少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第6話 療養

 再びお会いする事が出来、嬉しく思う。

 ターニャ・デグレチャフ魔導少尉だ。

 私は今、西方ライン戦線にて帝国軍第二○五強襲魔導中隊第三小隊長を拝命している。

 

 何故わたしがライン戦線にいるかと言うと、実は元々エレニウム工廠という場所で新型宝珠の技術検証に協力していたのだがそこの技術主任が所謂狂人と言うやつで、そんな奴に付き合うくらいならと転属願いを出し見事最前線行きとなったのだ。

 しかもその時押し付けられた九五式とか言う新型宝珠は、精神汚染の呪い付き。

 何と使用するたび、神を讃える思想を植え付けられると言う訳だ。

 無神論者のわたしとしては信仰を押し付けてくる神とやらを名乗る者など、呪い殺してやりたいほどだ。

 しかし新型なだけはありその性能は特筆に値する物である為、最前線に行くならばと渋々使っている次第である。

 

 そんな訳でライン戦線にて素敵な戦争ライフを謳歌していると言う訳なのだが、配属された当初最前線にて拠点防御しながら遊撃に努めよなどと言われた時は最悪極まる、なんの冗談かと思ったものだが、信頼出来る上官とまあそれなりに使える部下に恵まれて更には良い感じに戦果も稼げ、なかなかどうして悪くない状況だった。

 特に予想外だったのが、そのそれなりな部下だった。

 わたしの部下となった彼女の名は、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ伍長。

 幼年学校D大隊出身であり、D大隊出身というのは、まあつまりは徴兵組。

 最初はまともに飛ぶことすら出来ずに弾避け程度には使えるだろうかなどと考えていたが、一カ月私と共に戦場を飛び生き延びたのだ。

 それだけかと言われるかも知れないが、この戦場では数時間おきに人が死んで行くのが当たり前だ。

 我が第三小隊においても、残っているのは私とセレブリャコーフ伍長のみで規定の半数しかいない有り様。

 それだけでもこの戦線の過酷さが分かって貰えると思う。

 そんな中一カ月生き延びたと言う事は、まあ少なくとも半人前は卒業したといっても良いだろう。

 こういう、良い意味で期待を裏切られると言うのは悪くない物だ。

 限られた人的資源の中では、何でも無能と切り捨てるよりかは多少育ててみるのも悪くは無いか、と新しい発見となった。

 それに戦果の方もまずまずだ。

 後、十機も墜とせば規定により恩給と恩賜の休暇だ。

 実に悪くない。

 しかしそう全てが上手くいく訳では無いようだ。

 

 

 

 突然飛び込んで来た友軍の救援要請。

 どうやら味方の弾着観測員が敵魔導師に狙われ、砲兵の援護が受けられないらしい。

 敵は二個中隊との報だが、長距離飛行による消耗と観測手狩りのために広く分散しているらしく、各個撃破していけば充分勝算は有るだろう。

 救援任務は私と伍長、それに中隊長殿から借りた二名を加えた急造の第三小隊四名で行う事となった。

 しかし、恐らくだがこの救援任務は無駄に終わるだろう。

 防衛についていた魔導中隊はほぼ壊滅状態らしく、完全に制空権が奪われた状態では我々が駆けつける前に全滅する可能性が高い。

 とは言え、行けと言われれば行かざるを得ないのが軍人。

 貧乏くじとは思うが、仕方がない。

 せいぜい私のスコア稼ぎに利用させて貰うとしよう。

 などと、そう思っていたのだ。

 対象区域に近付くまでは。

 

 

 幸いと言って良いのか、我々が救援対象を確認出来る位置に来るまでに全滅の報は無かった。

 貧乏くじには変わりないが、無駄足にはならずに済んだな。

 しかし何やら様子がおかしい。

 事前情報では分散しているはずの敵魔導師が、一点を目指して集まって来ている。

 敵が向かうその先には一人の魔導師、……魔力反応からするにどうやらあれが友軍の魔導師らしいな。

 しかもその魔導師、何やら知り合いに良く似ていた。

 と言うか、知り合い本人だった。

 

 いや確かに彼女がライン戦線にいる事は知っていたが、何故わざわざこんな状況に追い込まれているのか。

 絶望的なまでの運の無さと言わざるを得ないだろう。

 流石に憐れに思えてきた。

 

 だがどうも様子が変だ。

 敵の集中砲火を避けもせずに、ただ突っ立っているのだ。

 一応防殻で守ってはいるが、あれでは抜かれるのも時間の問題だろう。

 事実何発かは貫通しているようだ。

 私は急いで術式を展開し、敵に叩き込みながら彼女に呼び掛ける。

 

「ティナ!おいティナ、無事か!?後はこちらに任せて下がれ」 

 

 意識を失っていれば墜落している筈なので、意識は有るのだろうが反応が無い。

 と言うかよく見れば全身傷だらけの血だらけである。

 あれやばくないか?

