったら戦闘を開始する。それまでは、なんとか……」

「この出血は大丈夫じゃねぇ!クソッ……!」

 

 クー・フーリンさんが俺の事も抱えようとする。この人、良い人だなぁ。やっばり男友達も大事だ。

 涙が出そうになってると、なんか目の前にガラスの馬が現れた。すごい幻想的で、売れば金になりそうな気もするが、超動いてるし多分宝具だと思う。

 

「田中さんを乗せてくださる?」

「お、おう。悪いな」

 

 俺はクー・フーリンさんに抱えてもらって、マリーの馬の上に乗せてもらった。

 そのままパカラッパカラッと走ってると、竜の群れに襲われてるフランスの斥候軍が見えた。いや、襲われてはいない。この前の俺の戦法をちゃんと使って戦闘を行っている。ちょうど良いなアレ。

 

「マリー、あの戦闘が見えるか?」

「え、ええ」

「全員であの中に突っ込むぞ。後ろのサーヴァントも含めて乱戦に持ち込む」

「ば、バカなこと言わないでください!田中さんのお怪我の手当てが先です!」

「後ろの連中なんとかしないと手当てなんて出来ないだろ。まずはドラゴンの排除、それが終わり次第でサーヴァントに掛かれ。サーヴァントには必ず一対一でやるな。確実に仕留められるよう、複数人で囲んで叩け」

「っ……!わ、分かりました……」

 

 俺の言ったことをみんなに伝えてくれるマリー。

 フランス軍の戦闘に割って入り、ドラゴン狩りが始まった。俺とジークは砦の壁際に置いてもらった。

 

「あー。背中痛い」

 

 まるでテスト勉強の休憩中にリビングに戻って来た高校生みたいなことを呟いた。

 そんな俺にジークが言った。

 

「すまない、助かった」

「いやいや。俺は今日助けに来るつもりなんかなかったんだよ。だけど、あいつらが助けに行くって聞かなかったもんだから」

「でも、今回の作戦は全部、えっと……」

「田中です。田中正臣」

「正臣が考えたんだろう?」

 

 おおう、名前呼び初めて。

 

「まぁ、そうですが」

「なら、礼を言わせてもらう。………ただ、」

「李衣菜?」

「さっき、何やら因縁があるようだった二人の会話を遮っただろう」

「え?ああ、うん」

「アレはダメだろ」

 

 ですよね。俺もそう思う。でもね、戦闘中に会話する方が悪い。

 

「俺としてはね、そいつが過去に何をやったとか、そんなのどうでも良いんだよ。今は戦争中だ。敵か味方か、使えるか使えないか、それだけがハッキリしてれば、後はどうでも良い」

 

 過去に囚われて戦えません、なんてのだけはやめて欲しい。それここにいる意味ないし。

 すると、ジークは俺をぼんやりと見つめた。なんだよ?と視線で聞くと、意外そうな顔で続けた。

 

「いや、正臣がそこまで強い男には見えなかったものでな」

「はっ?」

「無理はするなよ」

 

 あ、それアマデウスにも言われた。そんなに無理してるように見えるかな。

 そんな話をしてると、ドラゴンとの戦闘に敵サーヴァントが加わったのか、さらに衝撃が大きくなった。

 

「………あー、眠い」

「眠いって……一応、戦闘中だぞ」

「これ以上、俺に出来ることは何もないでしょ。背中痛いし。下手に口出しして殺されたくないから」

「お、おう……。まぁ、それもそうだが」

 

 ジークがそんなことを言いかけたときだ。突然、俺に手を伸ばした。で、俺の胸ぐらを掴んで自分の方に抱き寄せた。

 直後、俺のいた場所に剣が降って来て、地面を大きく抉った。

 

「っ⁉︎」

 

 真っ黒な鎧を装着した騎士が剣を構えて立っていた。………あ、ダメだ。俺死んだ。なんでか知らないけど、サーヴァントが目の前にいる。他のメンバーはドラゴンやサーヴァントで手一杯、ジークはファフニール戦の切り札。どう考えても俺が死ぬしかない。

 

「グッ……!正臣、逃げろ!」

「いやいやダメだって!あんたがいなきゃファフニール倒せないんだから!」

「しかし……!」

 

 言い争ってる間に鎧の人は剣を振り上げた。完全に終わった、そう思った直後だ。振り上げた剣が横から振られた剣に壁に叩きつけられた。

 

「………むっ、今ので折れないとは……硬いですね」

「お、沖田さん⁉︎」

 

 な、なんでいんの?他のメンバーは?

 

「マスター、下がって下さい。こいつは私がやります」

「アホ!タイマンでどうにかなる相手か⁉︎お前、殺されるぞ!誰でもいいから誰か呼んで来い!」

「無理です。その隙にマスター達が殺されます」

「いや、でもここで戦力を失うわけには……!」

 

 すると、沖田さんはムッとした顔で俺を睨んだ。

 

「マスターはもう少し、私達の実力を知るべきです」

「はぁ?」

「相手は英霊かもしれませんが、私達だって英霊なんですから」

 

 そう言った直後、鎧の人は叩き付けられた剣を無理矢理引っ張り出して沖田さんに斬りかかった。それを横に回転しながら回避すると、顔面に剣を振るった。

 直撃したものの顔にも鎧がある為、軽く後ろにぶっ飛ばした程度でダメージはない。いや、ヒビが入ってるな。

 地面を蹴って沖田さんは追撃した。首筋に突きを放つと、鎧は首を捻って回避し、沖田さんの腹に斬り込んだ。沖田さんはジャンプしてそれを躱すと、空中で身体を捻りながら顔面に蹴りを入れて怯ませ、さらに顔面に斬り込んだ。

