【完結】Fate/Zero 正義   作:北条 ゆう(いすわーる)

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おまけエピローグ
《家族》


 

 カムランの丘。

 アーサー王:アルトリア・ペンドラゴンの姿はそこにあった。

 手にはロンゴミニアドの槍。

 息子:モードレッドとの激戦の最中に彼女あった。

 

「一体、どういうことだ?」

 

 思わず呟くアルトリア。

 彼女は呆然としていた。

 《自らの手で殺めたはずの息子》は未だ眼前にあり、代償で負ったはずの《自らの致命傷》もなく、騎士王アルトリアは満身創痍とはいえ未だ健在であった。

 

「(私はブリテン国を破滅の運命から救うため、死後に《守護者》となる契約を世界と交わし、聖杯を求める悠久の旅路に道を求めたはず……しかしこれは)」

 

 記憶は朦朧としている。

 

「(何があったか、よく思い出せない……だが、私はどこかで聖杯を求める戦いに身を投じていたような気がする。そして……懐かしい……そうか、かつて私にもあったのだったな、姫と呼ばれ、民衆に慕われた少女であった青春時代が……)」

 

 モードレッドの振るう《燦然と輝く王剣(クラレント)》を槍でいなしながら、アルトリアは思う。

 マーリンと共に旅をしを、《ヴァイキング》を始めとした蛮族を撃退し、困窮した国民を救っていたありし日々を。

 

「(あの時は気楽な毎日であった……人の上に立ってからはそうはいかなくなったが、目の前にいる人々を救うことさえ考えれば良かった。成果は目に見えるから分かりやすかったし、人々からは感謝をされるばかりであった……)」

 

 アルトリアの意識は徐々に明瞭となっていった。

 

「(あぁ、そうか。私は、かつて乙女であった一〇代の騎士姫として聖杯を求める闘争に身を置き、そして正義を為すために、自らの手で聖杯を破壊したのだったな、この《ロンゴミニアド》で……そうか、これは世界の法則をねじまけたことによる副作用か……)」

 

 最終的に一三ある拘束のほぼ全て、世界を滅亡させない限界ギリギリのラインである一二の拘束まで解除し、大聖杯を跡形もなく消滅させたアルトリア。

 あまりに強大な力は嫌がおうにも世界に干渉せざるを得ない。

 今、アルトリアがカムランの丘で息子と死闘を繰り広げているのもそういう訳なのだろう。

 《(よわい)を重ねた》騎士王アルトリアの容姿は可愛いというより美しく、体躯(たいく)もスレンダーというよりグラマーであった。

 

「……モードレッド、お前の望みは何だ?」

 

「口にするまでもないッ! ブリテンの王位を手にすることです、父上!!」

 

「そうか……」

 

 アルトリアは地面を一蹴りし、距離を取ると腰の高さで槍を構えた。

 

「ここで戦いを決せられるおつもりですか、父上? いいでしょう、受けて立ちます」

 

 モードレッドはクラレントを大上段に構えた。

 静寂が流れる。

 空気を察したのだろう。気づけば周囲の雑兵や将校は各々の戦いを中断し、決闘の様子をじっと見守っていた。

 モードレッドが地面を蹴り、アルトリアに向かって突撃する。

 待ち構えるアルトリア。

 情勢が動いた。

 

「ち、父上……なぜ……」

 

「お前がナンバーワンだ、モードレッド。我が愛しき息子よ……」

 

 地面に落ちたロンゴミニアド、左肩口から右腰まで真一文字に切り裂かれたアルトリア。

 多量に溢れだす血液は彼女から最後の活力を奪った。地面にバタリと仰向けに倒れ込んだ。

 アルトリアは動かなかった。大上段から降り下ろされたモードレッドの剣は無抵抗の彼女を切り刻んだのであった。

 アルトリアはモードレッドからの怨念の一撃を真正面から受け止めたのである。

 

「これでいい……」

 

 アルトリアは最後にそう呟き、息を引き取った。

 茫然と立ち尽くすモードレッド。

 決闘の地周辺にも静寂が流れ続ける。

 しかし、時は流れ、歴史は動く。

 誰かが叫んだ。

 

