【完結】Fate/Zero 正義   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第七話 敗北、そして……》

 

 

「こ、ここは……」

 

「あぁ、気づいたか、ソラウ。良かった……」

 

 ギリシャのVIP専門病院のスウィートクラスの病室でソラウは目を覚ました。

 

「ここは病室……ケイネス、何があったの?」

 

「うむ……召喚に失敗してね。おかげでこのザマだ」

 

 そういうとケイネスは右手をあげ――いや、かつて右手だったものを上げてソラウに見せた。

 彼の右腕は手首の先から無くなっていた。

 

「!? 何が……起こったの?」

 

「召喚に失敗したのさ。触媒は紛れもなくアレクサンドロス大王にまつわる聖遺物だったが、セイバーではなくバーサーカーとして召喚されてしまった。君は過剰な魔力供給に耐えきれず気絶し、令呪による命令で契約を解除する暇がないと思った私は、令呪を右手ごと切除し、強制的に契約を断ち切った。そういうことだよ……すまないね、ソラウ。こんなことになる予定じゃなかったんだが……こういう話は好きではないが、見えない力が働いていたのかもしれない……九月から幾度となくマケドニアを訪れるれるものの、その度に急な用事が入って英霊召喚を諦め、時計塔に出戻りしていたのは……聖杯戦争に参加するな、ということだったのかな」

 

 二人の間に重苦しい空気が流れる。

 

「夢を見たよ」

 

「?」

 

 しばらくしてケイネスが語り始めた。

 

「アレクサンドロス大王の夢だよ。特殊な契約を結んだから破棄された後でもマスター特有のサーヴァントの夢を見れたのか、あるいは私が見たのはただの夢なのかもしれないが、ともかく不思議な夢だった」

 

「……どういう夢?」

 

「ふむ。アレクサンドロス大王とその部下達の夢さ。ただアレクサンドロスは私達が知るような威厳ある高貴な容姿ではなかった……忌憚(きたん)なくいえば、山賊の親玉みたいな低俗な輩のように私には思えた。あの夢が正しいのなら、栄光に満ち溢れたというよりも、泥臭い毎日を大王は送っていたようだ」

 

「それで?」

 

「そうだな、それよりも本題だな。アレクサンドロス大王は部下からの信頼を徐々に失っていったようだった。最果ての海(オケアノス)、今でいうベーリング海峡を見たいと言って遠征を繰り返していた。しかし上手くいかなかった。結局アレクサンドロスも諦めてペルシャの地に落ち着いた。しかし夢破れたのが原因で酒に溺れ、最後には理不尽に横暴を働くようになって見かねた部下に毒を盛られて殺された……あれが事実なら到底大王と呼ぶに相応しい人物とは言えなかったが、存外歴史とはそういうものかとも思ってね。時が経つにつれていつの間にか哲学にも造形が深く、ペルシャとギリシャという異世界を繋いでヘレニズム文化を築き上げた理想的で偉大な王となった……それを思ったら、私が得ようとしていた魔術師としての栄誉なんてものが馬鹿らしく思えてきてね。いくら名声を得ようとも私が思った通りに後世に伝わらないのであれば、必死に命までかけて得るようなものでないんじゃないかと、そう思ったんだよ……私は名誉以上に自分にとって大切なものを見つけた」

 

「それは?」

 

「君だよ、ソラウ」

 

 格好をつけて、キメ顔で言葉を放ったケイネス。

 しばし呆然とするソラウ。しかし――

 

「あはははははっっ。何言ってるのケイネス、そんなつまらない冗談。全く似合わないわよ」

 

 冷たい反応がソラウから返って来ただけだった。

 

「それより疲れたから、今日は一人にしてくれる。つまらない話も聞かされて、私はもうヘトヘトよ」

 

「……あぁ、そうだね」

 

 流石に顔をひきつらせるケイネス。

 だが彼はそれ以上何も言わずに病室を去っていこうとする。

 

「ありがとね、ケイネス……右手、ごめんなさいね。こんな私のために……」

 

「!?」

 

 そんな声がケイネスの背に向けて放たれ、驚いてソラウの寝るベッドを振り返る。

 彼の目に映ったのは、ベッドで寝入る婚約者の姿だけであった。

 

「愛してるよ、ソラウ」

 

 しかし彼には分かっていた。アレクサンドロス大王の夢と同じで先程の言葉も、決して幻ではないのだと。

 彼はそんな心からの言葉を残して病室を後にしたのだった。




・あとがき

 これにて前編が幕を閉じ、中編に移ります。

 お楽しみ頂けていますでしょうか?

 中編で、いよいよ聖杯戦争開幕となります。
 これからも『Fate/Zero 正義』をよろしくお願い出来たらと思います。

 感想などありましたらお気軽にどうぞ。

 それでは!
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