(旧作)13番目の星座   作:ふくつのこころ

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不定期更新ですので投稿できるうちに第二話を投稿です


12'sGate
故郷の地


区取府学園風紀委員会(2F・会議室)――――――

 

薙払市立区取府(くとるふ)学園には伝統となっているものの一つとして、転入生を風紀委員会が迎えに行くというものがある。近年、殆どの学校からその存在がなくなっている風紀委員会なのだが理事長の「校内風紀を取り締まる為」ということで創立当初から風紀委員会は存在していた。

第一ボタンを外すこと以外は制服を着崩さずにしたまま、黒髪ロングのパッツンが特徴的な蒼い瞳を持つ風紀委員長、六条呼鈴(ろくじょうこりん)は時折時計を眺めながら両肘を『風紀委員長』のカードに台座の付いた物とスタンド付きの写真があるデスクの上に立てて手を組んでいた。

午後七時半に薙払に到着する予定の二名の転入生。六月とはいえ、日はそろそろ沈みそうだ。

時刻は午後七時を指した。薙払駅から区取府学園までの距離は歩いて十五分かかるかからないかと言ったところだが、土地勘のない者にとっては非常にややこしい場所にあるので、転入生二名が土地勘があるか無いかはさておき迎えに行かねばならない。

 

「失礼します。明日に本校に転入予定の転入生二名の百戸虎之介(ひゃっことらのすけ)芦沢芹那(あしざわせりな)。薙払駅に到着したようです。委員長、用意を」

 

扉をノックして入って来たのは区取府学園の制服を来た風紀委員の男子生徒。時代錯誤な長ランと学生帽は風紀委員の印。のだが、今は別に風紀委員と言っても絶対的な義務があるわけではないので彼自身の好みと言ったところか。

風紀委員長と言っても風紀委員全員の名前を呼鈴は覚えているわけではなかったので、コクリと頷いて立ち上がった。風紀委員の男子生徒に先に行くよう呼鈴は促すと、男子生徒は呼鈴の方にお辞儀をして会議室を出て行った。一人、呼鈴は部屋の中に残されたが呼鈴はまだデスクから離れることができなかった。

呼鈴の視線を捉えたのは自らがデスクの上に飾っているスタンド付きの写真。もう毎日、写真を眺めている気がするが毎日眺めていても飽きなかった。

写真に写っているのは少し長い犬歯を剥き出しにして笑う白髪の小さな少年とそれに寄り添うようにして抱きついている巫女装束を着た小さい時の自分。呼鈴にとって白髪の小さな少年は名前も何も覚えていないけど、写真を見ているだけで忘れてしまった小さい頃に少年と遊んだ記憶が思い出せそうな気がしたから。

 

さすがに時間が押してきたからか、呼鈴は立ち上がって写真から目を離した。電気を消して夏の夜空で光り輝く星をチラリと見てから扉を閉める際にボソリと誰に言うわけでもなく、自分だけが聞こえるように一言小声で呟いた。

 

「さあ、そろそろ行きましょうか。・・・これで、今日は終わりだから頑張ってくるよ。」

 

 

薙払に到着した時、時刻は午後七時半を指していた。虎之介は終点・薙払駅に到着しても目を覚まそうとしない芹那を起こすのに非常に苦戦したこと以外は荷物も忘れず、寝過ごさずで順風満タンな筈だった。

『筈』と何だか心配気味になっているのにはワケがある。

 

「迎えの人が来るらしいけど、誰が来るんだろうな・・・。十九時半だけど・・・」

「大丈夫だ、白ネコちゃん。私の土地勘を生かしてだな、白ネコちゃんの保護者のところに連れてってやるよ。もっと、人を頼るんだ白ネコちゃん!主に私を」

 

良く分からない自信を溢れさせている芹那は虎之介が起こそうとしたときに苦労したことを何にも知らないらしく、無邪気にニコニコ笑っている。これが彼女の長所であり、たまに人の話を聞かないところもあるけれど助けられている所がないか聞かれたら虎之介は暫く悩んだ末に苦い顔をしながら「ある。」と真顔で答えるだろう。