「新ブリテン王:モードレッド王、万歳ッ!!」

 

 ピクリとモードレッドが肩を震わせた。

 停止していた思考が再び動き出す。

 新王は剣を振り上げた。

 

「ブリテン王:アルトリア・ペンドラゴンはオレの手によって葬られた! 王位は一人息子である、このモードレッド・ペンドラゴンが引き継ぐ!! 己が王国臣民足らんと欲する者は、今この場でオレに忠誠を誓えッ!!」

 

 その声は戦場中に響き渡った。

 続くのはガチャリガチャリと、武器を棄て戦いを放棄するアルトリア軍の将兵の姿。みな、戦意を喪失していた。

 中世の騎士の世界において、血筋ほどに権威を持つものはない。

 アルトリア軍は錦の御旗を失った。カムラン丘決戦の勝敗は決せられた。

 ペンドラゴン王家の血筋を引き継ぐのは今やモードレッドただ一人。それが答えであった。

 一つの時代が終わる。そして、新たな時代が始まる。

 ここカムランの丘にてブリテンの新たな歴史が始まるのである。

 

 

 

「僕はやっぱり納得出来ない!」

 

「どうされたんです、先輩? 急に大声を出すから……よしよし、ごめんなさいね、ケリィちゃん。パパが急に大きな声なんか出すから……」

 

 二〇代後半の女性:佐藤 桜は夫の佐藤 士郎をジロリと睨んだ。

 

「……ご、ごめん。ごめんなさい……」

 

 士郎の妻は普段は温厚で優しいが、怒ると恐いタイプの女性であった。曰く母譲りとのこと。

 背筋には汗が流れて、ヒヤリとした感覚になる士郎。

 一時間かけてようやく赤ん坊の息子を寝かしつけたにも関わらず、その間に愛読書『ブリテン帝国衰亡史《序章》アーサー王伝説』を読み耽っていた士郎が、余計な横槍を入れ、努力を台無しにされたことに、桜は怒っていたのであった。

 これほどの怒りを買ったのは、かつて士郎が初めて桜の実家:間桐家にお呼ばれした際に、彼女の姉を見てデレデレと惚けていたのを『浮気は許しませんからね』と言って桜が満面の笑みを浮かべながら、静かに語りかけてきた時以来のことであった。

 流石に空気を察する士郎。

 全力の顔芸で息子の佐藤 《切嗣》を笑わせて、何とか泣き止ませると、玩具を使って、優しく語りかけて、ようやく再び眠らせることに成功するのであった。

 

「で、どうしたんですか、先輩。また、いつものアーサー王悲劇(たん)ですか? 先輩が同じお話を何度読んでもそんな風に深く陶酔出来ること、私は本当に感心しています」

 

 やはり余程怒っているようで、桜の語調は大変厳しいものであった。

 笑顔が顔面に張り付いていた。

 士郎も返す言葉がない。

 

「……でも、私、何となくアーサー王の気持ちが分かる気がします」

 

 しかしそれでは、さしもの桜も居心地が悪かったのか、アーサー王伝説の話題へと移っていった。

 

「そうなの?」

 

 (わら)をも掴む気持ちで士郎は合いの手を入れた。

 桜は機嫌が取り直してきたようで、表情は日常の柔らかなものに戻り、ほどなく続きを喋り始めた。

 

「きっと息子が可愛かったんだと、私は思います。やっぱり《自分が腹を痛めて産んだ子》です。戦いに赴いたものの、戦意を喪失し、自ら死を選んだ……たとえそれでブリテン国が悪しき方向に向かってしまうと頭では分かっていても、心はそれに抗えなかった……愛より大切なものなんて、この世に存在しませんから。ねぇ、先輩?」

 

「……う、うん。そうだね。桜の言う通りだよ」

 

 桜の機嫌が良くなった。

 彼女は士郎にキスすると、そのまま二人は寝床へと向かった。

 ちなみにこれは、今が深夜であって疲労感から布団に向かったわけであって、それ以上の意味はない。

 桜はほどなく夢の世界へと旅立った。

 

