今回は一誠さんのお母さんをメインに据えております
それでは本編どうぞ
真っ直ぐに私たちに視線を向けてくるお母様。あの一誠の母親であっても普通の人間であるはずの彼女の眼からは逆らい難い力強さを感じる。これが母親というものの強さなのでしょうね。それでも私は、私たちは一誠に起きた悲劇の全てを話すわけには行かない。今はまだ、彼女はこちらの世界とは無縁の存在なのだから。
だから・・・・・
「・・・・・一誠は愛する者を目の前で亡くしてしまいました」
だから私は・・・・・障りのない範囲でお母様に話すことにした。それが一誠の主としてのけじめだと思ったから。
「一誠から喜びの感情が失われてしまったと言うなら、原因はそれだと思います。そのことで一誠は・・・・・自分の事をひどく責めているでしょうから」
あの時以来、私たちも一誠の笑顔を見た覚えがなかった。堕天使レイナーレが死ぬ前は、いくらか冗談を口にするようなこともあったし柔らかな雰囲気を感じ取ることもあった。けれどそれ以降は・・・・・一誠はいつもどこかもの悲しい雰囲気を常に身に纏っているように感じられた。それはきっと私だけでなく、オカ研の・・・・私の眷属全員が感じ取っていると思う。
「そう・・・・・・あの子は愛する人を亡くしてしまったのね」
お母様の表情はひどく暗かった。今にも涙を流してしまいそうなほどに、まるで自分のことのように・・・・・いいえ、きっと彼女にとっては自分のこと以上に辛いことなのでしょうね。
「あなたたちは全員そのことを知っていたのね・・・・・私は親失格ね。あの子にそんな悲劇が起きたことさえ知らなかったなんて・・・・・」
「い、一誠さんはお母様を心配させたくないから言わなかったんだと思います!一誠さんは優しい方ですから!」
「ありがとうアーシアちゃん。そうね、一誠は優しい子よ。だけど・・・・・・教えてくれなかったのはきっと私に心配をかけさせたくなかったからではないわ。きっとあの子は・・・・・」
「お母様?」
アーシアの励ましは功を奏さず、お母様の表情はさらに憂いをおびてしまっていた。そこには、私たちの知らない事情があるように思われた。
「・・・・・私は一誠をどこに出しても恥ずかしくない子に育てたつもりよ。実際あの子は優しく、逞しい子に育ったと思うわ。けれど・・・・・同時にあの子はどこに出しても不安な子になってしまった」
「どういうことでしょうか?」
「昔・・・・・あの子がまだ6歳の頃の話よ。あるひあの子は腕の骨を折る大怪我を負って帰ってきたことがあるの。どうやら木登りをしていたお友達が落ちてきて、それをかばって怪我をしてしまったようなのだけれど・・・・・あの子はその怪我を私と夫に隠そうとしていたわ。怪我のことはすぐにわかったのだけれど・・・・・どうして隠そうとしたのかって聞くとあの子はこう答えたのよ『迷惑をかけたくなかった』・・・・・ってね」
それを聞いて、私は一誠らしいと思ったが、同時に違和感を覚えた。今の一誠ならいざ知らず、この話は6歳の子供だった時の話。どうにも子供っぽくないと思った。
けれど・・・・・お母様が憂いているのはそのことでは無いようだった。
「それを聞いて私は・・・・一誠は私と夫のことを『家族』として信頼しきっていないんだって思ってショックだったわ」
「家族として信頼しきっていない・・・・?どういうことでしょうか?」
「あの子は心配という言葉ではなく、迷惑という言葉を使ったわ。家族に対して心配かけさせたくないというのは当然の考え。けれど、あの子が使った言葉は迷惑。これはあの子にとって私たちが遠い存在であることを証明している言葉よ。私たちはあの子に信頼されていないからそう言う言葉を使わせてしまった。たった6歳だったあの子に」
「それは・・・・・」
違う、そんなことないと言いたかった。けれど、言えなかった。言ってしまったらそれは・・・・・表面上だけの嘘の言葉になってしまうとわかっていたから。
「あの子の考えはきっと今も変わらない。いえ、大人に近づいた分、より明確に私たちとの距離を線引きしてしまっている。あの子は親である私たちに感謝しているかもしれないけれどそれ以上に行き着くことはない。一誠と私たちは・・・・・家族という名の他人」
