画面の向こうの皆様ご機嫌よう。
“白銀”ターニャ・デグレチャフ魔導少尉だ。
甚だ遺憾ながら、公式にこう名乗る事が決定付けられている。
しかし一体何故こんな事になったのだろうな。
北方で研修中に中隊規模の敵魔導師部隊と戦闘となり、後退も許されず仕方なく交戦、敢闘及ばず戦線離脱。
ここまでは良かった。
完璧なプランのはずだった。
こうして敵前逃亡と戦死の両方から上手く逃れたはずだったのだ。
それが何故か気付いた時には、銀翼突撃章に白銀の二つ名だ。
二つ名だと!
何だそれは!
こんな物、素面で名乗れる程私は恥ずかしい精神構造はしていないのだ!
などと一通り嘆いてみたものの状況が変わるはずも無く、私は大人しく列車に揺られ帝都へと向かっていた。
何でもプロパガンダ用の式典に出席させられるらしい。
実にご勘弁頂きたい。
英雄扱いなどされては後方勤務が遠ざかる所か、前線で使い潰されかねないではないか。
大体帝国は一体どういう意図でこのプロパガンダを行うのだ。
こんな子供を戦争に送っていると大々的に発表した所で、周囲の反応は推して知るべきだろう。
とは言えこれも命令である以上、背くと言う選択肢は無い。
暗鬱たる思いで隣を見やれば、何がそんなに楽しいのかえらく上機嫌な同期の姿が目に映った。
「どうしたのですか、ターニャ?」
「いや……。ティナは随分楽しそうだな……?」
「ええそれは勿論!ようやくターニャが元気になりましたし、何よりターニャと一緒ですから!」
「……ああ、そうか」
彼女の名はティナ・アルベルト。
私と同じ孤児院の出身で、歳は十一か十二か、そのあたりだ。
この国では特に珍しくもない暗い髪色と、それとは対照的に人目を引く明るい色の瞳が特徴的な少女で、年齢の割にはスラッと背が高い。
実に羨ましい限りだが、何か秘訣でも有るのだろうか。
以前それとなく聞いてみたが、
「ターニャはそのままでいいのです!そのままが一番可愛いのですよ!」
などと妄言をほざきやがったので、二度と奴にこの話をする事は無い。
そんな彼女だが、何故だかやたらと私に好意を持ってくれている。
確かにいくつかの共通点も見られるし、大人ばかりの軍の中では歳も近いと言えよう。
だが何故これほど好意的なのかが分からない。
同じ孤児院出身とは言え、その孤児院時代にはほとんど彼女と話した事など無かった。
私が魔導師としての適性が判明した日、まあ同じ日にティナも魔導師適性が判明した訳だが。
その日に軍人としての道を決めた私にいきなりティナが話し掛けてきたのだが、思えばそれが彼女と初めてちゃんと話した時だった。
その後私の話を聞いて何を思ったのか、私と共に軍に入ると言い出したのだ。
そうして同期として士官学校に入学して以来の付き合いだ。
……なのだが、未だに彼女の事は良く分からない。
実際何を考えているのか良く分からないのだ。
別段、表情が乏しい訳ではない。
現に今、隣にいるティナは楽しげに笑っている。
軍服でなければ、これから遊園地にでも向かうのだと言っても通じるだろう。
では何が分からないのかと言えば、言動がいつも突然なのだ。
私と共に軍へ行くと言った時もそうだが、どういう思考の下その結果に行き着くのかさっぱり分からない。
まさか思い付きで行動しているのだろうか、そう勘ぐった事も有ったが、どうもそう言う訳でも無いらしい。
彼女にも彼女なりの行動基準が有るらしく、突発的ではあるが突飛な行動は少ない。
とは言え私には理解出来ないのだから、おおよそ合理的とは言い難いのだが。
これほど非合理的で更に全くの無能で有れば、私としても適当にあしらって関わらない様にしただろう。
しかし面倒な事にティナはそれなりの能力を持っているらしい。
どうやらティナには尋常でない適応能力が備わっているようで、困難に直面しても驚くべき速度で学習し、成長し、対応してしまうのだ。
だからこそ彼女は士官学校時代に下級生の指導を任され、また私と共に北方での研修にも選抜されたのだ。
少なくともその他大勢よりかは遥かに有能な人物が、私に対して一方的に親愛を向けてくれている。
であれば、わざわざ彼女を邪険に扱う必要も無いだろう。
私としても彼女と仲良く振る舞う程度はする。
信頼に値する有能な人的資材とはなかなか得難い物なのだ。
だから。
是非とも彼女には、私の後方勤務プランに力を貸して貰いたいものだ。
皆様ご機嫌いかがですか。
ティナ・アルベルト魔導少尉です。
北方での研修を終え晴れて少尉となったわたしは、勲章授与式の為にターニャと共に帝都へと帰って来ました。
やはりと言うべきか皆さんターニャに注目しており、わたしなどはおまけ扱いですが。
しかし何故かそのまま、連日行われる式典にターニャと共に付き合わされてしまいました。
どうやら帝国はターニャとわたしをセットで売り出すつもりらしいのです。
全く、聞いていた話と違うでは無いですか!
