少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第1話 帝国魔導士官学校

 皆様、ご機嫌いかがでしょうか。

 ティナ・アルベルト魔導少尉候補生です。

 シスターを何とか説得し(何故ターニャは良くてわたしは心配されるのか分からない)、ターニャと共に帝国魔導士官学校へと入学を果たしてから早一年が経とうかといった所です。

 最初の一年は基礎知識に基礎訓練。

 徹底的に基礎を学びます。

 とは言え本来ならば四年かけて学ぶべき履修過程をすっ飛ばし、半分の二年に無理矢理詰め込んだ超短縮バージョン。

 何もかもがハイペースで幼き身体には堪えるものでした。

 訓練を終えて直ぐに泥のように眠る日々を繰り返し、最近やっと少しばかり心にゆとりが出てきたかな、そんな一年でした。

 ちなみに一緒に入学したターニャはと言うと、何やら成績上位をキープしているみたいです。

 わたしよりも幼い身で一体どんな体力お化けなのかと思いましたが、本人曰く確かに体力的には訓練は苦しいが、なんと学科に関してはそれほど苦ではないらしいのです。

 聞けば、軍事的な知識は元より多少持ち合わせていたそうです。

 いやあなた産まれてから八年間同じ孤児院で過ごしましたよね。

 いつそんな知識を身に付けたのですか。

 

 聞くところによると、何でもターニャの亡き父は帝国軍人であったらしく、また病気で亡くなった母がいつか字が読めるようになった時の為にといくつか書き残してくれていたそうです。

 その影響でそういった知識があったとの事。

 その話に感動してしまったわたしは、ターニャが少し慌てた様子だった事は気にしない事にしました。

 誰でも人に話したくない事くらいあるのです。

 それにあまり突っ込んで、ターニャの機嫌を損ねては事ですからね。

 ターニャに嫌われるなんて辛過ぎるのです。

 

 ちなみにいつそんな話をする余裕があったのかと言えば、就寝前。

 実はわたしとターニャは相部屋だったのです。

 わたしもターニャも幼子であった事、二人の出身が同じであった事、同性であった事などから年も近く見知った相手と同じ部屋の方が良いだろうと言う学校側の配慮だそうです。

 わたしの誘導尋問術によって教官から聞き出したので間違いないでしょう。

 ターニャはどうでも良さ気でしたが、わたしにとっては大問題。

 そもそもターニャを応援するためにこんな所まで付いて来たのに、ターニャと離れ離れになっては何の意味もないのです!

 そう言うことでわたしとしては、教官グッジョブと言わざるを得ないといった所でしょうか。

 それをターニャに伝えた所、何とも冷たい視線をくれました。

 ターニャは周りからは鉄面皮だなんだと言われてますが、彼女ほど分かりやすい人もそうそういないと思います。

 何せ感情を隠そうとする意志がはっきり見えるのだから、分かりやすい事この上無いのです。

 

 

 そんなこんなでわたし達は晴れて一号生となりました。

 一号生として学ぶのはより高度な戦術、戦略。

 より高次の戦技の習得。

 そして何よりも二号生の教育です。

 とは言え最後のは成績上位者のみ、士官として将来を有望視される者があらかじめ部下の扱い方を学んでおくといった名目で行われる物です。

 しかし何と言うべきか。

 

「帝国魔導士官学校へご入学の皆様、おめでとう御座います」

 

 まあターニャは当然の如く指導生を務めています。

 成績上位ですし当然の事でしょう。

 

「わたしはあなた達二号生の指導に当たる、ティナ・アルベルト一号生であります」

 

 しかし何故わたしまで指導生に選ばれたのか分かりません。

 別段成績が良いとは言い辛いのですが。

 いえ評価されていると言うのは喜ぶべき事です。

 しかし理由が分からない事にはなんとも煮え切らない。

 唯でさえ自分の事で精一杯なのに。

 しかもこんな餓鬼に指導出来るのか、と言わんばかりの視線。

 ああ、頭痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティナは自分の評価が低過ぎるのではないか?私は指導生に選ばれたティナの評価は妥当と思うが」

 

とはターニャの言。

 なんと!

 あれほど無能には興味ありませんと言った風だったターニャからこれほどの言葉を掛けて貰えるとは!

 わたしはターニャから一定の評価を得ているらしいですね。

 それだけで明日からも頑張れると言うものです。

 因みにわたしの呼び方については、これからは同期なのだからとわたしから頼んで呼び捨てにしてもらいました。

 

 兎にも角にもにわかに元気になったわたしに、

 

「まあ評価されているのは事実だろう。素直に喜んでおけ」

 

 ターニャは薄く微笑んでそう言いました。

 ああもう可愛過ぎます!!

 ここまで来た甲斐があったというものです。

 ターニャの笑顔があればわたしは無敵になれるのです!

 

 ターニャ!わたし、もっともっと頑張るのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう駄目だよ頑張れない。

 助けてターニャ!

