力とは、どういうものだろうか。暴力、財力、体力など、力がつく言葉はこれだけで終わらない。しかし、いずれに共通するのは、『自身、他人に、どれだけの物理的、身体的などの面において、影響を及ぼすか』という点だろう。ならば、彼らの持つ、常人とは違う力は、どんな影響を及ぼすのだろうか。人を救うのだろうか。或いは……………
※ 6/10(土) 演説会場 アリーナ
私の両サイドから、刀が敵の身体を突き刺す音、銃声が聞こえた。その攻撃を受けた敵は、昇華するかのように、形を崩し、気化していった。血液、亡骸を残さず。
「玲、後ろの通路から、逃げて」
あやがそのように言ってから、2人の行動の速さは、人を凌駕していた。会場を警備していたSPなども先頭に加担しているが、2人には敵わないように思えた。私たちがいたアリーナ後方から、スタンド席、アリーナ中央、アリーナ前方まで、流れるような刀捌き、銃捌きで、2人の目につく敵が見る見るうちに気化していく。そのため、アリーナ内からは、ほとんど敵が消えた。私も、逃げようとした。走って走って、アリーナ後方の出入り口へと向かった。そこから見たとき、2人は残り少ない敵の殲滅に全力だった。そして、会場、アリーナ前方に残っている人をもうひとり、見つけた。あの人、いや、あの子、ここに着く前、海に落下しそうになっていた、女の子だ。その子は、その場に座り込んで逃げようとしない。私は、その子の元に駆けつけようとしたが……………再び轟音が鳴り響いた。しかし、さっきと違う点がある。それは、地鳴りのような轟音である、というところだ。次の瞬間、アリーナ前方の半分が、沈下し始めた。
「あや!さっきの子を守って!!!!」
あの子の近くにいたあやが私の叫びに気づき、その子を抱えたまま、地下に消えていった。前ちゃんも同じく。会場には、前ちゃんたちの活躍によって、敵はもういなかった。そのため、地下に消えたアリーナ前方へと向かった。
「そ、そんな………………」
私が見つめた先は、奈落だった。暗闇で、先を見据えることができないため、どこまで落ちてしまったのかわからないが、少なくとも30メートル以上はある。この下がどうなっているかさえもわからないが、ただただ、2人、そしてあの子が無事であることを願い始めた。
「園枝さん!2人は、どうしました!?」
「吉見さん…………」
全力疾走してきたのか、吉見さんは息が切れていた。吉見さんの疑問に、私は何も言わず、お先真っ暗の奈落を指差した。
「………………!!クソっ!!ダメか!」
吉見さんは、着けていたメガネを地面に投げつけ、やり場のない怒りを抑えようとした。それでも、折れそうなほどに歯を食いしばっていた。そんな吉見さんに、私は言った。
「2人は、戻ってきます」
「いや、こんな奈落なら、生きているかさえ「戻ってきます、絶対に!」…………」
いきなり声を荒げてしまったからか、吉見さんは固まってしまった。それでも私は、諦めたくない。2人が戻ってこない?そんなこと、奈落に落ちたから……という固定観念を吹き飛ばせば、現実になんて、ならない!
