少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第■話 Interlude

 他人の心が読める人物がいたとすれば、それはどのような人物なのだろうか?

 例えばその力を上手く活用して、立身出世に役立てるかも知れない。

 例えば他人に共感して、慈悲深い人となるかも知れない。

 例えば周囲に嫌気が差して、誰とも関わらなくなるかも知れない。

 ……仮定の話では想像出来ないだろうか。

 では一つ例を挙げよう。

 これからするのは例え話では無く、単なる昔話である。

 

 とある人物の話をしよう。

 その人物は生まれながらにして、他人の考えている事が何となく理解出来た。

 それはその人物にとっては当たり前の事だったし、だから当たり前に人の心に応えようとした。

 しかしどれだけ人の心に応えても、いや応えれば応えるほど、なぜか人から忌み嫌われ遠ざけられる。

 

 きっと自分の理解が足りないからだ。

 

 そう考えれば、行動は早かった。

 幸い人の心を読み解く学問には事欠か無かった。

 しかし必死に勉強した結果学んだのは、自分こそが世界にとっての異常なのだと言う事。

 そして世界と言うのは異常を許さないのだと言う事を知った。

 だからきっと、これから先自分がどれだけ人を愛しても、誰も自分を愛する事は無いのだろう。

 

 それでも簡単には諦められなかった。

 皆を愛したかったし、皆から愛されたいとも思っていた。

 しかし同時にその願いが決して叶う事など無いと言う事も理解していた。

 そうしていつまでも相反する感情を抱き続けて、その分傷付き続けた結果、最後には壊れてしまった。

 

 しかし壊れてはいても、歪みはしなかった。

 いやあるいは、始めから歪んでいたのかも知れない。

 とにかく、それでもなお消える事の無い思いに、関心を向ける存在がいたのは確かだった。

 

 

「……………………」

「ひどいな、これは。まるで壊れてしまったかのようだ。いや実際壊れているのか。哀れと言う他無いな」

 

 まるで何の反応も示さないそれを見る目は、厳かながらも慈愛に満ちていた。

 

「さて、どうするべきか。お前のそれは私にすら消せぬ。魂に染み付いたものだろう。ならば繰り返した所で、結局は同じ結末を生む可能性が高い」

 

 そこで一旦言葉を区切り、何事か考える素振りを見せる。

 

「……ふむ、お前はどうしたい?」

「………………たい」

 

 そこで初めて、今まで反応の無かったそれに変化が起きた。

 

「うん?」

「…………愛されたい」

「それは、どう言う意味での言葉だ?」

「誰かを、愛したい。誰かに、愛されたい」

 

 ポツリと呟かれる願い。

 結局その者は、死して尚その願いを捨て去る事が出来なかったのだ。

 

「……なるほど、それほどになってもそのような願いを抱くか。はてさて、純粋なのか狂っているのか。とは言えそれはいささか難しいと言わざるを得ん。手は無くもないが、お前の望む結果となるかは分からん。それでも構わぬか?」

「何でも良い!誰でも良い!誰か愛して下さい!誰か、必要として下さい……!」

 

 魂の叫びであるかのように吐き出されるその言葉は、なるほどそのままその魂を表しているのだろう。

 そしてそれを聞かされた存在とて、それほどの思いを見せられては見て見ぬ振りも出来なかった。

 

「……お前のような魂を救うのも私の役目か。分かった。ならばまずはその心の回復を図らねばな。いくら何でもそのままと言う訳には行くまい。悪いが、記憶の一部を封じさせて貰うぞ?」

「…………ぁ?」

 

 多少根本に関わる所も封じたが、仕方無いだろうと割り切る。

 残しておいては、いずれその心を傷付ける事になりかねない。

 それに、それほどの強い思いがあれば問題があるとも思えなかったからだ。

 

「ふぅ……。次は場所だが、出来るだけ今とは異なる環境の方が良いだろうな。それにあまり物的に恵まれては心が貧しくなると言う事例もある事だしな。……うむ、この当たりか?まあ多少困難は伴うだろうが、その方がお前の力も目立ち難いだろう」

 

 生活的には決して楽では無いが、精神的には多少恵まれている。

 何より信仰心が篤い。

 条件的には充分と言えるだろう。

 

「ここでなら今までよりかはいくらか愛情を注いで貰えるだろう。後はお前次第だ。全ての記憶を消した訳では無いのだ、それを生かして上手くやる事だ。ああそうだ、最後に私からの餞別だ。お前に新たな名前をやろう。この私直々だぞ?有り難く受け取れ」

 

 そう言って送り出す直前、最後にと少しばかりの心付けをしてやる事にした。

 

「これよりお前の名は、

 

 ティナ・アルベルトだ。

 

 お前の新たな旅路に幸多からん事を。あまり贔屓ばかりも出来んが、私も多少は祝福してやろう。では、行って来るが良い」

 

 そうして今度こそ、その魂を見送った。


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