少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第23話 ドードーバード

 ターニャ達と別れて西方へとやって来て早数週間。

 ああ、辛い。

 辛過ぎるのです。

 代わり映えのしない毎日は仕方無いとしても、それでもターニャもヴィーシャもいなくなってしまったのですから、わたしの心が癒される事がありません。

 わたしが日に日に元気を失っていくのに気付いたヴァイス大尉が色々と気を使ってくれるのですが、それも申し訳無くて余計落ち込んでしまうのです。

 

「アルベルト大尉、顔色が優れないようですが、少しお休みになった方がよろしいのでは?」

「ありがとうございます、大丈夫なのです。別に体調が悪い訳ではありませんし、それに少しでも動いていた方が気も紛れますので」

「そうですか。しかし無理は禁物です。本当に辛ければ言って頂きたい。我々も出来る限りのサポートはいたします」

「はい、ありがとうございます」

 

 本当にヴァイス大尉には頭が上がりませんね。

 皆の指揮官であるわたしがいつまでも落ち込んでいて良い訳がありません。

 早く気持ちを切り替えないと。

 

「あ、そうだヴァイス大尉。コーヒー飲みます?良かったら淹れますよ」

「いえそんな、大尉の手を煩わせるような事は!自分でやります」

「いえいえ、日頃の感謝の気持ちですから。それに言ったでしょう?動いていた方が気が紛れますから」

「……分かりました。では、お言葉に甘えて」

「はい、少しお待ち下さいね?」

 

 そう言ってわたしはコーヒーを淹れる準備をします。

 とは言えターニャみたいにコーヒー豆を秘蔵している訳では無いので安物ですが、代用コーヒーでは無く一応本物のコーヒー豆です。

 わたし達の働きを評価して下さった西方方面軍の方から、少しだけ譲って頂いたものです。

 何でも我が部隊は大のコーヒー党だと聞いたそうですが、多分その噂の本人は今いないのですよ。

 しかしせっかくのご好意なのだからと受け取ったは良いものの、コーヒーを飲めないわたしとしては少々持て余していましたし、皆にあげようと思っていたので丁度良かったです。

 そう言えばヴァイス大尉に淹れるのは初めてでしたっけ?

 なら美味しく淹れられると良いのですが。

 

「はいどうぞ、ヴァイス大尉」

「ありがとうございます。では、頂きます」

 

 ヴァイス大尉は一口コーヒーを飲み、僅かに目を見開きました。

 ふふ、良かった。

 ちゃんと美味しく出来たみたいですね。

 

「……いや、驚きました。これほどとは」

「ふふ、ヴィーシャには敵わないかも知れませんけどね」

「いえ、そんな事ありませんよ。これは美味い。しかし、大尉はコーヒーを飲まない割にはかなりの腕前ですね?」

「まあ、ターニャに喜んで貰おうと練習しましたので」

 

 そう、ターニャの為に……。

 って暗くなってはダメダメ!

 元気出さないとまたヴァイス大尉に心配掛けてしまいます。

 

「お口に合ったようで何よりです。自分では味見しないので分からないのですよね」

「いえ、ご馳走になります。ありがとうございます」

「良かった。あ、それなら今度グランツ中尉にも淹れてあげましょうかね?」

「それは、あいつも喜ぶと思いますよ。かなり恐縮しそうではありますが」

「あはは、かも知れませんね」

 

 ヴァイス大尉のお陰で大分気が紛れましたし、感謝ですね。

 グランツ中尉だけで無く他の皆も頑張ってくれてますし、お礼に皆にコーヒーを振る舞ったら喜んで貰えるでしょうか?

 ふふ、今度やってみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日のお仕事は敵地へ侵入しての、地上施設破壊任務。

 もちろん西方方面軍の制空権確保を支援する為の任務なのですが、なら直接の航空戦で良いではないですか。

 多分わざわざこんな面倒な事をやらされるのは、戦技研究の側面が強いのでしょうね。

 敵地上空での対地襲撃、途中で弾切れになどなっては冗談で済みませんから、みんな取り敢えず持てるだけの弾倉を抱え込んでいます。

 わたしも僅かな隙間にも何とか吊り下げられないかと試行錯誤してみます。

 しかしどちらかと言えばこの重装備の方が何かの冗談みたいですね。

 すごく重たいし、動き辛いし、何か動く度にガチャガチャうるさいし。

 こんなんでまともに飛べるんでしょうかね?

 しかも何だこの重機関銃。

 これ地面に置いて使う奴じゃないんですか?

 これ抱えて空飛ぶとか馬鹿なんじゃないですか?