「だが、2人が戻ってくるとしても、問題が残るんです」
「?問題って?」
「さっき、ここにたくさんアイツらが来たでしょう?その比じゃない数が、予測ではおよそ2時間後に大気圏外から来襲します」
「本当、ですか?」
「幸い、大部分が警察や自衛隊など、日本の防衛力を持ってすれば、殲滅できる個体です。しかし………………」
「え…………………まさか……………!」
「えぇ、そのまさか、です」
私の身体に、電流が流れるような思いだった。比にならない、という言葉よりも、"まさか"が起こってしまうことに危機感、もとい恐怖のようなものを感じた。
「……………だから、我々は、別のアプローチを仕掛けます。園枝さん、あなたにも手伝ってほしい」
「……………………………………はい、行きましょう」
私は、吉見さんの問いかけに淡々と答え、歩き出した。制服のジャケットを脱ぎ、スマホから、朝、送迎してもらった常田先生に電話をかけた。
「はい、多分今日は帰れないと思います。はい、はい、あとは吉見さんに、はい」
電話を終え、私は、まだ分からない目的地へと向かった。
現在15:42
来襲まで02:11
※ 6/10(土) 地下空間
「………………………………んっ………………」
私は、どのくらい、意識を失っていたのだろう。何となくだが、それほど長い時間ではないような気がする。最後、気を失う直前には、強い揺れによって、頭を打ったことを覚えている。前ちゃんは、あの子は。身体に残る気怠さを吹き飛ばし、起き上がった。しかし、この暗闇の中で物体や人体を認識するのは、容易ではない。
「スマホ………………よかった。潰れてない」
装備と同じく、懐に忍ばせておいたスマホも無事に起動した。これで、最低限の光源を確保できそうだ。それにしても、寒い。地下だから、と言ってしまえばそれまでだが、そんなレベルではない。冷凍庫とまではいかないが、感覚ではそのくらいの寒さだ。
「前ちゃん、どこにいるんだ」
スマホの光源を使い、足下を照らして、2人を探すが、やはりスマホでは光源としては弱い。一寸先しか照らされない。そして、声がよく共鳴する。それだけ、この空間が広いことが分かる。と、彷徨っていると、何かに突っかかり、転けてしまった。
「うわっ!………………………前ちゃん」
どうやら、前ちゃんの足に引っかかったようだ。それで転けて、私が、前ちゃんを押し倒すような体勢になってしまった。最悪だ。それに加えて、前ちゃんが目覚めた。
「うぅっ…………………お?あぁ、青村か。何してんだこんなときに。もしかして、こんな緊急時でも僕を求めるというのか?いやぁ、青村がそんなにお盛んだとは「前ちゃん、遺言は?」
私が目覚めたときに、手に持っていた銃の銃口でで、前ちゃんの額を突きつけた。さすがに、私も実弾を撃つようなマネはしない。ただし、腕を大きく振りかぶって……………
「デグシュ!」
汚ねぇ吹き方をして、前ちゃんは再び気を失った。
〜3分後〜
「前が見えねぇ」
「ほら、早く行くよ」
「何このサディスト。別行動してぇ」
目覚めたと同時に、青村が僕の身体の上に乗っていたので、軽い冗談を言ってみたところ、僕の顔面中央に青村の本気の一撃がクリーンヒット。そんでもって、『前が見えねぇ』状態になっているのにも関わらず、『早く行こう』とかいう青村のド畜生っぷり。僕はマネできねぇっすわ〜。しかし、ネタのケガは自然治癒するので、このギャグ小説最高!
「抜け出す方法を…………の前に、まずあの子を探さないと」
「あん?あの子とは何ぞ?」
「あなたねぇ………………玲が叫んでたの、聞こえなかった?」
「殲滅に夢中になってたでござる!」
「あーそうでしたね」
ツッコミを放棄し始めた青村。しつこいくらいのハイテンションでツッコミ役に関われば、ツッコミ役はツッコむことを止めるぞ!
