少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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Web版、小説、漫画、アニメを適当に混ぜてオリジナルで補完してます。
ので、ちょいちょい原作と展開が違うと思います。


本編
第0話 プロローグ


 皆様お初にお目にかかります。

 ティナ・アルベルトと申します。

 以後、お見知り置きをよろしくお願いします。

 齢は十、一般的にはまだまだ幼きこの身ではございますが、わたしの場合少しばかり事情が異なります。

 実を申しますとわたし、二度目の人生なのです。

 いや正確に二度目かどうかは分かりませんが、少なくとも自覚している分においては二度目であります。

 前世での生を終えた後、自称“神”なる者の手によってこちらの世界に生まれ変わった次第です。

 確かに前世では心理学や精神科学、脳科学などをかじっていましたので、心理的、精神的支柱としての偶像崇拝について否定はしませんが、よもやわたし自身体験する事になるとは思っていませんでした。

 そもそもあれは自分の脳が死の際に見せた幻覚なのか、それとも実際に認識外の高次な存在が実在していたということなのでしょうか。 

 いやこれは余計な話でしたね。

 つまりわたしには前世の記憶があり、重要なのは所謂別世界とやらに生まれ変わったということなのです。

 国も時代も違うのは良いとしても、驚く事にこの世界には魔法なるものがあり、更に困った事になんとわたしには魔法を使う資質があるらしいということです。

 いや確かに前世においても魔法という概念は有りましたがそれは空想上の話であり、現実に人が空を飛んだり魔法陣から光線を飛ばしたりする光景はいささか以上に驚愕せざるを得ないと言えます。

 しかも自分がそれを為すなど想像もつかないものです。

 そして更に悪い事に、わたしの生まれ変わったこの国は、軍事主義で拡張主義で男女平等主義で国民皆兵主義であるということです。

 “帝国”と呼ばれるこの国は、なにやら前世の記憶にあるとある国のとある時期に似ている気もしますが、まあ世界史専攻で無かったわたしの知識など信用できた物ではないのでこの話は置いておきましょう。

 そんな帝国において魔法使い-この世界では魔導師と呼ぶらしい-は貴重な戦力であるのです。

 まあ単体で空を飛び、人一人が戦車並みの装甲と砲撃並みの火力を持つとなればその軍事的戦略的価値はいかほどの物でしょうか。

 軍事利用されるのは仕方の無い事なのでしょう。

 つまりは、この国に於いて魔導適性が有るという事は将来軍人となる事が決定付けられたようなものなのです。

 前世では本物の銃すら見たこと無いわたしが、まさか軍人とはなんの冗談でしょうか。

 そもそも産まれからして恵まれた物とは言い難いものでした。

 わたしは両親の顔さえ知らず、孤児院の前に捨てられていた所を拾われそのまま孤児院で育てられました。

 わたしと共に捨てられていたらしい紙切れによって辛うじて名前だけは分かったものの、それ以外はさっぱり。

 これも神様の試練なのでしょうか。

 余計なお世話なのですが。

 確かに育ててくれたシスターには感謝してますし尊敬しています。

 しかし孤児院での生活というのは決して楽しい物ではありませんでした。

 なにせ明日の食事にすら困窮する有り様。

 できれば普通の家庭に産まれ、戦争とは無関係な穏やかな生活を送りたかったものです。

 残念ながら今それを言った所でどうにもなりませんが。

 それにもしかすると、わたしが大人になる頃には情勢が変わって魔導師が全員徴兵されるとは限らないかも知れないですしね。

 なんて、わたしが楽観的に問題を先送りにしていると、驚くべき噂が耳に飛び込んで来ました。

 

-ターニャ・デグレチャフが軍人になるらしい-

 

 ターニャと言うのはわたしと同じ孤児院で育った、わたしの二つ年下の女の子です。

 そしてわたしと同じく魔導適性が認められた女の子です。

 しかもわたしと違い、非常に高い適性であったそうです。

 なるほどそれ程の才能があるなら軍人という道も頷けます。

 とは言え余りに気が早いとは思いますが。

 とにかくその時のわたしは僅か八歳で将来を決めるとは、わたしでさえ戸惑っているのになんて呑気に考えていました。

 しかし詳しく聞くとどうやら違うらしいのです。

 なんとターニャは数日後には士官学校へ行くと言うではないですか。

 まさかわたしよりも歳下の、それも女の子が明日にでも軍人となるとでも言うつもりなのでしょうか?