「お母様・・・・・」
「だけど、だからこそ私はあの子の幸せを願うの。あの子が私たちに対して踏み込まないとしても、あの子が私たちにとって愛しい子供であることには変わりはないから。あの子に起きた悲劇を知ることができなかったとしても、あの子が私たちに何を隠していようとも・・・・・・あの子には幸せになってもらいたい」
きっと苦しいのでしょう。辛いのでしょう。子供の幸せを祈りつつも、子供のことを知ることができず、距離を置かれてしまうことは私の想像を絶するほどの苦難なのだと思う。それでも、彼女はそれを選んだ。
これは今の私には持ち得ない強さ。グレモリーは愛情深いというけれど、この親の愛を前にしてしまえばきっと霞んでしまうでしょうね。
だけど・・・・・一誠の幸せを願う。それは私にとっても大切なこと。あの子は私の可愛い下僕で・・・・愛しいひと望まない婚約から私を救ってくれた救世主。だから・・・・・・私も背負わなければならない。
「お母様・・・・・私も同じです」
「リアスさん・・・・?」
「私もあの子の・・・・一誠の幸せを願っています。あの子は私を救ってくれた。私にとってもあの子は大切な存在なんです。だから私も何があっても一誠の幸せを願います。そしていつか・・・・・一誠を幸せにしてみせます」
「私も一誠さんを幸せにします。一誠さんは私の・・・・・恩人ですから」
私の言葉に同調するように、アーシアも名乗りをあげた。アーシアも私と同じように一誠に特別な感情を抱いているからでしょうけど・・・・・・アーシアの場合はそれだけではないでしょうね。なにせアーシアは一誠が愛する者を・・・・・レイナーレを失ってしまった時、同じ場所に居合わせてしまったのだから。あるいは、一誠に対する想いは私以上なのかもしれない。
「リアスさん、アーシアちゃん・・・・・・ありがとう」
私とアーシアへお母様から感謝の言葉が送られる。まだどこか悲しげではあったけれど、確かな笑みを浮かべて。
一誠にも・・・・・この優しい母親にも報いなければならない。それが一誠の主としての・・・・・私の責任なのだから。
「ただいまー」
リアスたちとの話がちょうど終わったタイミングで、一誠が帰ってきた。手には飲み物とお茶菓子が入った買い物袋を持っている。
「おかえりなさい一誠。お使いありがとうね」
「これぐらい構わないよ母さん。これってそのまま部長達に出してもいいんだよね?それなら用意してくるけど」
「あら、それぐらい私がやるわよ?」
「いいよ、ついでだし。母さんは座ってて」
お使いを頼んで手前、準備ぐらいは私がしようと思ったのだが一誠はそれをやんわりと制して自分がやると言ってきた。相変わらず必要以上に気を遣う子ね・・・・・これも距離を置かれてしまっている弊害なのかもしれないと思うと少し悲しくなってくるわ。
「一誠さん、私もお手伝いします」
「私も手伝うわよ一誠」
「え?いや、これくらいは俺一人で・・・・・」
「「・・・・・ダメ(ですか)?」」
「いえ、喜んで申し出を受け入れさせていただきます」
リアスさんとアーシアちゃんが上目遣い気味に、さらにどこかシュンとした様子で(こっちは演技かもしれないが)申し出たら、一誠は容易く受け入れた。まあ、あんなふうに言われては受け入れざるを得ないわね・・・・・我が息子ながら女の子には甘いのかしらね。そういうところはお父さんに似たのかもしれないわ。
それにしても・・・・・
(二人共・・・・・そういうことなのかしらね)
リアスさんとアーシアちゃん・・・・・きっと二人は一誠に特別な感情を抱いている。だからこそ心の底から一誠の幸せを願ってくれているのだと思う。
私の願う
あの子達の願う
違いはあるかもしれないけれど・・・・・きっと一誠にとってはどちらも必要なもの
「・・・・・・あなたもこの場に居たら、一誠の幸せを願ってくれるのかしらね?」
私はアルバムの写真に映る、一誠の幼馴染の少女に触れながらつぶやいた。
この一誠さんのお母さんはある意味私の理想のお母さん像を体現しております。まあ、原作からしてすごくいい母親だと思いますし
それでは次回もまたお楽しみに!