【完結】Fate/Zero 正義   作:いすとわーる

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《Interlude 02 間桐 雁夜》

 

 間桐 雁夜はサーヴァント召喚のため、冬木の地にある間桐家の邸宅地下にて召喚の準備に取りかかっていた。

 

「ところで雁夜。覚えてきた召喚の呪文にもう二節、詠唱を差し挟んでもらおうかのう」

 

「どういうことだ?」

 

 問いをとうたのが雁夜。提案を投げ掛けたのは彼の父:間桐 臓硯である。

 

「なに、単純なことじゃよ。雁夜、オヌシの魔術師としての格は他のマスター共に比べて(いささ)か以上に劣るでな。それではサーヴァントの基礎能力にも影響しよう。ゆえにお前にはバーサーカーのクラスでサーヴァントを召喚してもらおうかと思ってな」

 

「……」

 

「貴様の命はあと持って一月といったところ。他のマスター共とは違い、聖杯戦争に勝利したあとのことは考えなくても良い。ならば負担はかかるが、ステータス補正のあるバーサーカーのサーヴァントを召喚するのが、オヌシの戦略に沿うものだと、そう思ったまでじゃ……召喚の触媒を用意し、作戦まで練ってやったこの父の親切を無にするでないぞ。クッカカカカカ!!」

 

 高笑いする臓硯。

 

「断る」

 

「なんじゃと!?」

 

 しかし雁夜の返答は臓硯の予想を裏切るものであった。上機嫌から一転、怪訝な表情に変わる。

 

「あんたは俺の苦しむ姿が見たいだけだろ? そんなふざけた作戦、俺は受け入れられない。臓硯、俺が独自に何の下調べもせずに聖杯戦争に参加しようと決めたとでも思っているのか?」

 

「何のことじゃ?」

 

 しらばっくれる臓硯。しかしそれは彼の思惑が見透かされ、動揺したがゆえにであった。

 

「とぼけるなよ、臓硯。あんたはこれまでのバーサーカーのマスターの末路を知っているはずだ。皆、強力なサーヴァントを召喚できるというメリットにつられて召喚したものの、思惑が外れ無惨な末路を迎えた」

 

「ほう」

 

「刻印虫で急場仕立てした俺のような半人前魔術師にバーサーカーのサーヴァントを上手く扱えるはずがない……アンタは俺を騙して絶望にくれる姿を見たかっただけなんだろう、お父さん?」

 

「……流石(さすが)じゃな。かつてワシを謀ってこの間桐の家を首尾よく抜け出しただけのことはある……憎たらしい息子よ、全くもってな。貴様が素直に間桐を継げば、今のように家が零落することもなかった! それをお前という奴は――」

 

「その話は聞き飽きた。召喚の準備に取りかかろう。俺は聖杯戦争に勝ち抜き、聖杯をアンタに渡す。それでアンタは不老不死の夢を叶えればいい。引き換えに桜を解放しろ。これが取引条件だ。忘れるなよ、臓硯」

 

「なんとも冷たい親不孝な息子じゃのう……おうおう、分かっておるわ。貴様ごときに出来るものならやってみるがよい」

 

 ところで臓硯は齢にして六〇〇を超えていた。しかし戸籍上は雁夜の父であり、実際そうであった。

 没落し、魔術の才を失いかけていた自分の子孫の女性と交わり、息子:雁夜を産ませたのであった。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する」

 

 それは何百年の間桐家の歴史で幾度も試みられた挑戦であったが、ようやく雁夜の代で実を結んだ。

 間桐家の全盛期であった時代、すなわちゾォルケン家と呼ばれた時代を思わせる最高レベルの魔術回路を備えた雁夜が生まれたのである。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環する」

 

 臓硯の雁夜への溺愛ぶりは、それは相当なものだった。

 何百年も望み、しかし失敗ばかりだった、魔術家系の復活が遂に成し遂げられたからである。

 

「告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 ところが臓硯が思ったようにことは運ばなかった。

 雁夜が魔術師になることを拒否し、術策を巡らせ臓硯を出し抜いたあげく、間桐家を継がず、一般企業の会社員として生きる道を選択してしまったのである。

 臓硯の雁夜への怒りは、かつて注いだ愛情が転化し、さらに増幅された憎しみによるものであった。

 

「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 召喚が終わり、魔方陣の上にはサーヴァントが無事召喚されていた。

 

「(あとはステータスか……)」

 

 マスターの力でサーヴァントのクラスや能力を眼力で見極める。

 

「ほぅ。これは……相変わらず運の良い奴じゃな」

 

 呟いたのは臓硯であった。マスターでない臓硯が如何にしてサーヴァントのステータスを見切ったのかは、雁夜には分からなかったが、そんなことよりも驚くべきことが起こっていた。

 

「俺はセイバーのサーヴァントを……引き……当てたのか」

 

 驚き、上手く声を出せない雁夜。

 対して召喚されたサーヴァントはハッキリとした口調で自己紹介を始めた。

 

「初めまして、私はランスロット。生前は円卓の騎士の一人としてアーサー王を支えておりました。此度の聖杯戦争ではセイバーのクラスで現界いたしました。どうぞ宜しく、マスター」

 

 そう言って手を差し出すランスロット。思わぬ幸運に(ほう)けながら、慌てて握手する雁夜。

 

「(筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:C 幸運:B+ 宝具:A+++ 対魔力:B 騎乗:B 湖の騎士:A 無窮の武練:A+ 騎士は徒手にて死せず:A++。凄い高ステータスだ! そしてなにより最強のセイバークラスを引き当てた!!)やれる、やれるぞ!」

 

 思わず歓喜の声をあげる雁夜なのであった。

 

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Interlude 02 END

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