それでは本編どうぞ
「こんにちわ紫藤イリナさん、あなたの来校を歓迎するわ」
放課後の部室にて。当然のように俺達についてきたイリナに歓迎の言葉を贈る部長の姿を目の当たりにする。全く動じていないということは、間違いなく部長はイリナの来訪を知っていたのだろう。
「部長………知っていたのならなぜ教えてくれなかったんですか?」
「なぜと言われても………確かに一誠からすれば思うところがあるのはわかっていたけれど、話したところで彼女がこちらに来ることは変えられないから、わざわざ言う必要は無いと思ったのよ」
「それは………まあ、そうですが」
反論することは確かにできない。しかし、それでもどこか釈然としないものがあった。
「もう一誠君ったら。私が来るのがそんなに嫌だったの?」
「別にそういうわけではないが………それよりも、一応改めて挨拶はしておいた方が良いんじゃないか?」
「そうね。初めましての方もいるけれど、再びお会いした方の方が多いわね。天使様の使者としてはせ参じました紫藤イリナです!よろしくお願いします!」
元気よく快活に挨拶をするイリナ。こういう時、物おじせずに当然のように笑顔を振りまけるイリナの社交性の高さは、少しだけだが羨ましく感じる。
「さて、一応聞くが紫藤イリナ。お前は聖書の神の死は知っているんだよな?」
「先生、いきなりそれは………」
アザゼル先生のその一言に、俺は思わず動揺していった。信仰心の高いイリナにとってその事実は相当に答える者のはずだ。アーシアやゼノヴィアだってショックを受けていたのだから。
「お前の言いたいこともわからないでもないが、駒王は三種族にとって重要な拠点の一つ。そこに派遣されるってことはある程度の知識、情報を知ってる必要がある。その確認はしておいた方が良いだろ」
「もちろんです堕天使の総督様。私はもう主の消失を認識しているから」
どうやら既に聖書の神の死については受け入れているらしい。ただまあ、イリナの性格上、すんなり受け入れられたとは思えないが………
「お前の事だからショックのあまり寝込んだりしてたんじゃないか?」
「当然よ!主は私達の支え!世界の中心!あらゆるものの父!その主が死んでいたのよ!?ミカエル様から聞かされたときはあまりの衝撃で七日七晩寝込んでしまったわ!あああぁぁぁ主よ!」
突然喚きだしたイリナ。どうやら堪えていたものがあふれ出してしまったようだ。イリナはテーブルに突っ伏して号泣する姿を目にすると、俺が直接の原因ではないにせよ聞いた手前、若干の罪悪感に苛まれる。
「わかります」
「わかるよ」
イリナを慰めるように、肩に手を置くアーシアとゼノヴィア。おそらく今のイリナの気持ちはこの二人にしか理解できないのだろう。それほど信仰心の厚い信徒にとって神の死はあまりにも衝撃的なのだろうが………正直俺は俺は『へえ、死んでるのか』程度にしか思わなかった。
「ごめんなさいアーシアさん!私はあなたの事を教会の意に反する魔女だと思っていたわ!ゼノヴィアにも酷いことを言ってしまったって………!」
「気にしていません。これからは同じ主を敬愛する同士、仲良くできたら幸いです」
「私もだ。あの時の事は破れかぶれに悪魔になった私にも非がある。だが、こうして再会できてうれしいよ」
「「「ああ、主よ!」」」
突然祈り始めた3人。何やら3人の間で何か絆のようなものが芽生えたようだ。まあ、変にぎくしゃくされるよりはずっといいので、仲がいいに越したことは無いだろう。
「あ、そうだわ。皆に見せたいものがあったの」
イリナはそう言いながらゼノヴィアとアーシアから少し離れたところに立ち、祈りのポーズをする。すると、イリナの身体が輝き、その背から天使の証である純白の翼を生やした。
「イリナ、それは………」
「ふふふっ、驚いたでしょうゼノヴィア?ミカエル様から祝福を受けて、私は天使に転生したの」
「天界と冥界の研究者が共同で研究して完成した技術だな。根本的なところは悪魔への転生システムを用いているんだろう」
「総督様の言う通りです。悪魔が転生にチェスの駒を使っているのに対して、天使ではトランプの札をを用います。主となる熾天使様を『
人間を天使に転生させるシステムか。神不在が原因で天界は新たな天使を増やすのが困難になっていると聞いたことがあるが、その問題を悪魔の転生システムをを応用したことにより解決したらしい。信徒からすれば信仰の果てに天使へ転生するとなれば、大変な栄誉なことなのだろう。
だがそうなると残る堕天使も同じシステムを使っているのだろうか?
