※ 6/10(土) 某所
現在16:17
来襲まで 01:46
「どういうことなの!?なんで、今度は、日本なの?!」
「わからないっす!…………」
日が傾き始めた空の下、軽く正気を保てていない凪さんと、彼女を宥める私、黒下このは。凪さんが取り乱しているのは、先程、不安を掻き立てるような通知音とともに、Jアラートでこのような知らせが入って来たからっす。
『バイターLevel4襲来中』
この文面を目にした瞬間、凪さんのみならず、私も取り乱しそうになったっす。それと同時に、絶望が、私を支配したっす。絶対的な絶望が。
※ 都内某所
「時代に逆らうってこういうことなんですかね、吉見さん」
「でしょうね」
現在、16:17。あいつらの襲来まで、2時間を切った。私は吉見さんの運転する車に同乗し、ある場所に向かっている。さっき、Jアラートが入って来たが、そこから私が乗る車が走る車線は車一台走っていないのに対し、反対車線は、車道も歩道も、渋滞を起こしていた。どうやら、都心から逃げ出そうとしているのだろう。無謀だと知りつつ、生物の本能のままに。
「それにしても、本当に”アレ“は来るんですか?正直、信じられないです」
「同じく。ですが、現実です。こればかりは否定しようがない」
ミラー越しに見る吉見さんの表情は、少し強張っているようにも感じられる。そうすると、私もタダではいられなくなるような気がした。
「…………………当事者が身近にいるから、聞くまでもないでしょうが、園枝さん、バイター事件はどこまで知っていますか」
「…………………異星人の存在が立証されたと同時に、国家がひとつ、滅亡寸前まで追いやられた史上最大最悪の事件。とでも言えば正解ですか」
「模範解答をどうもありがとう」
気の抜けた、若干棒読みともとれるトーンでありがとうと口にする吉見さん。しかし強張った表情は変わらない。
「さらに言うなら、獣のような醜い外見をしているから、その異星人は”バイター“と名付けられ、その後、日本に襲来してきた。ここまでならパーフェクトですか」
「はい。申し分ない」
「前回………あれは2年半前ですか。日本に来襲してきたときには、ある2人の英雄によって日本は最低限の損失で済んだ」
「園枝さん、とうにパーフェクトを振り切っています」
「あっ、はい」
「急に冷めるのやめましょうか」
少し自分を見失っていた私は、急にこちらの世界に引き戻されたような感覚だった。感情が死んだ状態で、2年半前の話をしていたのだ。
「とにかく、またあの2人には、バイターたちに挑んでもらわなければなりません」
「…………………どうして、あの2人ばかりが………」
「え?」
「2年半前も、たった2人で、国家権力はまともに機能していない状態で、バイターたちに挑んだんですよ?どうして、2人ばかりが危ない目に………」
気づかぬうちに、私は涙していた。自分でも驚いた。しかし、2人を思う気持ちは、嘘をつかなかった。
「………フッ。あの2人に一任させるほど、国家は腐っていないし、成長していないこともありませんよ」
「………吉見さん?」
「バイターたちの大部分は、国がどうにかします。ですが、あいつ………バイターたちの”親玉“に関しては、2人の力なしにはどうにもできません」
運転に集中しつつも、吉見さんは、強張った表情から、神妙な表情に変わっていた。
「………私が心配したところで、力になると決断したのはあの2人です。私が言えることは、無いです」
「…………急ぎましょうか」
吉見さんは、アクセルを強く踏み、速度を上げた。私の鼓動も加速度が増している。
※
「了解。前は前ちゃんに任せた………………変な感じ」
「青村、ギャグに目覚めたか。しかしまだまだだな。もう一回出直してく「何発がよろしい?」ゼロ発がよろしいです」
銃を額に突きつけて発言を訂正する風潮どうにかならないかね?寿命が5年くらい縮むんだけど?若干残る硝煙の匂いがさらに恐怖を掻き立てるんだけど?