 と言うかいつの間にか術式切れてないか!?

 あのままでは落ちるぞ!

 間一髪、自由落下を始めた彼女を受け止める。

 ……はぁ。

 何だこいつは、馬鹿なのか。

 とは言えこのまま見捨てるのは、流石に後味が悪い程度には顔見知っているしな。

 仕方が無い。

 セレブリャコーフ伍長に彼女を預け、私はそのまま敵の掃討に向かった。

 

 

 その後彼女は治療を受け、一命を取り留めたらしい。

 つくづく魔導師というのは頑丈に出来ているものだ。

 とは言え、所属していた部隊が壊滅状態な事も有り彼女は療養の為そのまま後方に送られるようだ。

 全く羨ましいものだ。

 いや別に瀕死の重傷を負いたい訳ではないが。

 そう言えば北方とは立場が逆転したな?

 ちなみにこれは後で聞いた話だが、彼女は敵を引き付けるため単身吶喊(とっかん)、事前情報通り分散していた小隊規模の敵魔導師を撃破した所で我々が現れたらしい。

 私が言えた義理では無いが、彼女もなかなか無茶をする。

 いや、わたしならわざわざ危険の多い行動を選ぶなんて有り得ないな。

 そんな物を進んで選ぶのは英雄願望の強い馬鹿か、ただの馬鹿だ。

 ティナはそのどちらにも当てはまる気はしないが、まああいつの思考など考えるだけ無駄だな。

 と言うかあいつライフル持って無かったんだが、術式だけで敵に突っ込んだのか?

 ノルデンの私の時とは事情が違うだろうに、何故わざわざそんな事をしたんだ。

 そんな無茶をする奴には見えなかったが、戦争という物は彼女の様な人物でさえ狂わせてしまうと言う事なのだろうか。

 実に嘆かわしい限りだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……知らない天井だ。

 いや冗談言ってる場合じゃないです。

 まじでここどこですか!?

 記憶がないです。

 ボケるには早過ぎるとか言うレベルじゃないんですけど。

 いやまあ確かに?前世と合わせれば結構良い歳ですけど。

 え?もしかしてそれも引き継ぐんですか?

 

「先生、目を覚ましました!」

「アルベルト少尉、私の声が聞こえるかね?」

 

 白衣を着た男性がわたしの顔を覗き込みながら、話しかけてきます。

 はい、聞こえてますよ。

 そう答えようとしたが、上手く声が出ない。

 寝起きだからでしょうか。

 頭は起きているというのに、声はまだ寝てるんでしょうか?

 仕方なく、頷く事で意思表示としました。

 失礼にあたらないでしょうか。

 子供のする事です、どうか大目に見て下さいね。

 

 どうやら白衣の男性はお医者さまのようで、わたしが頷いたのを確認するとわたしの体をあちこち調べながら、状況を説明して下さいました。

 どうやらわたしは戦場で瀕死の重傷を負い、ここに運び込まれた様です。

 その時の事が思い出せないのでお医者さまに身振りで聞いてみたのですが、上手く伝わりません。

 今はショックで一時的に混乱しているだけだ、気持ちが落ち着けば直に思い出すだろうと言われました。

 うーん、そう言う事が聞きたいんじゃないんですけど。

 しかしそんなやり取りをしているうちに診察は終わったようで、お医者さまはわたしにゆっくり休むように言われ部屋から出て行ってしまいました。

 なんでしょう、戦場だと言うのに随分優しいものです。

 いえこんな怪我人が戻ったところで足手まとい以外の何者でもないですが。

 なんてことを考えているうちに、わたしの意識は再び闇に沈んでいくのでした。

 

 

 わたしが目を覚ましてから数日経ちましたが、未だに記憶は戻りません。

 ちなみにあの時声が出なかったのは一過性の物だったようで、今は普通に喋れるようになりました。

 なのでもう一度お医者さまに、今度はちゃんとわたしが怪我した状況の事を聞いてみたのですが、どうやら詳しくは知らないそうです。

 誰かその時の事が分かる人に聞きたいのですが、あいにく今のわたしは全身包帯ぐるぐる巻き状態。

 むう。

 まあ今さら死にかけた記憶を思い出しても仕方ない気もしますし、諦めますかね。

 いつまでも気にしてても、精神衛生上良くありませんし。

 

