少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第20話 拡大する炎

 連邦領内における、非魔導依存での偵察任務。

 連邦は公式には帝国の交戦国では無い為、わたし達も偵察では無く迷い込んでしまっただけ。

 誰も信じないでしょうが、まあ一応政治的な配慮と言うやつです。

 とは言え見つかればただじゃ済まないので、非魔導依存での行軍です。

 しかし大して近付く事無く、連邦の集積拠点が活発化しているのが分かります。

 明らかに多い物資に人員。

 公式にはここには存在していないはずの、戦車に列車砲。

 しかも列車砲の砲塔が調整されているのが遠目にも確認出来ます。

 これは、今すぐにでも攻撃を仕掛けようとしていると言っても過言では無いでしょう。

 

「ヴァイス大尉、すみませんが無線機の準備をお願いします。連邦が攻撃すると同時に無線封鎖解除で」

「了解」

「さて、どうしましょうかね。一旦少佐の所に……」

 

 戻るべきか、そう言おうとした所で、一瞬の静寂と次の瞬間体に響く衝撃と轟音。

 何事!?と言うわたしの疑問はグランツ中尉の一言で解決しました。

 

「撃ちやがった……」

「宣戦布告です。帝国に対して連邦が宣戦を布告しました」

「本国は何と!?」

「『所属は問わず全部隊は戦闘を開始せよ』との命令です」

「ヴィーシャ、少佐に連絡を!連邦が宣戦布告。こちらも直ちに合流を!」

「り、了解しました」

 

 

 

 すぐに本隊と合流し、襲撃態勢を整えます。

 そこからは何の問題もありませんでした。

 幾度と無く繰り返した対地襲撃。

 特に物資集積所なんて、燃えやすい物が山積みです。

 それに列車砲なんてでかくて当てやすい的は、適当に撃っても誘爆して敵拠点に大打撃を与えますしね。

 しかも何故か敵魔導師がいません。

 わたし達にとっては有利な点が多すぎて、楽なお仕事ですよ。

 そんな事を考えていたのですが、どうやらターニャとヴァイス大尉も満足なようです。

 

「まさに、完璧な標的ですね」

「違いない。ダキアでの対地襲撃訓練を思い出すな」

「……あの折りは、お恥ずかしい事を」

「あはは。ありましたねぇ、そんな事も。そんなヴァイス大尉が今や叩き上げにも勝る精鋭中の精鋭ですからね」

「いや、全くだな。しかしあれを笑えるのはそれこそお前か、その叩き上げのセレブリャコーフ中尉くらいだ」

 

 ここまではいつも通り、いえいつも以上に好調です。

 グランツ中尉の上申により、更なる戦果拡張の為掃討戦へと移ったほどでした。

 

 しかしその後司令部からの指令が届いた頃から、何となく嫌な感じがしました。

 その指令は東部軍の支援としての遊撃戦闘命令。

 もちろんいつもの良くある命令ですし、特に問題があるとは思えません。

 それなのに嫌な感じは消えてくれません。

 そしてそれは、ターニャが目標を敵国首都に定めると言った所で、完全な物に変わりました。

 ああ、これは。

 アレーヌの時と同じ感覚。

 まさかまたあんな事になるとは思いませんが、少なくともあれと同じ程度は嫌な事があると言う事でしょうか。

 流石に首都襲撃と言う事で他の皆は慎重になっているようですが、ターニャは止まるつもりが無いようです。

 しかし、わたしもあまり気乗りがしません。

 別に皆のように首都襲撃が難しいからと言った訳ではありません。

 むしろその程度なら、ターニャの道を阻むなんてあり得ません。

 しかしこの嫌な感覚は駄目です。

 これだけは、耐えられそうもありません。

 何とかターニャを止めなければ。

 わたしは何とかしようと縋るような思いでヴィーシャに声を掛けました。

 

「ヴィーシャは良いのですか?確か、連邦はヴィーシャの出身国でしたよね?」

「はい。しかし幼い頃の事ですし、何より今のわたしは帝国軍人です」

 

 ああ、今のはまずいです。

 ヴィーシャに対して侮辱に当たってしまいます。

 焦り過ぎて、思考が鈍っているようです。

 

「す、すみませんでしたヴィーシャ!失礼な事を聞いてしまいました……」

「あ、いえ、お気になさらず。事実ですから」

 

 なんてヴィーシャは言ってくれましたが、気を付けないと。

 とは言え、他に手は思い付きません。

 ターニャに直接言っても、多分駄目ですよね。

 