明るくてお節介で怒りっぽいところがあるけど泣き虫で。それに優しい、と言うのが芹那の特徴で芹那の長所。

保護者と言える女性の元で育って仕事の都合で各地を転々として来た虎之介にとって、友人関係は常に浅くしようと心がけていた。引っ越す時に余計に悲しんでしまうのと未練を残していかない為に。そんな思考に至っていくうち、転入先の学校で愛想が良いとは言えなくなって次第には評判が悪くなる始末。そんな虎之介が以前の学校で出会った、三つ下で中等部という普通にしていたら一生関わりを持たなさそうな芹那に出会ったのだ。

 

「夏休みの宿題を最終日までやらなくて俺に泣きついて来たのは、どこのどいつだ?」

「ふっ。わかってないなぁ、白ネコちゃんは。それは私が白ネコちゃんのことを頼りにしているんであって、決して私がやりたくないわけじゃないからな!」

 

ふふん、と胸を張る芹那。年齢が三つ違う彼女を虎之介としては後輩、と言うより気の強い妹と認識している。無礼講で遠慮が無くて自分を押し隠すことなく、あげっぴろげな好意を示してくれる。前に通っていた所も中高一貫であったが、どうやって彼女が自分を見つけたのかが一番虎之介としては気になっていた。

今となっては虎之介の雪のように白い髪と太陽の如き煌きを持つ黄金色の目が校内でも異彩を放っていたから分かりやすかったり有名だったのかな、と思うことにしている。

 

「芦沢芹那さんと百戸虎之介くんね?」

 

不意に背後からかけられた声。

振り返ると立っていたのは女性にしては高身長、切り揃えられた前髪と平均的な日本人の黒髪のロングヘア、更に薙払市立区取府(くとるふ)学園高等部女子の制服の上から分かるほどスタイルが良いのが窺える。左肩に付けた腕章には風紀委員会の物なのだろう、“委員長”と書かれているものを着用している。

それに日本人には珍しい海のような蒼さをたたえる蒼い目だ。私服で街を歩けばすれ違う人すれ違う人が彼女に見惚れるのは間違いないだろう。それくらいのスタイルと美貌を持つ美女だったのである。

 

「ああ。確かに俺は百戸虎之介であってるけど・・・」

「私は芦沢芹那であってるけど。」

 

突然の黒髪の美女に二人は珍しく戸惑ってしまったのだろう、しどろもどろ気味になったのは否めない。

淡々とした口調の中に織り交ぜられた落ち着いた口調。年上好きとかはこういうタイプが好きなんだろうな、と芹那は虎之介の方をチラリと見ながら溜め息をついた。

 

「そう、人違いでは・・・なさそうね。百戸くんは特徴的だし、芦沢さんも銀髪で特徴的だもの。あ、申し遅れたわね。私は薙払市立区取府学園風紀委員会委員長の高等部三年の六条呼鈴。芦沢さんは中等部二年だから私より四つ下、百戸くんは高等部二年だから私より一つ下ね。よろしくね、二人とも。」

 

にっこりと笑いながら呼鈴に差し出された真っ白な手。芹那がその手を取ろうか迷っていた時、虎之介は迷うことなくその手を取って握手した。夏だというのに呼鈴の手はその肌の色に違わず、真夏の冷水のようにひんやりと冷たかった。

 

「宜しくお願いします、六条先輩。」

「宜しく、六条先輩」

 

二人はそれぞれ呼鈴にお辞儀をした。同時に二人が自分にお辞儀をしたものだから、呼鈴は表情を和らげてしまう。その表情の意味が二人には良く分からず、芹那に至っては首を傾げてしまうのだが。

 

「そんなに考えなくてもいいわよ。百戸くんは確か、保護者の方がまた迎えに来るのよね。さ、行きましょう、芦沢さん。百戸くんはまた学校でね。」

 

「あ、はい!白ネコちゃん、また学校でな!私が白ネコちゃんの保護者さんのところに連れて行ってあげられないけどさ、今夜はいい夢見ろよ!」

 

芹那が少し戸惑いの色を見せながらも、返事を返しているのを見て呼鈴は笑みを零す。それから思い出したかのように制服の胸ポケットから取り出した折りたたまれたメモを取り出し、僅かに開くと虎之介と芹那に微笑んで芹那が虎之介に向けた投げキッスを見て今日もコイツは相変わらずだ、と二人が去っていくのをその背中を見送った。