 

 そう言えば今わたしは後方の病院にいる様です。

 まああきらかにきれいな部屋ですし、そうじゃないかとは思ってました。

 てっきり野戦病院で治療が終わり次第部隊に復帰するのだと思っていましたが、わたしの元いた部隊は定員不足で解散、他の部隊にそれぞれ分かれてしまったようです。

 そう言えばそうでしたっけ。

 そこらへんの記憶も微妙な感じだったので気になって聞いてみたのですが、幸い中隊長殿たちは無事であるようです。

 良かった。

 わたし一人が生き残ってしまったのだとしたら、流石に後味が悪過ぎでありましょう。

 ふと横に向けば宝珠と、それを通してあるチェーンが目に留まりました。

 ……守ってくれたんですかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 体中痛くてまともに動く事も出来ずベッドの上でうんうん唸っていると、いきなり何人もの将兵の方々が見えました。

 何事かと思えば、なんと白金十字章を頂けるそうです。

 わーいありがとうございます、って待って下さい!

 は?え、いや、…………ええ!?

 わたし一体何したんですか、全然覚えて無いんですけど!

 て言うか身に覚えの無い事で誉められても、何だかズルしたみたいで居たたまれないのですが。

 それにここまで来るとちょっと、いやかなり怖いですし。

 しかし今さら言い出せる空気でも無く、わたしは謹んでお受けするしかありませんでした。

 一応、仲間を守った敢闘精神が云々との事でしたので、わたしがこの怪我をした戦闘が原因であるのは間違い無いようです。

 ま、まあ貰えるなら貰っておきましょう。

 減るもんでも無いですしね。

 

 

 とにかく療養に専念せよとの事でしたのでそのお言葉に甘えていると、しばらくしてベッドの上のわたしに一通の辞令が下りました。

 怪我が完治していない内から次なる戦場が知らされるとは、いくら何でもせっかち過ぎないでしょうか。

 覚悟しておけと言う事なのでしょうか。

 しかしどうやら今回は少しばかり趣が違うようです。

 

 

 何でもわたしは怪我が治った後もそのまま後方に留まるそうです。

 と言うのも、なんとわたしは軍大学へ入学する事になったのです。

 軍大学と言うのは参謀将校となる者達の為の学校であり、逆に言えば参謀将校となる為には避けては通れない場所です。

 つまりそこに入学が認められると言う事は、将来のエリートを約束される事とほぼ同義となります。

 しかし誰でも簡単に入れるのかと言うと、もちろんそんな事あるはず無いのです。

 いくつもの非常に厳しい審査を突破した者だけが、栄誉あるその門をくぐる事が許されるのです。

 

 では何故わたしなどが入学を認められているのでしょうか。

 別に今までそんな大それた事をした覚えは無いのですし、審査を通るとは到底思えないのですが。

 ああいや、したかも知れないのですね覚えて無いですけど。

 まあそんな風に考えていましたが、聞くところによるとどうやら現場の評価が高かった事が理由の一つで有るようです。

 何でもハルトマン中尉殿が推薦して下さったらしく、本当に中尉殿には頭が下がる思いでいっぱいです。

 

 

 しかしわたしが大学生ですか。

 士官学校時代も思いましたが、わたし勉強あんまり得意じゃ無いんですよね。

 この姿となる前はそこまで酷くも無かったはずなんですけど。

 子供の容量だからなのか、それともこの身はあまり頭がよろしくないのか。

 でも子供の脳はスポンジみたいに何でも吸収すると言いますし、と言う事はわたし自身が…………。

 いや、いやいやいや!

 流石にわたしもあの時からは成長している筈なのです。

 だから大丈夫!……多分、きっと。

 そうだと良いなぁ…………。

 

 そう言えば、後方にいられると言う事はターニャに逢うチャンスが有るかも知れません!

 そう思い至ると何だか非常に楽しみになってきました。

 ターニャはどこにいるのですかね?

 逢いに行けるくらいの所にいれば良いんですけど。

 最近ターニャが不足し過ぎて心がツラいのです。

 ああ、早くターニャに逢いたいなぁ…………。




残念ながら再会はお預けです。
ティナはターニャがラインにいる事知りません。
後あんまり戦争狂ぽくしたくないので、前回の記憶は曖昧に。
一応飛び出した直後くらいまでの記憶は残ってます。
多分極限状態ではまた覚醒するから大丈夫。
勲章については、普通に突撃章のグレードアップか鉄十字にしようかと思いましたが、ちょっと変わったのにしたくて原作から探し出してあれになりました。

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