【完結】Fate/Zero 正義 作:北条 ゆう(いすわーる)
《第一三話 雁夜とアイリスフィール》
間桐家の地下室。
今そこにいるのはアイリスフィールである。
既にバーサーカー、ライダー、数十のアサシン、そして直近ではキャスターが切嗣の瞬間移動による奇襲によって、魔弾《起源弾》を体内に撃ち込まれ、結果自滅で倒されたことによって、小聖杯たるアイリスフィールは人間としての機能をほぼ喪失し、自力で動くことは叶わなくなっていた。
「私、もうすぐ死ぬのね……」
呟くアイリスフィール。
ここ数日、彼女は切嗣やアルトリアが助けに来ないかと待ち続けていたが、遂に彼らは現れなかった。
令呪による瞬間移動を考えなかったわけはないので、おそらく間桐 臓硯が特殊な魔術結界を発動させ、それを防いだのだろうと、アイリスフィールは予測していた。
令呪のシステムを開発したのは間桐家なのだ。
熟知していれば、いくらでも対策をたてることが出来よう。
「(でも、大丈夫……今回のアインツベルンの策はその上を行ってる……)」
アイリスフィールは不敵な笑みを浮かべた。
「(それはつまり、この私。生きる聖杯。私の肉体が滅びれば、その精神が聖杯に乗り移り、願いの成就を制御する。私は大聖杯を覆う殻となる)」
つまりはアインツベルン陣営にとって、戦いでの敗けは、そもそも敗北を意味しないということであった。
儀式の場所を提供した遠坂、令呪システムを考案した間桐、聖杯システムを構築したアインツベルン。そこに招かれた四人のマスターを加えて聖杯戦争は《表向きそれなりに平等な》バトルロワイヤルとして開催される。
だがそれはあくまで表向きの話。
土地だけを提供している遠坂を除けば、間桐は令呪を、アインツベルンは聖杯をそれぞれ自らの管轄においており、大なり小なり、いざという時にはそれらを悪用する手段を隠し持っている。
もちろんそれが過ぎれば、万能の願望器を手に入れたい、という共通益でもって儀式を開催している三家に亀裂を生むことになり、最悪聖杯戦争は今後一切開かない、ということにもなりかねない。
よって騙し合いの駆け引きが繰り広げられるわけだが、アインツベルンは今回一歩リスクを犯して踏み出したという訳であった。
「(! 誰かが近づいて来る?!)」
目を開け、音のした方向へと視線を向けると一人の男が立っていた。
半身が壊死し、異形の姿となった男であった。
「俺の名は間桐 雁夜。あんたは?」
雁夜はアイリスフィールにそう問うた。
「……アイリスフィール。アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ。何かご用かしら?」
「あんたの望みは何だ?」
しばし逡巡するアイリスフィール。
「答える義理はないわ」
そう冷たく返した。
相手の思惑が分からない以上軽率な行動は取れなかったし、何よりこの男の外見が不気味であったからだった。
アイリスフィールにも人の心がある。醜いものには、無意識のうちに警戒感を抱いてしまう。
「……そうか」
会話はそれで終わった。
雁夜はしばらくして地下室を去って行った。