「堕天使も同じように転生システムを構築しているのですか?」
「いいや、そんなシステム作っちゃいない。俺達は無理に総数を増やそうとは思っていないからな。もっとも、天使の方から堕ちてくれるっていうならその限りではないが」
どうやら堕天使達は転生システムを用いてまで仲間を増やそうとは考えていないようだ。まあ、アザゼル先生の性格上、そこはあまり関心はないのだろう。
「それよりも、トランプを使うとはミカエルも面白いことをしてくれるもんだぜ。裏でジョーカーって呼ばれる強い奴も居そうだな。それに、ポーカーの役を作って力を発動させるってこともできそうだ」
アザゼル先生は楽しそうに考察を始める。アザゼル先生は堕天使を統べるだけあって戦闘力はかなり高いのだが、気質的にはやはり研究者なのだろう。能力があり、立場的なものもあって戦うことはあっても、本来は研究に明け暮れるのが好きというタイプなのかもしれない。
「そういえばイリナ、さっき天使はトランプの札を用いて転生仕手いるといっていたが、お前はどの札で転生したんだ?」
「よくぞ聞いてくれたわねゼノヴィア!私は『A』よ!しかもミカエル様の『A』なの!」
「「ミカエル様の!?」」
イリナが胸を張り自慢げに言うと、アーシアとゼノヴィアは驚きを露わにした。無理もないだろう。ミカエル様と言えば天界のトップ。天使を統べる長だ。そんなミカエル様のAとなれば、栄誉どころの話ではない。
………俺は正直、少し自慢げなイリナを見てイラっとしたのだが。
「ミカエル様に選ばれるだなんて本当に光栄で話を聞いた時は心臓が飛び出るかと思ったぐらい驚いたわ。これからはミカエル様のAとして恥じない働きをしてみせるわ」
「………張り切りすぎてから回らなければいいけどな。お前、昔から無鉄砲なことあったし」
「むっ………何よ一誠くんったら。人が意気込んでるのに水を差さないでほしいわ」
「実際昔のお前はそうだっただろ。お前の無鉄砲にどれだけつき合わされたと思ってるんだ?」
「た、確かに昔はやんちゃしてたこともあったけど、そこまで無鉄砲じゃなかったもん!失礼しちゃうわ!お詫びに一誠くんが悪魔になった理由を教えて!」
「それ今関係ないだろ………」
突然、悪魔になった理由を聞きだそうとしてきたイリナ。こいつ、まだあきらめてなかったのか。
「というわけで教えて一誠くん!」
「断る。というかそれは決闘に勝ったんだから教えないってことで済んだだろうが」
「あの時はあの時、今は今よ!」
「そんな理屈が通ると思ってるのかよ………」
くそ………こうなるのがわかってたから嫌だったんだ。本当にしつこい………
「教えて教えて教えて教えて教えて!」
「だから、嫌だって言ってるだろうが!」
「お~し~え~て~!!」
「引っ付くな!服引っ張るな!何をされても教えるつもりはない!」
「い~や~!!」
「子供かお前は!」
またしても駄々をこね始めてしまったイリナ。引きはがそうにも、天使に転生したからか凄い力で中々離れてくれない。多少強引にすれば離れるかもしれないが、そうもいかないし………
「だ、誰か手を貸してくれ!」
仕方なしにこの場にいる誰かに手を借りようとするが………俺の希望は見事に打ち砕かれた。皆して見ているだけで手を貸してくれそうにもない。一部楽しそうに笑みを浮かべてるし。
「もう………本当に勘弁してくれ」
「教えてよ~!一誠く~ん!」
駄々っ子のように俺の腕を引っ張るイリナと、思わず頭を抱えそうになる俺。今後もこう言ったことが何度も起きるのではないかと思うと、さらに頭が痛くなるのを感じた。
相変わらず悪魔になった理由をしつこく聞かれる一誠さん
周りから見たらじゃれ合ってるようにも………見えないか?
それでは次回もまたお楽しみに