『兵藤一誠』の物語   作:shin-Ex-

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遅れてしまって申し訳ない………

今回はちょっと時間が飛んでゲームの後のお話です

それではどうぞ


第87話

「はあはあ………」

 

シトリー眷属とのレーティング・ゲームが終わった後、俺はすぐにランニングを始めた。理由は………ゲームの内容にある。

 

シトリー眷属とのレーティング・ゲームは俺達グレモリー眷属の勝利で幕を下ろした。匙を撃破した後、部長達と合流し、相手の戦略に多少は翻弄されつつも、仙術を使う覚悟を固めた小猫、そして雷光の力を受け入れた朱乃先輩の力もあり、戦力では大きなアドバンテージを得ていた俺達が押し切った形だ。途中でゼノヴィアが脱落してしまったが、それでも結果としては勝利ということで、俺達グレモリー眷属の株は多少なりとも上がっただろう。

対するシトリー眷属も負けはしたがアザゼル先生曰く、戦術自体は俺達よりも1、2歩先をいっていると評され、一部からは認められたようでそこまで評価を落としていないらしい。

 

何にせよ、俺達グレモリー眷属は勝利をおさめることができた。主である部長に報いることができた。それは間違いなく誇らしいことだ。

 

なのに………だというのに俺は、勝利による従属感を一切感じることができずにいた。

匙との戦い………アレは間違いなく俺の勝ちだった。匙の策を封じ込め、終始優位に立つことができていた。だというのに………勝ったという実感がまるで沸いてこない。心の中にもやもやしたものが巣食っている。その正体が何なのかはっきりせず、苛立ちだけが募っていく。それをどうにか晴らそうと思い、ランニングを始めたのだが………それでも、一向に晴れる気がしなかった。

 

「くっそ!」

 

一旦走るのを止め、近くに会ったベンチに座って休む。だが、止まってしまったせいで余計に匙との戦いが鮮明にフラッシュバックし、さらに苛立ちは増すばかりであった。

そうして苛立ちを抱える俺の前に………一人の老人が現れた。

 

「ゲームが終わった後に走り込みとは………よくやるの」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら言う老人は、一見しただけでもわかるほどに風格と威厳を備えていた。間違いなくただ者ではない。

 

「失礼ですがあなたは?」

 

「オーディン………と言えばわかって貰えるかの?」

 

「ッ!?あなたが北欧の………」

 

オーディン………北欧の神々を統べる主神。アザゼル先生からレーティング・ゲームの観覧に来ていると聞いていたがこんなところで会うことになるなんて………というか、護衛もつけずに本当にこんなところで何をしているのだろう?

 

「隣いいかの?」

 

「え、ええ。どうぞ」

 

「すまんな。この歳になると立ちっぱなしは腰にきてな」

 

俺に断りを入れてから、隣に腰を下ろすオーディン様。正直俺としては予想外の事態にまだ少々混乱していた。

 

「レーティング・ゲーム、見ていたぞ。今代の二天龍は歴代最強になると聞いてどんなものかと思っていたがなるほど………確かに、良い素質を持っているようじゃ。まあ、持ち味を発揮し切れず、本気のお前さんを見られなかったのは残念だったがな」

 

「オーディン様にそう言っていただけるとは、恐縮です」

 

「言葉だけの賛辞ならいくらでもくれたやろうとも。じゃがな………あの戦いにおいて、わしはお前さんより相手のシトリーの兵士(ポーン)の方を評価しておる」

 

「匙を………ですか?」

 

「ああ。あの手のタイプはこれから先どんどん強くなる。それは実際に戦ったお前も十分感じ取っておるのではないか?」

 

「………はい」

 

確かに、匙は今後間違いなく強くなっていくだろう。はっきり言えば、今の段階では何度戦っても匙に負けることは無いと思う。だが、匙が自身の力を高め、ヴリトラの力を使いこなしたとしたら………とてつもない力を手にすることになるのは容易に想像がついた。

 

何より………あいつは多分、俺とは違う強さを持ってる。それが何かはわからないけど………あいつのあの気迫は、おそらくそこから来るものだと思う。

 

「………今代の赤龍帝よ。この際だからはっきりと言わせてもらおう。お前さんは確かに強い。だが………お前さんには先が無い」

 

「先が………ない?」

 

「そうだとも。お前さんもまた、これからさらに強くなっていくだろう。歴代最強に恥じぬ力を手にし、いずれは神に届くか………あるいは凌ぐほどに強くなるかもしれん。じゃが………ただそれだけじゃ。お前さんにはそこから先が無い」

 

強くなった先………オーディン様の言うそれが何なのか、俺には全く見当もつかなかった。

 

「その先というのは一体………?」

 

