少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第9話 始まりの大隊 Ⅰ

   常に彼を導き 常に彼を見捨てず

      常に道なき道を往き

    常に屈さず 常に戦場にある

      全ては、勝利のために

 

        求む魔導師 

     至難の戦場 わずかな報酬

      剣林弾雨の暗い日々 

    耐えざる危険 生還の保証なし

    生還の暁には名誉と賞賛を得る

 

   参謀本部戦務課第六○一編成委員会

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしはそう綴られた一枚の紙を眺めていました。

 どうやら先日ターニャが話していた新設の魔導大隊の募集要綱の様です。

 普通、部隊の募集要綱と言えばもっと事務的で必要最低限な物で、良く言えば合理的、そうで無ければ無味乾燥と言った所です。

 それに比べて何と詩的な募集要綱でしょうか。

 何も知らなければ、舞台かなにかの謳い文句かと思う程です。

 この新設部隊の編成については、ターニャが責任者となったと言っていたので、この文言もターニャが考えたのでしょうか。

 ターニャは実に帝国軍人らしく合理性の塊であると思っていたのですが、こう言う遊び心も有るのですね。

 合理性を重んじる帝国の在り方も悪くは無いですが、わたしとしてはこれくらい遊び心が有っても良いと思います。

 ですが流石にこれだけではどんな部隊か良く分からないのでは無いでしょうか。

 まあわたしはターニャから直接教えて貰って、少しだけ知ってますけど。

 

 曰く、

 運用は参謀本部直轄の即応部隊。

 規模は四十八名四個中隊からなる増強大隊。

 大隊長はターニャ・デグレチャフ少佐。

 募集対象は北方及び西方以外に所属する航空魔導師。

 そしてターニャの階級ですが現在、部隊の編成官として大尉に昇級しており、編成完了と共に少佐に任官されるそうです。

 

 わたしに説明してくれた時のターニャはひどく消極的で、なんとしてでも部隊編成を阻止するとむしろ逆方向に積極的になっていました。

 まあ明らかに前線に引っ張りだこになるのが目に見えてますし、ターニャが嫌がる気持ちも分かります。

 ちなみにこれ、ターニャが参謀入り確定だと大喜びしていた例の戦務次長閣下に対して行ったプレゼンを元に考案された部隊の様で、完全に墓穴を掘った形になった様です。

 流石にあの喜びようから一気に落ち込んでしまったターニャは、可哀想で見ていられませんでした。

 

 しかし募集を始めたと言う事は少しは前向きになったのでしょうか。

 ターニャには悪いですが、実はわたしはこの部隊には賛成なのです。

 この部隊はターニャの直属になります。

 そしてわたしの今の所属は中央になりますので、この部隊への志願条件をクリアしています。

 つまりわたしはターニャが隊長の部隊に入れるのです!

 これならばわたしがライン戦線にいた時の様に離れ離れになる心配も無くなります。

 それに一緒の部隊なら、北方の時の様に知らない所でターニャが傷付くのを防げるかも知れません。

 ターニャは前線のリスクを嫌がってましたが、それならわたしが一緒にいて守ってあげればいいのです。

 そうと決まれば早速志願するのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしは今、選抜試験を受ける為に参謀本部にある第六○一編成委員会を訪れています。

 ターニャには黙って志願しましたが、わたしが試験に現れたら一体どんな顔をするでしょうか。

 いくらなんでも流石にバレてますかね?

 おや、また一組試験が終わったようです。

 

 試験の雰囲気を確認する為に、わたしの試験が行われる時間よりもかなり早くからここにいますが、既に何組かがどこかへと向かっている様です。

 彼らもどこかへ向かうようですね、軍用車に乗り込みました。

 あの方々とは同じ部隊になれるでしょうか?

