新たな世紀王になってしまった俺が神喰いの世界を駆ける 作:カオスロイドR
前回のあらすじ
ロードセクター登場
クモ怪人との死闘
ライダーキック
【ライダーside】
「さあ答えろ!お前達はどうやってこの世界に来た?どうやったら俺を仮面ライダーBLACKに改造したアイツらの所に行ける?」
俺の命と平和な日常を奪い、改造人間に造り替えGEの世界に無理やり送り込んだ神の居所を聞き出す為、ロードセクターを狙って現れた満身創痍のクモ怪人の胸ぐらを掴んで締め上げ尋問していた。
・・・いやあんな奴は神様じゃない。
真面目な本物の神様に失礼だ。
次からは邪神と呼ぶことにする。
ようやく元の世界に戻る手がかりを見つけて感情が高ぶり、俺の声にわずかながら怒気が含まれているが気にする余裕はない。
力を加減して倒さないようにライダーキックを喰らわせたのはこいつの口を割らす為だ。
「バ、バカな奴だ」
「何!」
「た、例え天界に向かう方法を知った所で貴様ごときがあの方に勝てる筈がなかろう。大人しく従っていれば神は様々な恩恵を与えられたのにな・・・クックック・・・貴様は神の恩恵もなしにこれからたった一人で呪いのような五万年という膨大な時の流れの中を生きていくのだ・・・」
血を流し痛みに苦しみながらも吐き捨てるように語るクモ怪人に対する憐れみよりも今言った事が脳裏に焼き付く。
こいつ今何を言った!?
「も、もしかして?この身体は姿や能力だけじゃなくて寿命も本来の仮面ライダーBLACKとおなじだというのか!」
数秒ほど経って脳が理解してしまった。
確かにその可能性があるかもしれないと考えてしまった時がある。
そんな事ないと無理やり頭の中でフタをしていた。
けど今脆くも残酷に崩れ去る…。
テレビ番組の仮面ライダーBLACKに出てくるゴルゴムの怪人達は強靭な肉体を持ち寿命は人間の寿命に比べ約三万年とかなり長いという設定がある。
それは怪人達の強さと寿命に憧れ、自ら怪人に改造される事と引き替えにゴルゴムの悪事に手を貸す愚かな権力者達が少なからず存在するほどだ。
権力者達はなんでそんな物に憧れていたのだろう。
実際なってしまった僕には今だに理解できない。
そしてその怪人達の中で頂点に立つ仮面ライダーBLACK。
いや創世王候補である世紀王は五万年に一度選ばれる。
それは三万年生きる怪人と違い創世王の寿命が五万年と長いからだ。
つまり創世王候補である俺の寿命は最低でも五万年……。
俺が天寿を全うし再び邪神と対峙する為には、このアラガミの巣くう地獄の中を死なずにたった一人で五万年の間生き残らなければならないのか・・・。
はっは……じょ、冗談だろ・・・。
今まで何度もアラガミと戦い傷つき、時には同じ人間からいわれのない迫害を受けてきた。
でもそれはこんな目に遭わせた邪神に復讐する為と耐え忍んできたのに。
それを五万年も耐えなければいけないなんて……。
「ついでに教えてやろう、なぜ貴様が人間の姿になれないのか、それはお前の変身機能にロックが掛けられているからだ」
変身機能にロックだと!?
僕が元の人間に戻れないのはそれが原因か。
「何でそんな物を?」
「お前の仲間と思う人間達も後たった百年ぽっちで死ぬ、そうなればまたひとりで生きていかなければならない・・・人間の輪の中に入れず未来永劫苦しみつづけるそれが貴様への天罰だ!」
天罰だと!?勝手なことばかり言いやがって!!
確かにクモ怪人の言う通りこの数ヶ月の間、怖がれて石を投げられたりアラガミと勘違いされ攻撃され続けた。
それがまた繰り返される・・・。
い、いやだ・・・。
「どうした?何か思い当たって嫌な事でもあったのか?ん?」
「き、貴様!」
「ぐっ!」
怒りに任せ醜悪な表情を浮かべるクモ怪人の顔をパンチで殴り飛ばす。
「ふ、ふっふっふ、私を殴った所でなにも変わらないというのに無様だな」
「黙れ!死にたくなかったら今すぐにそのロックを解除しろ!」
クモ怪人の首を掴み上下に振る。
「クックック無駄だ、奇跡でも起こらんかぎりロックは我らが神にしか解除できん・・・それに任務に失敗した私は処刑されるだけ、どのみち天界に生きて帰れんよ・・・ならばここで絶望し苦しむ貴様の哀れな姿を笑いながら地獄に堕ちてやる」
こいつは本気だ。
死ぬ覚悟ができてしまっている。
もうなにをやっても口を割る事はない。
「なんでおまえらの・・・おまえらの・・・所為で俺はこんな理不尽な目にあわなくちゃいけないんだ!」
虫の息で抵抗する力も残っていないクモ怪人を怒りに任せて力いっぱい殴り続ける。
「ぐほっ!がはっ!」
殴り飛ばす度にクモ怪人の口から赤い体液が噴出され顔や榊博士から貰ったジャケットに飛び散る。
だがそれでも俺の怒りは収まらずクモ怪人の首を左手で掴み上げ持ち上げる。
「ハァハァハァ・・・・・・ライダァァパァァンチ!!」
「やめなさい!」
「!?」
とどめとばかりに拳をふりあげたら声がして我に返る。
気がつくと目の前に血だらけのクモ怪人。
すでに息はなく手足は力無く揺れて眼も濁り完全に死んでいた。
こ れ を 僕 が や っ た の か ?