「それは………すまんが、わしの口から語れることではないな。突き付けておいて無責任だと思うかもしれんが、それは自分で見つけなければならん。シトリーは兵士にはあって、お前さんにはないもの………それは自分で見つけろ」

 

自分で見つけなければならない先………見つけろと言われたって、なんのヒントもないんじゃ探しようもない気もする。これがどうでもいい奴からの言葉なら妄言として切り捨てるが、オーディン様からの言葉となれば無視はできない。

 

「あまり急かしたくはないが、ゆっくりしている暇はないぞ?間違いなく、三種族の和平を機に、世界はこれから大きく動くことになる。例のテロリストの件もそうじゃが、神の中には今の状況を快く思っておらん者も多くいるからな。かくいううちも問題を抱えとる。本来ならば存分に楽しみ、苦しみ、満喫しろと言っているところだが………それほどの余裕があるかどうか。今のままではお前さんは、近い未来に必ず破滅する」

 

必ず………オーディン様が口にするそれは、あまりにも重たかった。片目を失ってまで得た知識を持ち、全知全能の神とさえ呼ばれるオーディン様は、俺なんかとは比べ物にならないほどに賢しい方だ。この方はきっと………俺の結末でさえも容易に見通してしまえるのだろう。

 

「自分の身が惜しくば、今一度見つめ直せ。力があるに越したことは無いが、力だけを求めればその先にロクな未来は待っとりゃせん。わしはそういった輩を何人も見てきた。力は破滅に通ずる道………溺れれば逸れるための横道は悉くなくなるぞ?」

 

「………それでも俺は、力を求めます。もっと強くならなければならないので。溺れてでも………俺は強くなりたい」

 

「そうか………まあ力への執着自体は止めはせんがの。じゃが、わしの言ったこと、ゆめゆめ忘れる出ないぞ?お前さんの破滅は大きな意味をはらんでしまうのだからな」

 

「はい………お心遣い感謝します」

 

俺の破滅が持つ意味………確かに俺は今代の赤龍帝。自分でいうのは嫌だが、世界に及ぼす影響は多少なりともあるのだろう。オーディン様は俺にそれを自覚しろと言いたいのかもしれない。

 

正直、どうすればいいのかなんてわからない。どう生きればいいのかなんてわからない。部長に忠義を尽くし、アーシアを守り、白龍皇を倒す………強くなることそれ以外の事を考えるのは俺には難しい。

 

それでも考えなければならないというなら………少しは考えてみよう。あてなどなくても、何もわからなくても………結果破滅してしまうとしても。俺の『先』というものを。

 

「あー!!ようやく見つけましたよオーディン様!」

 

俺が考えにふけっていると、一人の女性がなにやら慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「おお、ロスヴァイセか」

 

「ロスヴァイセか、じゃないですよ!こんなところで一人で………何のために私が居ると思ってるんですか!」

 

「相変わらず口やかましいの………別に一人ではない。こうして赤龍帝も一緒におる」

 

「だからって………って、赤龍帝!?」

 

ロスヴァイセと呼ばれた女性は今になって俺の存在に気が付いたのか、俺の方に視線を向けて驚いていた。

 

「ほんっっっっとにすみません!ゲームが終わったばかりだっていうのにオーディン様の道楽に付き合わせてしまって!なんとお詫びをしてよいのやら」

 

「あ、いえ………俺としても実りのある時間を過ごせたので、お詫びなんてそんな………」

 

「本当に固いのおぬしは。そんなんだから男が寄ってこんのだぞ?」

 

「独り身で悪かったですね!私だって彼氏欲しいですよ!」

 

なんというか………とても愉快なひとだなこの人。オーディン様の護衛ということはヴァルキリーか?彼氏を欲しがるヴァルキリーって………いや、ヴァルキリーは勇士を誘う役割も持ってるからあながち不自然でもないのか?

 

「さて、うるさいのも来たことじゃ。わしはこれで失礼するぞ赤龍帝。機会があればまた会おう」

 

「はい。ありがとうございましたオーディン様」

 

「うむ、せいぜい励むがよい。ほれ、行くぞロスヴァイセ」

 

「うぅ………彼氏欲しい」

 

この場をあとにするオーディン様と、涙目になってあとからついていくロスヴァイセさん。そんな二人の後姿を眺めながら、先ほど言われたことを思い返す。

 

「………やっぱ、わからないな」

 

いくら思い返しても何もわからず、募っていた苛立ちも晴れきれぬまま、俺もその場をあとにした。

 




オーディンさんに諭される一誠さん。しかし、考えるきっかけにはなるかもですがこのままではほとんど何も変わらないでしょうね

はたして一誠さんの今後は………

それでは次回もまたお楽しみに
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