「それにしても、寒すぎないか、ここ」
「確かに。それは激しく同意。いくら地下空間は普通地表よりも涼しいとは言っても、ね」
「あれ」
こいつ、小刻みに震えてやがる?スマホのわずかな光で照らしているため、青村の全身は見えないが、震えているのは分かる。確かに、なぜだか制服のジャケット脱げてるもんな。こいつ、表面上では強がっていても、身体に出すぎだっつーの。
「ほれ」
「えっ?これ………?」
「黙って着とけ。寒さで身体動かなくなっても知らんぞ」
「でもそれじゃあ前ちゃんが……………」
「僕なら、お前に殴られた所為で血がのぼってるから、しばらくはいい」
「そ、それは失礼しやした……………………………ありがと」
「ん、なんだって?もう一回前山お兄さんに言ってごら、ん!」
崩落によってできたコンクリート片のようなものが、またしても僕の顔面にクリーンヒット。
「痛ぇよ!……………………まぁ、こんなところでゴチャゴチャ言ってる暇はないか」
「よく分かってらっしゃる」
青村の一言にさらに返してやろうとも思ったが、再び『前が見えねぇ』になっても困るため、グッと堪えた。
「ドコ………………………」
そのとき、微かに人の声が聞こえてきた。年齢、性別的には、幼い女の子といったところだろうか。ということは、青村の言う、あの子しかいない。
「良かった、ここにいた」
「………………………Who are you?」
「とぼけたってムダ、あなたは、私とさっき会ってる。それに、英語で話すのもムダ。あなた、さっき日本語で『どこ』って言ったでしょう?」
「…………………」
少女は黙り込んでしまった。どうやら、図星らしい。
「ゴメンナサイ。チョットダケ、イジワル、シタクナッタンデス」
少女は、片言ながら、日本語で喋り始めた。
「確か、あなた、大統領のお孫さん、ね。さっき、壇上の袖から顔をチラチラ出していたものだから。違った?」
青村の問いに、少女は首を縦に振った。あの日本文化好きの大統領の孫なら、日本語を会得させられていても、不思議なことはないだろう。それにしても、年下で孫とはいえ、大統領の近親者にこんな馴れ馴れしく接することができる青村が末恐ろしい。
「寒いから、これを着て」
そう言って青村は、さっき僕が渡した、男子制服のジャケットを少女に羽織らせた。
「青村、大丈夫かよ」
「うん。それに、中学2年の私が温い格好するよりも、もっと幼いこの子に、温い格好してもらわないと」
「んまぁ、それは分かるが、あまり無理はするな」
「分かってる」
本当にわかっとるんだか。とりあえず、この地下空間からの抜け道を見つけなければ。そんなことを考えていると、少女が小さいLEDライトを拾ったというので、ありがたく使わせてもらうことにした。さっきのスマホよりもかなり照らせる範囲が広くなった。
「じゃあ、状況を整理してみるか」
「そうだね」
「この地下空間、さっきから感じているように寒い、寒すぎる」
「そう。でも、それは今のところなぜかは分からない。体調に気をつけて進むよ」
「そして、スマホは通話とかが圏外になる。外部からの救助というのも、望めなさそうだ」
「そうだね」
「さらにもうひとつ。今こうして喋っているわけだが、この声の響き方からして、かなり広い空間だ。この空間の端を手探りでいけば、どこかに繋がる扉があるかもしれないな」
「確かに」
こうやって状況整理をしてみたが、割と詰んでいる。端を探る、に関しては、まだ望みがあるが、それも否定するしかなくなると、いよいよ詰んだ。上を見上げ、光が全く見えない感じを見ても、ここからもといたアリーナへ上がって戻るというのは、バカでもやらないだろう。……………………しかし、諦めない。一縷の望みがある限りは。
「そうだ。あなた名前は何ていうの?」
「…………………メリー、メリー、ホワイト」
「メリーちゃんっていうんだ。いい名前だね」
「………………アリガトウ」
脚をモジモジさせながら、下を向く感じ、いかにも人見知りの幼女、という雰囲気だ。それにしても……………
「青村お前、こんなに幼い子の扱いに慣れていたのか」
「ま、まぁ、普通には、ね」
「お前は、いい母親になれるよ。いや、保育士さんかな」
「も、もう、早く、端を探るよ!」
こうやって、たまには照れる青村もかわいいものだ。もちろん、1人の人間としての話だ。しかし、そんなことでウハウハしている時間はない、早く、ここから抜け出さなければ………!
外国人の登場人物が何名か出てきていますが、人名に関しては妄想です()