少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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いつまでも

 今日はわたしがフィーネ・エーベルトとして少尉になってから初めての休日。

 最初くらいはとターニャも何とかお休みを調節してくれて、一緒に過ごせる事になりました。

 そんな訳で今日はわたしのお部屋にターニャが遊びに来ています。

 

「こうやって一緒にゆっくり出来るのは本当に久し振りですね、ターニャ。」

「そうだな……。しかしティナ、わたしはもうターニャでは無いぞ」

「ふふ。ターニャこそ、わたしはもうティナではありませんよ?」

「まあそうなんだがな。何なのだろうな、軍務中は気にならないと言うのに」

「あはは、わたしは未だに新しい名前に慣れませんよ。それに元とは言え、ターニャの事を自分の名前で呼ぶのは何となく恥ずかしいと言うか……。なのでターニャはターニャで良いのです」

「まあ構わんが、外では余りその名で呼ぶなよ?」

「別にフルネームでなければ、よっぽど大丈夫だと思いますが」

「一応な、念には念をだ」

「はーい、分かりました」

 

 確かにターニャの心配も分かります。

 ターニャは世間に戦犯として報じられましたし、何より既に故人である事になっています。

 ターニャが生きている事実を知っているのはゼートゥーア閣下を始めとする軍上層部の一部と、元二○三大隊のみんなだけです。

 だからもし世間にターニャが生きていると知れたら大問題となるでしょう。

 そうで無くとも白銀ターニャ・デグレチャフは有名人ですので、どこでバレるか分かったものではありません。

 ターニャが念を押したのも、そんな理由からでしょう。

 そもそもわたしの勝手でこんな事になっているのですから、それについて文句は言えませんけどね。

 

 

「それで、今日はどうするんだ?どこか出掛けるか?」

「それも悪く無いですけど、今日はお部屋でゆっくりしましょう」

「わたしは別に構わんが、ティナはそれで良いのか?」

「はい、お出かけはまた今度で。これからはいつだって出来ますから」

「そうか。そうだな」

「それにお部屋なら好きなだけターニャって呼んでも大丈夫ですしね」

「……そうか」

「だからターニャもまた付き合って下さいね?」

「む……、まあ都合が合えばな」

「あ、ひどーい!約束したじゃないですか!」

「だから元々都合が合えばと言っていただろうが!」

「むー、そうですけど……」

 

 何てむくれてみるけれど。

 こんな言い合いすらも懐かしく、こうして再び出来ると言う事にとても嬉しくなってしまったわたしは自然と頬が緩んでしまいます。

 ターニャはそんなわたしをじっと見つめていました。

 

「どうしたのですか、ターニャ?」

「いや……、ティナは随分楽しそうだな?」

「ええそれはもちろん!ようやく平和になりましたし、何よりターニャと一緒ですから!」

「……ああ、そうか」

 

 何て、ターニャは少し微笑んでそう言いました。

 

「ターニャはどうなんです?」

「何がだ?」

「ターニャはわたしと一緒で楽しくないですか?」

「ん……、まあ……悪くは無い」

「えへへ、ターニャってば素直じゃ無いんですからぁ」

「……うるさいぞ」

 

 こんな風にターニャと過ごせる日が来るなんて、本当に本当に嬉しくて、まるで奇跡みたいです。

 これも全て神様のお陰なのですかね。

 本当にありがとうございます。

 わたしが幸福を噛み締めていると、ターニャが慌てた様子でわたしの顔を覗き込みました。

 

「おい、ティナ!?どうした、大丈夫か!」

「な、何がですか?」

「いや、お前気付いてないのか?いきなり泣きだしたから驚いたぞ」

「え?……あれ、ほんとですね。気付きませんでした」

「……何とも無いのか?」

「はい、大丈夫です。何だか嬉しくて、勝手に涙が出て来てしまったのですよ」

「それなら良いが……。お前の話を聞いた限り、今生きてるのが不思議なほどだ。……何かあったのかと心配になる」

「ごめんなさい、本当に大丈夫です。ありがとうございます」

「いやティナが大丈夫なら別に構わんが。だが、もう勝手な事はするなよ?」

「分かっています。……ターニャが、みんながそこまでわたしの事を思ってくれてたなんて思いませんでした」

「当たり前だ。次は許さないからな」

「はい、もちろんです!」

「……いまいち信用できん」

「ええ!?何でですか!」

「自分の心に聞いてみろ」

 

 そんな事を言いますけど、でもターニャも本気じゃ無いのですね。

 ふふ、何だか珍しいくらい優しい顔してますよ?

