【完結】Fate/Zero 正義   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第四話 切嗣とアイリスフィール 下》+《第五話 アインツベルンの森にて》

 

《第四話 切嗣とアイリスフィール 下》

 

 

 時は現在に戻る。

 切嗣とアイリスフィールはアインツベルン城の一室、彼女の私室で紅茶を飲みながら、決定した今後の方針についての最終確認をしていた。

 

「確認だ、アイリ。召喚前に想定していた『アイリがアルトリアのマスターとして振る舞い、君達に意識を集中している敵のマスター達を不意打ちで僕と舞弥で殲滅(せんめつ)していく』という戦法は止めようと思う。アルトリアの戦闘能力では強力なサーヴァント相手では苦戦するのは目に見えているし、霊体化も出来ない以上撤退も出来ない。確実に勝利出来る戦い以外はさせたくないからね。囮など論外だ」

 

「そうね。切嗣の言う通りだわ」

 

 アイリスフィールはアルトリアのことを気に入っていたし、騎士道を志す心根の真っ直ぐな少女だとは思っていたが、現実も(わきま)えていた。切嗣の方針に文句は無かった。

 

「アルトリアの最大の強みは宝具だ。これを最大限生かすため、序盤は三人で拠点を転々と変えながら敵に居場所を察知されないよう冬木中を逃げ回る。情報収集は舞弥にやってもらう。中盤になれば、集めた情報を元にして消耗したサーヴァントやマスターを宝具で確実に仕留めていく。終盤は四つある聖杯の降臨場所のいずれかに陣取り、聖杯の降臨まで防衛戦に徹する。これで問題ないね?」

 

「ええ。舞弥さんの拠点探しは順調?」

 

「二、三の目星はついたという報告が今朝あった。たぶん倍の数は最終的には見つかるだろう」

 

「それなら安心ね」

 

 舞弥、久宇 舞弥は切嗣の部下である。先行して冬木入りしている。

 

「問題はアルトリアの宝具だ……あまりに《強力すぎる》」

 

「《最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)》。エクスカリバーに並ぶと言われている神造兵装。いえ、実際はそれ以上。真名解放によって合計一三ある拘束を全て解放すれば、現実の物理法則によって成り立つ世界は剥がれ落ち、過去のものとなった幻想法則が現れ、世界は神代に逆戻りしてしまう。つまり《世界は滅亡する》……まさに諸刃の刃ね」

 

「それだけじゃない。ロンゴミニアドは扱いづらい宝具だ。拘束を七つ以上解除すれば《対界》宝具となるが六までは《対人》、《対軍》、《対城》宝具のいずれかになる。だが解放するまでどの種類のどんなランクの宝具なのかは分からないし、一度拘束を解除すれば、もうその拘束を復活させることは出来ない。対界宝具は消費魔力もさることながら、使用すれば大なり小なり、この世界の理を破壊してしまう。最低の七の拘束を外した状態の宝具でさえ世界にどんな悪影響が出るのか、想像すらつかない。たとえこの世界を破壊することはなくても、大聖杯を意図せず破壊して、最悪聖杯戦争そのものを崩壊させてしまうことも十分にあり得る。ロンゴミニアド 、これは現代兵器でいうところの原爆や水爆に匹敵するものだ。不用意には使えない……こんなことは言いたくないけど、本当にやっかいだよ、あの騎士姫様は」

 

 紅茶のカップを置き、椅子から立ち上がる切嗣。向かう先は部屋の窓だ。窓から見えるのは、馬に乗って雪原を駆けている二人の少女の姿であった。

 

 

 

《第五話 アインツベルンの森にて》

 

 アルトリアとイリヤはアインツベルンの森をアルトリアの愛馬:リリィに乗って疾走していた。

 

「すごいね、リリィ。雪の上を裸足で駆けて寒くないの?」

 

「私とリリィは精霊:湖の乙女から加護を受けているので、雪の上や氷の上、水面上でさえ何の苦もなく走り抜けることが出来ます。もちろん、寒さは微塵も感じません。ねぇ、リリィ」

 

 アルトリアがリリィの首を撫でつつ問い掛けると、リリィは嬉しそうに(いなな)いた。

 

「アルトリアとリリィは凄いね。まるでキリツグが観せてくれたエイガのヒーローみたい。優しいし、強いし! 私もアルトリアみたいになれるかな?」

 

「……え、えぇ、もちろんなれますよイリヤ。それを証拠にクルミの冬芽をあなたは私よりも多く見つけられたでしょう?」

 

「えへへ、そうかな。悔しかったらいつでも再戦してあげるよ。チャンピオンはいつでも挑戦を受けるのだ!」

 

 腰に手を当ててエッヘンと胸を張るイリヤ。彼女はアルトリアの前でリリィに股がっていたが、振り向かなかったので、あることに気づかなかった。

 何かというと、アルトリアの瞳から涙が流れていたことにである。

 

「(私の力不足とはいえ、最近は自分の未熟さを思い知ることが多かった……落ち込むことも、バルコニーの時以来切嗣達前では控えていた。本当は辛くて聖杯戦争なんて投げ出したいのに、耐えて頑張ってた……有難うイリヤ、あなたのおかげで元気が出てきました)」

 

 イリヤがキリツグとのクルミ探しの思い出を語り始める中、アルトリアはそんなことを思っていた。

 アルトリア自身、自分が子供だということも分かっていて、大人である切嗣やアイリスフィールの意見は尊重しなければならないことは分かっている。

 しかし彼らの意見や聖杯戦争での方針は騎士道を志すアルトリアには到底受け入れられないものも多かった。当然反論するも、未だ人生経験が浅いためか二人に簡単に言いくるめられてしまう。

 仲は良くなったが、二人から蚊帳の外におかれ、一人前扱いされていないようで、アルトリアの繊細な心は大きく傷ついていたのだ。

 

「よし! スピードを上げますよ、イリヤ。しっかりリリィに掴まってください!!」

 

「うん! 分かった!」

 

 しかし同時に気を取り直すのが上手いのがアルトリアでもあった。

 昔からたっぷりと食事を取れば他人との(いさか)いも、地平の彼方へと忘れ去ることが出来るのが彼女の長所であった。

 今回の出来事もその内、記憶の底に埋没することはアルトリアにも分かっていた。

 

「(後ろばかり向いていては騎士の名が泣きます! 今はこの小さな姫をエスコートして楽しませるのが私の務めです!!)」

 

 そう前向きになって、華麗な馬術でイリヤを楽しませるアルトリアなのであった。

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