すみませんm(__)m
最近、独角兕の様子がおかしい。こないだ怪我をして帰って以来こっそり毎夜に吠登城を抜け出してどこかに行っているようなのだ。紅孩児は、いつものごとく城を出ようとしている独角兕に声をかけた。
「独角。」
「紅!?……どうしてここに!?」
「……お前、最近城を抜け出してどこに行っている?」
「知ってたのか!?隠してた訳じゃねぇ……そろそろ紅にも言おうと思ってたんだ。」
「……。」
「来てくれ。」
「は?」
城の周りにある林を抜けしばらく行くと、景色からだんだん緑が減り始めた。
黒灰色のゴツゴツした岩と短い草の景色。そのなかにポチポチと小さな丸い黄色い花が咲いている。
背の低い木に少女が座っていた。
「雪蘭!!」
独角兕が叫ぶ。雪蘭と呼ばれたその少女は独角兕に気づくと木から飛び降りた。身体能力は長けているようで、着地も失敗することはなかった。
少女が独角兕の横に並ぶ。ゆっくりと少女が紅孩児の方を振り向いた。
その姿に、紅孩児は頭が真っ白になるほど見惚れてしまった。
髪は銀の絹糸。白磁の肌に紅を差した頬。朝露を含んだ薔薇の唇。瞳はまるで青い大河の豊かにゆたう水面のようだった。尖った耳と左肩にある紋様が妖怪だということを表していたが、彼女は妖精のようだった。
「……ゴホン。」
と、紅孩児は咳払いし、続ける。
「……彼女は?」
「ん、ああ。俺が怪我したときに助けてくれた雪蘭だ。右腕の傷が治るまでここに通ってる。」
そこでようやく彼女が口を開いた。
「私、飛雪蘭。ここは私が薬草を育ててる場所で本当はもっと奥に住んでるわ。」
どうやら、この黄色い花が薬草らしい。
「あなたが王子様ね?」
「……紅孩児だ。」
「じゃあ、紅くんね!!」
「「紅くん!?」」
珍妙な呼び方に眉をひそめる紅孩児と対照的に大笑いする独角兕。それをキョトンとした顔で眺める雪蘭。
「独角の治療は今日で終わり。お礼という名の話相手にもなってくれたし。」
「お前は医者なのか?」
「いいえ、薬草とか…色々植えてるのは趣味なの。治療とかも。だからちゃんとした医者に行けって言ってるのに、独角ってば耳を貸さないんだから!」
紅孩児は横目で独角兕を見ると彼はあからさまに目をそらしていた。
「本来は私、料理人に……そうだわ!せっかくだから食べていって!」
こっちよ、と彼女は二人の腕を有無を言わさず引っ張った。
岩だらけの盆地の向こうには、豊かな森が広がっていた。
森は静かで、虫や鳥の姿も多かった。だがうねるように生えた巨木や毒々しい植物など、いかにも人間を寄せ付けない魔の森の雰囲気が満ちている。
しばらく歩き巨木の根が這い回る足場の悪い森の中を駆け抜けた。
森の向こう側が光っている。
頭上から降り注ぐ眩しい光に紅孩児たちは包まれた。濃い水と緑の匂いがした。鬱蒼と生い茂る森の葉のせいでわからなかったが、もう夜は明けていたのだ。
「お……。」
「これは……!!」
一面の水鏡に、緑と花と青空がくっきりと映り、まるで世界が二つあるようだった。湖かと思われたのは、大小さまざまな泉とそれをつなぐかのような小川。その上に小さな石橋や木製の通路が架けられていた。
泉の中も地面も見渡す限り緑に覆われ、水の中も地上も白や黄色の花が満開だった。
紅孩児の背丈ほどの幹の細い木が点々と立ち、そこにはみたこともない真っ青な実がなっていた。
青い青い空の下。水は澄み、色とりどりの花は咲き、緑はしたたるようで、舞い飛ぶ蝶たちの羽音さえ聞こえてくるようだった。
「すげぇ……。」
それらに包まれてレンガの家が静かに建っていた。窓に花が飾られている。
「さ、入って入って。」
家の内部は木と石造りの落ち着いた雰囲気だった。薬草を入れた硝子瓶や医術の本、そして謎に煙草の箱が棚いっぱいに並んだ部屋で紅孩児たちは椅子に座っていた。
家主である雪蘭は台所で料理を作っている。
シンと静まった部屋。開けっ放した窓から見える景色がまるで絵画のようだった。水の匂いがした。緑の匂いがした。静かな、静かな朝。
二人は何も言わずただ窓の外を眺めていた。
そこでようやく紅孩児が口を開く。
「……ここには来たことはなかったのか?」
「あぁ、今まで岩の盆地で会ってた。悪ィな、紅。今まで黙ってて。」
「いや……お前のことだから怪我が完全に治るまで言わないつもりだったんだろう。」
「ははっ、お見通しって訳か。……なぁ、紅。雪蘭がなんでここに住んでるとか、そういうことは知らねぇけど、もし……もし紅がいいなら……。」
「独角、それは……。」
「お待たせ~!」
そのとき、雪蘭が大きなテーブルに山盛りのごちそうを置いたことにより、会話が中断された。
「ちょっと作りすぎちゃった。」
「ちょっと……?」
「今日は肉から卵まで森にいる鳥づくしなの。野菜も森でとれたものだし。……名前はわからないけど。」
「……それ、大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。今までも私食べてきたし。」
「美味いな。」
紅孩児が既に食べ物を頬張っていた。
「紅!?………まぁ、確かに。」
肉は脂肪が少なくて健康的で逆に卵はこってりと濃厚な味がした。雪蘭特製の蜜酒(ミード)もほんのり甘く、料理にとても合っていた。
「雪蘭。」
「なに?」
そのとき初めて紅孩児は彼女を名前で呼んだ。
「料理人になりたいのか?」
「うん、昔からの夢なの。」
「吠登城に来ないか?お前を雇いたい。料理人としては勿論、俺の部下としてもだ。」
「紅……!!」
「いいの!?でも私、」
「お前の過去になにがあったのか俺は知らん。ただお前の腕が欲しい。……その腰にさしてる剣もナマクラではないのだろう?」
「う、うん。剣術は得意。特に水中戦は。……でも、本当にいいの?」
「ここも城に近い。飛竜を飛ばせばすぐだ。たまにここが恋しければ戻」
「本当にありがとう!!」
そういうと雪蘭は紅孩児に抱きついた。
「なっ!?」
顔が赤くなる。
水郷に黄昏がやってきた。水面という水面が夕暮れに染まる空を映し、世界は美しかった。やがて世界は底のほうからゆるゆると紫に染まりゆき、草陰の底から小さな光虫が舞い始めた。その儚げで優しい明かりがまた水面に映り、地上にも星空があるようだった。
これは雪蘭と紅孩児が初めて会った日の話である。
今日も彼女が俺を呼ぶ声がする。
本日、1月6日は紅孩児のお誕生日です。おめでとうございます♪
ということで、紅孩児メインのお話を書かせて頂きました。……紅孩児夢じゃないですからね!
また出てきたぜ、煙草。いつか書くからな!
……それにしても短編のほうが書きやすいなぁ。