『兵藤一誠』の物語   作:shin-Ex-

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今回はゲーム直前のお話です

それではどうぞ


第84話

「これは………少々厄介ね」

 

レーティング・ゲーム開催日。グレモリー家から転移してきたゲームのフィールドを目にし、部長は僅かに表情を歪ませる。

 

今回の部隊は学園の近くにあるショッピングモール。それも、建造物を過度に破壊してはならないルールの下行われるため、パワータイプや攻撃範囲が広い者にとっては戦いづらい環境だった。

 

「ふむ、私や副部長、一誠にとっては戦いづらい環境だな。効果範囲の広く、威力の高い攻撃が使いづらい」

 

確かにゼノヴィアの言う通りだ。この条件下では力任せな攻撃はほとんどできない。禁手化(バランス・ブレイク)するメリットがほとんどなくなっている。

 

「ギャスパーくんの眼の力もこう遮るものが多いと使いづらいですね」

 

「どちらにせよ今回はギャスパーの眼は使えないわ。以前よりも眼の力を使えるようにはなっているけれど、まだ制御できないこともあって、ゲームに支障が生じる可能性があると規制が入ったわ」

 

「すみません………まだ完全には使いこなせなくて」

 

「それでも、引きこもりは脱出できたんだろ?なら十分な進歩だよ」

 

「一誠先輩………ありがとうございます!」

 

落ち込むギャスパーを慰めると、ギャスパーがぱあっと表情を明るくした。ゲーム前にテンションを下げられるのも困るので、立ち直ってくれて良かった。

 

「ゲームの間、ギャスパーにはこの眼鏡を書けてもらうわ。アザゼルが開発したもので、眼の力を封じることができるらしいわ」

 

「嬉しいですけど、もっと可愛いのがよかったです」

 

「引きこもりは直ってもそういう女々しいところは直ってないんだな………」

 

まあ、ひとの趣味それぞれだから文句があるわけではないのだが………これじゃあ当分男らしくはなれそうにない。

 

「一誠、力を抑えて戦うことはできるかしら?」

 

「一応大丈夫です。力任せに戦う方がやりやすいですが、抑えても戦えないことはないです。それ用の武器もありますしね」

 

タンニーンさんとの修行と並行して行っていたもう一つの修行。このルールの為のものではなかったが、結果的に使えるというのなら存分に使わせてもらおう。

 

「それならよかったわ。さて、細かい作戦を決める前に、まずは周りを調べてみましょう。よく使う施設とはいえ、まじまじと見る機会はなかったし、なにか使えるものがあるかもしれないわ。各自別れて15分後にここに集合。いいわね?」

 

「「「はい」」」

 

返事を返し、各自行動を起こす。俺も気になることがあったので、そこへと向かって歩き出した。目指す場所は一階の食品売り場。その中も生鮮食品の集まるエリアだ。

 

「………まあ、当然あるか」

 

「何がですの?」

 

目当ての物があるかどうか確認していた俺の背後から、朱乃先輩が声を掛けてきた。

 

「朱乃先輩、背後からいきなり声を掛けないでくださいよ」

 

「ごめんなさい。それで、何を確認していらしたの?」

 

「これがあるかどうかですよ」

 

俺は目の前にあるニンニクを手にして朱乃先輩に見せる。

 

「ニンニク?」

 

「ええ。こいつを使えばギャスパーの動きを封じることもできますからね。あるかどうか確認しに来たんですが、ご丁寧に本物がきちんとおいてありましたよ」

 

「となると、ギャスパーくんをここに向かわせるわけにはいきませんわね」

 

「ええ。シトリー眷属がギャスパーをおびき出す可能性もありましたし、先に確認しておいてよかったです」

 

これで不安要素は一つ消せた。それどころか、本当にシトリー眷属がギャスパーをここに誘い込もうとしたなら、それを逆手に取ることもできるだろう。わざわざ確認しに来たかいがあった。

 

「ところで朱乃先輩はなぜここに?」

 

「一誠くんに少し、用があったの」

 

「俺に?」

 

「ええ………一誠くん」

 

突然、朱乃先輩は俺の背に腕を回し、体を密着させてきた。

 

「勇気を………ください」

 

「え?」

 

「私は………私に流れるもう一つの力を使うのが恐い………嫌なの。だから、勇気が欲しいの」

 