「少佐、本当にやるのですか?」

「何だ?珍しいな。お前も怖じ気づいたのか?」

「いえ、そう言う訳では、無いのですが……」

「では何だ?何か気になる事でもあるのか?」

「その、何と言うか。……いえ、何でもありません」

「気になるな。何かあるなら言い給え、アルベルト中尉」

「いえ、これはわたしのわがままですから。大丈夫なのです、すみません」

「……。ティナ、わたし達の仲だ。言いたい事があるならはっきり言え」

「でも……」

「ティナ、頼む」

「…………分かり、ました。あの、実は……、嫌な予感がするのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な予感がする、そうティナが口にするのを聞いてターニャはかなり驚いていた。

 そもそもティナは非常に忠誠心が強く、ターニャに対してはめったに否定的な言葉を口にしない。

 ブレスト軍港襲撃の際は意見してきたが、あれとてわたしの為を思っての事だっただろう。

 しかし指示に忠実で、自分で何も考えていないかと言えばそうでも無い。

 実際、わたしが望んだ時に言わずともそれに応えるティナの行動には何度か助けられている。

 彼女はわたしの考えが分かると言うが、戦争狂の多い大隊内においては彼女ほど人の心の機微に敏い者もいないだろう。

 そうで無くとも長い付き合いだし、大隊内どころか軍歴の中でも最も古い付き合いだ。

 今の帝国を牽引するゼートゥーア、ルーデルドルフ両閣下は同期の古い友人だと聞くが、わたしにとってはティナがそれに当たるのかも知れない。

 わたしとしても、最も信頼出来る人物の一人だと考えている。

 だからだろうか、そんなティナがわたしの提案する作戦にあまり乗り気で無いのが気になった。

 確かに普段は事を荒立てるのを嫌うが、一度戦場に出れば変わるはずだ。

 わたしが判断に迷うほどの困難な状況でも、自分に任せろと言うほどの奴だ。

 そんなティナが何か気になる事があると言うなら、聞いてみる価値はあると思ったのだ。

 しかし、個人的な理由だとして口を割らない。

 とは言え一度は口にしかけるほどの何かがあるのは確かなのだろう。

 それでも構わないとして、わたしが半ば無理矢理聞き出したのが、先ほどの嫌な予感と言う言葉だ。

 直感的に行動するタイプでは無いと思っていたのだが、そうでも無いのだろうか。

 いや、だからこそあれほど言い淀んだのかも知れない。

 とは言え感覚的な物ではどうしようも無いのも事実だ。

 経験に基づく直感であれば否定するほどでは無いが、しかしそれを勘案して作戦を立てるのはあまりに非合理的過ぎるだろう。

 そもそもティナがこんな事を言い出すのが初めてで、わたしとしてもどうしたら良いのか分からない所もあるが。

 だから、とっさにオウム返しに聞いてしまった。

 

「……嫌な予感、だと?」

「すみません、何でも無いんです。本当に気にしないで下さい」

 

 しかしその反応がわたしが気に入らなかったと思われたのか、ティナは気にするなの一点張りだ。

 とは言え無視するのもどうかと思うほどにティナの様子はおかしい。

 他の奴ならいざ知らず、流石に彼女のこれは気になる。

 わたしは助けを求めて、ティナとそれなりに親しいはずのセレブリャコーフ中尉を見た。

 すると彼女も困ったような顔をしながらもわたしの視線に気付き頷く。

 彼女にしてもわたしの意志を汲み取ってくれる能力に長けている。

 何だ、存外周りに恵まれているな、と今更ながらに思わないでもない。

 とにかく、今度はセレブリャコーフ中尉がティナに話を聞いている為、わたしもそれに耳を傾ける事にした。

 

「アルベルト大尉、嫌な予感とはどのような物でしょうか?話して下さいませんか?」

「……前に一度だけあったのです。朝起きたら今みたいに嫌な感じがしてて、その時は、……アレーヌ市の襲撃がありました」

「っ!」

 

 ヴァイス大尉がかなり動揺してるな。

 確かにあの時ヴァイス大尉もいろいろ考え過ぎて、被弾していた。

 そう言えばティナも出撃前何か言いたそうだったな。

 ならば、あれについてはティナもヴァイスと同程度は思う所があったと言う訳か。

 まあ軍人としては言いたい事が無いでもないが、良識的な一市民としては当たり前の感性なのかも知れんな。

 しかしあれだけいろいろな経験をしておいて、寄りによってアレーヌの時に予感があるとは鋭いのか何なのか。

 

「だ、大丈夫ですよ、大尉。流石にあのような事にはなりません」

「それは、分かっているのです。ただ、あの時と同じ感覚がするのが気になって……」

「首都襲撃が駄目なのか?」

「少佐殿?」

 

 セレブリャコーフ中尉の怪訝そうな声はこの際無視する。

 

「他の都市襲撃や前線の支援では問題無いのか?」

「……はい。それは大丈夫みたいです。何も感じません」

 

 ならば、首都に何かあるのか?