 

「騒がしい奴は好きじゃあないんだがな・・・。芹那はなんというか、不思議なヤツだ。であったときから、何にも変わりやしねえ。眩しすぎるわ」

 

二人で呼鈴を待っていた時はそんなに気にもならなかった周囲の夜の闇。気が付けば20時過ぎを回っている。帰宅ラッシュは既に終了している時間帯なのだろう、周囲は飲み会帰りのサラリーマンや遠くの学校に通っている部活帰りの学生が改札口から出てきている。

田舎の町だから、と言う偏入感は持ちたくないが都会と違って誰もが改札口から出てくると安心しな表情に変わっていた。都会の人間は駅の改札口から出てきてもまだ疲れきった顔をしているが、この薙払の住民の場合は都会の人間が家に帰って来たときに見せる安堵の表情が改札をくぐったときに垣間見える表情と同じであることに虎之介は気づいた。そして実に郷土愛が強い地域であることにも。

そう実感しているうちに改めて虎之介は故郷に帰って来たのだな、と実感することが出来た。

 

「俺、故郷に帰って来たんだよな・・・。」

 

虎之介は誰に聞かせるわけでもなく、一人で呟く。

親戚でもなく、両親の兄弟でもなく、両親の友人で保護者である後見人の百戸京香(ひゃっこきょうか)とその家族と暮らしたこの地。物心付いた時には既に此処で暮らしていたので、元々は何処に住んでいたかなんて何一つ覚えていない。あんまり良い半生を送っていた記憶は無いが、彼女とその家族、そして夢に出てきたあの巫女の少女との記憶、そして現在の芦沢芹那(あしざわセリナ)との記憶は自分に大きな影響を与えている気がした。

 

携帯タブレット端末のホーム画面にしてある芹那と京香とその妹の美春と三人で写っている写真。その写真を眺めながら過去の余韻に浸っていた矢先、ツンツン、と頬をつつかれる。

 

「誰だよ、俺の頬を突いた奴はよォ・・・ってハル姉か。」

「久しぶりね、とらちゃん♪寂しかったよー、私。それにしても大きくなったよねぇ。」

 

頬を突くのは何処のどいつだ?と睨みを利かせながら振り返る虎之介の視界に入ったのはおっとりとした雰囲気、それに呼鈴より高い身長とグラマラスな体型、長くほっそりとした手足にふんわりとした茶髪の長い髪。着衣しているタートルネックのセーターの上から分かるほどに胸が大きいこととそのスタイルのよさ、顔立ちが整っていることから周囲の視線を集める。

虎之介より三つ上で戸籍上は義理の姉に当たる百戸美春(ひゃっこミハル)。呼鈴が言うには虎之介には京香の迎えが来ているらしいが・・・。

 

「でも、無愛想になってしまってお姉ちゃん悲しいなー。昔は一緒にお風呂入った仲なのに♪」

 

美春のその一言で周囲から虎之介は視線を集める。こんな美女があの目つきの悪そうな白髪で金色の目をしているデカい男といちゃついてるのさえ、気に食わないのにこの言葉だ、と言わんばかりの視線。虎之介は取り乱すことなく美春の肩にポン、と手を置いて、

 

「ハル姉、とにかく京香さんのとこに行こう。話はまずそれからだ。」

「わかったー。じゃ、手ぇ出して?」

 

緩い様子で返事をする美春は虎之介に手を差し出す。それが何を意味しているのか分かった虎之介は大慌てした様子を見せ、

 

「ハル姉、場所を考えようか?ここは駅だ。そして公共の場だ。」

 

美春の両肩に手を置いて虎之介は諭すが、「でも、とらちゃんなら私はいいよ?」と更に周囲から誤解を招きかねない台詞を吐く美春。そんな美春を前にして何にも言えなくなってしまった虎之介ととらちゃーん、とらちゃんー、と虎之介の耳元で囁く美春を前にして虎之介が狼狽している中で、一台の大型車が止まって運転席の窓が開いた。

 

 

「あら、そんな公共の場で私達に愛を叫んだのは何処の子かしら?と・ら♪」

 

百戸京香が、到着した。

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