【完結】Fate/Zero 正義   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《最終話 切嗣と士郎》

 

「来たか、衛宮 切嗣」

 

「僕を知っているのか?」

 

 鍾乳洞の少し開けた場所で待っていたのは、中華服をまとった長身の男であった。

 

「あぁ、私はお前の息子だからな」

 

「何?」

 

 思いもよらなかった発言に思わずキョトンとする切嗣。

 

「僕に君のような大きな子供はいない。昔から見た目より年上に見られることも多かったが、僕はまだ三〇代半ばだ。それともお前は未来からタイムスリップしてきた英霊だとでも言いたいのか?」

 

「その通りだ」

 

「ふざけるな」

 

 気が緩み始めていたのは事実だが、切嗣は元より冗談が好きなタイプではなかった。

 

「私の……いや、俺の名前は衛宮 士郎。お前の養子だ。第四次聖杯戦争に敗北したお前は、ここ冬木で起こった大災害から俺の命を救い、養子にしたのだ」

 

「何の話だ?」

 

「理解する必要はない。俺もそれは求めない……俺が求めるのは復讐のみ! 《無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)》!!」

 

「!?」

 

 次元が歪む。

 切嗣は異空間へと飛ばされた。

 燃えさかる炎と、無数の剣が大地に突き立つ一面の荒野。空には回転する巨大な歯車が回っている。

 

「固有結界か……」

 

「油断は禁物だぞ!」

 

 息つく暇もなく、アーチャー:衛宮 士郎は攻撃を仕掛けてきた。

 

固有時制御・二倍速(タイムアルター・ダブルアクセル)!」

 

 アヴァロンのない今、切嗣に出来る固有時制御はそれが限界であった。

 対サーヴァント戦においては心細いことこの上ない。

 しかし負けるわけにはいかなかった。

 短刀二刀で武装しているアーチャー。今までの人生で蓄積した戦闘経験から導きだした先読みに基づいて、振るわれるより前に剣筋を見切り、見事に余裕をもって避けて見せた。

 そこで違和感を感じる切嗣。

 マスター権限は失ってしまっているので確信はなかったが、直観出来た。こいつは――

 

「お前、ハグレサーヴァントだな?」

 

「……厳密に言えばそれだけではない……魔術師に召喚されなかったのさ、俺は。だから俺の能力値は普通の人間とほとんど変わらない。もちろん、宝具や固有結界を駆使することは出来るがな」

 

 切嗣の予測はおおよそ当たった。

 

「……なぜ、自らの手の内を(さら)す?」

 

「言ったろう。お前が俺の父親だからさ。家族の間に秘密は必要ないだろう?」

 

「またその話か……」

 

 剣撃を避けながら切嗣。

 反撃のためにコンテンダーを構えた。

 発射しようとして思い止まる。

 念のために言えば情にほだされたわけでない。

 

「(英霊とはいえ人間と大差ないコイツにこれを放てば、息の根を止めてしまうことになる。そうなれば、アイリスフィールは英霊の魂の負荷に耐えられず人間ではなくなってしまうかもしれない……クソッ!)」

 

 致し方ない。

 そう判断すると、切嗣は愛銃を懐にしまい、地面に突き立てられた剣の一本を手に取った。士郎の剣撃をいなしつつ、時間稼ぎを開始する。

 

「で、お前の言う未来での僕はどんな男だったんだ?」

 

「ふんっ、信じないのではなかったのか? ……まあいいか……老人のような男だったよ。アンタはね、爺さん」

 

「……」

 

「機会があれば、魔術師としての生き様と正義について俺に語った。馬鹿な俺はそれを信じて、道を突き進んだ……その先に何が待っていたと思う?」

 

「絶望か?」

 

「その通りだ! このクソジジイッ!!」

 

 切嗣には段々と、この男:士郎の言うことが本当のように思えてきた。

 

「世界のためと思い初恋の女性を死地へと赴かせた! 最愛の女性を世界のためと思い自らの手で殺めた! 軽蔑されたよ、憧れの女性から!! 何を考えているのか、訳が分からないって!! 全部お前のせいだ!! セイバーを失ったのも、桜を失ったのも、凛を失ったのも、全部全部お前が悪いんだよ、爺さん!」

 

 剣が吹き飛ばされた。地面に尻が激突した。

 ただし地に伏したのは――

 

「すまなかったな、士郎」

 

 アーチャー:衛宮 士郎であった。

 

「……いいんだ、爺さん。俺、本当は分かってたんだ。こんな復讐意味ないってさ」

 

 覚醒した魔術回路を持たない少年:佐藤 士郎……かつての自分と契約した英霊:衛宮 士郎は、ほとんど魔力供給を得ることが出来なかった。

 アーチャーとしてのスキル:単独行動と霊体化、そして魔力の溢れだす大聖杯近くにずっと居座り続けたことで、何とか現界を保っていたが、既に士郎の魔力は枯渇(こかつ)寸前であったのだ。

 円蔵山にいた理由はそれだけではない。いざとなれば彼は大聖杯を自らの手で破壊するつもりだった。

 とはいえ彼も人間だった。ギリギリまで、鍾乳洞で待つことに決めた。

 かつて自分が辿り着いた終着駅に、養父もまた辿り着くのではないかと、どこかで予期していたから。

 そして運命が許すのであれば、自らの養父に復讐したかった。いや――

 

「人喰いはしなかったんだな」

 

 固有結界が崩壊した。再び鍾乳洞に二人の姿が現れた。

 

「……正義の味方が、無実の無垢(むく)の人々を殺すわけにはいかないだろ……爺さん、あんたの教えだよ。魔術は自分のためじゃなく、他人(ひと)のために使えってさ……殺せよ、爺さん。最後にアンタにまた会えて良かったよ。純粋だった、あの頃を思い出せた」

 

「……」

 

「殺せよ、爺さん。アンタに葬られるなら、それで本望だ……誰にも理解されなかったが、俺は俺の信じた道を進んだ……爺さん、アンタのお陰でさ……復讐なんて、筋違いだ」

 

「……」

 

「殺ってくれ」

 

 目を瞑り、覚悟を決めた様子の士郎。

 切嗣は剣を手にした右手を振り上げた。

 

「告げる! 汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら――」

 

「爺さん?! な、何のつも――」

 

「僕の息子になれ! ならばこの命運、汝が双剣に預けよう……!」

 

 唖然とする士郎。

 だが渇いた笑い声をあげると、何もかもを受け入れた幸せそうな表情になり、返事を返した。

 

「衛宮 士郎の名に懸け誓いを受ける……! アンタを俺の父として認めよう。爺さん」

 

 それから数十分ほどであったが、二人は大聖杯がアルトリアによって破壊されるまで、想い出話に花を咲かせた。

 

「やっぱり、親子だな。人生が似かよりすぎだ」

 

「ははは。だからそう言ったろう……爺さん、アンタはもう間違うなよ」

 

 最後にそう言い残して士郎はその姿を消した。

 大聖杯が破壊されたのだろう。

 切嗣は悟った。

 

「ああ。絶対に」

 

 こうして、第四次聖杯戦争は幕を閉じたのであった。




・あとがき

これにて『Fate/Zero 正義』の本編が終了し、後日談のエピローグに入ることになります。

お楽しみ頂けましたでしょうか?

さて、エピローグは《エピローグ》と《おまけエピローグ》の二話で構成されています。

実質は前編と後編なので、是非最後までお楽しみ頂けたらと思います。

感想などありましたら、お気軽にどうぞ。

それでは!
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