 連邦の首都など容易く蹂躙出来ると思っていたが、もしかしたらわたしの知らない何かがあるのかもしれない。

 完全に信じる訳ではないが、わざわざリスクを背負う必要も無いか。

 陽動としての遊撃ならば、他の都市襲撃でも充分に果たせるだろう。

 共産主義者の顔を蹴っ飛ばして笑ってやるだけなら、ヨセフグラードあたりでも良いはずだ。

 確かに現段階では、首都襲撃の方が効果はあるだろう。

 しかし将来的に見ればヨセフグラードを襲撃するのも無意味では無い。

 ヨセフグラードは連邦の補給線上無視出来ない要所であるし、主要な工業都市でもある。

 ならば、今の内に打撃を与えておくのも悪くは無い。

 何より、連邦の指導者の名前を冠した都市だ。

 この襲撃で奴らお得意の粛正がなされ、敵の弱体化に繋がる可能性は高い。

 そこまで考えたターニャは即座に決断を下す。

 

「分かった。襲撃目標変更だ。ヨセフグラードを狙うぞ」

「良いの……ですか?」

「まあ、長い付き合いだしな。一度くらいティナの言う事を聞くのも悪くは無いだろう」

「ターニャ……。ありがとう、ございます」

「副官、参謀本部に通信。襲撃目標変更、ヨセフグラードだ。許可を確認しろ」

「は、はい。了解しました」

「副長、部隊は?」

「集結を完了しています」

「よし、都市襲撃に変更は無い。全員に通達しろ」

「了解です」

「少佐殿。参謀本部、許可下りました」

「よし。ティナ、今度は大丈夫だな?やって貰うぞ?」

「は、はい!任せて下さい!」

「大隊各位、進軍だ!目標は連邦都市ヨセフグラード。共産主義者どもの偶像崇拝を笑ってやれ!」

「「了解」」

 

 そうして、歴史上二度目となる都市空襲は敢行される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヨセフグラード北部に位置する工場群は、あちらこちらから火の手が上がっている。

 先ほど吹き飛ばした赤い製鉄工場など、その名に恥じぬほど真っ赤に燃え上がっている。

 

「流石に工場が集まっているだけあるな、よく燃える」

「しかしダキアの時もそうでしたが、兵器工廠にしては対空防護が弱すぎやしませんか?」

 

 ヴァイス大尉が横から至極もっともな意見をしてくるが、相手は共産主義者。

 こちらの常識で考えられる奴らでは無いのだ。

 何せ本来なら首都ですら悠々と民間機が着陸出来るほどなのだから。

 

「だから、コミーどもの防空能力などザルだと言う事だ」

「なるほど、ごもっともです。では、この後はどうしますか?」

「出来れば街の警備は叩き出したいが……」

 

 しかし理論上連邦は自国民の全てを兵士として使えるのだ。

 どこから撃たれるか分からない状況は好ましく無いので、当然市街戦など論外だ。

 どうするべきかと悩みながら、ターニャの視界には都市を見下ろすような高地が飛び込んで来た。

 あそこからなら街を一望出来そうだ。

 

「丁度良い高台もある事だし、一つ釣りでもしてみようか」

「釣り、でありますか?」

「共産主義者相手に下手に市街戦に持ち込まれては面倒だ。何せ奴らどこからでも湧いてくるからな。あそこなら遮蔽物も無いし、登ってくる奴らを片っ端から叩いていけば良い」

「なるほど、ではそのように」

 

 そうしてターニャ達は高台から街を威圧し始めた。

 連邦としても高台に陣取られている事は許される事では無い為に、多少の無茶を押してでも必死に取り返そうとする。

 しかし本格的な街の制圧が目的では無いターニャ達にとっては、適当に攻撃して危なくなれば空へ逃げれば良いのだ。

 その認識の違いが、連邦の損耗を大きくしていく。

 結果、圧倒的と言って良いほどの戦果を上げ二○三の面々は悠々とヨセフグラードを後にした。

 

 

 一方参謀本部も完璧なタイミングで完璧な成果を成し遂げた二○三に対して、沸き返っていた。

 これで東部戦線は持ち直すだろう。

 一度は終わったと思われた戦争が続く事には、ともすれば市民の厭戦感情を生む事になりかねないが、今回の赫々(かっかく)たる戦果を前にはその心配もいらない。

 参謀本部唯一の誤算は、ヨセフグラードの襲撃は連邦の面子としては決して許容出来るものでは無かったと言う事だ。

 これで連邦は、帝国の思惑とは反対に止まる事は無くなった。

 連邦は紛れも無く列強の一角であるし、ダキアの如き弱小とは比較にならないほど広大な国である。

 ならば帝国が新たに抱えた戦線は、参謀本部の想像するより遥かに泥沼化して行く事になるだろう。

 戦火は広がり続ける。


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