 でもターニャの心配は杞憂なのです。

 一度みんなと離れて分かりました。

 もうターニャと、みんなとお別れするなんて考えられません。

 そんな辛い事、今のわたしにはきっともう耐えられないのですよ。

 わたしはターニャの目をじっと見つめて誓います。

 

「大丈夫です、ターニャ。もう絶対に絶対に勝手な事はしません。もう二度とターニャの、みんなの前からいなくなったりしませんから」

「……分かった。信じるからな?」

「はい、お約束します」

 

 そう言いながら、わたしはターニャをぎゅっと抱き締めました。

 すると、何とターニャも少しだけ抱き締め返してくれました。

 ふふ、もう絶対に離しませんからね。

 絶対にお別れなんてしてあげないのですから。

 

 

 ターニャとお話ししてたら、結構時間が経ってしまいました。

 そろそろお昼の用意をした方が良いですね。

 

「そう言えばお昼はどうしますか?」

「そうだな、いつもの食堂にでも行くか?」

「いつものって、昔一緒に行った所ですか?……ターニャってば、そんなにいっつも行ってるんですか?」

 

 ちなみにわたしは軍大時代にターニャと一緒に行ったきりなので、別にわたしにとってはいつもの食堂では無いのですが。

 

「まあ、休日は大体そこだな」

「ターニャもそろそろ自分で作ったらどうですか?」

「面倒だ。それにわたしが作るよりプロの作ったものの方が美味い」

「それは、そうでしょうけど……。まあターニャがそれで良いなら、それ以上は言いませんけど。とりあえず今日はわたしが作りますよ」

「ティナの料理か、久し振りだな」

「ふふ、プロのものでは無くて申し訳無いですけどね」

「いや、別にそんな事は無いぞ。ティナの料理も好きだ」

「あ、あはは。そう言われると照れてしまいますね。では、ターニャは何か食べたいものありますか?」

「別に何でも良い、ティナに任せる」

「うーん、それが一番困るのですけどね。……では今日は家にある物で簡単に作りますね」

「ああ。そうだ、食後にはコーヒーも頼む。久し振りにティナの煎れたものを飲みたい」

「はいはい、分かりました。ではちょっとだけ待ってて下さいね」

 

 そう言ってわたしは昼食の準備に取り掛かります。

 ちなみにコーヒーの豆はターニャの持参です。

 わたしはコーヒー飲みませんので仕方ありませんが、そこまでするとはターニャってばカフェイン中毒なんじゃないでしょうか?

 まあ、せっかくターニャがわたしに煎れて貰おうと持って来たのですから、ちゃんと丁寧に煎れてあげますけどね。

 そう言えば昔一緒の部屋で暮らしていた時もこうやってわたしが料理を作ったりコーヒー煎れたりしてましたけど、でもこんなにゆったりとした雰囲気なのは本当に珍しい気がします。

 やっぱり平和になった事でターニャも穏やかになったのですかね。

 

 

 昼食を終え、ターニャに食後のコーヒーを出します。

 いつもの通り砂糖もミルクも無しのブラックです。

 

「そう言えばターニャって甘いもの好きですよね?」

「ん……、いや別に普通だ」

 

 とか言いながら実はターニャはコーヒーと同じくらいに甘味に目が無いです。

 昔からコーヒー豆と共にチョコレートを隠し持ってたはずですし。

 しかし何故かいつもターニャは甘いものが好きな事を認めません。

 別に女の子なのですから、それくらい良いと思いますが。

 いや女の子で無くとも甘いもの好きな人もいますけどね、ヴァイス少佐とか。

 それにわたしも甘いもの好きですし、ヴィーシャなんて大隊時代は行く先々で友軍からカードで甘味を巻き上げてたほどだと聞きました。

 だから別にターニャが甘いもの好きでも誰もおかしいなんて言う人はいないのです。

 しかしターニャにこの事を突っ込み過ぎると何故か不機嫌になるので、適当に流す事にしましょう。

 

