『兵藤一誠』の物語   作:shin-Ex-

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今回から新章開始となります

それではどうぞ


体育館裏のホーリー
第89話


 

俺の知る限りアーシアほど優しく尊い存在は存在しなかった

当然のように他者を慈しみ、救いを願う心を持ち、誰に対しても温かな太陽のような笑顔を振りまく………俺に言わせれば、アーシアはその存在自体が奇跡のようにも思える子であった。

だが………そんな彼女を俺は縛り付けてしまった

アーシアはレイナーレが死んだ現場に居合わせていた。俺が絶望するところを目の当たりにしてしまった。優しいアーシアはそんな俺を放っておくことができなかったのだろう………俺を支えるために悪魔になってしまった。悪魔になれば容易に祈りを捧げることもできなくなるとわかっていたはずなのに………俺なんかの為に、自らの生き方を歪めてしまった。

だからこそ、俺はアーシアを守らなければならない。それは俺の贖罪………一生かけても償いきれない罪に対する償い。

アーシアを守り、アーシアの幸せを助ける………それが俺の生きる目的の一つ。

その障害になるものがあるというのなら………この手で排除してやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ………」

 

夏休みが終わり、しばらくたあったある日の通学路にて。未だに学生の大半が長い休みの終わりを嘆いている姿が多数みられる中、隣を歩くアーシアは溜息を吐いていた。だが、その溜息が夏休みの終わりから来るものではないことを俺は知っている。

 

「やはりあのこと気にしてるのか?」

 

「………はい」

 

思った通り、アーシアを悩ませているのは例の出来事であった。

それは人間界に戻ってきた直後の事であった。アーシアに声を掛ける男がいた。男の名前はディオドラ・アスタロト。若手会合にも顔を出していた今のベルゼブブ様を輩出したアスタロト家の次期当主であった。そのディオドラがなぜアーシアに声を掛けたのかわからなかったのだが………どうやら奴はかつてアーシアが治療した悪魔………つつまり、アーシアが教会を追放されるきっかけを作った男であったようだ。

それだけであったのなら、まだ劇的な再会というだけのものであった。ディオドラもアーシアに対して感謝の言葉を述べていたし、結果追放されることになったとしても、彼の治療はアーシアが望んで行ったことなので俺も別に横から口を出すつもりもなかった。

ならばなにがアーシアを悩ませているのかというと………なんとディオドラは、その場でアーシアに求婚したのだ。『これは運命だ、愛している』と言い、アーシアに跪きながら手に口づけを落とすディオドラ。傍から見ればロマンチックな告白にも見えるかもしれないが、それがアーシアを戸惑わせる。突然の事なので無理もないだろう。そしてアーシアを悩ませているのは………そのディオドラの告白に対して、どう答えるべきなのかということだろう。

 

「色々と気にすることもあると思うけど、あれに関してはアーシアが思うように答えを出せばいいと思うぞ?」

 

「それはわかっているのですが………一誠さんは、どうしたらいいと思いますか?」

 

縋る見上げながら俺に尋ねてくるアーシア。本音をいえば、断って欲しかった。それはあのディオドラという男が信用できないからだ。あいつはアーシアに対して礼儀正しく振る舞ってはいたが、どうにもその姿に違和感のようなものを感じていた。どこか取り繕ったような………質の低い芝居を見させられているような感覚だ。もっとも、悪魔で俺個人の抱いた印象だ。この印象の正しいものなのか同化気になって、奴の事を部長に尋ねてみてが部長も詳しい人柄までは知らないようで結局は何もわからなかった。

結局は、ディオドラという男に嫌悪感を抱いているのはあくまでも俺個人の感情………それをアーシアに押し付けることはできない。

 

「俺は………アーシアに幸せになって貰いたいと思ってる。そのための手助けなら可能な限りしたい。だけど………少なくとも今は、今回の件で俺が言えることは無いよ。アーシアの人生にも関わることだ………俺なんかが口を出すようなことではない」

 

我ながら無責任だということはわかっている。俺は既にアーシアの人生を狂わせてしまっているのだから。アーシアは俺を支えるために悪魔になってくれたというのに、俺は………

 

「役に立てなくてすまないな」

 

「いえ。私の方こそごめんなさい。これは私が考えなければいけないことなのに………」

 

考えなければいけないこと、か。そう思っている時点でアーシアの中で答えは決まっているのだろう。それでもアーシアが悩んでいるのは、ディオドラに気遣っているから。優しさ故に、アーシアは悩んでいるのだ。

ままならないものだ………多くの者を救ってきたアーシアの優しさが、自分を苦しませてしまっているだなんて。

 

「………アーシア」

 

俺はアーシアの頭に手を乗せ、軽く撫でる?

