最後くらいはほのぼのとさせたいですが………
それでは本編どうぞ
「はあ………」
思わず漏れてしまった溜息で、今の俺の困惑具合を察してほしい。
冥界から人間界へと戻る列車の中。先日オーディン様に言われたことについて少し考えたかった俺は皆から離れた席に座っていたのだが………なぜか両隣を占拠されてしまっていた。
「うふふ♪」
右隣に居るのは朱乃先輩だ。俺の腕に自身の腕を絡ませて上機嫌にしている。体勢が体勢のため、腕に柔らかいものが当たってしまっているが、そのことについてはあまり考えないようにしよう。
「にゃん♪」
そして反対の席に座るのは小猫であった。それも、猫耳と尻尾を出した状態だ。仙術の扱いや姉である黒歌との件が原因なのか、なぜかやたらと懐かれてしまったようだ。
ともかく、この二人のおかげで現在俺は考えるどころの状況ではなくなってしまっている。この状態で考えにふけるのはさすがに無理があるし、周りからの視線が痛い。
部長は朱乃先輩を睨みつけているし、アーシアは小猫を羨ましそうに見ている。さらに、木場とギャスパーは苦笑いを浮かべつつ、同情の籠った目を俺に向けてくる始末だ。唯一、ゼノヴィアだけが夏休みの宿題に手を付けていてこちらを見ていないのが救いかもしれない。
ちなみに、部長は当初当然のように朱乃先輩に離れるように言ってくれたのだが、朱乃先輩はそれを笑顔で受け流してしまい、最終的には言っても無駄だということと、先のゲームでの功績もあり、今回は大目に見るということとなった。その割には、朱乃先輩を睨む目つきは直接向けられていない俺でも寒気を感じるほどには鋭いのだが。
「はあ………」
「お疲れかしら一誠くん?」
またしても溜息を吐いてしまう俺に尋ねてくる朱乃先輩。この溜息の原因の一旦は朱乃先輩にあるのだが、そのことを理解しているのだろうか?
「やはり冥界での修行の日々で疲労が溜まっているのかもしれませんね。私の膝を貸してあげますのでそこで少し眠りますか?」
「朱乃!そこまで許してはいないわよ!」
朱乃先輩の提案に、部長が待ったをかける。どうせならこの状況に対してももっと待ったをかけて欲しかったがそこに関しては突っ込まないでおこう。
「部長の言う通りです朱乃先輩。そんなことされたら兄様にひっついていられなくなります」
小猫も朱乃先輩に待ったをかける。ただ、その理由が完全に私的なものであったため、素直に感謝することができない………って、待て。今小猫なんて言った?
「小猫。今兄様って………」
「………これからはそう呼ばせて欲しいです。ダメですか?」
下から不安そうに俺の顔を見上げながら尋ねてくる小猫。こんな表情をされてしまったらさすがに断りづらい。
「まあ、学校の他の人の目があるところでは勘弁してほしいけど、それ以外なら構わないよ」
「ありがとうございます兄様」
特に嫌というわけでもなかったため、条件付きで許可を出すと、小猫は嬉しそうにしながら俺にすり寄ってきた。まったく、自分でいうのもなんだが、こんな目つきの悪い不愛想な男が兄で何が嬉しいのだろうか?