「でもコーヒーはいつもブラックですよね?何でですか?」

「いや、コーヒーまで甘かったら胸焼けするだろうが。コーヒーの苦味が甘味の甘さを引き立てるんだ」

「はぁ、そう言うものですかね」

 

 何気に今ターニャ甘いもの好きな事認めましたね。

 ふふ、相変わらずちょっと抜けてる所が可愛いですね。

 まあ本人には絶対に言えませんけど。

 何て事を考えていると、今度はターニャから質問が。

 

「そう言えば気になっていたんだが、ティナこそ何故コーヒーが嫌いなんだ?」

「嫌いとはちょっと違いますけどね。香りとかは好きですし」

「では何故飲まないんだ?」

「いや、苦過ぎるんですよ」

「そう言うのは煎れ方とかで変わるんじゃないのか?と言うかそこはティナの方が詳しいだろう」

「うー、まぁそうなんですけど……」

「それに別にブラックでなくても良いだろう。砂糖でもミルクでも入れれば飲めないか?」

「うーん、それでも何か独特の苦味がありませんか?それが苦手と言うか……」

「まあ、それがコーヒーの味だからな。ならやっぱり嫌いだと言うのと同じじゃないか」

「あはは、そうですかね?」

「まったく、子供舌め」

「だって子供ですもん」

 

 なんて言い合いながら二人してクスリと笑い合いました。

 

「しかし、今ティナは十六だったか?子供と言っても、もう酒も飲める年だろう?」

「あ、いえ、まあ法律上では?わたしは飲めませんってば」

「いやそれは知っている。だがそうするといくら年を重ねても、中身はいつまで経っても本当に子供だなと思ってな」

「むー、そんな事無いですよ!ターニャってば酷いのです!わたしの方がお姉さんなのですよ!」

「全くそうは感じられ無いがな。まあしかしそれならこれからは休みの度に会わなくても大丈夫だな」

「いや何でそうなるんですか!?」

「ティナはもう大人なのだろう?」

「そ、それとこれとは話が違います!それにわたしは、別に……。ああもう、分かりましたよ!わたしはまだまだ子供だからターニャと一緒にいたいの!これで良いですか!」

「別にそこまで言えとは言って無いがな」

「ターニャのイジワルぅ……」

「はは、すまんな。ちょっとした冗談だ」

「むぅ、し、仕方無いです。今回は許してあげます」

 

 まったくもう、ターニャはズルいです。

 そんな楽しそうな顔をされては怒るに怒れないのですよ。

 

「そう言えば、最近ティナはどうなんだ?」

「何がですか?」

「いや、部隊ではどんな感じなんだ?」

「うーん、別に大隊時代とそんなに変わらないですよ。ほとんど同じメンバーですし。あ、でもヴァイス少佐ったら、未だに態度がぎこちないんですよ!」

「ああ、敬語か?」

「それはなんとか頑張ってくれてますけど……。でも何だかすっごい気を使ってるんですよね。わたしは普通にして下さいって言ってるのに!」

「いや敬語じゃ無くなったんだろう?なら良いじゃないか」

「うぅ……、そうですけどぉ……」

「逆に何でお前はそんなに相手の口調にこだわるんだ?」

「だ、だって、何だか距離があるみたいで寂しいんですもん」

「……なるほどな」

 

 あ、嫌な予感。

 ターニャは意地悪な笑みを浮かべています。

 絶対によからぬ事考えてますよ、これ。

 

「ティナは今までわたしに距離を取っていたんだな。残念だ」

 

 ほらー、やっぱりこうなった!

 だから何でその結論になるんですか、わたしのはただの口癖なのに!