 

「一誠さん?」

 

「アーシアがどんな選択をしようとも、俺のやることは変わらない。お前のことは………俺が守るから」

 

「………はい。ありがとうございます」

 

笑顔で感謝の言葉を口にするアーシア。だが、それは俺にとっては痛いものであった。

彼女を守るのは俺の贖罪………自己満足でしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いたか一誠?」

 

教室に入って自分の席についたところ、唐突に元浜が俺に声を掛けてきた。近くには松田もいる。

 

「お前達のナンパ旅行が大爆死に終わったことなら何度も聞いた」

 

「そっちじゃない!!というか言うなよな!!」

 

「ちくしょぉぉぉぉ!!そこら中にこの夏に童貞を捨てた奴がいるってのになんで俺達は報われねぇんだぁぁぁぁぁ!!」

 

「わかったわかった。俺が悪かったから号泣しながら叫ぶな」

 

よほど傷が深いのか、大粒の涙を流しながら叫びちらかす松田と元浜。周囲の者達(主に女子)が白い眼を向けてきているが、この様子じゃまず間違いなく気が付いていないだろう。

 

「それで?聞いたってな何をだ?」

 

「ああ、どうやらこのクラスに転校生が来るらしい」

 

「は?また?」

 

思わずぶっきらぼうな返答をしてしまったが、それも仕方がないことだと思う。何せ今年に入ってからアーシアとゼノヴィアの二人がこのクラスに編入してきているのだ。三人目ともなれば、いくら何でも多すぎる。

 

「まあ確かに、なぜこのクラスにばかり転校生が固まっているのかは疑問だが、そんなことはどうでもいい。大事なのはその転校生が女子だということだ」

 

「ああ、妙に男どもが落ち着かない様子だったのはそれでか………」

 

先ほどからやたらと落ち着きなく意味もないのに動き回ったり、服装や髪形を整えている男子が多いとは思っていたが………転校生の女子に少しでもいい印象を抱いてもらいたいからか。なんというか、そういう姿を見ると情けないと思う一方で、涙ぐましいほどに哀れに見えてしまう。

 

「まだ女子だってだけでどんな子なのかもわからないっていうのに、どうしてこう気がはやるんだよこいつらは………」

 

「だけど気持ちはわからなくもないな。何せ前例があるからな」

 

「ああ、そういう………」

 

先に転入してきたアーシアとゼノヴィアは世間一般的には間違いなく美少女と言って差し支えないレベルだ。だったら今回の転校生もそうなのではないかと期待してしまう気持ちもわからないでもない。

 

「一誠、お前はどんな子が転入してくると思う?俺は今回は大和撫子系な清楚な女の子だと思うんだ」

 

「俺は活発な子に一票だな!」

 

「いや別に俺は………どんな子が転入してこようとあまり興味はないし」

 

アーシアとゼノヴィアに関しては関係者であるため当然気にかけていたが、今回は全く知らない赤の他人だ。別段興味を持つことは無い。強いて言うなら、こんな興奮しきった男子が多数いる中に放り込まれる子のことを思うと同情を禁じ得ないということだけだろうか。

 

「なんだよノリ悪いな………」

 

「お前も男なんだからもっとこう、テンション上げてこうぜ」

 

「ノリが悪くてもテンションが低くても結構。ともかく、転校生に関してはそこまで興味はないから」

 

そう、この時はまだ転校生に対して特に気にも留めていなかった。誰が転校してこようとどうでもいいとさえ思っていた。

だが………

 

「今日からこのクラスでお世話になる紫藤イリナです!皆さんどうぞよろしくお願いします!」

 

「………マジか」

 

転校生の正体がイリナだと知った俺は………この教室の誰よりも驚いている自信があった。




原作イッセーさんに対し、アーシアさんに負い目の感情が強いイッセーさん。それ故にある意味では誰よりもアーシアさんはイッセーさんにとって特別ともいえるのですが………

そしてイリナさん再登場。果たしてイッセーさんにどのような影響を与えるのか………

それでは次回もまたお楽しみに
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