それでは本編どうぞ
「・・・・・一誠くん」
リビングの椅子に腰を下ろしていたイリナは、立ち上がり俺の近くへと歩み寄ってきた。
「思ったよりも背は高くないのね。だけど凛々しくて体つきもがっしりしてる。それに・・・・・うん、元気そうで良かったわ。変わりなく・・・・・というわけでは無いようだけど」
俺の全身を見ながら言うイリナ。この口ぶりからして・・・・・おそらく気づいている。俺が悪魔であるということに。
「お前は・・・・女の子っぽくなったな。昔は男に見間違うような格好でヤンチャしてたっていうのに」
「昔はまあ・・・・うん、そうだったわね。私が無茶なことするたびに一誠くんは付き合ってくれて・・・・私が木登りして落ちた時も助けてくれたわよね」
「そんなこともあったな・・・・・そのイリナが教会の聖職者だなんて思いもしなかったよ」
「それは・・・・・お互い様よ」
傍から見ると・・・・母さんからしたら、久しぶりに再会した幼馴染の和やかな会話に見えるのかもしれない。だけど実際は違う。お互い腹の探り合いをしているんだ。俺もイリナも・・・・・立場上、敵同士なのだから。
「・・・おばさま、今日はこれで失礼しますわ」
「あら?もっとゆっくりしていってくれてもいいのよ?」
「それはまたの機会にさせていただきます。行きましょうゼノヴィア」
「・・・・ああ」
イリナが同じ教会のエクソシストらしい青髪に緑のメッシュを入れた女性に声をかけると、女性は返事を返して立ち上がる。
「それじゃあ一誠くん、またね」
ニコリと微笑みを浮かべた後、同行者と共にイリナはうちをあとにする。また・・・・ということは、近々また会う予定があるということだろ。
それは敵として相対すということか、それとも・・・・・・
「イリナちゃん、本当に可愛くなったわね。それに一誠と同い年なのに教会で働いているそうよ?すごいわね」
「・・・・・・・」
母さんが何か言っているけど・・・・それは俺の頭の中に入ってこなかった。俺の頭の中は今・・・・・イリナのことで一杯だった。
「一誠さん?大丈夫ですか?」
俺の様子がおかしいと思ったらしく、アーシアが心配そうに声をかけてくる。
「ああ、大丈夫だよ・・・・・今日はちょっと疲れちゃってさ。部屋で休んでくるよ」
そう言い残して、俺はリビングをあとにして自室へと向かった。
「一誠さん・・・・・本当に大丈夫でしょうか?」
一誠さんがリビングをあとにして、自室へと戻っていった一誠さん。一精さんは大丈夫だと言っていましたが、私は心配せずにはいられませんでした。先程までこの家にいたエクソシストの女性の一人とお知り合いだったようですが・・・・・
「彼女のこと・・・・・イリナちゃんのこと気になる?」
私の心内を見透かしたように、お母様が私に尋ねてくる。
「はい・・・・・彼女は一誠さんのお知り合いなんですか?」
「一誠とイリナちゃんは幼馴染よ。イリナちゃんは小学校に上がる前に外国に引っ越して行っちゃったんだけど、昔は毎日のように二人で遊んでたわ」
一誠さんと毎日のように・・・・・幼い時の話ですが羨ましいです。
「・・・・思い返してみると、一誠はイリナちゃんと一緒にいた時、一番笑っていたのよね」
「え?」
「一誠は昔からやたら大人びててね。あまり笑わないってこともあって友達が少なかったの。あのときは多分友達はイリナちゃんだけだったでしょうね。ヤンチャするイリナちゃんに、ぼやきながらもついていく一誠・・・・・当時はよく見た光景よ。一誠は無自覚かもしれないけど、一誠にとってイリナちゃんは間違いなく特別な子よ」
一誠さんにとって特別な・・・・・それってレイナーレ様のような?