 

「違います!わたしは誰に対してもこうなんです!それはターニャだって知ってるじゃないですか!」

「ああ、知ってるぞ」

「じゃあ何で言ったんですか!?……何だかさっきからターニャがイジワルなんですけどぉ」

「……そうだな。わたしも久々にお前と過ごした事で少し気分が高揚しているのかもしれんな」

 

 な、な、なぁ……!

 だからそれはズルいんですってば!

 ……ターニャには敵わないなぁ、もう。

 

 

 その後も二人でいろんな事をお話しして過ごしました。

 しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。

 明日からはまたお仕事ですし、今日の所はそろそろお終いですね。

 

「そうだ!ターニャ、今度のお休みはヴィーシャも誘って三人でお出かけしましょう?」

「そうだな、分かった。伝えておこう」

「はい!そうだ、お買い物とか良いと思いませんか?ターニャにも可愛いお洋服とか選んであげますよ!」

「いらん!大体いつも軍服なのだから私服など必要無いだろう!」

 

 むぅ、やっぱりターニャってばそう言うと思ったのです。

 でもわたしだってここは譲れません!

 それにさっきわたしばっかりイジワルされたんですから、今度はターニャの番ですよ!

 

「えー、勿体ないですよー。せっかくターニャは可愛いんですから、可愛いお洋服着ましょうよ。きっとヴィーシャも賛成してくれると思いますよ?」

「ふざけるな!そんな事ならわたしは行かないからな!」

「そんなの駄目です!ターニャが約束守らないなら、わたしもターニャとの約束守れなくなりますよ?またターニャの前からいなくなっちゃうかも知れませんよ?」

「く、それは卑怯だろ!それにいくら何でも冗談で済む話じゃ無いぞ!」

「う、ごめんなさい……。じゃなくて、えっと、これはさっきのお返しなのです!」

「それは許したんじゃ無かったのか?」

「そ、それとこれとは別なのです。ターニャがちゃんとわたしの事を見捨てないでいてくれれば良いんです!」

「はぁ……、何だそれは」

 

 ああ……、ターニャが呆れてる。

 このままでは押し負けてしまいます。

 こうなったら一か八かの最終手段、ヴィーシャから教えて貰ったお願いをする時のテクニックです!

 コツは出来るだけしおらしくする事。

 わたしは少し顔を伏せ、上目遣いでターニャを見ました。

 

「……ねぇターニャ、やっぱりわたしがわがままばかり言っていたからですか?わたしの事、嫌いになっちゃったのですか?」

 

 どうだ必殺、泣き落とし!

 

「な!?…………くそ、分かった!好きにしろ!」

 

 おお、まさか本当に効果があるとは。

 ヴィーシャが是非にと言うから一緒に練習したのですが、その甲斐があったのです。

 とは言え少しからかい過ぎましたかね。

 ターニャがジト目でこちらを睨んでます。

 

「あはは、ごめんなさい。冗談ですよ。ターニャが本気で嫌がる事はしませんから。だから普通にお出かけしましょう?」

「…………はぁ。まったく、お前性格悪くなってないか?」

「いやターニャに言われたく無いのですよ。さっきはわたしの事をからかったくせに」

「……ああ、昔はあんなにわたしの為に一生懸命な奴だったのにな……」

「ええ!?そんなにですか?」

「いや冗談だ」

「もう、何なんですか……。言っときますけど、今でもわたしはターニャの事を大切に思ってますからね!」

「ん、分かってる。ティナ、これからもよろしく頼む」

「はい、こちらこそ!」

 

 何てやり取りをしている内に、そろそろ本当にお別れの時間です。

 

「あ、そろそろ時間ですね。では、ターニャ。ヴィーシャにもよろしく伝えておいて下さい」

「ああ、また今度な」

「はい、また今度のお休みに」

 

 そう言ってわたしは名残を惜しみながらも、ターニャをお見送りしました。

 

 ああ、それにしても今日は本当に幸せでした。

 こんなに恵まれていて良いのでしょうか。

 少しだけ怖くなってしまいますね。

 でももし叶うのならば、どうか神様お願いします。

 いつまでもこんな時が続きますように。


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