「ずるいです小猫ちゃん!私も一誠さんのことをお兄さんって呼びたいです!」
「一誠先輩、僕もお兄ちゃんって呼んでいいですか?」
「いや、なんでだよ………」
なぜか食いついてきたアーシアとギャスパー。なぜか俺を兄と呼びたいと必死な様子だ。
「あははっ。それなら僕も兄さんって呼ばせてもらおうかな?」
「ふむ、これは私もそう呼んだ方が良いのかな?」
更に木場とゼノヴィアまで参戦してくる。二人共完全に悪乗りだろう。というかゼノヴィアよ。わざわざ宿題の手を止めてまで乗るようなことでもないだろうこれは。
というか、これはカオスすぎる。さすがに勘弁してほしいので、目で部長に助けを求めた。
「まったくこの子達は………やめなさい。気持ちはわからなくもないけれど一誠が困ってるでしょう?」
「うぅ………わかりました」
「残念です………」
「にゃん♪」
がっくしと肩を落として残念がるアーシアとギャスパー。それに対して、小猫は勝ち誇ったようにはにかんで見せる。なんでそんなことでマウントをとって喜んでいるのか理解に苦しむが………まあいいか。
「お?両手に花じゃねーか一誠。羨ましい限りだ」
「うわっ………」
奥の車両の方から現れたアザゼル先生。俺の状態を見て楽しそうに笑みを浮かべているのを目にして、思わず声が出てしまった。
「おいおい、先生に対して『うわっ』はねえだろ。これは教育的指導を入れた方がよさそうか?」
「貴方には言われたくないですよ不良教師。あんまり軽はずみなことばかり言ってると懲戒免職くらいますよ?」
「いつにも増して辛辣だな………」
この状況に色々と溜まっているものもあったため、ついつい口調が荒くなってしまう。まあ、こうして発散できるので、アザゼル先生が来てくれたのはある意味ではよかったかもしれない。
「お前今俺に対して失礼なこと思わなかったか?」
「いえ全然まったくこれっぽっちも思ってません尊敬するアザゼル先生に失礼なこと思うはずないじゃないですか」
「句読点無くなるほどに棒読みじゃねえか」
どこかメタさを感じる発言をしながら肩を落とすアザゼル先生。だが、どこかわざとらしいのでおそらくそこまで気にしちゃいないのだろう。
「というか、冗談抜きで言うがお前はもうちょっとそっち方面にも目を向けたらどうだ?」
「そっち方面というと?」
「いちいち聞き返さなくてもわかるだろ?歴代赤龍帝の中には女を何人も侍らせてたやつもいるぐらいだ。もっというと、女の赤龍帝は男をとっかえひっかえって奴もいたしな。お前だってその気になればより取り見取りだろうに。修行もいいけど、たまには女とデートとかしてみたらどうだ?」
つまりアザゼル先生が言いたいのは、もっと異性関係にも目を向けろと言っているのだろう。というか、歴代赤龍帝はそんなに異性にだらしない奴が多かったのか?
『実際アザゼルの言っていることは事実だな。そっち方面に目を向けていた者も少なくはなかった。それだけ赤龍帝というだけでひとが集まってきたともいえるがな。それは相棒も同じだろう?』
ドライグが俺の脳内に語り掛けてくる。確かに、赤龍帝だったからこその縁もあったのは確かだ。冥界でのパーティの時だって、赤龍帝である俺に寄って来るひとは多かったしな………まあ、そっちの方は鬱陶しくはあったが。
けどまあ………
「気遣いはありがたいですが、今はちょっとそっちに目を向けるつもりはありませんね。俺はまだまだ力不足だ。デートなんてしてられる余裕はとてもじゃないがない」
「まったくお前は………色々な方面にマジで同情するぞ」
呆れたような目で俺を見ながらやたらと深いため息を吐くアザゼル先生。さすがにこの態度には思うところはあるが、言及してしまえば面倒くさいことになりそうだから言うのはよしておこう。この話はここまでだ。
「あら、残念ですわね。向こうに戻ったらデートしようと思っていたのだけれど」
「あ~け~の~?」
ここまでにしようと思った矢先、朱乃先輩の一言によってそれは不可能になってしまった。案の定、部長が反応してしまい、一触即発だ。
「はあ………アザゼル先生、勘弁してくださいよ」
「いや、今のは俺のせいじゃないだろう。どっちかというとお前が原因だ」
俺だって悪くない………と思いたい。これはまた部長と朱乃先輩の小競り合い確定ルートだ。
こうなったら、二人には申し訳ないがもう俺は黙っていよう。なんか二人共魔力を纏ってるように見えるけどそれも見なかったことにしよう。
そうだ………今の俺にそんなことにかまけている余裕なんてないんだ。オーディン様に言われて色々と考えてはいるけれど………結局は強くなることが最優先。今の俺にとって、力をつけることが何よりも大事だ。
そう、たとえ………
たとえ、強くなって、先に何もないとしても………
俺の生きる目的を果たすために俺は………
………強くならなければならないのだから
これにて、本章は終わりとなります。結局最後の最後でややシリアスに………今回の章で一誠さんの病み具合がさらに深まった気がする
次章は原作通りイリナさん再登場となりますので、そこで多少いい方に向かうかどうか………正直作者の私でも不明です(無責任)
そして次章ではついに一誠さんの禁手を超えた力も………
それでは次章もまたお楽しみに