 余りに現実離れした話にわたしはにわかには信じる事が出来ません。

 わたしはターニャに話を聞くべく、慌てて駆け出しました。

 ちなみにその途中でシスターに怒られたくだりは割愛させて頂きます。

 まあお陰でシスターからターニャの居場所を聞き出せましたし、結果オーライですね。

 急ぎ向かうとしましょう。

 そうして再び走り出した私の背中からシスターの咎めるような声が聞こえて来た気がするのは気のせいということにしておきます。

 

「ティナ!廊下は走ってはいけないと言っています!」

 

 

 

 

 

 

 シスターから聞いた情報に従い礼拝堂へ向かうと、中ではターニャが一人お祈りをしていました。

 何でもほとんど決まった時間にはここにいるというではないですか。

 なんと信心深いのでしょうか。

 なにやら不吉なオーラが見える気がするのは気のせいでしょう。

 そもそもターニャとはあまり話した事がなく、どういった子なのか詳しくは知りません。

 知っているのは物静かで、人と関わる事が好きでは無いのか一人でいる事が多いという事だけです。

 そんな事情もあって何と話しかけるべきかと思案していると、こちらの気配に気付いたのかターニャが顔を上げました。

 

「……ティナさんですか。何かここに用でも?あいにく私しかいませんが」

 

 驚くほど平坦な声でそう尋ねられ、わたしは緊張した内心を気付かれないようにぎこちなく笑顔を浮かべました。

 

「あ、いえ……。ターニャに話があるのです……」

 

 いやなに年下の女の子に緊張してるんですか。

 そもそも精神年齢だけで言えばこちらはとっくに大人であるのです。

 それが八歳児に緊張するとは。

 いやターニャはかなりの美少女、いえ美幼女ですし、さすがに緊張くらいしても仕方ないのです。

 いやいやだとしても同性ではないですか。

 とは言えあの雰囲気はとても八歳とは思えませんが。

 それともまさか自分はあれぐらいの幼女が……ってなんだか危険な思考に陥っている気がします。

 

 いつまでも黙っているこちらを訝しげに見やる視線に慌てて口を開く。

 

「た、ターニャは軍に行くと言うのは本当ですか!?」

 

 しまった。

 これはまずい。

 何がまずいってこんな質問すでに皆からされ尽くしているに違いありません。

 ターニャの性格からして多くの人に何度も同じ話をされるのは好きではないでしょう。

 あんまりターニャの性格知らないですけど。

 しかしこれについては間違いありません。

 現に目の前の幼女はうんざりしていると言わんばかりの表情をうかべています。

 何とかしなければ!

 

「その、わたしも魔導適性が認められたので……。えっと、ターニャが軍に行くと聞いて、それで話を聞いてみたいのです」

「……ああ、そう言う事ですか」

 

 そう言えばそうだった、なんて言わんばかりの態度に思わず苦笑していまう。

 大して気にされてはいないとは思っていましたが、よもや忘れられていたとは。

 そもそも認識されていなかった可能性は考えたくありません。

 とにかく幾分態度が軟化したターニャに話を聞いてみる事にしました。

 ならばここからはわたしの腕の見せ所。

 心を読み解くのがわたしの本分。

 さてさて、わたしの力はこの世界でどこまで通用するのでしょうか。

 

 

 

 曰く、帝国は軍拡傾向にあり、いずれ強制徴兵されるならば自ら志願して、士官となってしまう方が良い。

 そうして後、確実に出世していけば安全圏である後方勤務の可能性が高まる。

 その方が前線で使い潰されるリスクを減らす事ができる。

 

 途中誰かへの恨み言らしきものが混ざっていましたが、要約すればこんな感じです。

 正直わたしは内心かなりの衝撃を受けていました。

 なるほど確かに理には適っています。

 これが良い歳をした大人の言葉であったなら、素直に受け入れていたでしょう。

 それにしてもかなりの野心家と言わざるを得ないですが。

 しかしそれを目の前の、僅か八つの幼子が口にするという違和感がわたしに底知れぬ、恐怖にも似た何かを抱かせるのです。

 しかしここまでで分かった事もあります。

 ターニャは非常に合理的な考え方をしており、一方で非常に主観的でもあります。

 盲目的と言い換えてもいいでしょう。

 全ての人が自分のような合理性を備えていないと理解しながら、それでも自分の世界は自分が思い描くように合理的に回ると思っているのです。

 非常に危うく、そしてなんと可愛らしいのでしょうか。

 あまりに歳不相応な言動の中で、僅かに見せた子供っぽさに、わたしは何とも母性のような物が刺激されるのを感じました。

 そして彼女の行く末を見てみたいと思うようになりました。

 なるほど確かに彼女の道のりは彼女が考えるほど順風満帆な物ではないかも知れません。

 しかしその中で懸命に頑張る彼女を、いつしか私は応援してあげたいと思うようになっていました。

 だから、

 

「分かりました!わたしもターニャと一緒に軍に入るのです!」

 

 わたしがそう満面の笑みで宣言すると、ターニャはこれ以上無いほどのしかめっ面で返してくれたのでした。


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