もう一つの力………朱乃先輩はどうやら使うと決めたようだ。朱乃さんに流れる堕天使の血………そこから生じる光の力。

 

それを使うのは、勇気が必要なのだろう。堕天使………バラキエルに対する感情に折り合いをつけられずにいる今の朱乃先輩にとって………

 

だけど………俺は朱乃先輩が思うほど大した存在ではない。俺は………バラキエルの代わりになどなれるはずがない。朱乃先輩の思いに応えることなんで………できるはずがない。

 

できるはずない、けれど………

 

「それで、朱乃先輩が力を発揮できるのなら」

 

俺は朱乃先輩の頭に手を置き、軽く撫でる。

 

今はゲーム直前だ。下手なことをして、朱乃先輩のモチベーションを下げるわけにはいかない。これで朱乃先輩が力を発揮できるのなら………これでいい。

 

「一誠くん………一誠。私はあなたを………」

 

「………お二人共、そろそろ集合時間です」

 

朱乃先輩の言葉を遮るように、小猫が現れ声を掛けてきた。

 

「あらあら、見られてしまいましたね」

 

朱乃先輩は俺から身体を離し、クスリと微笑む。最後に何を言おうとしていたかはわからないけれど、ともかく朱乃先輩はもう大丈夫だろう。

 

「ありがとう一誠くん、私は先に行きますわね」

 

俺に礼をした後、朱乃先輩は集合場所へと戻っていく。俺も朱乃先輩に続こうとしたが………小猫に手を掴まれて引き留められてしまった。

 

「小猫?」

 

「私も………私にも勇気をください」

 

小さな手で、すがるように俺の手を握る小猫。どうやら小猫も覚悟を決めたようだ。

 

「仙術、使うのか?」

 

「はい。お姉様のようになるのは嫌ですが………私は皆の役に立ちたいです」

 

「………そうか」

 

黒歌のように………小猫は黒歌が仙術を使ったことで変わってしまったと思っているようだが、俺にはそうは思えなかった。黒歌は小猫を手中に収めようと俺と部長を殺そうとしていた。だが、それは小猫を想っているがゆえの事だろう。その想い自体には、邪気も悪意もあるように感じられなかった。黒歌が仙術に呑まれているようには俺には思えなかった。

 

しかし、黒歌が主であった悪魔を殺し、小猫を置いて行ったことも事実。何が原因なのかは知らないが、そこには何かしらの事情があったのかもしれない。俺なんかでは理解しえに事情が。

 

だが………

 

(………さすがに言うわけにもいかないか)

 

これを今小猫に話したところで、小猫を混乱させてしまうだけだ。そもそも、俺の憶測で実際はそんな事情などないかもしれないし、黒歌は本当に仙術の力に呑まれてしまっているのかもしれない。

 

ならば………今は何も言わない方が良い。

 

「小猫の力、頼りにしている。呑まれそうになっても、俺が止めるから」

 

「一誠先輩………ありがとうございます」

 

小猫も朱乃先輩と同じように、笑顔で感謝の言葉を口にする。だが、その言葉は俺の胸に突き刺さっていた。

 

自分の心内を明かさずに、口から出るのは二人が力を発揮できるように建前の言葉。我ながら最低だ。だけど、最低だとわかっていても、ゲーム前のこの時間に、他にどう声を掛ければいいのか俺にはわからない。

 

結局俺はただ………上っ面だけで二人が必要としている言葉を投げつけているだけだ。本音を口にしたら悪影響が生じてしまうと、あるいはそうやって俺は………恐いから逃げているだけなのかもしれない。

 

「………一番勇気が無いのは俺かもな」

 

「一誠先輩?」

 

「何でもないよ。早く戻ろう。皆待ってるかもしれない」

 

「はい」

 

俺は小猫と共に、集合場所へと戻る。

 

切り替えなければ………もうゲーム開始まで時間が無い。

 

俺の心内なんて、ゲームには何も関係ない………引きずるわけにはいかない。

 

全部全部抑え込んで………ゲームに集中するんだ。




原作イッセーさんと違い、色々と察しているけれど快活な性格ではないのでうじうじと抱え込んでしまっている一誠さん

今更ながら話が進むにつれて精神的に追い込まれてる………間違いなく大丈夫ではないですね

それでは次回もまたお楽しみに!
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