 

「だ、大隊長殿、大丈夫ですか?」

「あ、あはは、多分」

 

 ヴァイス大尉が心配してくれますが、わたしとしては渇いた笑いしか浮かんできませんでした。

 しかしやれと言われればやるしかありません。

 今は多少ふらついていたとしても、空にさえ上がってしまえば大丈夫のはず、きっと、多分。

 ちゃんと飛べれば良いなぁ……。

 

 

 

 わたしの杞憂とは裏腹に、空ではそれ程苦労なく装備を支える事が出来ました。

 宝珠の力ってすごい!

 しかしその代わりと言うか、天候がとてつもなく悪いのですが。

 いや確かに任務の特性上通信は制限されてますけど、通信障害が発生して司令部と連絡が取れないのは流石にマズくないですか?

 大体この天候で本当に作戦を続けるか怪しいのですが、でも中止命令が出てない以上やるしかありません。

 いや出てるけどわたし達だけが知らないとかだったら、終わりですけど。

 本当に作戦中止となっていたら、わたし達は孤立無援で敵地に取り残される事になりますよ。

 ……今なら泣いても雨でごまかせるかな?

 

 とは言えこれ以上悩んでいても仕方ありません。

 さっさとお仕事を完了して、さっさと帰りましょう。

 それしか無いのです。

 

 

 

 わたし達が攻撃目標をそろそろ捉えようかと言った頃、ようやく司令部との通信が回復しました。

 そこで伝えられたのは案の定作戦の中止。

 悪天候と通信状況の悪化で、各部隊の連携が取れず作戦遂行に支障が出たようです。

 しかし、それならもうちょっと早く言って欲しかったのですよ。

 とは言え作戦が中止となったのなら、いつまでもこんな所にいても仕方ありませんし、帰りましょう。

 

「フェアリー01了解。これより帰投します」

『すまないが、それは許可出来ない。フェアリー大隊には新しい任務が発令される』

 

 そこで告げられたのは、味方の救難任務。

 何でも友軍の第一一四航空爆撃団の指揮官機が撃墜されたらしく、その搭乗員五名を捜索、救助せよとの事です。

 しかしわたし達は対地襲撃用の重装備であり、当然捜索用の装備など持って来ていません。

 加えてここは敵地です。

 まともな神経では成功するとは思えません。

 もちろん個人的には助けに行きたいのです。

 でも今は皆の命を預かる身。

 わたし一人の勝手で皆を危険に晒す事など出来ません。

 

「我々の装備は対地襲撃用です。救難任務に耐えうるとは考えられません」

『事情は理解している。しかしこれは正式な軍令だ。参謀本部の許可も出ている』

 

 まさかそこまで手を廻しているとは、わたし達に対する過剰評価では無いでしょうか?

 もうターニャの率いる部隊では無いのですよ。

 とは言え正式な命令ならば拒否権はありませんね。

 

「……分かりました。ならば重装備の投棄許可を」

『問題無い。それについても許可が出ている』

「了解しました。フェアリー大隊は友軍の戦闘捜索救難任務を受諾。装備の処理後、速やかに任務遂行に移ります」

『申し訳ないが、よろしく頼む』

 

 ここまで言われては逃げ場はありません。

 ならば速やかにやるべき事をこなしましょう。

 

「ヴァイス大尉、聞いての通り、友軍の救助です」

「了解しました。しかしこれはまた、……厄介な」

 

 隣ではグランツ中尉も渋面を作っています。

 皆の気持ちも分かりますが、言っても仕方ありません。

 

「……ごめんなさい、時間もありませんし急ぎましょう。重装備は投棄。評価機材は捜索用に転用出来るものは転用して下さい。それ以外は投棄装備と共に処理でお願いします」

「はい、大隊長殿。しかし地上での戦闘捜索救難任務ともなると……」

「……そうですね、どうしましょうか。大隊全部を捜索に充てるのは危険ですよね……。部隊を二つに分けましょう」

「ならば私が捜索隊を指揮します。大隊長殿は上空からの直掩をお願いします」

「良いのですか?多分ですけど、そちらの方が危険ですよ?」

「どちらも危険に変わりありませんよ。しかしこちらがより危険だと言うならば、やはり私に行かせて頂きたい」

 

 そう言うヴァイス大尉の目には、わたしへの信頼と、もっと頼って欲しいと言う思いと、そして多分元気の無いわたしへと少しの気遣いが浮かんでいます。

 そこまで思われてそれを無碍に出来るわたしではありませんでした。

 

「……分かりました。グランツ中尉、ヴァイス大尉に付いてあげて下さい」

「はっ、了解しました」

「よろしいのですか?」

「はい、どうかよろしくお願いします。でも危なくなったらすぐに戻って下さいね?」

「分かりました。お任せ下さい」

 