 流石に合格者と不合格者の区別はつきません。

 ちなみにこの試験、二人同時に行われます。

 確かに魔導師は二人一組(ツーマンセル)が基本ですので、これもそう言った意図なのでしょう。

 

 とうとう次はわたしの番です。

 わたしと一緒に試験を受けるのでしょう方も見えました。

 よろしくお願いします。

 時間になりましたし、行きましょうか。

 

「ボリス・ブラウナー中尉。ただ今着任いたしました」

「ティナ・アルベルト中尉。同じく着任いたしました」

「ご苦労。参謀本部第六○一編成委員会委員長、グレゴリオ・フォン・ターナー大佐だ」

 

 あれ?

 てっきりターニャが試験官を務めるのだと思ってましたが、わざわざ別の人を用意したのでしょうか。

 ……?

 何か違和感が?

 …………あ、これダミーですか!

 て事はどっかでターニャが見てると言う事ですね。

 えーと、……あの壁もカモフラージュでしたか。

 壁の裏にターニャが見えます。

 ああこれターニャが喋ってるのを手前の人形が喋ってる様に見せてるんですねー。

 でも何でわざわざこんな事してるんでしょうか?

 やっぱりターニャの見た目では試験官ぽく無いからですかね?

 

 にしてもこの人形結構良く出来てますね。

 ターニャの操り人形ですか。

 ……………………。

 いえ別に何も考えてませんよ!?

 断じてちょっと良いなとか思ってませんからね!?

 ……思考が逸れました。

 

「……聞こえているのかね?アルベルト中尉!」

「申し訳ありません、デクレチャフ大尉殿。少々考え事をしていました」

 

 ヤバい、完全にやらかしました。

 いつの間にか隣にいた人もいなくなってます。

 やっぱこれ、不合格ですかね?

 同期のよしみで見逃しては、くれませんよね、ターニャですから。

 せっかく同じ部隊になれると思ったのに。

 時間を巻き戻したいとはこう言う事なのでしょうね。

 

 しかし次にターニャが発した言葉は不合格を告げる物ではありませんでした。

 

「……いつから気付いていた?」

「は?」

「いつから、気付いていた!」

「と、申しますと?」

「そこにいるのが偽物だといつから気付いていたのかと言っている!」

「えっと?部屋に入ってすぐには?」

「じゃあ、何で黙ってるんだ!と言うか何でお前がここにいるんだ!」

 

 あ、ダミーが消えました。

 と言うか、わたしが志願してたのバレて無かったんですね。

 

 ああ、待って下さいターニャ。

 

 ちょっと、肩を掴まないで。

 

 ちょ、待って、揺らさないで。

 

 ごめ、やば、ほんと、待って。

 

 お願い、します、許して、下さい。

 

 マジで、済みま、せん、でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターニャの隣にいた女性のお陰で、何とか助かりました。

 いやー、流石にヤバかったですね。

 あんな怒ったターニャ初めて見ました。

 ちなみにわたしを助けてくれた女性はセレブリャコーフ少尉と言い、ターニャの副官の方だそうです。

 彼女がわたしを介抱してくれている間、少しお話ししました。

 何でもターニャとはライン戦線以来の付き合いだとか。

 ……ってちょっと待って!

 何でライン戦線!?

 え?どう言う事?

 ターニャ、ライン戦線にいたの!?

 

「ご存知無かったのですか?結構有名だと思いましたが」

「あ、いえ、その。わたしは負傷して途中で戦線離脱したもので」

 

 そう言えば、と思い出した様子の少尉によって更なる新事実が明かされたのです!

 何でもラインで死にかけたわたし達の救援に駆け付けたのが、ターニャの部隊であったらしく、さらに瀕死のわたしを運んでくれたのは目の前の少尉であったそうです。

 えぇ?じゃあターニャは知ってたんじゃ無いですか。

 何で何も言ってくれなかったんですか?

 わたしてっきりターニャは大学入るまで、教導隊にいたんだと思ってましたよ。

 ……ああじゃあ、ライフル連れ回してた時言ってた戦場ってラインの事ですか。

 ………………。

 もー!なんなんですかー!

 わたし一人勘違いしてて馬鹿みたいじゃ無いですかー!

 ターニャは後でお仕置きなのです!

 ついでにさっきやられた分もお返しするのです!

