『兵藤一誠』の物語   作:shin-Ex-

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今回は一誠さんとイリナさんのお話です

それでは本編どうぞ


第91話

「この辺りは全然変わってないのね」

 

「住宅街なんて10年じゃそこまで変わらないだろ。商店街の方は多少変わってるけど」

 

日曜日、俺はイリナと町内を歩き回っていた。

転入してから俺が悪魔になった理由をしつこく聞きだそうとしてくるイリナ。いい加減しつこく感じたため、どうしたらやめてくれるのかと聞いたところ、今の駒王町の事を知りたいから案内して欲しいと言われて、今日に至るということだ。これぐらいで聞いてこなくなるのなら安いものだと思ったが、それならこの間の決闘は何だったのだろうか。

 

「というか、10年も前の事なのにそこまで覚えてるものなのか?」

 

「私の記憶力を舐めないでもらいたいわ。今だって目を閉じれば一誠くんと遊んでた時の事を鮮明に思い出せるんだから」

 

自慢げに胸を張って言うイリナ。まあ、俺も当時のことは結構覚えてる方ではある。その理由は散々振り回されたからという何とも言えないものではあるのだが。

 

「あ!あの駄菓子屋まだあったのね!懐かしいわ。よくあそこでお菓子を買ったわよね」

 

「ああ。くじで当たりが出なくて泣いたことがあったよなお前」

 

「え~?そんなことあったっけ?」

 

「記憶力を舐めるなって言っておいてなに呆けてるんだよ………結局俺が買った方で当たりが出て散々喚いていたのを俺は忘れていないぞ?」

 

「………記憶にないわね」

 

こいつ、あからさまに目を逸らしやがって………絶対に覚えてやがるな。

 

「せっかくだ、久しぶりに何か買うか?」

 

「あ、それじゃあラムネをお願いね一誠くん」

 

「奢ってもらう気満々かよお前………」

 

「当然!聞かない代わりの交換条件なんだからそれくらいわね!」

 

なんか結局俺ばっか損してるような気がしてるから納得がいかないが………まあいいか。ラムネの一つぐらいで目くじら立てていたらきりがない。前にファミレスで奢った時に比べればはるかにマシだしな。

………今更だがあの時の料金、天界に請求したら返って来るかな?まあ、領収書もレシートもないけど。

 

「こんにちはー。久しぶりおばあちゃん」

 

「あら………イリナちゃんかい?久しぶりだねぇ。随分とまあ美人さんになって」

 

「ありがとうおばあちゃん。おばあちゃんは変わらず元気そうで安心したわ」

 

確かに、この駄菓子屋のおばあちゃんは変わっていない。それこそ10年前から全くだ。ここまで変わっていない姿を見ると、本当は悪魔なんじゃないかって思ってしまうのは俺が悪魔の環境に慣れ過ぎてしまったためだろうか?

 

「おばあちゃん、ラムネ2本貰うよ」

 

「はい、ありがとね一坊」

 

「その一坊ってのやめてくれよ………俺もう坊やって歳じゃないんだからさ」

 

このおばあちゃん、なぜか昔から俺のことを一坊と呼んでくるんだよな。そのくせイリナはちゃんと名前で呼ぶから、なんだか納得がいかない。

 

「私に言わせれば、一坊はいつまで経っても一坊だよ。言われたくなかったらいっぱしの男になって出直すんだね」

 

「つまり今の俺はいっぱしの男として認められないってことか………というか何がどう変わったら認めてくれるんだ?」

 

「そうだね………しゃんとしたら認めてあげようかねぇ」

 

しゃんとって………抽象すぎてわからない。

 

「もういいや。ほら、ラムネの代金」

 

「まいど。また二人でおいで」

 

「はーい!また来まーす!」

 

「またねおばあちゃん」

 

代金を払い、おばあちゃんに挨拶をしてその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これよこれ!やっぱり日本の飲み物と言ったらこれだわ!」

 

「前のファミレスの時もそうだけど、いちいち大げさすぎやしないかお前は?」

 

歩きながら飲むのもマナーが悪いということで、近くの公園のベンチに座りラムネを飲んでいたのだが………大げさなリアクションをとるイリナに、思わず呆れそうになる。まあ、こうしてちょっとしたことでも楽しめるのはイリナの長所の一つだとは思うが。

 

「お前みたいに生きられたら楽しいんだろうな」

 

「ええ。私すごく楽しいわよ?」

 

「それは何より………ほら、ビー玉欲しいならやるぞ?」

 

「本当?ありがたくいただくわ」

 

喜んで俺の飲んでいたラムネの瓶からビー玉を取り出すイリナ。『そんなもの欲しがるほど子供じゃない』と怒られると思っていたのだが………俺の予想の超えてくるなこいつは。

 

「………ねえ一誠くん」

 

俺からもらったビー玉を楽し気に眺めていたイリナだったが、急に神妙な面持ちで俺に声を掛けてきた。

 

「さっき、私みたいに生きられたら楽しそうって言ってたわよね?」

 

「まあ言ったけど………それがどうかしたか?」

 

「一誠くん………今楽しくないの?」

 

どこか辛そうに、悲しそうに尋ねてくるイリナ。

 

「前に会った時もそうだったけど………一誠くん、全然笑ってない。一誠くんの笑顔、全然見られない」

 

「仏頂面は昔からだろ?何を今更」

 

「確かに昔からポーカーフェイスだったけど、昔はちゃんと笑顔も見せてくれてたわよ?楽しそうな時はちゃんと笑ってた。だけど今は全然笑ってない。だから、楽しくないのかなって」

 

全然笑ってない、か。確かに笑う機会は減ってるかもしれない。最後に笑ったのは………ヴァーリと戦った時か?