確かにターニャを用いてプロパガンダを行う事には大賛成です。
ターニャの可愛らしさを全世界に知らしめる絶好の機会なのですから!
しかしそこにわたしが入るのはちょっと違うと思うのです。
ターニャと並び称される等おこがましいにも程が有りますし、そうでなくともそもそも注目を浴びるのは苦手なのです。
大体わたしはターニャと比べ大した活躍をした訳でも無いですし、ターニャみたいに可愛い訳でも無いですし……。
まあ適当な理由を付けて辞退しようと思っていたのです。
思っていたのですが……。
「ティナはわたしと一緒に来てくれないのか?」
「わたしはどこまでもターニャと一緒なのですよ!」
……それはズルいですよターニャ。
そんな可愛らしい顔と声で!
あんな台詞を言われては!!
頷くしかないではないですか!!!
まあ、おめかししたターニャを間近で見られる事で良しとしましょう。
「そんなヒラヒラした服、わたしは絶対に着ないぞ!」
「えぇー、着てみて下さいよ。絶対似合いますって。絶対、可愛いですって!」
わたし達は今、プロパガンダ用の映像を撮影する為の衣装合わせを行っています。
ターニャが我が儘を言うせいでなかなか決まらないのですが。
「我が儘を言っているのはティナの方だろうが!大体軍のプロパガンダなんだぞ!そんな威厳の無い格好など出来る訳ないだろう!」
「いーやーでーすー!わたしは、ターニャの可愛さをもっともっと広めるのです!」
「ふざけるな!そもそもティナの服はどうする気だ」
「わたしの事はどうでも良いのです。わたしは可愛いターニャの姿をこの目に焼き付ける為にここにいるのです!」
そんなわたし達のやり取りを、お手伝いのお姉さん方が微笑ましげに見守ってくれていましたが、如何せん時間が差し迫って来ました。
結局お姉さん方からアドバイス(と言う名の援護射撃)を頂き、ターニャはフォーマルな雰囲気の紅いドレスに決まり、わたしの方は無難に黒のドレスとなりました。
その後も、話し方から立ち居振る舞いまで徹底的にプロデュースしていきます。
ああ、ターニャの可愛さはとどまる事を知りません。
わたし、最後まで耐えられるでしょうか?
しかし先程はどうでもいいと言いましたが、ターニャと同じ様におめかしされていると、何とも居たたまれなくなってきます。
今更ながら非常に恥ずかしくなってきました。
今からでも何とか辞退できないですかね?
まあ、無理なんでしょうけど。
そんな事を考えている内にターニャの方は準備が終わったようです。
「はわぁ~っ!すごい!綺麗ですよ、ターニャ!」
「ああ、それはどうも……」
普段は無造作に一纏めにされている髪は丁寧に梳かれ、薄く化粧をされたターニャはまるで本物の天使様のようです。
ああ、手元に演算宝珠が無いのが悔やまれます。
このターニャは永久保存版だと言うのに、記録する手段が無いとは。
せめてこの目この記憶に刻み込まなければ。
こちらに一切の視線をくれず、うなだれているターニャに見とれている内に、わたしの方も準備が終わったようでした。
……鏡で自分の姿を確認して、落ち込みます。
何と言うか、絶望的なまでに似合ってないです。
馬子にも衣装とは言いますが、やはり駄目なものは何着ても駄目な様です。
お姉さん方は可愛いとか綺麗とか言ってくれますが、そんなあからさまにお世辞を言われては余計に惨めになるではないですか。
いえわたしがターニャと比べるべくも無いのは、自分が一番理解しています。
しかし今からあの天使の様なターニャの隣に並ばなければならないとは。
神様は残酷です。
早速わたし達はカメラの前に並んで立たされ、撮影が始まりました。
ターニャが普段からは考えられないほどの笑顔で挨拶します。
可愛すぎですか!
「はじめまして!わたしが白銀、ターニャ・デグレチャフです!」
しかし。
次はわたしの番。
ええい、覚悟をきめろ!
元よりわたしはターニャの引き立て役、付け合わせの様なものです。
心を無にするのです!
「はじめまして、わたしはティナ・アルベルトです!」
……あ、涙が出てきました。
ティナの戦闘力について設定してみました。
あんまり強くしたくない気もしますが、一応後方よりは前線向きに。
目立って強くは無いけどなぜか負けない。
つまり主人公補正。
戦果が増えるよ!やったねティナちゃん!
ちなみにティナはターニャと同じくらい美少女です。
士官学校でターニャも言ってましたが、ティナは自己評価がメッチャ低いです。