 

 ちなみに後日問い詰めたターニャ曰わく、

 

「ん?ああ、済まん。忘れてた」

 

との事です。

 ふざけんな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 選抜試験が終了し、全ての大隊候補者が集められました。

 ちなみに試験内容はダミーを見抜けるかどうかだったようで、当然見抜けたわたしは合格でした。

 とうとう新しい大隊のお披露目かと思っていたのですが、どうもそうでは無い様です。

 どうやらあの試験のダミーを見抜け無い方が沢山いたらしく、わたし達は再訓練となりました。

 わたし見抜けたのに何で!?

 訓練は全員参加だそうです、くそったれ。

 てか、副官のセレブリャコーフ少尉も参加してますね、ご愁傷様です。

 せっかくですから同じ唯一の女性同士、助け合っていきましょう?

 

 

 訓練内容は苛烈を極めました。

 高高度順応訓練に非魔力依存長距離行軍。

 しかも爆撃機やら軍用犬やらのオマケ付き。

 さらにその間には対砲兵防御訓練と耐尋問訓練。

 極めつけがこれら全てがアルペン山脈の雪山で行われました。

 

 ……何これ!?

 どこの特殊部隊ですか!?

 いやどこの特殊部隊でもここまではやらねーよ!

 うわーん、ターニャの馬鹿ー!

 うう、絶対楽しんでますよ。

 だってメッチャ笑顔ですもん。

 はあ、少しターニャの事嫌いになりそうです。

 ……ならないですけど。

 

 

 

 訓練中、二人一組(ツーマンセル)を組んでいたヴィーシャとは仲良くなりました。

 ああ、ヴィーシャと言うのはセレブリャコーフ少尉の事です。

 本人がこう呼んで良いとの事でしたので、そうしてます。

 そっちの方が、より仲良しっぽいですもんね。

 でもヴィーシャはわたしの事をティナって呼んでくれません。

 うー、ちょっと寂しいのです。

 それにターニャは、わたしがヴィーシャと呼ぶと怒ります。

 妬いてるのですか?可愛いですね!

 あ痛っ!殴らなくても良いじゃないですか。

 ターニャもヴィーシャって呼んだら良いですのに。

 ああ、すいません!そうですよね!

 軍人としての節度は大切ですよね!

 ええもちろん分かってますとも!

 だからターニャも怒りを沈めて下さい、可愛いお顔が台無しですよ?

 ……痛い!

 

 ヴィーシャは訓練中何度かわたしに助けられた事について感謝してましたが、わたしもヴィーシャに二度助けられた過去があるのですからお互い様なのですと言ったら、何か凄い感動してました。

 後、わたしがターニャと幼なじみだと知ると勝手に感心してましたが、何なんでしょうか。

 

 

 それから訓練中に新しい演算宝珠を貰いました。

 その名もエレニウム工廠(こうしょう)製九七式突撃機動演算宝珠!

 新型だそうで、従来は一つしかない核の二基同調を果たす事で圧倒的な性能を引き出すのだとか。

 何でもターニャの持つ試作品の製品版の試作型とか言う訳わからん事になってます。

 そのターニャの演算宝珠は九五式と言い、何と九七式の更に倍の四基同調らしく、まさしく怪物クラスの性能であるようです。

 ちなみに九五式はターニャ以外には使えないのだとか。

 まさに専用機と言う訳ですね!

 何かターニャがどんどん遠くに行っちゃうのです。

 わたしがターニャを守るのです!と言ってたのが遥か遠い過去に感じますよ。

 でも負けないのです!

 そんな程度でわたしのターニャを思う気持ちが止められると思ったら、大間違いなのです!

 何としてでもターニャに追い付いてやるのですからね?

 その為ならちょっとくらい無茶な訓練も耐えられるのです。

 よーし、頑張るのですよ!おー!




ヴィーシャ登場。
書いてて思ったけど、ヴィーシャいたらティナいらなくね?
なんかポジション被ってる気が。
ここまでその事に気付かないとは何たるマヌケ。

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