「だからこそ・・・・・愛する人を失ってしまったばかりの一誠にとってイリナちゃんとの再会は刺激が強すぎたのかもしれないわ。この再会があの子にどんな影響を与えるのか・・・・・私にもわからないわ」
一誠さんに与える影響・・・・・彼女はエクソシスト。悪魔である私達とは敵対する関係であるけれど・・・・・
その影響がいい影響であることを祈るばかりです。
「・・・・・イリナ」
自室に着くなり、ベッドにうつ伏せで倒れるように身を投げ出した俺は、自然とイリナの名を口にしていた。
10年以上も前に離れたっきり、連絡も取ることさえせずにいた幼馴染。かつて黒歴史的な約束を交わしてしまっていたが・・・・・俺にとっては大して気に留める相手ではないと思っていた。
だけど・・・・それなのに・・・・・
「・・・・・クソッ。なんだよこれ?なんでこんな・・・・・」
困惑していた。久しぶりに再会した幼馴染に対して異様なまでに感情が湧き上がっていることに。
最初に感じたのは喜びだった。懐かしい幼馴染に会えたことで、俺は予想以上に嬉しいと思ったようだ・・・・・こんなに嬉しいと思ったのはいつ以来だろうか?もしかしたらレイナーレを失ったあとは一度も・・・・
だが、感じたのは喜びだけではない。喜びの次に感じたのは・・・・・悲しみと怒りだった。
再会した幼馴染は・・・・イリナは教会のエクソシストだった。悪魔である俺とは敵同士。何かきっかけがあれば殺し合いに発展する可能性も十分にありうる。そんな関係性が嫌で・・・・・・少し悲しかった。
同時に、どうしてそんな関係になってしまっているのかと怒りも感じていた。なんでイリナは教会の人間なのかと。どうして俺と敵対関係にあるのかと、理不尽とわかっていつつも教会に所属したイリナに怒りを感じ得なかった。
何なんだ・・・・・なんでイリナと再会しただけで俺はこんなにもかき乱されるんだ?イリナは俺の生きる目的になんの関わりのない存在だというのに・・・・落ち着かない。イラついてくる。
イリナ・・・・・・お前は一体何なんだよ?俺にとってさして大事でもない、なんでもないただの幼馴染だったはずなのに・・・・・
(随分と困惑しているようだな相棒)
頭の中がイリナのことでぐちゃぐちゃにかき乱されている俺に、ドライグが声をかけてくる。
(・・・・・ドライグ、今は黙っていてくれ。お前とおしゃべりする余裕はないんだ)
(紫藤イリナ・・・・・相棒がよく気にかけていた女だったな。まだ幼かった相棒をよく連れ回していたのを覚えている。その度に呆れてはいたがどこか楽しそうにしている相棒を見るのはなかなか愉快だった)
「黙れって言ってるだろ!」
俺はつい、声に出してドライグに怒鳴り散らしてしまった。
(もし相棒があの女の事を本当になんとも思っていないというなら、そんな風に声を荒げることなどなかっただろう。だが実際はこのザマだ。お前をここまで感情的にさせる女は、紫藤イリナを除いてこれまで一人だけしかいなかった。それはお前の主である悪魔、リアス・グレモリーでも守ると誓った相手、アーシア・アルジェントでもない。それが誰なのか・・・・・俺が言わずともお前は分かっているのだろう?)
俺を感情的にさせる女・・・・・・思い当たる人物は一人だけだった。だが俺は、俺の思考はそれを否定する。決して同じだと思いたくない・・・・・否、それが同じだと思うわけにはいかないから。
(違う・・・・そうじゃない。そんなはずない。そんなことあるはずない。俺は・・・・俺は・・・・)
(自分の気持ちを否定するのか?違うことはない。お前があの紫藤イリナに抱いている感情は、想いはあの女と・・・・・)
「違う!」
またしても、俺は声を荒げてしまう。それは・・・・自分が必死になって否定しようとしたことの方が違うと言っているようなものであった。
(ドライグ・・・・・頼むからもうやめてくれ。この感情を受け入れる訳にはいかないんだ。レイナーレを死なせてしまった俺に・・・・それを受け入れる資格なんてない)
(・・・・・そうか。すまなかったな相棒)
(いや・・・・・俺の方こそすまないドライグ。ありがとう)
ドライグは俺に気を遣ったが故にあんなことを言ったのだろう。それに関しては素直に感謝している。
だが・・・・・それでも俺はイリナへの感情を受け入れない。否定しなければならない。
その感情は、愛する女を守ることさえできなかった俺が・・・・なにより、『兵藤一誠』の偽物である俺が抱いてはならないものなのだから。
なるべく直接的な表現はしないようにしましたが・・・・一誠さんがイリナさんに抱いている感情はそういうことです
ただ、今の一誠さんはそれを受け入れる気は無いようですが・・・・
それでは次回もまたお楽しみに!