 そう言ってヴァイス大尉ら捜索隊は墜落地点へと降下して行きました。

 しかしどうやら敵も動き出した様子。

 本当に時間がありませんね。

 早く見つかれば良いのですが。

 

 焦りを感じながらも敵を迎撃しようと構えていると、不意に後ろから呼び掛けられました。

 

「大隊長殿、救助対象の位置が判明です。無線の傍受に成功しました」

「え、本当ですか!?暗号化は?一体どうやって……?」

「警察無線です。パッケージは連合王国の警察に確保されたようです」

「なるほど、民間組織ですか。いえそれにしてもこの天候の中良く見つけてくれました。すぐにヴァイス大尉に通信を!」

「はっ!」

 

 すぐさまヴァイス大尉ら捜索隊にはパッケージの確保に向かって貰いました。

 しかし敵の魔導師部隊がこちらに向かって来ています。

 ならば残るわたし達はパッケージ確保の時間を確保しなければなりません。

 

「皆さん、すみませんが少しだけお客様のおもてなしの時間です。わたし達だけサボってる訳にはいきませんので、向こうの皆さんがお仕事をやりやすいようにお手伝いしましょう」

「お任せ下さい大尉殿!」

「やってやりますよ、大隊長!ライム野郎(ライミー)共に遅れを取る我らではありません」

 

 こう言う時、一緒に戦ってきた皆がいるというのは本当に頼もしく感じます。

 きっと大丈夫。

 わたし達なら出来るのですよ。

 

「ありがとうございます。皆さんなら出来ると信じています。では、いきますよ!」

 

 敵は二個大隊規模。

 対するこちらは二個中隊。

 およそ四倍の戦力差です。

 ならば取るべき選択肢は、高度差を活かした牽制しか無いでしょう。

 ターニャなら多分そうするはずです。

 

「高度を上げて下さい!敵の頭を押さえます!」

「「了解!」」

 

 ヴァイス大尉、そちらは頼みましたよ。

 

 

 

 わたし達が敵部隊と交戦に入ってすぐに、ヴァイス大尉からパッケージ確保の報告が来ました。

 幸い全員無事で、軽い打撲などはあるものの大きな怪我なども無いようです。

 良かった……。

 しかし事態が良く無い事には変わりありません。

 怪我人、しかも生身で空を飛ぶ事に慣れていないパイロットを抱えて撤退しなければならないのですから。

 

「ヴァイス大尉、すぐに撤退して下さい。わたし達が囮になります!」

『しかし……!』

「敵の地上部隊にも動きがあります!お願い、急いで!」

『……!了解っ!』

 

 ヴァイス大尉達が安全圏に到達するまでどれくらい掛かるでしょうか。

 とにかく、何としてでも敵を足止めしないと。

 

「乱戦に持ち込め!何としても敵を前に進めるな!」

 

 即座に展開し、互いに掩護しながら敵に突撃を掛ける大隊員達。

 こちらの意図を察してすぐに行動に移してくれるので助かります。

 

「距離を離されるな!押し込めぇ!」

 

 

 

 どれくらい経ったでしょうか。

 そろそろこちらも撤退したいですね。

 とは言えそれも簡単ではありませんが。

 今、無闇に敵に背を晒しては狙い撃ちにされてしまいます。

 しかしこのままではいつまで持つか分かりません。

 そんな事を考えていると、無線から突然ヴァイス大尉の声。

 

『大隊長殿、後退して下さい!狙撃術式用意!撃て!』

 

 その声を聞いた瞬間、わたしは皆へと指示を飛ばします。

 

「爆裂術式用意!精度はいりません!斉射後、全速離脱!」

 

 ヴァイス大尉らの狙撃術式で敵が浮き足立った瞬間を狙い、わたし達は目くらましの爆裂術式を放ち、すぐに撤退します。

 敵は混乱して追撃出来ない様子。

 何とかなりました。

 そのままヴァイス大尉とも合流して帰還を目指しますが、しかし何故ヴァイス大尉はこちらの掩護に回ったのでしょうか。

 いえ正直助かりましたけど、でもそれなら確保した友軍はどうなったのでしょう。

 

「ヴァイス大尉、ありがとうございました。ですが、パッケージはどうしたのですか?」

「グランツらに運ばせています。実は友軍の戦闘機部隊と合流出来まして。護衛を頼める事になりました」

「なるほど、それでヴァイス大尉はこちらの掩護に来てくれたのですね。それで、どこの部隊なのですか?」

「はは、驚いて頂きたい。例の、モスキートですよ」

「はぁ、これもご縁ですね。ちゃんとお礼しないと」

 

 本当に彼らには頭が上がりません。

 帰還したら改めてお礼しないといけませんね。

 出来れば今度こそは、わたしも直接お礼の席に参加したいものです。


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