「ひぃ!?」
自分のやったことが怖くなって首を掴んでいた手を放しクモ怪人は力なく地面に倒れて動かなかった。
僕は…僕は…。
両手を見るとクモ怪人の血で真っ赤に染まってしまっていた。
いくら相手が憎い邪神の手先だったからってなんてことを…。
もしこれが怪人じゃなくてただの人間だったら…。
「う!オエェェ!!」
思わず想像してしまった光景に耐えきれず嘔吐してしまう。
「ハァハァハァ……!?」
胃の中の物をすべて吐き出し息を整えていたら背中を摩られる感触で振り返る。
「……ジーナさ……ん?」」
ハンカチを差し出す悲しそうな表情をしたジーナさんに呆然としていたがすぐにこの惨状を思い出して跳び離れる。
「ち、違うんだ、僕は…僕は…」
ほんの数分前に偉そうなことをジーナさんに言ってたのにも関わらず、こんな残酷な行為を怒りに任せてやってしまった。
僕は人間の自由と平和を守る仮面ライダーなのに…。
なにが人を護りたいだ…!
僕はカレルさんの言う見た目通りの化け物じゃないか!
ジーナさんに見られてしまった。
今回の事は当然、支部長や信頼してくれた榊博士、ツバキ教官にも報告されるだろう。
そうなったらもう僕はアナグラにいられない。
人間離れした腕力を持ち感情をコントロールできない危険人物を誰が好き好んでそばに置くのだろうか。
せっかく受け入れてくれたリンドウさんやユウカ達と知り会えたのに…。
そんな人を失望させてしまった。
おそらく僕はアラガミと同じように討伐対象になるだろう。
違うな、その前にこの首に仕掛けられた爆弾で『処理』される。
嫌だ!死にたくない!
「安心しなさい…あれは人間じゃない…アラガミと同じ私たちを襲った敵よ。それに今回の出来事は誰にも報告する気はないわ…」
「え?」
顔を上げるといつのまにかジーナさんが目の前にまで来ていた。
ジーナさんは地面に膝を付けて腰を下ろすと持っていたハンカチで僕の顔を優しく拭き始めた。
「あ、あの…?」
「動かないで拭きづらいわ……人の顔を拭くなんて初めてで手加減が分からないんだから……目の所も拭いてあげる。なるべく優しく拭くけど痛かったら言いなさい」
「は、はい……」
顔を拭いたあと、ハンカチを裏返しにして僕の赤い複眼を拭いていく。
それは泣いている子供の涙を拭うように優しく。
少しヒリヒリするが痛いってほどじゃないので我慢した。
「終わったわよ……」
「あ、あの…」
「何?ハンカチなら気にしないでいいわ、あとで洗うから」
「あ、いえそれもありますけどそれよりも僕の事が怖く…ないんですか?」
さっきの戦いと呼べない暴力をジーナさんは、見てた筈なのに…。
「もちろん怖いに決まっているでしょ」
ビクッ!
