【完結】Fate/Zero 正義   作:いすとわーる

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《第一一話 父と子、そして……》

 

「父上ッ!!」

 

「あぁ、分かっている。時臣君が()られたのだな……」

 

 冬木教会にて言峰父子は漂い始めた不穏な空気を敏感に感じ取っていた。

 二人は今霊器盤の前にいた。

 

「たった今、ライダーの消失を霊器盤で確認した。その様子だと綺礼、お前も何かでそれを悟ったと見える」

 

「……はい。ライダーの暇潰し相手をワイン室でしていたのですが、突然姿を消したもので。気紛れでどこかに出掛けたのかとも思いましたが、もしやと思い……」

 

「そうか……ではやはり、時臣君は(あや)められたのだな、他のマスターの手によって……」

 

 悔しそうに顔を歪める璃正。綺礼もどこか所在なさげであった。

 

「あれほど油断しないようにと忠告していたのに、時臣君……惜しい人物を亡くした……だが、今はそれを悲しんでいる場合ではない。綺礼、分かるな?」

 

「はい、父上」

 

 璃正の問いかけに綺礼は即答した。

 

「直ちに聖杯戦争の中止を参加者に宣言。聖堂教会と魔術協会にも応援を頼みましょう。此度(こたび)のマスター達が大人しく戦争中止宣言に従うとも思えませんから……少なくともキャスターとそのマスターなどは」

 

「うむ。では関係機関への連絡はワシがつけるとしよう。綺礼、お前はアサシンを連れ――」

 

 とそこで璃正は言葉を切った。

 そしてジロリと厳しい視線を綺礼に向けた。

 

「何のつもりだ、綺礼」

 

 璃正は片手に逆手で黒鍵を握り、それでもって背後から迫ってきたアサシンの心臓を見事に一突きしていた。

 視界に頼らず、わずかな足音や気配のみで暗殺者を察知し撃退する人間離れの離れ業。

 聖堂教会の裏組織:代行者にのみ可能な奥義である。

 

「いえ私は何も……アサシン、何のつもりだ?」

 

(とぼ)けるな綺礼。ワシとて感じておったぞ、お前の異常をな……しかし、いかな立派な聖職者にも過去の汚点というものはある。小児愛、汚職、愛人。だからこそ、ワシはお前もいつかそれを克服し、真に清い聖者になってくれるものと――」

 

 黒鍵を振るい次々と襲いかかるアサシンをいなしながら、そう落ち着いた口調で息子を(いさ)める璃正だったが、戦闘に集中するため最初の一瞥(いちべつ)以来、直接にその顔を見ながらというわけではなかった。

 そして次に息子の姿を視界におさめた瞬間に違和感を感じ、言葉を切った。

 彼の視線の先には、璃正同様アサシンに襲われ反撃する綺礼の姿があった。

 

「綺礼、もしや……」

 

「はい父上……裏切られました、サーヴァントに」

 

 綺礼の手の甲には既に令呪はない。

 所持していた二つのそれで、アサシンの自死を命じたのだ。

 しかし一切の効果はなかった。

 パスが途切れていたからだ。

 

「「「「「ここで終わりだ、代行者ども……ふふふふふふふふっ」」」」」

 

 不気味な笑い声をあげるアサシン:百の猊のハサン。

 父子を取り囲むのは、何十ものサーヴァント達であった。

 

「……心踊るな、綺礼」

 

「はい、父上」

 

 しかし危機の中にあるにも関わらず、不思議と二人は落ち着きを払っているようだった。

 格闘術:八極拳を駆使し、徐々に、だが確実にアサシン達を見事な連携で葬っていく。

 彼らは代行者。戦闘の達人。

 かたやアサシンは諜報の達人で戦闘は専門外。おまけに八〇体に分裂して召喚されたため、その一個体ごとの戦闘能力はそれぞれ八〇分の一となっている。

 並みの魔術師や聖職者であれば、そんな貧弱なアサシンの能力でも(ほうむ)ることは容易かったであろうが、如何(いかん)せん相手は歴戦の闘士:代行者。教会の裏家業の従事者である。

 押されているのは奇襲をかけたはずのアサシンのほうであった。

 

「「く、くそぉぉぉッ!!!」」

 

 最後の二体を父子は同時に討ち取った。

 

「ふぅ、久しぶりに良い運動となったな。綺礼、疑って悪かった。では、これより所定の手順に従って聖杯戦争の停止を宣――」

 

 と、再び璃正の会話が途切れた。

 だが今度は自らの意思で言葉を切った訳ではなかった。

 

「ち、父上ぇぇぇッ!!!」

 

「ふん……」

 

 突然空間に現れた男に銃口をこめかみにあてがわれ、そして時置かずして射殺されたからであった。

 脳を撃ち抜く痛恨の一撃。

 璃正は即死した。

 

「お、お前は……衛宮 切嗣!?」

 

 綺礼にはその男の顔に覚えがあった。

 父の死による悲しみや怒り、悔しさはどこかへと吹き飛んだ。

 綺礼はこの男:切嗣に邂逅(かいこう)するために聖杯戦争に馳せ参じたからだ。口は頭よりも先に動いていた。

 

「答えろ、衛宮 切嗣! お前は飽くなき闘争の果てに如何(いか)なる解を得たのだ?!」

 

 距離を取り問い掛ける。

 

「タイムアルター・クィンティブルアクセル!!」

 

「な、何だって? それはど――」

 

 言葉は途切れた。

 必死に切嗣の言葉を聞き取ろうとした綺礼は戦闘に対する集中力がまるでかけていた。

 

「う、ぐぁぁぁぁぁ……」

 

 一瞬の内に間合いを詰めた切嗣に愛銃の銃床での一撃をお見舞いされる綺礼。頭蓋を直撃される。

 固有時制御・五倍速(タイムアルター・クィンティブルアクセル)。文字通り通常の五倍の速度で行動出来るこの魔術を使用しながらの打撃攻撃には、流石の代行者も抗しきれなかった。

 綺礼は頭蓋を叩き割られ脳を損傷。即死した。

 

「聖杯さ」

 

 最後に切嗣は短く呟いたのであった。

 


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