 

「だったらどうした?イリナには関係ないことだろ?」

 

「そんなことない!」

 

「え?」

 

「一誠くんが笑ってくれないのは嫌!楽しくないのは嫌!一誠くんには笑ってほしいし、楽しく生きて欲しい!笑ってくれないのなんて………嫌だよ」

 

俺の手を掴み、泣きそうな表情で言うイリナ。なんでこいつがこんな顔をしているのか、理解できない。理解できないが………あまりいい気分ではなかった。

いい気分ではないが………それは俺にはどうすることもできない。実際、楽しいと思えることなど何もないのだから。戦っている時ぐらいしか、俺は楽しいと感じられない。その戦いでさえ………匙との戦いは、酷く苦しく感じていた。

 

「………お前がどう感じようと、やっぱり関係ないな。俺は俺の生きたいように生きているだけだ。楽しいとか楽しくないとか、笑えようが笑えまいがどうでもいい。それこそ、さっき言った通りイリナには関係ないことだろう?俺がどうなろうがお前には………」

 

「………駄目なの?」

 

「え?」

 

「一誠くんに楽しく生きて欲しいって思ったら………駄目なの?そんなに私………間違ったこと言ってるかしら?」

 

「それは………」

 

否定できなかった。否定することができなかった。

俺がどう生きようが、笑えようが笑えまいがそれは俺の勝手。その考えを変えるつもりはない。だが、だからこそ………イリナの考えを、思いを否定することなど、できるはずがなかった。

故に俺は………イリナに何と言えばいいのか、わからなかった。

 

「ねえ一誠くん………一誠くんは、望んで悪魔になったの?」

 

「………どういう意味だ?」

 

「今一誠くんが笑えないのは、悪魔になったせいなの?望んで悪魔になったわけじゃないから、一誠くんは笑えなくなったの?だったら私やっぱり悪魔の事………」

 

「それは違う」

 

俺が笑えないのは、悪魔になったからではない。確かに、自分から進んで悪魔になったわけではない。けれど、それは関係ない。

俺が笑えないのは………俺が楽しいと思えないのは………

 

「確かに今の俺にとって、楽しいと思えるようなことはほとんどない。もう簡単には笑えないだろう。だけどそれは悪魔だからじゃない。悪魔として生きていくことに不満は無いし、悪魔になったことに後悔はない。それだけは確かだよ」

 

「だったらどうして?どうして一誠くんは………」

 

これは………適当にははぐらかせないだろう。だが、だからと言って話すことはできない。

愛する女を………レイナーレを死なせてしまってこうなったことを。イリナにだけは知られるわけにはいかない。

なんでそう思うのか自分でもはっきりとわからないけれど………知られたくないんだ。

 

「………そろそろ行こうかイリナ。商店街の方も見て回りたいだろ?あっちは色々と変わってるしさ」

 

「一誠くん………」

 

「コーヒーが美味しいカフェもできたんだ。ランチも美味しいからそこで昼食にしよう。もちろん俺の奢りだ」

 

「一誠くん!」

 

誤魔化そうとする俺を咎めるように、イリナは声を荒げる。それも当然のことだとは思うけれど………誤魔化せるはずないとは思うけれど………

 

「イリナ………頼むよ」

 

「ッ!?」

 

言葉を詰まらせるイリナ。潤んだ眼からは涙があふれ出しそうになっている。

ごめん、ごめんなイリナ………心配してくれてありがとう。その気持ちは嬉しい。だけど………どうか、今はもう察してくれ。

もう………諦めてくれ。

 

「………そうね。確かに商店街の方も見てみたいし、休憩はここまでにしましょう。一誠くんお勧めのカフェにも行ってみたいわ。この際たくさんご馳走になるから覚悟してね?」

 

俺の思いを察してくれたのか、イリナは同調してくれた。俺に気を遣って笑顔を見せてくれているが………その笑顔は、あまりにもぎこちなかった。

 

「ほら、早く行きましょ一誠くん」

 

俺の手を取り、歩き出すイリナ。

強く握られた右手は………痛くて痛くてたまらなかった。




初めはほのぼのとしていたのに結局シリアスに・・・・・今の一誠さんは基本暗いので仕方がないといえば仕方がないですが

それでは次回もまたお楽しみに
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