【完結】Fate/Zero 正義   作:いすとわーる

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《第一四話 葵と雁夜 上》+《Interlude 04 ありし日》

 

《第一四話 葵と雁夜 上》

 

 

 雁夜は自室で仮眠を取っていた。

 これは何もダラケているというわけではなくて、体力を温存するためであった。

 ちなみに臓硯はというと、敵の襲撃に備えて、間桐邸に数多の魔力炉を設置し、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の類いを放ち、また一部を異界化させていた。

 平たく言えば、邸宅を完全に魔術要塞へと変貌させる作業に専念していた。

 雁夜はそんな臓硯よりあるミッションを与えられてアイリスフィールの元へと向かったわけだが、とある事情で思い止まり、自室で仮眠を取っていたというわけであった。

 

「……んぅ、電話か……」

 

 と、携帯の着信音が部屋に響いた。

 半身を起こすと電話に出る。

 

『……雁夜君?』

 

「あ、葵さん?!」

 

 思わず声が裏返った。

 聖杯戦争に参加してからというもの、色々な諸事情あって連絡は取っていなかったので、予想外だったというのが理由だった。

 

「どうしたの?」

 

『……雁夜君。時臣が死んだわ……』

 

「……」

 

 間桐家での戦闘から既に数日が経過していた。

 どうやって時臣の死を葵が知ったのかは雁夜には分からなかったが、葵と時臣は夫婦だ。定期連絡などしていて、それが無くなったなどかも知れない、と雁夜は推測した。

 

『雁夜君が……殺したの?』

 

「!?」

 

 全身がヒヤリとした。

 どう答えればいいのか?

 

「……」

 

 雁夜は何も答えず、沈黙を保った。

 もし体力がなく精神的に追い詰められていれば、言い訳をしていたような気がした。

 『時臣が全ての元凶なんだ!』とか『あいつさえいなければ皆幸せになれたんだ!!』とか。

 だが冷静に考えれば、雁夜にとっては時臣は憎い男ではあったが、葵にとっては愛すべき夫なのだ。

 何の言い訳もするべきではないし、当然嘘をつくなどもっての他だった。覚悟はしていた。

 だが、雁夜は葵を愛していたし、大好きであった。自分から嫌われるようなことも言いたくなかった。

 

『……雁夜君、話しておかなくてはいけないことがあるの』

 

「あぁ、何かな?」

 

 だから話題を変えてもらうまで、雁夜は一切言葉を発しなかった。

 

『凛と桜は、あなたの実の娘なの』

 

「えっ?!」

 

 

 

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Interlude 04 ありし日

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「どういうこと、雁夜君?」

 

「俺は魔術師にはならない。間桐の家を出て普通のごく平凡な人間として生きていくって決めたんだ! 葵さん、俺と一緒に生きていこう」

 

 冬木市内のとある公園。夜。

 若き日の、二〇代前半の雁夜と葵の姿がそこにあった。

 逡巡した様子の葵。

 目を(つぶ)りしばし思い悩んでいるようであったが、一分後には目を開け口を開いた。

 

「それは……無理よ。雁夜君、考え直して。あなたには魔術師としての才能がある。どうしてその道を投げ捨てる必要があるの? 臓硯お父さまも、鶴野お兄ちゃんも、みんな貴方に期待しているのよ? あなたなら、間桐の家を変えてくれるって! 聖杯をもたらしてくれるって。あなたは彼らを裏切れるの?」

 

 葵は雁夜の生まれながらの許嫁(いいなずけ)であった。

 だが、雁夜は葵を運命の女性だと確信していたし、また葵もそう確信していた。これは決められた道ではあるが、自分達の望んだ道でもあると。

 

「俺は……俺は人殺しなんてしたくもない……魔術を手に入れるために人の道から外れたくなんてない……平凡でいい、穏やかな愛情(あふ)れる人間としての人生を送りたいんだ。時計搭から退学するし、もうこの冬木に二度と戻ることはない。葵さん、一緒に来てほしい、絶対後悔はさせないから!!」

 

 自信に()ち溢れた雁夜の力強い声。

 だが葵の瞳は絶望の色を映していた。二人の間に沈黙が流れる。

 

「私は……私は禅城の家を裏切れない。パパとママと家族の縁を切るなんて出来ない……さようなら雁夜君。幸せになってね……」

 

「あ、葵さん!」

 

 座っていたベンチを立ち上がると葵は走って公園から出ていった。

 

「葵さん、どうして……」

 

 雁夜は彼女を追うことが出来なかった。

 それからほどなくして、雁夜は一人冬木の町を出奔。

 次に彼が葵に会ったときには、彼女は二児の双子の母親となっていたのであった。

 出産は零時を(また)ぎ、凛と桜の二人は一学年離れた双子の姉妹となったのである。

 

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Interlude 04 END

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