 それを左腕の鎧でガードしつつ、右手の剣で下から斬り上げ、沖田さんは鎧を踏み台にして前に回転しながら背中を斬りつつ後ろに着地し、背中から斬り掛かり、鎧は振り向きざまに剣でガードした。

 そのまま、剣と刀で鍔迫り合いになる。

 

「………互角、いや総司の方が少し押しているな」

「………………」

「………正臣?どうした?」

「………いや、俺あんな奴と今まで取っ組み合いの喧嘩してたのかって………」

「はっ?」

 

 怖い……。今まで手加減してくれてたんですね………。今度から逆らうのはやめよう。

 しかし、真面目な話沖田さんが押してる。だが、相手に鎧があるからイマイチ攻めきれていない。それに引き換え、沖田さんはピンク色の着物だ。

 さらに、相手の鎧の人も沖田さんも超攻撃型の様な戦い方をしている。当然、相手の体に剣を多く当てた方が勝つようになるが、相手は鎧を着ている。相手の鎧を全て剥がしてトドメの一撃を当てるまでに沖田さんが一発ももらわないというのは不可能だろう。

 ………ダメだ。勝つか負けるかの勝負をしてる場合ではない。やはり確実に勝てる戦い以外は避けるべきだ。

 俺はほんの一瞬でも相手の隙を作れれば、と思いその辺の石を握った。その俺をジークが手を伸ばして止めた。

 

「よせ」

「いやいや、あのままじゃ勝てないでしょ。剣の腕では勝てても装備に差がありすぎる」

「大丈夫だ。相手は既に全力を出し切っているが、総司はまだ余力を残している」

「………へっ?あ、アレで全力じゃないの?」

「ああ。………見て分からないのか?」

「直接的な戦闘に関しては素人なもので………」

 

 ………あれ?もしかして、俺って当たりのサーヴァント引いた?

 冷や汗を流してる間に、沖田さんの攻撃はさらに鋭くなる。鎧の奴の突きを鞘で横から殴って逸らしつつ防ぐと、腹に剣を叩き込んだ。ピシピシッと鎧にヒビが入っていく。

 怯んだ隙を突いて、沖田さんは後ろに回り込むと鎧の膝の後ろを蹴って膝を突かせた。

 膝をついた直後、振り向きざまに鎧は後ろに剣を振り回すが、沖田さんは手首をガードして攻撃を届かせる事すらしなかった。そのまま手首を掴み、腕を思いっきり叩き斬った。

 

「Arrrrrrrrrr‼︎」

 

 なんて言ったのか分からないが、悲鳴を上げた。なんか獣みたいに暴れていたが、痛覚はあるようだ。

 鎧は前転して沖田さんから距離を取ると、ギリッと沖田さんを見上げた。俺から見ても超怖いのに、沖田さんはまったく恐れている様子なく、斬り裂きた鎧の腕をその辺に投げ捨てた。

 片腕を失っても襲い掛かる鎧、それを見て沖田さんは刀を構え、たんっと静かに地面を蹴った。

 

「一歩音超え……二歩無間……三歩絶刀!『無明――三段突き』」

 

 刀が鎧の腹に突き刺さり、沖田さんはそのまま通り過ぎた。鎧の腹からボバッと血が噴き出し、鎧はその場で膝を着いて倒れ、消滅した。

 頬についた血を拭うこともせずに、沖田さんは俺を見るとすごくステキな笑顔でピースをして言った。

 

「沖田さん大勝利ー!」

「………今まですみませんでした」

「急に素直に⁉︎」

「お怪我の方はありませんか?」

「え、ええ。身体は大丈夫です。まだまだいけますよ!」

「いえ、とんでもない。早くお休みになられて下さい」

「…………」

 

 沖田さんは少し微妙な表情で固まった後、俺を見て急にドヤ顔になった。

 

「ふっふーん、ようやく私への待遇が分かってきたようですね!それなら、私をおぶりなさい!」

「イェス・ユア・ハイネス」

 

 俺は言われるがまま、沖田さんの前で背中を向けて膝をついた。

 

「………正臣、俺の認識ミスじゃなければお前がマスターだよな?」

「そうだけど?」

「……………」

 

 情けないものを見る目で俺を見るジーク。すると、後ろから沖田さんがボソッと呟いた。

 

「いえ、あの、冗談のつもりだったんですが………ま、まぁせっかくですし………」

「お前もサーヴァントなら遠慮しろよ……」

 

 再びジークから呆れたような声が出た直後だ。「あれっ?」と後ろの沖田さんから声が聞こえた。

 

「どうなさいましたか?」

「………いえ、その……マスターの背中、赤いなーって」

「……………へっ?」

「少し、失礼しますね」

 

 沖田さんは俺の服をめくった。俺の背中は見えないが、沖田さんが背中を触って自分の手を見ると真っ赤になっていた。

 

「…………傷口が、開いてる?」

「…………えっ?」

 

 直後、遅れて背中に痛みが走った。そういえば、手当てをしてもらってからジークを探し、敵を煽り、クー・フーリンさんが攻撃した後に走り、途中でマリーに乗せてもらったものの、ここに着いてからはジークに助けてもらったりしてたっけ………。

 ふと自分が寄りかかっていた砦の壁を見ると、血の跡がくっきり付いていた。

 

「……………死んだかも」

 

 直後、俺はその場で倒れた。

 

「⁉︎ ま、マスター?マスター!」

 

 沖田さんの声を最後に、俺は気を失った。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。