 

 そんなわたしの心の叫びは誰にも届くはずもなく。

 来る日も来る日も気が滅入る様な出来事の連続です。

 

 一号生としての新たなお仕事のなかに銃殺隊と言う物があります。

 まあ簡単に言えば、一号生が死刑囚に対して銃殺刑を執行、二号生がそれを見学すると言った物です。

 確かに軍人として、戦場で引き金を引くのを躊躇う事は致命的であり、それ即ち自らの死に繋がります。

 自分が死ぬだけならまだマシな方で、下手をすれば仲間の命すら危険に晒す行為であるので、それはもう致命的と言う他ありません。

 そのため銃を撃つ事、人を撃つ事を躊躇わない為の訓練としてこういった物があるのです。

 わたしも二号生であった時に見学しましたし、いずれ自分も行うのだと言う覚悟もありました。

 しかし少なくとも人の命を奪う行為。

 仕事と割り切って粛々と行うべきであって、決して楽しい行事などであるはずもありません。

 だと言うのに何故かわたしの班員は全員が楽しそうに銃を撃つのです。

 まさか信頼すべき隣人が喜んで人を殺す様な狂人であるなどとは思いたくはありません。

 思いたくはありませんが、何とも言い知れぬ感覚が拭えずにいるのです。

 きっと軍人としては彼らの方が正しく、わたしが異端なのでしょう。

 でも、だからと言って納得し得るものではないのですが。

 しかもわたしの心を蝕むのはそれだけではないのです。

 

 

 ある日の指導中の事、なんと二号生がターニャに対する不平不満をわたしに相談してきたのです。

 ターニャは二号生に対して非常に適当かつ辛辣に当たっているらしく、まあ彼女がそんな態度を取る以上彼らもそれなりなのでしょうが。

 しかし魔導刃で頭蓋を切開しようとするのは些かやり過ぎですよ、ターニャ。

 とにかく二号生の不満は限界点に達しているようです。

 曰く、人を人とも思っていない。

 あまりに理不尽である。

 餓鬼の癖に、とまあ喧々囂々な有り様であります。

 最後のはわたしにも当てはまるのだから、わたしに言うのは駄目だと思いますが。

 しかし何と言えば良いのか。

 

 コイツ等は何なのだ!

 一体誰の前で愛しのターニャの悪口叩いてんだ、あぁ!?

 お前等全員ぶっ飛ばされてぇのか、コラァ!!

 ……等と当然言えるはずもなく。

 

 仕方が無いので、同輩でもデグレチャフ一号生には困っている。

 しかし有能である為、あまり非難できないのだ。

 いずれ見返してやる為に今は共に耐え忍び頑張ろう。

 と心にも無い事を並べ立て、何とか二号生を宥めてようやく解放されたわたしは、フラフラと自室まで戻ってきたのでした。

 流石に最後のは止めでした。

 自分の口からターニャを悪し様に言うなんて、心が折れてしまうのです。

 ああ、早くターニャに会いたい。

 今すぐ会って癒やされたいのです。

 

「ターニャ、遅くなりました。ただいま戻りました」

 

 しかしターニャの姿が無い。

 無人の部屋にわたしの声が虚しく響き渡る。

 ターニャ?

 え、何で?

 何でいないのです?

 訓練はとっくに終わっている時間。

 夕食には少し早い。

 この時間にターニャが自室にいない理由に心当たりはありません。

 いやもうそんなことどうでも良いのです。

 限界でした。

 

「……う……うぅ……」

 

 涙が零れてくる。

 良い歳してなにやってんですかという声が聞こえる気がするが、こちとら十年以上子供やってんですよ、もうとっくに子供ですよ!

 いやそれでも普段ならこんな事にはならないでしょう。

 思っていた以上に限界だったみたいですね。

 もう駄目。

 声も抑えられそうにない。

 流石に大声で泣き喚くのは不味いだろうと理性が訴えるが、それもいつまで持つことでしょう。

 

「う……っく……うあぇぇ……!」

「ん?何だティナも戻っていたのか」

「っ!!ターニャぁぁぁぁぁ!!!」

「のわっ!おい、離せ!!」

 

 部屋へと入って来るなりいきなり抱きついたわたしを引き剥がそうとしていたターニャでしたが、わたしの様子が尋常で無い事に気付いたのか暫くされるがままとなっていました。

 その上なんと、わたしをあやすように頭を撫でてくれたのです!

 ああ愛おしい!

 

「うへへへ」

「おい、元気になったなら離れろ」

 

 すみませんと言ってターニャから離れる。

 あぁ、名残惜しい……!

 

「はあ……。一体どうしたんだ、ティナ?」 

「その……、部屋に戻ったらターニャがいなかったので、つい寂しくなってしまいまして……」

 

 流石に恥ずかしい。

 年下の子にここまでの醜態を晒してしまうとは。

 今の無かった事になりませんかね?

 いや先ほどのターニャの抱擁は最高でしたけど。

 ああ、ターニャの蔑むような視線が突き刺さります!

 仕方ない、覚悟をきめて大人しく怒られるとしましょう。

 

「申し訳有りませんでした!」 

「……………………………はぁ、しょうがない奴だな」

 

 天使!

 

「ターニャぁぁ!」

「ふんっ!!」

 

 殴られました。


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