【完結】Fate/Zero 正義   作:いすとわーる

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《Interlude 03 第八の契約》+《第一二話 策謀》

 

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Interlude 03 第八の契約

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「――告げる。我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従うならば答えよ」

 

「「「了解しました、間桐 臓硯様。今この時より我ら影の英霊、あなたに従いましょう」」」

 

 間桐邸。ここに新たなマスターが生まれた。

 マスターとサーヴァントとの変則契約。間桐 臓硯をマスターとして、百の貌のハサンをアサシンのサーヴァントとする契約である。

 通常サーヴァントは同時に二人のマスターと契約することは出来ず、出来たとしても前マスターにそれを感づかれてしまうのが関の山であろうが、この契約は例外であった。

 

「これでワシとお前達の間にパスが繋がった。言峰 綺礼だけでなく魔力はこのワシも供給することとなる。しかし令呪の束縛を使えるのはこのワシのみとなった……時が来ればこちらから連絡しよう」

 

「「「了解しました、新たなるマスターよ」」」

 

 アサシンは霊体化し姿を隠した。

 

「カッカッカッカ! 此度の聖杯戦争は見送ろうかと思っていたが、まさかこんな展開になるとはの。雁夜、期待しておるぞ。この戦い、ワシら間桐家の勝利で終わらせてみせようぞ!」

 

 間桐邸地下室で臓硯は薄気味悪い笑い声をあげるのであった。

 

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Interlude 03 END

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《第一二話 策謀》

 

 

「言峰父子の殺害に成功した。これより令呪の回収を行う。何かあれば連絡しろ」

 

『了解しました』

 

 冬木教会。切嗣はミッション成功を部下の舞弥に衛星電話で伝えると、次のミッションに取り掛かった。

 それは言峰 璃正の腕に何十と連なる令呪の回収であった。

 

「(令呪は強力だ。サーヴァントを縛るという本来の目的以上に、その莫大な魔力によって魔法に近い奇跡を成し遂げることが出来る)」

 

 冬木教会に突如として現れた切嗣。

 その種は令呪の使用にあった。

 

「(令呪を使用すればサーヴァントだけでなく、マスターも自らの(おもむ)きたい場所へと瞬間移動することが出来る。このような便利な物を回収しない手はない!)」

 

 聖杯戦争は今回で四回目であるが、いままでに一度たりとも願望の成就に至ったものはいなかった。

 前回の儀式も未達成に終わり、その際に余った令呪を監督役が回収し、自らの腕に保存してきた。

 

「(監督役は聖堂教会から派遣された組織の人間。となれば不慮の事故に備え、後任者に令呪を移し替える手段が、この教会のどこかに隠されている可能性が高い。これを確保すれば今後の戦いは極めて優位に……いや、僕らの勝利は確定するに等しい!)」

 

 固有時制御・五倍速。

 体内時間を加速し、超速での行動が可能になる衛宮家の魔術の集大成。

 本来であれば、使用後に反動によって体に相当の負担のかかる大技である。

 

「(アヴァロン……召喚したときにはどうなるものかと思ったが、僕とあの可愛い騎士姫様の相性は思った以上にいいのかもしれないな……)」

 

 胸に手を当てる切嗣は思う。

 彼の体には今、アルトリアの宝具:全て遠き理想郷(アヴァロン)が埋め込まれている。

 持ち主に不老不死と無限治癒能力をもたらす最強の宝具。

 

「(だが、これを僕が持ち続ければ、アイリに未来はなくなる。早く令呪を移しかえる手段を探さないとな)」

 

 アルトリアを召喚してからというもの、切嗣はアイリスフィールからアヴァロンを借り受け、固有時制御の修行に取り組んでいた。

 ロンゴミニアドは聖杯戦争を破滅させかねない危険な宝具。となればアルトリアそのものは戦力としては余程重要な局面以外では扱い得ない。

 となれば通常は、マスターである切嗣自らが戦いに赴く他ない、そういうことであった。

 しかし当然、アヴァロンがなければ、遠からずアイリスフィールは吸収した英霊達の魂の圧力によって人でなくなり、単なる聖杯という物になってしまう。

 修行や戦闘は最小限に留め、すぐにアイリスフィールにアヴァロンを戻す必要があった。

 一時間ほどして目当てのものは見つかった。

 切嗣の腕には無数の令呪が刻まれることとなった。

 

「では戻るか」

 

 節約する必要はもう無かった。

 切嗣は奇跡の力を使って、アイリスフィール、舞弥、ランサーアルトリアの潜むアジトへと瞬間移動した。

 

「……な、何だと?!」

 

 アジトは荒らされ、廃虚と化していた。

 冬木の下水道網のとある地下貯水槽にアジトはあったが、そこには舞弥の死体が転がり、満身創痍の様相で地面に座り込むアルトリアの姿があった。

 

「何があった、ランサー」

 

「キリツグ……すみません、アイリスフィールを奪われました」

 

 アルトリアは事態を説明しだした。

 

「キリツグとの通信を終えて直後、私たちはアサシンとセイバーの襲撃を受けました。襲撃と同時に衛星電話を破壊されて、貴方に連絡を取ることは出来なくなってしまいました。私はセイバーの相手をするだけで精一杯で、マイヤは殺され、アイリスフィールは連れ去られてしまいました。不甲斐ない……申し訳ないです……返す言葉もありません……」

 

 アルトリアはひどく落ち込みんでいた。

 全身傷だらけではあったが、致命傷は一切受けていないようであった。

 手には第三段階まで解放した、血みどろのランクB《対人》宝具:ロンゴミニアドが握られている。

 

「(アルトリアが思いの外、健闘したのか? ……いや、あえてだな)」

 

 切嗣は既に感情を切り離し、冷静な戦力分析へと移っていた。

 

「(アルトリアが致命傷を受ければ、パスで繋がっている僕にもその危機が伝わる。となれば瞬間移動でアジトへと戻ってきて、アイリスフィール奪取を防ごうとしただろう……僕はまんま他人の手のひらの上で踊らされていたというわけか!?)」

 

 思わず片膝をつくと、悔しさで地面を殴りつけた。

 

「(自分だけが諜報していると(たか)(くく)って、他者が自分達を探っていることを考慮し忘れるなんて、僕は一体どれだけ暗殺者としてタルンでいたというんだ……いや、今更後悔しても仕方がない)」

 

 切嗣はゴキブリ型の偵察ロボを使ってほぼ全てのマスターの動向を探っていた。

 それゆえに絶妙のタイミングで冬木教会に奇襲を仕掛けられたのだ。

 間桐 臓硯がアサシンと秘密のサーヴァント契約を交わしていることも当然掴んでいた。

 自分が知らないことは何もないと、過信してしまっていた。

 だがそれは誤りで、臓硯や雁夜達間桐家は切嗣の上を行き、情報が知られていることを知った上で、あえて泳がせ、切嗣から小聖杯(アイリスフィール)をまんまと盗みとったというわけであった。

 

「(これでもう守りに徹するという訳にはいかなくなった……だが、ここからが本番だ!)ランサー、これからは攻めに転じる」

 

「は、はい!」

 

 アルトリアは従順にそれに応じた。

 戦いはまだ終わっていない。

 切嗣には信頼できる騎士姫という心強い味方が残っているからだ。




・あとがき

 これにて中編は終了し、後編に突入します。

 最後まで、よろしくお願いいただけたらと思います。

 感想などありましたら、お気軽にどうぞ。

 それでは!

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