「まぁこれもまた一興ということで、早く行くよ」
「何が一興じゃあ!こちらた殺される雰囲気あって寿命が5年くらい縮んだわワレ!」
とりあえずこの話は後で決着を着けよう。それよりも、広い空間の端を探っていると、冷たい鉄扉を発見した。その先には、通路があり、進んでみることにした。
「じゃあ先導よろしく。メリーちゃんも大変だけど、手繋いで付いてきてね」
「ウン」
当たり前かのように僕が鉄扉の先の通路を先導するような雰囲気が出来上がっている。まぁ、男が先導するのがルールだろうし、それに青村は幼い子供も連れているわけだし、僕が先導するのは当たり前か。それにしても大統領の娘とこんなにも馴れ馴れしそうな青村が怖い。
「ほんじゃあ、行くか」
鉄扉の先へと、足を踏み入れた。中は、さっきいた空間よりもさらに温度が低い感じがした。血が上っていた僕だが、流石に寒いと感じる。しかし、ジャケットを返してもらうわけにもいかなかった。また、通路には弱いながらも照明が等間隔に設置されており、視界は十分に確保できる。そして、帯刀する僕、拳銃携帯する青村とで、それぞれ前後をクリアさせているが、人のいる気配は全くない、照明があるということは、ここで過ごす人間がいたはずなのだが。そんな風に今いる通路という空間の観察をしているうち、また鉄扉へと当たった。
「さて、開けてみるかい青村さんよぉ」
「何その口調。そりゃあ開けない以外にないでしょ」
「だな」
同意した僕は、鉄扉を開こうとするが、開かない。この感じ、どうやら何か物が扉を開かないようにしているようだ。体当たりも試してみるが、扉の動きが小さい。
「メリーちゃんちょっとごめん。前ちゃん、私も手伝う」
「あー助かる。通常時でもえげつない力振るうお前はマジ助かる」
「蒙古タンメンに連れて行って、担々麺100杯くらい食らわせるぞ」
「地味だけど確実に死ぬやつやめような。僕が悪かった」
満腹だけでなく刺激でも殺そうとする気だ。そうなる前に謝罪するのがいい。
「じゃあ」
「いこう」
2人息を合わせ、鉄扉に体当たりを食らわせる。さっきよりも動きが大きくなり、隙間も大きくなった。
「そんじゃあ、もう一回」
「うん」
2人目を合わせ、再び2人息を合わせて体当たりを食らわせた。ようやく、3人とも通れるほどの隙間が出来上がった。
「じゃあ通ってみようか」
「おし」
「トオリマショウ」
扉を抜けた僕ら。その先にあったのは、少しばかり目を閉じたくなるような、凄惨な現場だった。
「……………」
「み、見ちゃダメ」
青村は、言葉がカタコトになり、僕に関しては言葉を失っていた。様々な物品が破壊され、無造作に横たわり、空間そのものが傷ついている。そして何より、無数の死体が転がっている。中坊ながら、数年前にこんな光景を目にしたが、それでも”平和ボケ“していたからか、背を向けたくなる。そんな惨状から、ここでただごとじゃないいざこざがあったことは明確だ。
「「!!」」
スマホの通知音のような音が今いる空間にこだました。音が鳴った方向に、僕は抜刀する構えをとり、青村は銃を突きつける。人間は見受けられなかったが、代わりに光の粒が一粒あった。青村にその場を任せ、僕は光の粒へと恐る恐る歩いた。やはり、スマホであった。それを手に取ると、画面にはURLが表示されていた。それを開く前に、僕は元に戻り青村に報告した。
「スマホだった。そんで、画面にURLがあるんだが、開いてみるか?」
「開いたとして、有益な情報が得られるとは到底思えないけど………やってみよう」
僕は、スマホの画面をタップした。真っ黒なバックに筆記体で『Loading...』と記されたローディング画面が表示されている。シンプルだが、見栄えがよいが、その画面の表示時間が長く、次第にイライラしてきた。そんな風に過ごしているうち、ローディングが終わった。すると、白い画面に切り替わった。それとともに、成人と思われる男がフェードインしてきた。
「誰だよ」
「誰?」
『どうも!バーチャルユーチューバーのキズナ「それ以上口を開いてみろ、みじん切りか」
「蜂の巣」
「になるぞ。謝罪の言葉なら今から5秒以内だ」
『誠に申し訳ございませんでした』
画面の中で土下座をする男。長いローディングを待たされたうえに開口一番あのバーチャルユーチューバーの紛いごと未満のことをされたら、頭に来ないわけがない。それより、今確かめなければならないのは。
「あなた誰?私たちも時間はないから早くしなさい」
『まぁ真面目に話すと、あんたらが今いる空間で働いてたやつのホログラム、と認識してもらえればだいたい正解だ」
「働いてた?どういうことだ」
「正確には、”奉仕“していただがな。まぁそれを話すと結論にたどり着くまで少々時間がかかるがよろしいかい、レディーアンドジェントルマン」
何だろうか、この男の態度に対して湧き上がる感情は。敢えて言葉で表現するならば、”イラつき“が正しいだろうか。しかし、イラついても現状何も解決しない。僕らは、その男の話に耳を傾けるとした。
久しぶりのプラマイはいかがだったでしょうか?見ている人が少なくとも、定期的に、ゆる〜くやっていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。