※ 6/10(土)
現在 17:00
来襲まで 1:03
「ねぇ、まだ到達しないわけ?」
「声の響き的にそろそろのはずだが………」
僕らは今、外へと通ずるはずのハシゴを上っている。それなりに上ってきたはずなのだが、終わりが見えない。上から、僕、メリーさん、青村の順だが、真ん中のメリーさんは疲れているような息遣いだった。
「あたっ」
「ちょっ、いきなり止まったら危ないでしょ。大丈夫?メリーちゃん」
「ダイジョウブデス」
「すんません。って、終点だぞ。フッ!」
形状からして、マンホールのようなものを利き手である右手で持ち上げる。無論ズッシリとしていたわけだが、少しずつずらすことで、外すことに成功した。
「先に上がるから、ちょっと待っててくれ」
青村やメリーさんに先立って、先に僕が外へと出た。
「ここって………」
行き着いた場所は、昼間立ち寄ったフリースペースだった。メリーさんに会ったのも、ここだった。
「前ちゃん、早くメリーちゃんの手助けをして」
「おっとすまん」
景色に意識を奪われる暇なく、まだ上がっていない2人の手助けに当たった。メリーさんは苦労することなく引き上げることができた。次の青村も、引き上げることはできたが、
「あらよっ!っと!?」
「うわっ!」
引き上げたあと、バランスを崩し、2人とも倒れた。僕が仰向けになり、青村がその上にうつ伏せになるように倒れこんだ。おそらく、史上最も密着度が高い。いや誰も望まねぇよ!このひんに…………まな板が!
「ラブコメノンセンキュー」
「「なっ」」
メリーさんから思いがけない一言。いや流石にラブコメは教えんでいいだろうに大統領さん。そう言われた僕らは、赤面しつつ、早々に立ち上がった。
「ところで、何考えてたの?私と密着したとき」
「な、なにみ考えねぇよ」
「いや誰も望まねぇよ。このひんに…………。この先何て思ったの?」
「何で心読めるんだよ!」
いきなり青村に問いかけられたと思えば、さっきの僕の心情を一言一句、3点リーダまで正確に読みやがった、何もんだこいつ!…………3点リーダってなんだよ!
「んで?何を思ったわけ?早く答えないと公園によくある石像の台座の角ばった部分でドタマカチ割るぞ」
「ここに来てシンプルに恐ろしい脅し文句やめろ!」
「はい終了!行きましょうね前山くん」
服の首元を掴んでどこかに向かう青村。行き先が予想できてしまった自分がいた。
「おい!やめろ!分かった!言う!『このまな板が!』って思った!やめてくれ!」
「残念、君に生きる道など存在しない」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
角ばった部分に、後頭部打ち付けたらしい。
※
「コントやってる暇はねぇんだよ!それとこの小説がネタケガは自然治癒するタイプのやつで良かったわ!」
「うるさい。君が調子乗ったこと言わなければそうならなかったわけ。理解できますかー前山くーん」
「やかましい!お前は自分がまな板であることを理解し」
銃弾が一発、僕の左頬をかすめるように流れていった。
「次はドタマにぶち当てるぞ……」
「何でドタマの一点集中なんだよ!」
「ほう、ドタマ以外ならいいと?」
「そ う い う こ と じ ゃ ね ぇ よ!」
今の青村は、『とりあえず前山殺すウーマン』になっていた。いや、やはり貧相だから、リトルチャイルドか。
「前山くん、その思考については、後日話し合おうじゃないか。肉体言語で」
「だから何で心読めるんだよ!」
感情を殺し、ただただ真顔で脅すから恐怖しかない。それが今の青村だ。
「って、なんか私のスマホに通知がたくさん…………全部玲からだ」
「え?」
青村は、某有名緑色トークアプリを開き、園枝とのチャット欄を見ている。数時間前、奈落に落ちてからかなりの量のメッセージが青村に向けて送信されたようだ。
「ちょっと、勝手にみんな」
「あ、すまん。ただこういう緊急時に折り入った話は来ないと思うが………」
「まぁ、それもそうだけど。って、これ見て」
青村が僕に差し出してきたのは、園枝が大量に送りつけてきたメッセージの中のひとつだ。それだけ、他よりも少し長めだった。
『富士山付近にバイター降下する。無事なら連絡ちょうだい!」(16:39)
現在17時9分。ちょうど30分ほど前に送信されたもののようだ。ここで『降下する』とあるのなら、やはり昼間のアレは、氷山の一角、前衛部隊にも満たない敵襲だったようだ。目的は、僕と青村に対する、コテ入れかな。
「ちょっといい?玲に連絡する」
そう言って青村は、僕からスマホを取り上げ、電話帳を開き、スマホを耳に当てた。