「そ、そう…ですよね」
あっさりそう言われ、さすかにショックを受ける。
やっぱり僕はここにいたら…
「でもね・・・それ以上に安心しているのよ。あなたが他の人と同じ年相応の16歳の青年だったことに」
この人は何言ってるんだろ。
あんなのが年相応な訳ない。
「どういう意味か分からないって感じね、でも普通の16歳の青年ならつい怒りに身を任せてしまうなんてよくあることよ」
「そんな事…」
「ないと言い切れるかしら?むしろさっきあなたが蜘蛛の怪物を追いかける前に言っていたのを聞いてそっちの方が歪んでいると思ったわ。だって無理して悟ったフリなんてしてるんだもの・・・」
思わず黙り込んでしまう。
そうかもしれない。
俺は仮面ライダーBLACKの姿に惹かれていつのまにか自分を殺して仮面ライダーにならなくちゃいけないんだと脅迫概念に囚われていたのかもしれない。
でもそれは無理だ。
僕は僕…仮面ライダーは仮面ライダー。
同じ存在じゃない。
間違いもある。
けどそのままにしておけない。
間違ってたら正せばいい。
「どんな聖人君子でも人は誰でも自分の中に残酷なケモノが一匹や二匹がいるものよ…もちろん私の中にもね」
ジーナさんは自分の腕輪に触れながら静かに話し始める。
「でもそのケモノに負けて自分で自由に制御できない限りはアラガミのように本能だけで暴れる化け物になり果ててしまう・・・」
確かに僕は・・・自分の中の”ケモノ”を制御できなかったからこんな事態を引き起こしてしまった。
今の僕はBLACKの能力は知識として分かっていても心がついていけずに振り回されて制御出来ていない。
ジーナさんの言う通り、これからは肉体面だけじゃなくて精神面も鍛えていかなくちゃならないな。
「それにあなた一人で崩壊するほど極東支部はやわじゃない……だから私達に後ろめたさなんて持たずに嫌なことははっきり嫌と言って自分に素直に生きなさい……それがあなたを心配する仲間の為でもあるのよ」
そう言われて少しだけ気が楽になったような気がした。
言われてみれば極東支部は支部長を始め、榊博士やツバキ教官、リンドウさんといった優秀な人達がたくさんいる。
そっか、俺は自分はもう人間じゃないから心のどこかで線引きしてアナグラのみんなを信じ切れていなかったんだな。
第一部隊や第二部隊のみんな、仲良くなった人達から拒絶されるのを恐れて一人で抱え込んでしまいその心の弱さが今回の事態を招いてしまった。
帰ったらまずリンドウさんやツバキ教官に胸の内を打ち明けて相談してみよう。
「ありがとうございますジーナさ・・・」
「おい聞こえるか?」
突如遮るように通信機からカレルさんからの通信が入る。
なんだろ?カレルさんの口調がいつもの傲慢な口調じゃなくてなんか焦っているような感じたけど。
「こちらジーナ、どうしたのカレル?」
ジーナさんが通信を繋げる
「どうしたもこうしたもじゃない!こっちにクアドリガが出やがって今交戦中だ!お前らどこにいる!すぐに援護に来い!」
「なんですって!」
連絡を受けたジーナさんが驚きの声を上げる。
普段冷静な彼女でさえこの通信内容は予想外すぎる事態だった。
「くそ!?クアドリガのいる情報なんてなかったのに!」
通信機から聞こえる轟音と爆発音、そしてシュンさんの悲痛な声。
クアドリガ、ノルンのデータで読んだことがある。
戦艦や戦車、人類が作った兵器を大量に捕食したオラクル細胞がその特性を取り込み自ら体内でミサイルや砲弾を製造を行い攻撃するとんでもない凶悪な大型アラガミだ。
そうか愚者の空母には破壊された無数の戦艦の残骸がある。
ここは奴の餌場には最適って訳か。
そんな厄介な奴がカレルさん達の方に。
急いで救援に向かわないと。
カレルさんたちのいるポイントに向かおうとジーナさんがに背を向けると。
「行くの…?」
背後からジーナさんに声を掛けられ振り返ると辛そうな表情があった。
「……はい」
「例え助けてもあの二人の性格からして感謝しない……むしろ逆、安全が確保されたらまた罵倒されるかもしれない……」
確かにジーナさんの言う通りかもしれない。
あの二人の性格ならコウタやアリサ達と違い神機なしで戦う僕を見て戦いが終わったら恐怖し罵倒してくるだろう。
けど……。
そうだとしても……!
目の前で誰かが苦しんでいる所なんて見たくない!!
(BGM はるかなる愛にかけて)
「それでも行きます、自分で決めた事に後悔だけはしたくないんです」
「……そう分かったそれがあなたの答えなのね、なら行きなさい、私もできるだけのフォローをする……けどここからかなり距離があるわよ」
確かにここからカレルさん達のいる場所までかなりのかなりの距離がある。
バトルホッパーはさっき僕を助けようとしてクモ怪人から受けたダメージがまだ再生していない。
なら自力で走っていくしかないか。
考えている暇なんてない。
一分一秒でも早く救援に向かわないと間に合わない。
そう思ったその時……。
コン
ん?背中に何か当たり振り返るといつのまにかロードセクターが停まっていた。
「ロードセクター?どうした?」
ファンファン!
なんだろ?なにか訴えかけている。
「・・・・もしかして乗れって言ってるんじゃないの?」
ジーナさんの言葉に反応して、ライトが点滅する。
「力を貸してくれるのか!ロードセクターありがとう!」
素早くロードセクターに跨りスロットルを動かすとエンジン音が大きくなる。
お前がいてくれるなら百人力だ。
「ジーナさん先に向かいます。いくぞ!ロードセクター!」
スロットルをフルで回すとロードセクターは俺を乗せて猛スピードで走り出した。
速い!凄いスピードだ。
これなら絶対に間に合う!
目的地はアラガミと戦う仲間の元に。
俺は戦う!今は目の前に苦しんでいる人達の助けになる為に!
仮面ライダーとして、一人の『人間』として!!
つづく
成長回は難しいな・・・。
俺も成長しなければ。
あと今回のクモ怪人戦はやり過ぎた。
次回はグアドリガ戦。