「(モードレッドはアーサー王の子供ではなくて、本当は甥か姪、あげくクローンであるっていう解釈もあるし、モードレッドは自分を息子と認めるようアーサーに迫ったけど、拒否されたってエピソードもあるんだけどな……まぁ、あの場でこれを言うのが正しかったとは全く思わないけど……)」

 

 士郎は心にどこかモヤモヤを抱えながら、思索に耽っていた。

 ちなみに彼は、アーサー王は人の上に立つ自分に疲れ果てて、誰でも良いから自分の代わりにブリテン王になって欲しかったから、自ら死を選んだのだと考えていた。

 

「(……でもまあ、桜の言うことも分からなくはないか……)」

 

 自らの可愛い妻の寝顔を見ながら、士郎は考え直す。

 アーサー王とて人間だ。情にほだされることもあるだろう。

 もちろん真実は神のみぞ……すなわち《小説『ブリテン帝国衰亡史』》の作者のみ知るところであるが……

 それに作者と言っても、『ブリテン帝国衰亡史』――特に序章の『アーサー王伝説』――は民間伝承を纏めたものにすぎないから、特定の作者などいないわけだが……

 実際、時代設定が滅茶苦茶で六世紀にはいるはずもないヴァイキングが出てきたり、既に崩壊しているはずのローマ帝国にアーサー王は遠征を繰り返したりする。

 荒唐無稽の一言だ。

 しかしいずれにせよ、小説であれ、なんであれ人々の心を現実以上に震わす至宝のフィクションはこの世に確かに存在するのである。

 

「(改めて考えると、よく桜は僕の奥さんになってくれたよ……)」

 

 士郎と桜の出逢いは、お手伝いさんとして士郎が桜の実家の間桐家でバイトを始めたのがキッカケであった。

 士郎がゲーミング用の高性能パソコンを自分でオリジナルに作ろうとして、その部品代を捻出するためにバイトを始めたのがキッカケだった。

 

「(子供のときは正義の味方に憧れてたけど、バイトを始めた時は、自分第一って感じだったな~。料理も全然上手く作れなかったし、掃除も下手くそで、目も当てられたもんじゃなかった……)」

 

 今思えば、高校生のバイトでなぜお手伝いに応募したのかも分からないし、なぜゲーミングパソコンにそこまで熱を入れていたのかも、よく思い出せなかった。

 しかし何でか間桐家で働くことになり、大して役にも立てなかったが、桜や彼女の父親、今では士郎の義父の雁夜にも気に入られて、バイトとは関係なく、間桐家に入り浸るようになり、そのまま何でか士郎と桜は付き合うことになり、そして気づけば結婚していた。

 不思議と言えば不思議だし、偶然と言えば偶然だし、運命と言えば運命と言えた。

 でもまあ人生なんてそういうものかもしれない。

 実際、息子の名前は夢に出てきた自分の養父と名乗る男性から拝借したものであった。姓名判断師に訊いてみれば、中々縁起の良い名前とのこと。

 古くさい奇妙な名前だと家族親族は不満げであったけれど、今のところ佐藤 切嗣は健康にスクスクと育っている。

 先日など早くもパパ、ママと呼んでくれるようになったし、将来はかなりの天才学者になってくれるのでは、と士郎は期待していた。

 典型的な親バカかもしれないが……

 

「(そういえば、他にも変な夢見たな……凛義姉(ねえ)さんだったり……あろうことか、アーサー王と僕が恋人になって……まさかあんなことを……桜に知られたらただじゃすまないだろうけど……またあの夢の続き、見れたりす――)」

 

「浮気は絶対許しませんからね!!」

 

「?!」

 

 ムニャムニャと笑みを浮かべながら寝言を発したのは桜だ。

 ビクツク士郎。

 そうだね、不倫は駄目だね。

 心に誓う士郎。

 その日彼がどんな夢を見たのかは……秘密にしておくことにしようか……




・あとがき

『Fate/Zero 正義』の連載はこれで終わりです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

お気に入り、感想、高評価などして頂いた皆様、本当にありがとうございました。励みになりました!

それでは!
またお会いできる日を楽しみに待っております。
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