少し経つと、繋がった!と言わんばかりの表情をした。そこからは、園枝のトークに淡々と答えていた。
「うん。私も前ちゃんも大丈夫。それと、メリーちゃん、大統領の娘さんもいる。うん、怪我はしてないみたい。分かった、うん。じゃあまた」
「なんだって?」
「迎えのヘリを寄越してもらえるみたい」
「ヘリとは、またVIPな乗り物を」
この日本が今僕らを戦力として必要としているのは察しがつくが、かといってヘリまで召喚するのか思ってしまう。流石にこれを疑い始めたら何も始まらないわけだが。
「それにしても、静かなもんだな」
「確かにね」
日本全体に国外や地下シェルターへの避難誘導が発令されているため、この辺り一帯が静かなことに疑問はない。しかし、ここまで東京が静まり返るものなのか。と思うと、なんだか悪くない気分で満たされた。
「前にあったときは、元々田舎だったから静かだったけど、さらに静かになったよね」
「何だ、回顧録か?やめろやめろ、そういう風に郷愁に駆られて、行きて帰ったヤツいないぞ」
「はいはい」
面倒くさそうな調子で青村は僕をあしらったが、まんざら気分を害したような感じでもなかった。
「ねぇメリーちゃん…………って、どうしたの?」
気づいたようにメリーさんの方に目をやる青村。しかし、それ以上に、股間を抑えてモジモジしているメリーさんが気になる。………………………これって、もしかしなくても。
「なぁ、青村?これってさぁ?」
「まぁ、お察しの通りだね」
「バスルームニイキタイデス………………」
「「…………………!!」」
バスルームというのは、日本では一般的に風呂を指す。しかし、英語圏では、さらに意味が追加される。それは、トイレ、便所、という意味だ。一気に血の気が引いた。
「「(……………マズイ!)」」
「お、おい!トイレはどこだ!はよ探せ!」
「言われんでも探してる!」
ここにきて、僕と青村のテンパり具合が最高潮に達した。こうして僕らが焦っている間にも、彼女は間違いなく絶頂へと一歩一歩近づいている!幼女ながら、妖艶な表情をしているからだ!
「んっ…………ハァ」
「おい!ないのか!このままだとパツキン幼女のお漏らし本が早ければ今年の夏コミあたりに出回るぞ!」
「テメェはいつまで頭お花畑だ!そうはさせるかぁ!って、見つけたぁ!ちょっくら行ってくる!」
「走れ!超走れ!とにかく走るんだ!でもあんまり揺らすな!でないと夏コミで(自主規制)」
絶頂寸前のメリーさんを脇腹に抱えた青村は、たくましい背中で、それでいてムダのない、揺れの少ない走りを見せていた。
※ 同日 17:21
来襲まで 0:42
「危なかった…………」
「ナイスランだったぞ、青村」
「それはどうも」
どうにかこうにか、夏コミでのお漏らし本流通を防いだ僕らであった。そして、待ちかねていたものが到着した。
「青村、スカート気をつけろよ!」
「高飛車から安全装置外れて死んじまえ」
「あぁー今から行くところから連想したんすね!なるほど!って、そこはFUJIYAMAだろ」
「つまらん、頓死しろクズ」
「頓死するのはドラゴンキングもとい竜王だけだ」
ヘリの喧しいプロペラ音の中でも繰り広げられるブラックジョーク。らしいっちゃらしい。ちなみ僕の横にはパツキン幼女がいるが、竜王は好きそうだ。まぁ、誘拐なりすればアメリカが政治的に腰を動かしかねないが。
「お待たせしました!」
「来たよ!」
扉を開き、出てきたのは背広を脱いだ吉見さんと、青村と同じように、女子制服のジャケットを脱いだ園枝だった。
「吉見さん、不在時間を作ってしまって、申し訳ありませんでした」
「いえ、気にしないでください。問題は、この後です」
吉見さんはそう言うと、山梨県と静岡県の県境がある方を見つめた。気づけば、アレの襲来まで40分程度となっている。少しでも迅速な行動が求められることだろう。
「栄養補給と説明は、私と園枝さんでヘリの中で行います。2人も早く乗って!」
「はい!あと、この子を、お願いします」
青村はそう言うと、メリーさんを自分の体の前に登場させた。人見知りなのか、僕と青村には心を開いていたのが、下を向き始めた。
「メリーさん…………分かりました。あとは、任せてください」
そう言葉を交わし、僕ら3人は、ヘリへと乗り込んだ。奮い立てる勇気と心が、僕らにはあった。
※
「戦闘準備!」
怒号鳴り響く宇宙船内で、高級感溢れるイスで目的地である、青い星・地球をただ見据える、生命体が一体。そいつの感情は、そいつ自身にも分からなかった。
6月初め頃に描いた同人誌って、夏コミに間に合うのかなぁ?(錯乱)
できることならあと2話程度で終わらせたい。そう思う中の人であった。